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105.マルわんちゃん

 それから俺達は片付けをして、森から出ることにした。

 とりあえず……すぐにライオンの騎士を倒す方法が思い浮かばない。


 いや、勝つだけなら方法はあるんだろうけど。被害に構わず突っ込むとか。

 ゲームの中ならそれで良いだろうが、ここでそれはできない。


 ステラや冒険者達に怪我させたくないしな。


 ……分裂する雷球か。

 俺は腕を組んで、頭を捻って考える。


 うーん。

 わからん……。

 どうすればいいか、わからん。


 そもそも既存の野球では、ボールは分裂しないのだ。電撃でもないし。

 すごくいまさらだが。


 分裂する魔球は現実にはない……。ここにあると言えばあるが、ルール的にはない……。


「……少し考えよう」


 とりあえず今日は色々とあった。

 イスカミナがはまったり、テテトカがすごい年齢だったり、ライオンの騎士が見つかったり……。

 整理する時間が必要だ。


 森から家へと歩くうちに、太陽が西へと沈んでいった。確かに日が沈むのは早くなっている。


 もう少しすると冬至のお祭りか。

 現代の地球だとクリスマスの元になったお祭りだな。


 そして家に戻ると、なぜだかリビングにもこもこの綿の山がある。ディアとマルコシアスの姿が見えない。


 なんだ、この綿は……。

 どこから出てきたんだ?


