7話 立ち向かう者
お待たせしました! 第7話です。今回は前後編の後半、山場を迎えました! ついにリクとエクスシアが飛び立ちます!
「これってエクスシア、だよね?」
「うん、オラクルにも2機しかないって聞いてるよ」
少し不安げにエクスシアを見上げるソラに対して、リクは興味津々でその巨体に近づいていく。この機体についておやっさんから聞き及んでいた。
無限に等しい物量のガレリアからたった30機足らずで人類を守護し、空中大陸の築く礎となった機械仕掛けの救世主。動力源たるオルゴンは存在するだけでガレリアを遠ざけて、コアユニットは多くがタワー最上部に鎮座してオルゴンを供給し続ける。その他推進ユニットは空中大陸を浮遊させ、フレームなどは対ガレリア機動兵器たるメタトロンの基礎となっていた。
しかしエクスシアはガレリアと同じく超空間通路から流れてきた異界の技術の塊であり、複製はおろか解析すらままならず現在でも全体の7割程度しか把握できていない。現存する残り5機も動かすには天文学的確率で合致した、エクスシアに選ばれたと称されるランナーが必要で、稼働状態にあるのはたった1機だけだ。
「初めて見るけど、本当にすごいな……」
「ここなら大丈夫そうだな。天井とかはエクスシアを守る為にかなり頑丈そうだし」
「そうだ、外の事を知らせないと!」
アーチ状の天蓋はエクスシアを守るべくかなり分厚く出来ており、生半可の攻撃ではびくともしないようで振動や爆音も聞こえてこない。リクは外の惨状を伝えておやっさん達を救援してもらえるよう伝えるべく、エクスシアの元へ向かった。
腹部に位置するコックピットの入口は固く閉ざされていて、ハッチを開けるためのスイッチはないかと周辺を探すが、リクが何気なく触れるとハッチが勝手に開いた。
「リク、どうしてコックピットなんかに?」
「動かせなくても動力は来てるみたいだし、無線機が使えないかと思ってね。あ、これだ!」
コックピットに入り込んでシートに座ったリクは全面に置かれた液晶ディスプレイをなぞる。すると周囲に計器類が立体映像として浮かび上がる。こうしたシステム面はメタトロンと同じようで、整備に関わる関係で動かせなくとも基本的な立ち上げ動作をおやっさんから教わっていた。
浮かぶ表示から無線機をオンにして現状を伝えようとするが、スピーカーから聞こえてきたのは切羽詰まったように救援を求めるノーマッド達の教官であるベルニッツの声だった。
《メーデーメーデーメーデー、こちらノーマッド、新型ガレリアと大群に囲まれて脱出不可能に陥っている! いつまで持ちこたえられるかわからない、至急救援を! 繰り返す……》
「大変だ! みんなもピンチみたいだ!」
「うん、早く伝えないと!」
クラスメイトの危機を早く伝えるべく司令部に無線チャンネルを合わせる。しかしそこから聞こえてくる声も怒号混じりの悲惨なものであり、救援を出せる余裕は感じられなかった。
《アカデミー近くまで攻撃を受けている! このままでは市街地にまで被害が及んでしまう! 迎撃はどううなっている!?》
《これだけの大群が近づいて来ているのに何故気付かなかったんだ!? 他のエリアより戦力を一刻も早く向かわせるんだ!》
《こちら防空プラットフォームB3、アローヘッドの大群を確認ッ! 至急迎撃態勢に当たるべし! 当方もこれより―》
《B3にガレリアが殺到、通信途絶! プラットフォームE6,D3からも応答ありません! このままではガレリアの直接侵攻を許してしまいます!!》
「そんな、どうすれば……うわぁ!?」
次々と聞こえてくる絶望的な報告に二人は言葉も無く立ち尽くしていた。そこへガレリアの攻撃が直撃したのか天蓋が崩れて瓦礫が降り注ぐ。動けないエクスシアは崩壊に巻き込まれて姿勢を崩すように倒れ込んでいく。コックピットの中は真っ暗闇に包まれて、二人は内部を転がって無様に叩きつけれてしまう。
今自分たちが乗っているマシーンは世界最強であるが指一本も動かすことは出来ずに瓦礫に埋もれるていいる事実がリクへ無力さを突きつける。それはソラも同じで何も出来ず、ここで皆が死んでいくのを指を咥えて見ているしかないのか。それは嫌だ。痛む頭を押さえてなんとしてでも動かせるように諦めずに立ち上がる
