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調査⑥

「おい、小娘。自分が何を言っているのか分かってるのか? この俺に向かって、あろうことか領地を借金の担保にしろと?」


 マリク伯爵は眦を吊り上げ、ジルを睨む。自分より年上の男の恐ろしい表情に怯みそうになるが、根性で笑顔をキープした。


「ええ、そうですわ。貴族だからといって、借金支払いの義務が無くなるわけではありませんでしょう? キャッシュでお支払いいただけないのでしたら、伯爵がお持ちの財産をこちらの自由にさせていただきたいのです」


 彼は、忌々しそうに舌打ちする。


「クライネルトと言ったな。貴族だと思ったが、そんな姓を持つ者は居ない。平民ふぜいが貴族様にたてついたらどうなるか、思い知らせてやろうか?」


 マリク伯爵は、腰に下げたレイピアをジャキリと引き抜き、ジルに向けた。


「マリク伯爵!」


 イグナーツの咎める様な声がエントランスに響く。


 ジルは元貴族ではあるが、マリク伯爵の貴族である事だけを理由に偉ぶる行動に呆れそうになる。しかし刃物を持った相手をこれ以上煽るのも厄介なので態度に表さないでおく。どうしたもんかと、眉根を寄せると、目の前のレイピアに変化が起きた。みるみるうちに赤茶色に錆びつく。


「口で勝てなかったら、実力行使……ですか?」


 いつの間にかジルのすぐ傍まで接近していたマルゴットは、分厚い魔道書をパタンと閉じる。すると、マリク伯爵のレイピアはボロボロと砕け、床に音をたてながら落下した。ジルは感動した。しかし同時にまたもやマルゴットの背後に特大のブーメランが見える様な気もする。


「次は貴方の肉体を、滅ぼしますよ?」


「異能力者……っ!」


 邪悪な笑みを浮かべるマルゴットに、伯爵はギリギリと歯を鳴らす。


「マリク伯爵、担保を提供出来ないという事は、支払い期限を延長したとしても、返済していただけないという事ですわよね? もしそうなら――」


「勿論支払える! ただ、不動産価値が借金の金額に見合ってないという話だ」


 マリク伯爵はジルの話を遮る。

 借金返済を可能だと断言する彼の表情は妙な凄みがあり、何ともいえずうさん臭い。

 追及したくなる気持ちを抑え、ジルは交渉を優先させることにする。


「弁護人と不動産鑑定人と話をしますわ。こちらとしては妥当な価値以上の担保を登記していただけないようでしたら、先程のお話は無かった事に致します」


「クク……アハハ!」


 急に壊れた様に笑い出したマリク伯爵に、ジルはムッとした。


「いいだろう、小娘。こちらも弁護人を立てさせてもらう」


 彼はそう言うと、出口に向かって行く。帰るのだろうか? ジルはその後ろ姿をため息を吐きたくなるのを堪えながら見送る。


(商品の代金を長期間払ってない人があんなに偉そうって……)


「お嬢様、申し訳ありません。調査旅行から戻られたばかりだと言うのに」


 労わる様な表情のイグナーツ。そんな彼に逆に申し訳ない様な気持ちになる。

 普段、彼はジルが出来ない経営を担ってくれているのだ。責めようなんて思うはずがない。


「イグナーツ。今夜は早く家に帰って来てちょうだい。久し振りに皆で夕食を食べましょう?」


「流石お嬢様……、何てお優しい……。よし! さっそく弁護人に手紙を送ります!」


 イグナーツは感極まった様な表情で階段へ駆けて行った。


「私達はもう帰りましょ。本当はもっと会社の事を色々聞かなきゃいけないんだろうけど、長旅の疲れが出てきちゃったわ」


 ジルの斜め後ろでブツブツと何やらかを呟いていたマルゴットは、ハッと顔を上げる。


(今……この子、呪いをかけてたわね……)


 彼女の瞳の中に漆黒の闇が広がっている様な気がするのだが、深く考えたら飲み込まれてしまいそうだ。


「帰ります……。疲れてるなら、おんぶします……」


「え! そんなのいいわよ」


 自分より小柄な彼女にそんな事は出来ないとジルは首を振る。隣を歩くマルゴットは何故か目を輝かせた。


「さっき、凄くかっこ良かったです。シビレました……」


 マリク伯爵とのやり取りの中に、マルゴットの琴線に触れる何かがあったらしく、ジルをおんぶしても良いと思ったらしい。相変わらず価値観が謎めいている。


「少し考え無しの行動だったかもしれないわ。仕返しされちゃうかも」


「その時は私がお守りしますっ!」


「そ、それは心強いけど……」


(というか、先手を打って何かしていたわよね……)


 ジルはコッソリ震えた。




 マリク領から帝都に帰って来てから二日目の朝、外が明るみ始めた様な時刻に、ジルは使用人に起こされた。


「ジル様! 申し訳ありません。起きて下さい」


「うーん……。どうしたの? こんな早くに」


「ハイネ様がいらっしゃっています! サロンにお通ししております」


「ええ!?」


 大慌てで身支度を整え、サロンに向かう。

 ドアを開けると、ランプの光が灯るの室内にハイネが居た。壁に飾っているアネモネの絵を見ていたようだ。一週間ぶりに彼に会えて、早く起こされた事による気怠さが少し薄れる。


「おはようございます」


「おはよう。久し振りだな」


 一週間ぶりに会う彼は元気そうなので、ジルは安心した。以前寝付けなくてブラブラしていた姿を見ているだけに、執務が忙しそうな時は心配になる。


「出かけよう!」


「え、こんな早くに? 朝食もまだですのに」


「食料なら持ってきてる。ほら、行くぞ」


 ハイネは唖然とするジルの手首を掴んでサロンを出る。


 外に出ると、庭木に馬が二頭繋がれていた。一頭は前も見たハイネの馬で、もう一頭も見覚えがある気がする。


「そっちはバシリーの馬だ。アイツに運ばせた」


「見た事があるなと思ったのですけど、気のせいではなかったわけですね」


 一度乗せてもらった事のある馬だ。今日、ジルは再びこの子に乗るのだろうか?

 近付き、首を撫でてやる。


(バシリーさん、また徒歩で宮殿まで戻ったのかしら? いつも私の事で迷惑かけてるわよね)


 次に彼と会う時に、何と言われるだろうかと、苦笑いを浮かべる。


「アンタ、馬は乗れるか?」


「ええ。一応乗れますわ」


 体重増加前は問題なく乗馬は出来ていたし、以前バシリーの馬に乗る時、自力で馬の背に乗れたので、特に心配いらないだろう。


「まぁ、元公爵令嬢なら嗜んでるか」


 ハイネは自分の馬の背に跨り、クライネルト邸を出発したので、ジルもバシリーの馬に乗り、彼の後を追う。


「人通りが少ないから、この道が私達だけの物になったみたいで、楽しいですわね」


「だな。でも、もっといい所に連れてくから」


「はい!」


 二人並んで、ノンビリと馬を走らせる。住宅街は、朝食の準備中なのか、薄っすらといい匂いがし、空腹を感じる。


「明日からまた公国に行く。講和条約を結びにな」


「すれ違うところでしたわね」


「だから今日アンタに会いに……。え~と、今日晴れて良かったな」


(ん……!?)


 急すぎる話題の切り替えだ。ジルは「ですね」と返しながら、きまり悪そうなハイネの顔をチラ見した。

 

 



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