 そう思っていると、綿の山からディアとマルコシアスが飛び出してくる。

 ……どうやら埋まっていたらしい。


「ぴよー! おかえりぴよー!」

「おかえりなさいだぞ!」

「ただいま……。こ、これは?」

「凄い綿ですね……」

「ウゴウゴ、これってもしかして……!」

「おにいちゃんのわたぴよ! あつめてきたぴよ!」

「お、おう……。なるほど……」


 休みの日にはニャフ族に向かって、いっぱい綿の弾を出していた気がするな。


 それを借りてきたのか、集めてもらったのか。きっと手伝ってくれたんだろうな。

 後でお礼を言っておこう。


 ステラが綿の山に触れて、もにもにと形を変えて遊び始めた。

 結構楽しそうだな。


「ふむふむ……。これだけ量があるとなかなか壮観ですね。それでこれだけ集めたのは……?」

「ぴよ、おふとんぴよ。いっかい、これでねてみたかったぴよ」

「我はさっき昼寝しかけたが、とても良いものだ。きっと気持ちいい」


 ふむ、布団代わりか……。

 俺もリビングに行き、綿に触る。


 もにっ。


 それなりに弾力性があって、ほのかに暖かい。毛布ほどではないが、冬向けの素材だな。


 剥き出しなので、後で片付けがいるだろうけど……。でも意外とちぎれないな。

 悪くない。


「これなら、ひっつけるぴよ!」

「丸まって寝られるぞ!」


 と、そこでマルコシアスからぼふんと音が鳴って――銀色の子犬になった。


「あとマルちゃんがわんちゃんになれるようになったぴよ! マルわんちゃんぴよ!」

「えええっ!?」

「わふー!」


 綿の中で、マルコシアス(子犬)が前足を上げる。ご機嫌のようだな。

 かわいい。


 ……いつか犬というか狼の姿になることはわかっていたが。

 ゲームの中でも二つの姿をスイッチしてたわけで、そこは不思議じゃない。


 ディアが成長すれば、マルコシアスも成長する……はず。その過程の一部に過ぎない。


 しかし狼じゃないな……。

 サイズ的にはディアと同じくらい。


 毛並みはややもったりとしていて、つぶらな瞳と短い手足。

 完全に子犬だ。


 ステラはそのままマルコシアスを抱き上げると、ふにふにと感触を確かめていた。


 特にこの姿に驚かないということは、やはりステラもマルコシアスの狼形態を知っていたんだな。まぁ、ちらほらそんな事は言っていた気がするが。


「たしかに……ものすごーく小さいですが、マルちゃんの手触りですね」

「ふむ。前にも触ったことがあるんだな」

「はい、その通りですが……。エルト様は驚かれないんですね。かなりショッキングな出来事だと思うのですが」

「……ある程度、予想はしていた。伝説では狼と紅い鎧姿が有名だしな」


 ゲームでもそうだし。

 元ネタそのものも狼の姿だしな。

 どれほど時間が必要かはわからなかったが。


「ご明察です。どちらが真の姿というわけではないみたいですが……」


 ふにふに。


 マルコシアスはされるがままになっている。

 だいぶ気持ち良さそうだ。

 悪魔の威厳は全くない。

 子犬のかわいらしさしか……ない。


「エルト様も触ってみますか? ふわふわというか、もちもちしてます」

「……いいのか?」

「父上なら大歓迎だ! むしろ今の我を撫で回して欲しいっ!」

「普通に喋ることはできるんだな」


 コミュニケーションに不安はないようだが。

 とりあえず、ステラとマルコシアスに近寄ってみる。


 そのまま俺はマルコシアスの頭にそっと手を載せる。


 もに……。


 ディアのような、ふわふわ感はない。

 だけども適度に柔らかくて気持ちいい。


「どうぴよ? さいこうぴよ?」

「ああ……もにっとして、気持ちいい」


 もにもに。

 もにもにもに。


 マルコシアスは気持ち良さそうにだらーんとしている。

 うん……悪くない。


「これであつまってねたら、さいこうぴよね。きょうはこれできまりぴよ!」


 ◇


 その頃――イスカミナは家でアナリアに背中の毛並みを整えてもらっていた。

 二人は学院時代からのルームメイト、よくこうしているのだ。


「懐かしいね。学院にいた頃はよくこうしてたなぁ……」

「ありがともぐー」


 モール族の手だと背中に中々手が届かない。

 そのため誰かにやってもらった方が楽なのだ。


「でも油まみれなんて……大丈夫だったの?」

「むしろ、燃えてるもぐ……! あれはすっごく古いもぐ!」

「へー……。よかったねー」


 アナリアは話ながら、ブラシで最後の仕上げをしていた。

 我ながら、いい出来映えだ。


「ようし、終わったよー」

「ありがともぐ!」


 ぱたぱたと手を上げるイスカミナ。


「今度はわたしが髪切るもぐ!」

「あっ、切ってくれるんですか?」


 モール族は手先が器用。

 というより毛並みのある種族は大体、その辺りのセンスに優れるのだが。


「おかえしもぐー」

「ありがとう!」


 自分で切るより遥かにいい。

 それほどイスカミナの手さばきは素晴らしいのだ。

 学院では美容のアルバイトをしていたくらいだし。


 アナリアは久し振りに、親友の手に髪を任せるのであった。


 ◇


 夜ご飯を食べ終わり、俺達はパジャマに着替えていた。ディアの企画した、綿でおふとん計画のためだ。


 ウッドの半身を綿で覆う。その腕枕に俺とステラが寝転がる。

 さらに俺とステラの間にディアとマルコシアス(子犬)が挟まる――そういう構図だ。


 段々大きい方から小さい方へ……という感じだな。

 もこもこの綿とふわふわのディアと、もちもちのマルコシアスが組合わさっている。

 ウッドの腕の固さと綿の柔らかさが合わさって、枕も良い。


 適度に暖かいしな……すぐに眠気がやってくる。

 ちなみにディアとマルコシアスはすでに寝息を立てていた。


「お疲れですか、エルト様」

「……ん? いや、気持ちよくてな……」


 ディアもマルコシアスも体温が高い。

 それが綿で中和されてちょうどいいのだ。


 ステラはにこりと微笑むと、ささやくように言った。


「私もです。……とてもいいです」

「ああ、そうだな……」


 俺とステラの間にはディアとマルコシアスが寝ている。


「すや……ぴよ……すや……ぴよ……」

「わふ……すー……」

「またこうして寝ましょうね、エルト様」

「……そうだな」


 翌朝、綿はディアやマルコシアスの毛に絡まってるかもだが……。

 それもまた経験だ。二人のやりたいことをやらせてみるのも、また必要なことだ。


 でも寝心地はとても素晴らしい。

 家族一緒だしな。それだけで十分なのだ。


領地情報

 地名:ヒールベリーの村

 特別施設:冒険者ギルド(仮)、大樹の塔(土風呂付き)

 領民+1(トマト大好きなナナ)

 総人口:157

 観光レベル:D(土風呂)

 漁業レベル:D(レインボーフィッシュ飼育)

 牧場レベル:D(コカトリス姉妹)

 魔王レベル:E(悪魔マルわんちゃん)

お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 領民+1(トマト大好きなナナ) ってのは不要なような…。 96話トマトの瓶詰めのコピペ?
[良い点] 家族一緒にもこふわもちのがしっしりの和やかの とにかく団らん安心睡眠リラックス。 ああ、これが平和、これが休息、これが………すやぁ……。 [一言] 二人の子供とわんちゃんにとって 情操教…
[一言] コミック1巻のあとがきでマルわんこの絵を見せてもらいましたが本文で書かれている通り完全に子犬でした、 特にたれみみで靴下柄が狼ぽさを消し去っているなあと思いました。
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