今まで沈黙を保っていたメインのディスプレイが起動しており、ただ何かマークのような複雑な模様が浮かんでいる。顔を見合わせた二人は頷いて操縦桿を一緒に握って押し倒す。日本で何度も見てきたロボアニメのお決まりの台詞、それを腹の底から叫んで。
「「動けぇええええええ!!!」」
『おはようございます、ランナー。操縦支援システム及び戦闘モード起動。《ラーゼグリズ》始動します
「クソ、なんてこった!」
先程飛び立った滑走路の上空までやってきたイーサンはその惨状を目の当たりにしてコックピットから叫ぶ。旋回しながら状況を見るが、滑走路はクレーターだらけで離着陸できる状態ではなく、点在するハンガーも攻撃を受けて崩壊したり黒い煙が上がっている。
いつも使っているおやっさん達がいるハンガーもガレリアの手によって崩壊しており、黒い煙がもうもうと立ち上っている。イーサンの中で何かがプッツンと切れてレーダーに迫りくるガレリアの大群が映る。
『敵勢力接近。総数およそ100、単独では危険です。撤退を推奨します』
「ちょうどいい、この仇は超倍にして返してやる!」
ナビシステムの警告を無視して近づいてくる矢じりの群れに突っ込んでいく。機首のシールドシステムを全開にしてぶつかるように肉薄、前衛の5機を文字通り跳ね飛ばしてアローヘッドの編隊へ深く入り込んだ。全方位は敵だらけ、機体をその場で旋回させながらレーザーやミサイルを叩き込み、シールドに包まれた機体すらも質量兵器とした攻撃手段に活用していく。
降り注ぐ雨霰の如くガレリアから放たれるミサイルを翼を畳んで間をすり抜けた最小の動作で回避してシールドで受けきれるものは正面から受け止めた。ドリルのように回転しながら囲むように突撃型アローヘッドが迫るが、ぶつかるギリギリまで引きつけてからアフターバーナー全開にして一気に振り切る。
接触直前で標的が突然居なくなったアローヘッドは互いにぶつかり合って自爆して、その爆風で編隊が崩れ落ちてそこを逃がすことなくイーサンは1機ずつ確実に食い尽くしていった。残り10機足らずとなった具合のところで、真紅の光刃が飛んできて残っていたガレリアを真っ二つに切り落とす。
「あきれた、クレイジーなのは知っていたけど、ここまで無茶苦茶なんてね」
「……! 真紅のエイジス、ってことはアズライトだな! こっちとら家と庭を滅茶苦茶にされたんだ。そのお返しに奴らを滅茶苦茶にしてやるだけさ」
呆れたような少女の声と隣を飛ぶ真紅のエイジスをイーサンは知っている。光刃を放ったエイジスとそのランナーであるアズライトとは2週間ほど前に協同しており、初めてのメタトロンという事もあって印象は強く残っていて、それは彼女も同様のようだ。
アズライトは先程までスクランブルした部隊とともに遠距離砲撃ののちに侵攻してきたガレリアの編隊を迎撃していた。イーサンが食らった群体はアズライト達が戦っていた主力を支援するべく、守りが薄いところから奇襲をかけるつもりだったのだろう。
「これで侵攻してきた連中は全部撃退できたはず。だけど……高エネルギー反応!? 避けて!」
「クッ、あれが滑走路とかをめちゃめちゃにしやがったのか!」
センサーが感知した遠方からの高エネルギー反応を避けるべく高度を落として、頭上を光の奔流が通り過ぎて地面に落着すると巨大なクレーターを作り上げた。あのレーザー光が地上を攻撃し続けている。
発射位置はエネルギーの反応から大体の位置は把握できたが、かなり距離があってアフターバーナーを全開にしても2分以上はあの攻撃に晒されてアローヘッドの大群も襲いかかるだろう。しかし悩むことなくイーサンは即決した。
「あのレーザー野郎の息の根を止める。原子のかけらすら残らず消し飛ばしてやる……!」
「ハァ、そう言うと思った。だから私も一緒にいくわ」
「そいつは心強いが、またどうして?」
もともとから一人で行くつもりだったのでついていくと言われてイーサンは疑問符を浮かべる。呆れたような顔を浮かべてアズライトは、どこかお姉さんぶるように腰に手を当てズバリと言ってみせた。
「あのレーザーを掻い潜るにはあなたの技量が必要よ。そしてあの大型タイプを倒す為には私のエイジス“レーヴァテイン”の火力、そしてメタトロンが必要。それに危なっかしいから尚更一人で行かせる訳にはいかないわ!」
