12.冒険者ギルドより
第二章『隣の迷宮都市と仲良くなろう』開幕です!
とりあえず軽く挨拶をすませた俺は、みんなを引き連れて領内へと戻った。
まさかこれほどの大人数を連れ帰るとは……どうなるかわからないものだ。
とはいえ、これは嬉しい誤算だ。
これだけの人数が増えれば、一気にやれることが広がる。
それを考えると、にまっと笑いそうになった。
さて、領内に戻ったら家を作らないといけないな。
幸い、魔力を高める訓練は継続している。
大樹の家の魔法を連発してもけっこう大丈夫だ。
野宿はさせないですむだろう。
「んしょ……よいしょ……」
アナリアが屈んだウッドの左肩に乗ろうと苦戦している。
ここまで俺とアナリアは身長二メートルのウッドの肩に乗って来たのだ。
さっきここに来たときも、右肩に俺が左肩にはアナリアが乗った
だけど慣れていない彼女は乗るのに一苦労していた。
まぁ、アナリアも肉体派じゃないしな……。
「手を貸そう、アナリア。そっちの枝を先に持って」
「あ、ありがとうございます……! ここを掴んで……っと」
ウッドには小枝やくぼみがある。
ツリーマンだし、とっかかりになるモノがあるのだ。
「よし……いいぞ。でも、こちらでいいのか? どこかの馬車に乗せてもらう手もあるんだが」
「いえ、こちらの方が景色を楽しめるのと――馬車よりも揺れないので、ウッドに乗っていきます!」
「ウゴウゴ! ゆれないようにあるく、練習した!」
「よくできてるぞ、ウッド」
これがツリーマンの強みのひとつ。
肩に乗ったとき、思うよりも揺れないで移動できる。
くぼみや小枝を使えば、振り落とされる危険もない。
なにげにウッドの歩く速さもかなりのものだ。
荷物を満載にした馬車になら、余裕でついていける。
最初はアナリアもびっくりしていたけどな。
でも、ウッドにとっては長い散歩みたいなものだ。
木なので、重さを感じることもない。
今も来たひとがみんな、俺とウッドを見ているが気にしないでおく。
ウッドは俺の相棒だ。慣れてくれないとな。
俺もすっとウッドの右肩に乗り、みんなに合図をした。
領地に戻るんだ。
「よし、行こうか!」
◇
小さめの馬車とウッドの背丈はちょうど合っている。
少し奇妙な感じがするけど、戻りながら話をしていった方がいいだろうな。
目線を合わせながら、俺はまずナールに感謝した。
「まさか、こんなに来てくれるとはな……。ナール、ありがとう」
「お気になさらずに、ですにゃ。でも実はあちしも驚いてますにゃ。薬師ギルドも冒険者ギルドもすごい反響だったですにゃ」
「そうか……。やはりポーションを作った意味は大きかったな」
「……エルト様、それだけではありませんのにゃ。エルト様が出された領民募集、あちらの意味も大きいですにゃ」
領民募集――あれは割りと当たり前のことしか書かなかったが。
週休二日、残業なし。家付きもここに来てもらうなら当たり前だ。
そうでもしないと、まず人は集まらないだろう。
俺だって家のないところに移り住もうなんて思わない。
「あれぐらいは普通じゃないのか?」
「普通は、貴族様はあのように条件は書かないのですにゃ。人が足りない、来い――それで終わりですにゃ」
「……それは無茶苦茶だな」
そんな風に他の貴族はやっていたのか。全然知らなかった。
まぁ……実家でもそんな教育は受けなかったしな。
前世の知識通りに募集をかけただけだ。
「人は来ます――私がそう言ったのも、エルト様がとても丁寧に領民を集めておられるからです」
「あと本当に家付きと説明したら、みんな食い付いてきましたにゃ」
「いや、家がないと困るだろう? ずっと野宿なんて、住人になったうちに入らない」
「んにゃ! それですにゃ。貴族様が平民に魔法を使ってくれるのが、とても珍しいのですにゃ」
「はぁ……なるほど。そもそも人のために魔法を使うことがめったにないのか……」
それなら俺の呼びかけは目立つし、人も集まるだろうな。
意識してなかったが破格の条件だったわけだ。
こんなに人が来たのはそういうわけだったのか。
「あとは良い報告がいろいろとありますにゃ、エルト様」
「俺の方もひとつ、言っておくべき大事なことがあるな……」
もちろんステラのことだ。
いきなり顔を合わせるには、驚きの人物過ぎる。
俺はかいつまんでステラのことをナールに説明した。
さすがのナールも目を回して驚いたが、仕方ない。
すべて驚きの真実なのだ。
「んにゃ~、まさかそんなことがあるとはなにゃ……」
でも俺は、説明を聞き終えたナールの呟きを聞き逃さなかった。
「あとで握手して、サインもらうにゃ……」
人気だな、ステラ。
ふぇぇ……と言いながらも、応じるステラが目に見える。
ステラは有名人扱いされるのは断るけど、頼まれるとちゃんとやるんだよな。
不本意に売れたアイドルみたいだな。
「失礼のないようにな。まぁ、人となりはいいし丁寧な人だ。これから領地の大きな力になってくれるだろう」
「ですにゃ、Sランク冒険者とはすごすぎますにゃ。これもエルト様の魔法のお力ですにゃ」
「こんな風に役立つとは思わなかったが……。何が役に立つか、わからんものだな」
俺は少しだけ苦笑する。
「で……冒険者と言えば、冒険者ギルドよりエルト様に重要なお手紙ですにゃん」
「むっ? 冒険者ギルドから……?」
どんな用事だろうか。
ナールが馬車から持ってきた手紙には、厳重な封印がしてあった。
……こんな手紙は初めて見たな。
かなり重要な件のようだ。さっそく見てみるか。
「そうだ……この手紙、ナールは内容を聞いたのか?」
「はいですにゃ。冒険者ギルドは言ってましたにゃ――エルト様ともっと広範囲に協力したい、提携したいということですにゃ」
お読みいただき、ありがとうございます。