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114.地下にいたのは

 準備を整えた俺達は地下通路に入っていく。

 俺も隊の最前列、ステラのすぐ後ろに控える。


 ……いい緊張感だ。

 ステラから静かに闘志が放たれている。

 得物はバット二刀流だけど……。


 後、ステラの隣にいるのはウッドだ。

 万一の抑えという形だが。


 しかし松明とコカトリス帽子だけだと、やはり暗いな。


「明かりを足そう」


 魔力を集中させ、俺は唱える。


【月見の苔】


 ぶわっと青白い光を放つ苔が通路に広がっていく。これで大分見やすいな。


「後ろは任せてくだせえ」


 アラサー冒険者が一礼して後方に下がっていく。これで隊列はよし。


 ライオンの騎士は地下通路の特定地域を徘徊している。

 そして今のところ、ザンザスに近付くにはライオンの騎士を倒すしかない。


 地下通路は久し振りに入ったが、結構寒い。

 ゆっくりゆっくり、焦らず前に進んでいく。


「……来ました」


 ステラが一言放つと、歩みを止める。

 俺達もその場で立ち止まると、少し下がる。


 そう、これは一騎討ち。

 己の全てを用いての真っ向勝負なのだ。


「ふぅ……」


 ステラが大きく息を吐いて、バットを構える。

 片手に一本ずつ、これまで誰も真面目にやったことがないだろう――二刀流打法。


 普通ならAランクの魔物相手に木の棒二本で立ち向かうなんて、自殺行為だ。

 だけどステラにはこれまでの輝かしい栄光があり、勝算がある。


 そして実際に決戦を前にしたステラは――戦慄さえ覚えるほど、気品と優雅さに満ち溢れている。


 例えるなら、まさに戦乙女が降り立ったかのような。

 闇の通路に、浮かび上がる彼女は美しい。


 うーん……持ってるのが俺の作ったバット、ライトアップがコカトリス帽子でなければ……。

 いや、それはもう言うまい。


「もう、すぐそこです」


 ステラの言葉のすぐ後に、地下通路の奥にライオンの騎士がぼんやりと見える。

 うお……確かにこの魔力は凄い。


 実は、こいつを直接見るのは初めてなんだが……。

 数十メートルの先、頭部と上半身しか見えなくてもびりびりと魔力を感じる。


 なるほど、確かにフラワージェネラルよりも攻撃力は高いだろうな。

 冒険者達の緊張がいやでも高まっていく。


「……かあさま、がんばるぴよ!」


 隊の中列にいるディアの激励が響く。


「はい……!!」


 答えたステラの全身から、黄金のオーラが立ち上る。

【神の化身】、強化の最高峰の魔法だ。


 体力も魔力も大幅に消耗していくが、その有効性は折り紙付き。

 ステラも長引かせるつもりはない。


 一球勝負。一発目で勝つつもりだ。


 ライオンの騎士はこちらを認めると、すぐに攻撃体勢に入った。

 魔力がさらに膨れ上がり、荒れ狂う嵐と言わんばかりだ。


 話では、こうなってから攻撃に移るまでほとんど間がない。

 恐ろしい速度で高められた魔力が、こちらに向けられているのを感じる。


 バチィ……!!


 一瞬、通路が白く染まる。

 ライオンの騎士から雷球が放たれたのだ。


 その時、俺は確かに見た。

 雷球は稲妻のように鋭く、ステラに直進する。


 そして――まさにステラの数メートル前で雷球は分裂したのだ。

 初見殺しもいいところ。聞いていなければとても対応できない。


 ぐぐっ……と黄金のステラが踏み込む。

 そして一気に力を解き放ち、スイングする。


 二刀流であっても、スイングは神速。

 腰を捻りながら器用に操った二本のバットは、雷球を正確に捉えていた。


 バチ、バチィ……!!


 二つの雷球が、弾き返された。


 俺の目に全てが見えているわけではないが……左手のフラガラッハからステラが手を離す。


 雷球は二つ連なって、そのままライオンの騎士へと打ち返される。


 バキッ!!


 一際大きな音を鳴らして、雷球はライオンの騎士へと命中する。

 狙い通り、頭部の発射口へと。

 ……完璧な一打のように見えたが。


 ステラからは黄金のオーラが消えている。

 やはりあの一打でかなり消耗したのだろう。


「ごくり……」


 そのまま、数秒。

 バチバチとライオンの騎士から魔力が放たれる。だが魔力がそこから高まることはなかった。

 ライオンの騎士はぐらりとよろめくと、前のめりに倒れる。


 ズウウウン……。


 そのまま轟音を響かせて、倒れたまま動かなくなった。


「やったぴよ!?」

「ディア、その台詞は……」


 ステラが息を整えながら、バットをさっと拾う。疲労の色があるにはあるが、大丈夫そうだ。


 神業としか言いようがない、一打。

 これを見た冒険者達が歓声を上げる。


「「うおおおお!!」」


 ……そういえば、フラワージェネラルの時は結構バラバラに動いてたんだもんな。

 皆がステラの全力を見るのは、久し振りかもしれない。


「……魔力はもう感じませんね」

「そうだな、ライオン像と同じだ」


 つまり、倒したということだ。


「エルト様、やりました……!」

「ああ、本当に……よくやった」

「えへへー」


 俺はステラとハイタッチをする。

 なにはともあれ、これで障害は排除したわけだな。


 ◇


 ライオンの騎士はその場に置いて、俺達はそのまま奥へと進んでいった。

 通路に変わりはない。

 大理石のままだな。


「だけど……少し坂になっているな」


 気のせい程度かも知れないが、感じる。

 光る苔も斜めに生えている気がするし。


 息を整えたステラも頷く。


「ええ、徐々に下っていってますね。私の感覚でもそうです」


 とりあえずは道なりに行くしかないか。

 地図の上では、ここから先は出入り口がない。

 完全に未知の領域だ。


「果たして何が出てくるか……ん?」

「おや……?」


 俺とステラが同時に気が付いた。

 闇の向こうから、わずかに気配がする……。


 ぺたぺた。


 聞き覚えがあるような、ないような。

 警戒していると、さらに通路の奥から声がする。


「おわっ、ライオンさんがいなくなってますよ!」

「ぴよー」

「やばいかもです!」

「ぴよ、ぴよ!」

「仲間の気配がするんです!? じゃあ大丈夫ですか!」


 なんだか幼い声と、毎日聞いてるぴよぴよなコカトリスの鳴き声。


「……まさか」


 通路の奥がばちっと光る。声の主が光を発したらしい。

 まぶしっ……って二回目だ!?


「おー、いっぱいいますです!」


 光に慣れると、相手の正体がすぐにわかった。


 目が光るコカトリス。その隣に黒い薔薇を頭に乗せたテテトカに似たドリアード。

 この二人が声の主か。


「……ひかってるぴよ……!?」


 この地下通路には数百年、人の出入りの記録はない。

 だけどどうやら、地下には先住民がいたらしい……。

第五章『もふもふは地下にあり』終了です!

第六章『兄を超えて』は明日からになります!

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― 新着の感想 ―
[一言] ドリアードも住んでたー!
[一言] 地下に住むには目から怪光線は必須なんか?(目反らし
[一言] …え? 天然で目が光るの…?(・・;
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