「なるほどな、でも後悔しても知らねえぜ?」
「上等よ! ってまだ来るの!?」
「しかも特盛だ! こいつは食い放題だな!」
100機規模の編隊を思ったら今度はその数倍ものガレリアがレーダーに映り、呆れ果てるアズライトと凶暴な笑みを浮かべたイーサンは再び突っ込んでいこうとする。だが、突如として後方から現れた巨大な高エネルギー反応には驚くしかなかった。
「なんだ、新手か!?」
「いえ、あれは……!」
先程の攻撃で出来たクレーターより一条の光芒が天に昇り周囲の瓦礫を持ち上げて、その光柱の中心には淡い青色の巨人が重力を感じさせずに浮かんでいた。両腕を広げて大の字の体勢になると、光のリングが周囲に展開して回転すると無数の光線が放たれる。
青いレーザーはイーサンやアズライトを自動で避けてガレリアのみを狙い撃つという有り得ない起動を描きながら、まるで意思を持っているかのようにアローヘッドの編隊へ降り注いだ。狙った相手を落とすまで食らいついていくホーミングレーザーは数百機ものガレリアの群体はあっという間に殲滅される。
「うっひゃー、すげーなあの機体、全部片付けやがった!」
「あれってエクスシアよね? 一体誰が動かして……」
《イーサン、聞こえる!? イーサン!》
「ブっ!? それ動かしてんの、リクなのかあぁーッ!?」
その場に制止しているエクスシアから無線が入り、そこから流れる聞き慣れた声にイーサンはぶったまげるが、同時にリクが無事だったことに胸を撫で下ろす。メタトロンと同じく複座型で後ろからソラの声も聞こえてくるが、二人ともあまり余裕はなさそうだ。
「でも無事で良かった! 他の連中は?」
《あたしは一緒に乗ってるよ!》
《僕ら以外はあの時ハンガーから離れていたけど、でもおやっさんが庇って……。それにクラスの皆がピンチなんだ!》
「……そうか、おやっさんらしいな。よし、お前たちはノーマッドの救援に向かってくれ! ここの雑魚共はオレだけで十分だぜッ!」
何故彼らがエクスシアを動かしたかはひとまず置いていて現状を打破するにはその力は大いに役立てられるだろう。ストーン・コールドが感知したSOS信号は本当で緊急を要する事態に直面しているのなら、速力も火力も段違いなエクスシアは適任である。
地上の惨状に後ろ髪を引かれる気持ちだったが、リクとソラは同意してエクスシアが方向を変えて動き出した。本来空を飛ぶには適さない形状で人型ながら速度を優にマッハ2を超えていく。
《わかった、皆を助けたらすぐに戻るよ!》
「おう、お茶の準備して待ってるぜ。それからチャンネルを148.3に合わせておきな、そこが臨時の司令部だ」
「妥当な判断ね、私達だけであのガレリアに挑むことを除けばだけど」
「だけどオレ達でやるしか無い。いや、オレ達にしか出来ないってわけだ」
「まったく仕方ないわね……!」
お互いにスラスターを全開に吹かして灰色に染まった空の中へ突っ込んでいく。目標は地上を攻撃している大型ガレリア、射程距離に入るまで高出力レーザービームやアローヘッドの大群を掻い潜る必要がある。かなりの難問を前にしてイーサンは口角を上げた。
空中大陸から離れてガレリア群に近づく中、アズライトのエイジスがストライダーの下部ウェポンベイにドッキングする。これはストライダー側が主となってエイジス側が支援する、メタトロンの時とは逆になる簡易的な合体状態だ。
「私がレーダーポッドの役するからしっかり回避してよ。早速来たわ!」
「了解!」
ヘッドアップディスプレイの役割を兼ねるキャノピーにアズライトが感知したビームの通り道を予想したものが映し出された。すぐさま機体をブレイクさせて進路から外れると予想通りにビームが通り抜けていく。
ガレリアの勢力圏内を突っ切るのでこちらに気付いたアローヘッドが方向を変えて後方についてくるが、螺旋状に飛ぶストライダーに狙いをつけれずいる。迎撃態勢に移ったのはごく少数で大部分は真っ直ぐに空中大陸を目指しているので、その状況を利用して二人は超音速で突き進む。
「なんてことだ! 直接攻撃を受けているとは……、現在の防衛戦力とコンタクト、急げ!」
空中大陸近辺まで戻ってきたストーン・コールドはガレリアの侵攻に衝撃を受けるも、すぐさま状況の確認を指示する。すぐさま呼びかけてくる通信があった。
「こちら空中管制機ストーン・コールド、防空隊か!?」
《えっと、こちらはエクスシアです! 今からノーマッドの救援に向かいます!》
「エクスシアだって!? わかった、あとで応援を向かわせる。すまないが君たちに一任する!」
エクスシアが飛んでいる事に驚きながらもレーダーが示した反応から事実と確認した。まだ若い少年の声に申し訳なさそうにノーマッド救出を託すと、現状の整理を行う。
現在迎撃に出ている機体は17機で全てが即応性のあるエイジスであった。所属もバラバラで緊急事態という事で仮の編成を組んで何とかガレリア郡を撃退しているが、連携が上手くいかず綻びも確認できる。また地上でも動いてる部隊があり、それらに向けてオープンチャンネルで呼びかける。
「こちらは空中管制機ストーン・コールドだ! 緊急事態につき臨時で管制を行う。全機データリンクを開始する!」
《助かった、これで足並みを揃えそうだ! 左翼の迎撃に移る、誰かついてきてくれ!》
「各機、割り振れられた編成コードに沿って編隊を! アルファ隊は左翼迎撃、ブラボーとチャーリーは正面を抑えてくれ! 地上のゴルフとリマは対空迎撃、ズール隊は衛生隊とともに負傷者の救出を。こちちはディフェンスだ、なんとしてでも守り切るぞ!」
《了解!》
現状を見つつ矢継ぎ早に指示を出して防衛体制を再構築させる。遠距離からの高出力ビーム攻撃も現在先行しているイーサン機からデータが送られてきて攻撃位置の予測が可能になっている。ディスプレイや計器など睨みながら突き進む者達の武運を祈った。
「イーサン頼むぞ。お前が頼みの綱だ」
状況は最悪と言っていい。巨大な自爆兵器の攻撃で陣形が崩されてバラバラに散って逃げ惑うノーマッドであるが、取り囲まれた現状では退路が開かない限りは逃げ場がない。ガレリアの攻撃は苛烈であるが全力でなく、逃げ疲れて力尽きたところを狙うスタンスのようだ。
皆を庇う護衛のメタトロンも既にボロボロでまた1機が力尽きて落下していく。引きつけるように飛び回る昴流のエイジス、カレットブルフも気体損傷率が50パーセントを超えており、続くベルニッツ教官機も護衛機も同じ状態だ。
「くっ、このままだと……、また突撃型か!」
「昴流大丈夫か!? アンディ、ガルシア、どこにいる!?」
飛び交うレーザーやミサイルに紛れて特攻してくる突撃型の猛攻に歯噛みする。既にカレットブルフはシールドを破壊されて砲身が焼きついて撃てなくなったライフルもデコイとして投げ捨てたばかりだ。小型のエイジスだから昴流はなんとか回避出来ているが、耐久性は段違いで機動力もあるとはいえ15メートル級のメタトロンはより多くの攻撃を受けてしまっている。
特に最後尾を飛んでいた護衛機がガレリアの流れに呑まれてしまい、煙の中から姿を現した時には全身に突撃型が突き刺さった痕が出来ている無残なものだった。ベルニッツの悲痛な声にややあってから護衛機より苦しげな返答が聞こえる。
「隊長すみません、ガルシアはもう……俺も駄目みたいです。だから、せめて奴らを道連れにするぐらいは!」
「やめろ、アンディィィッ!!」
既に致命傷を負って機体も崩壊寸前ながらコアユニットをオーバードライブさせて、表面の亀裂からオルゴンを吹き出しながらガレリアの壁へ突っ込んでいった。ベルニッツの制止も虚しくメタトロンは跡形もなく爆散し、周囲のガレリアを巻き添えにして大穴をこじ開ける。
しかしその穴もすぐに塞がれてしまうだろう。ベルニッツは機体をその隙間にねじり込ませしてオルゴンを全開で放出し続けてる。既に武装は全て破壊されてしまっており、飛んでいるのが精一杯の状態ではかなり無茶な行動であり、機体各所は崩壊し始めている。
しかしガレリアによる包囲網が狭まってくる現状で護衛機はベルニッツ機を除けばあと1機だけで、武装の一切が消失してしまっている。ノーマッド達はまだ全員健在だが長時間の逃避に心身ともに限界が近く、なんとしてでも彼らを助ける事だけを教官達は考えていた。
「昴流、ここに退路を築く! 長く持ちそうにないから皆をこちらへ導いて脱出させてくれ!」
「でも、それだと教官達は!」
「俺達に構うな! 皆を守ってくれ。……すまんなシュナイダー、巻き込んでしまって」
「いいんですよ隊長、彼らを生きて帰す事が我々役目ですから!」
オーバーロードしそうな機体から膨大なオルゴンが吐き出されてなんとか退路を作り出す。このままでは機体は持たずアンディたちと同じく自爆するだろうが、同席しているランナーはベルニッツの決意に同意そて出力ゲージを維持し続ける。
だが小さな退路は光のシャワーが降り注いで闇が晴れるようにガレリアが滅されて大きな道が開かれる。その先には輝く巨人が居た。
「良かった!間に合った!」
オルゴン領域の端に万を超えるガレリアで構築された黒点を見つけ、半壊状態のガレリアが退路として小さな穴を開けようとしていた。それを支援すべくホーミングレーザーが放たれて、一度に100以上に目標を攻撃できるレーザーの雨霰によって道として大きく開かれる。
ボロボロなメタトロンがオルゴンを放出して退路を維持していたように、機体周囲を巡るエナジーリングの出力を高めてオルゴンの壁を作り上げた。ガレリアを弾き飛ばしてノーマッドが通り抜けられるなら十分過ぎるスペースはあるが、妨害するようにまたしてもガレリアが周囲を取り囲むように殺到する。
「リングの維持はこっちでしとくから、リクは迎撃に集中して!」
「うん、皆はやらせない!」
リングの制御を始めとした機体操作はソラが担当して、レーザーの発射などの火器管制はリクが担っている。武装の数が多く操作も複雑であるが、それぞれが分担してリンクシステムによる直感的操作や操縦支援AIも加わり、これまでメタトロンを動かしたことにのない二人がぶっつけ本番でも問題なく動かせていた。
包囲網から抜け出そうとするノーマッドに退路を塞いで妨害するように動くアローヘッドが迫る。肩部の発射口からレーザー、腰部アーマーよりミサイルを放ってアローヘッドを次々に落としていく。エクスシアの絶対的な牙城を崩せずにガレリアは動きを変えた。
大型タイプが前面に出て後方にアローヘッドを控えさせて迫ってくる。命中精度は高いが単発火力の低いレーザーやミサイルでは撃墜しきれず、支援AIが即座に別武装を提示した。
『敵は強靭な装甲と火力を持つエグゼクタータイプです。チャージショットによる砲撃を推奨します』
「チャージショット、これか!」
立体映像に武装の詳細が提示されて同時にリンクシステムより使用方法が頭の中へ流れてくる。一旦レーザーとミサイルを止めて姿勢を整えると右腕を天に掲げれば、オルゴンが一点に集められて物質化寸前まで圧縮された青白い光球が掌の上に浮かぶ。
腕を振るうという単純な動作で放たれた光球は狙い違わず、遅い弾速であるが大型ガレリアへ一直線にぶつかり合って最も分厚い正面装甲を容易く撃ち抜いた。
エグゼクターのボディの中心部が大きく溶解してトンネルを作り上げるように貫通すると、光球が崩れてオルゴンのシャワーが後方のアローヘッドを諸共呑み込んだ。たった一撃で数百メートルある巨体と大量のアローヘッドを殲滅せしめた火力に撃った本人であるリクが慄く。
「こんな、火力が……ハッ、みんなの離脱は完了してる!?」
「まだだ、大きいのを倒しきらないと逃げ切れないみたい!」
『チャージショットにはインターバルがあります。優先目標から撃破してください』
大型タイプを一団ごと撃破したが、エグゼクターはまだまだいるようで包囲網は崩れ始めているが怒濤の如く追撃の手を緩めていなかった。近づいてくる脅威度の高いものから優先的にロックオンされて、そこへ向けてチャージショットを叩き込む。
チャージの間はレーザーは撃てないがミサイルは発射可能であり、物質変換によりオルゴンが続く限り補充されるので底をつくことはないので盛大に撃ちまくり、オルゴン領域に入りながら球体状から巨大な手に姿を変えて迫るガレリアに攻撃を加え続けた。
《あ、自デカイのが突っ込んでくるぞ!?》
「う、うわあぁぁ!?」
デストロイヤーが特攻同然に突っ込んできてリクは絶叫しながら筆を振るう。その動作に連動して左腕のレーザーブレードが展開して、真っ黒な巨体をチーズのごとく真っ二つに切り裂いた。なんとか息を整えるが、それを合図にドリルのような突撃型と巨大な目玉と言える自爆型が続々と突っ込んできた。
包囲しきれないなら自爆攻撃も含めた殲滅戦に切り替えたのか、エグゼクタークラスの砲撃と組み合わせてそのプレッシャーにノーマッド達は再び恐慌状態に陥りそうになったが、その間にエクスシアが割り込む。
「このままだと追いかけ回されるだけだから、全力で足止めしないと! でも……」
「わかってる。ここで退いたらヒーローの名折れだよ」
強大な力を操りながらも迫る敵に対してリクは恐怖心をにじませて、それ以上に後ろに座るソラを気にかけていた。その優しさは稀有なものだと感じた彼女は後押しするように笑顔を見せる。そして立ち塞がるエクスシアから空を焦がさんばかりの火力が唸りを上げる。
レーザーとミサイルは絶え間なく放たれて迫る突撃型を押し留め、機体周囲に展開するリングに触れた自爆型が溶断されながら弾き飛ばされる。それでも防ぎきれずに自爆攻撃を各所に受けてしまうが、装甲は抜かれず損傷箇所もオルゴンの供給を受けて瞬時に再生していった。
たった1機だけで踏みとどまっているのを心配してか、撤退するノーマッドの最後尾にいたエイジスが引き返して合流しようとする。だがその機体はボロボロで武装もブレードだけであった。
《単独では無謀だ! こんな状態だが支援ぐらいは》
「大丈夫、ここはあたし達に任せて! その代わりちゃんとみんなを無事に帰して!」
「心配いrなあいよ、必ず戻るから、星宮君は皆を守って」
《……わかった。日高、長瀬、必ず戻ってこいよ!》
踵を返した昴流に背中で送りながら、ディスプレイに映る黒点は全て敵を指し示している。周囲には敵しかおらず、操縦桿を握る手にはべったりと汗が溢れている。あれだけの数の敵を全て落とさなければ後方にいるクラスメート達の生命が危機に晒されるという緊迫感だけが頭の中を支配している。
「リク、来てるよ!」
「うん、任せて!」
逃げる訳にはいかない。トリガーを引いてレーザーやミサイルを放ち、飛び回りながらリングで接触するガレリアを切り裂いてチャージショットで大型ガレリアを粉砕していく。対するガレリアもエグゼクターの編隊が砲撃を絶え間なく放ち、アローヘッドが全方位から波状攻撃をしかけて突撃型が臆すること無く突っ込んできた。
蒼空を焼き払う壮絶な火力戦は突如として終りを迎える。半数まで減っていたガレリアはみるみるうちに一点に集まっていくと小さな黒点になっていき、それすらも溶けるように姿を消した。色を取り戻した青空はまるで何もなかったかのように凪いでいる。
「射程圏内、捉えたぞ!」
「そのまま射出お願い!」
「合点承知!」
並み居るアローヘッドを振り切り、飛び交うビームの雨を避けきってついに砲撃を繰り返す大型ガレリアを射程内に捉えた。太い葉巻のような胴体に後方から伸びる無数のフィン、ガレリア特有の真っ黒な体表には血管のような赤いラインがいくつも通っているその姿は、これまで見てきた大型ガレリアのどれも当てはまらない。フィンが発光し始めると胴体が三つに開かれてされて内部から真っ赤な砲門を曝け出し、協力な砲撃を撃ち出した。
ギリギリまで接近していたのと胴体そのものが砲身という関係上射角に制限が付いていたので、イーサンは軽々と避けてみせ、同時にウェポンベイにドッキングしていたアズライトのエイジス『レーヴァテイン』を射出する。砲撃に特化しているのか大型ガレリアの近接防衛力は低いようで直掩として大量のアローヘッドが飛び交っていた。
「お前らカトンボの相手はこのオレだ! 墜ちやがれ!」
「懐に入り込めば、こっちのものよ!」
機動力と近接戦闘力の高さを誇るレーヴァテインは開かれた胴体である砲身内部へ難なく潜り込み、追撃しようとする直掩機をイーサンが落としていく。小型のエイジスでは500メートルを超える大型タイプの破壊は不可能に近いが、エネルギーの集中している砲口を破壊すれば砲撃を封じれて、あわよくばエネルギーの逆流によってガレリア自体を撃破できるかもしれない。
長大な砲身を臆することなく突き進んでいき、砲口の目の前に来たところでレーザーブレードを展開する。その時砲身である胴体部そのものが赤く発行し始めて周辺のエネルギー量が急激に上がっていき、砲撃が始まるのかと思いこのまま攻撃すべきか退避すべき一瞬迷ったが、全速で上昇していった。
アズライトが砲身から抜け出した直後、内部で真紅の稲妻が迸って砲身が綴じられていく。砲身内に異物が侵入した時の防衛反応のようであるが、離脱が少しでも遅れていたら跡形もなく消し飛んでしまっていただろう。
「危なかったな、まともに食らったら黒焦げじゃすまなかったぜ」
「ええ、なんとか。でも砲身が閉じられちゃったわ」
「こうなったらメタトロンでいこう。合わせてこいよ!」
「望むところ、そっちこそ遅れないでよね!」
分厚い装甲に覆われた状態ではエイジスやストライダーの火力では破る事は出来ないだろう。なのでメタトロンになるしか攻撃手段はないが、攻撃が飛び交う中でのドッキングはかなりの危険を伴うものだ。しかし二人は迷わず機体を加速させて、螺旋の軌道を描きながら急上昇していく。
まずストライダーの機首が左右に開いて変形していくが、この時は空力特性が大きく変わって失速してしまう。なので上昇する推力で減速を可能な限り抑えて、可変中の無防備な状態も僚機であるアズライトがカバーした。
ストライダーの変形が完了すれば今度はエイジスとのドッキングである。速度を維持しつつ銃座を動かしてストライダーが牽制して、その隙に胴体部にエイジスが入り込むという難度の高い機動中でのドッキングを難なく実践してみせた。
『ユナイト完了、メタトロン起動します』
「よし、こいつならやれるぞ!」
「最初から全開でいかせてもらうわ!」
人型に変形した直後、レーザーブレードを発振させて大型ガレリア目掛けて急降下していく。十分に加速のついた斬撃がガレリアの縦一文字に切り裂くが、装甲の表面に浅い傷をつけるだけだった。
負けじと左腕にもブレードを持った二刀流で突撃し、初撃で付けた装甲の傷に刃を突き立てる。青いエネルギーの奔流が乱舞して黒に染まった表皮を次々と削っていくが、それでも致命的な一撃とはならなかった。
メタトロンの攻撃を嘲笑うかのごとく、赤いラインとフィンが再び輝き始めて主砲のエネルギー充填が完了したことを指し示す。これ以上の砲撃を許すわけにいかず砲口が露出する今が唯一のチャンスだが。同時に危険な賭けでもあった。
「メタトロンの火力でもダメなら、砲口に直接かましてやるしかないな……!」
「でもかなり危ないわ。あの内部に入り込むには電撃のシャワー浴びることになるし、その状態で砲口破壊できても脱出できるかわからない。もし離脱が少しでも遅れたら……」
「よし、オレにいい考えがある。ちゅーわけで、ここは少し任せた!」
「え? ちょっと、どこいくのッ!?」
ガレリアの胴体が三分割されて砲撃開始まで秒読み段階に移行しているが、何を考えてかメタトロンを解除して分離するとイーサンは正反対の方向へ飛んでいく。それを追いかけようとしたアローヘッドを斬り伏せながら、アズライトはその意図が全くわからずにただ嫌な予感を感じずにはいられなかった。
加速できる分の距離を稼いだと判断してイーサンは180度Uターンして機首と進行方向を大型ガレリアの正面に見据える。機首部のシールドエネルギーとエンジンだけにエネルギーを回して音を抜き去るスピードで、今まさに放たれようとしている真っ赤な砲身目掛けて突っ込んでいく。
飛び込む寸前、これまで自分の無茶に散々付き合ってくれた愛機へ敬礼して、座席下の脱出レバーを引いた。
「短い付き合いだったが、これまでありがとよ相棒!」
コックピットブロックが射出されたのと主をなくしたストライダーがガレリアへ突入したのはほぼ同時だった。音速の2倍以上の速さで砲身を駆け抜けて砲口にタッチダウンするのは1秒もかからず、オルゴンを纏った大質量が音速で突き刺さって発射寸前だった高エネルギーが行き場をなくして暴発し、ガレリアそのものが内部から盛大に吹き出した。
瞬く間に巨大な火の玉に姿を変え、推力の切れた脱出ポッドすら呑み込もうとするもポッドより座席が放たれてそこに座っていたイーサンが大空へ飛び出し、救出のため向かってきていたアズライトの脚部アーマーに飛びついた。
「この馬鹿! あなたって本当に大馬鹿よ! あんな風に突っ込む馬鹿がどこいるのよ!? 死んじゃったらどうするのよ!!」
「ったくバカバカうるさいなー、バカって言う方がバカなんですー。それに同じやり方で前に大型ガレリア倒してんだから、ちゃんと理に適った方法なんだぞ」
「……ハーッ、あなたが無事ならそれでいいわ。あれ、エネルギー反応? え、嘘!?」
「ん、どうした……って、あれは!?」
足にぶら下がるイーサンの無茶に呆れ返ったアズライトであるが、センサーが示す反応に驚愕する。何事かと感じたイーサンの視界に黒い物体が移る。それは分厚い雲を突き破って姿を現した、先程の大型ガレリアであった。しかも同じものもう一つならんでいるのだ。
あのガレリアは確かに撃破していた。つまり、今目の前にいるのは同じタイプで前に出ていた奴がやられたから出てきたのだろう。複数いた事を考えていなかったイーサンは歯噛みする
「アズライト、すぐに戻ってくれ! この状態じゃあ流石に何もできねえ!」
「わかってる! アレが複数いたなんて……」
「戻ったらすぐに新しいストライダー受け取って再出撃だ! 来るってのなら何度でも墜としてやるだけだ!」
だがイーサンは絶望するどころか更に闘志を燃やしていた。機体を喪失しているというのにまだ戦うつもりのイーサンに対して、アズライトは目の前のガレリアに圧されながらその理由を尋ねる。
「ちょっと、まだ戦う気なの? さっきのが次で上手くいくかは限らないのよ」
「だからって指くわえて見てるのか! オレは嫌だね。それにあいつらが我が物顔で空飛んでるのが我慢できねえ!」
《だから、僕たちに任せて!》
「リクか!?」
『敵目標の撤退を確認。ランナー、お疲れ様です』
「ふー、なんとか終わったかぁ……」
「リクやったな! でもまだ残ってるよ、イーサンのところへ戻らないと」
ノーマッドを襲っていたガレリア群が消えて敵性反応も周囲にないからリクはようやく操縦桿から手を離して一息つけた。握りっぱなしだった両手は少し震えていて握力が戻るにはしばらくかかりそうだ。
しかしまだゆっくりするには早すぎて、空中大陸本土を攻撃しているガレリアが残っている。エクスシアが向かえばより戦力になるだろうから、ソラは既に戻ろうとしていたが、そこへAIより新たな情報がもたらされた。
『別エリアにて交戦中に新たな敵影を確認。タイプ照合なし、新種の砲撃型大型種の同型が複数確認。登録情報無い未承認のエイジスが遭遇したようです』
「あのエイジスはイーサンと一緒に戦っていた人のだ! 早く助けにいかないと!」
「でもここから向こうまでは結構かかりそうだ。間に合ってくれよ!」
『一つ提案があります。ここからすぐに反撃できる手段が』
「え!? 本当に!」
浮かぶ立体映像が忙しなく動いてAIが提示したものが浮かび上がる。『オルゴニウム・カノーネン』、チャージショットとは比べ物にならないほどの超エネルギーを飛ばす遠距離砲撃武装であり、このエクスシアで最も火力がある装備だ。
発射のためには色々と手順を踏まなければいけないが、ここから大型ガレリアがいるエリアまで届く代物ということで迷わずにそれを選ぶ。早速発射準備に取り掛かり、圧縮格納されていたオルゴン増幅装置と巨大な砲身が展開されてそれぞれ背中と胸部に接続された。
ジェネレーターのエネルギーを増幅装置へ回してエネルギー充填を行っている間にリクは戦闘エリアにいるエイジスへ通信を回す。これからの砲撃の注意喚起とその場に確認できていないイーサンの無事を確かめる為に。
《……オレは嫌だね。それにあいつらが我が物顔で空飛んでるのが我慢できねえ!》
「だから、僕たちに任せて!」
《リクか!? その様子だと仲間を助けれたみたいだな》
「うん、だから今度は僕たちに任せて欲しいんだ!」
第一声でイーサンの声が確認できてほっと一安心したリクへ、通信機の向こうの彼も仲間を助けられた事を安心しているようだ。なぜ彼がストライダーに乗っていないのか疑問ではあるが、それよりもその空域から離れるように勧告する。
「今からエクスシアでそっちの敵を砲撃するんだ。だから巻き込まれないように精一杯離れて!」
《わかった、全部そちら任せなのは情けないが、頼んだぜ!》
「そんな事ないさ、それにこれはおやっさんの仇討ちでもあるんだから」
『セッティング完了。砲撃フェイズに入ります』
砲撃の準備が整ったので通信を切りリクはもう一度操縦桿をしっかりと握った。背中のオルゴン増幅装置は光のリングを生成して高速で回りながらエネルギーを高めていき、砲身にも3つの浮遊している装置が砲身を中心に高速回転して同じように光のリングが生成されている。
『ジェネレーター出力規定値まで上昇。エネルギーライン接続開始』
「重力アンカー展開、機体固定完了っと」
「え、エネルギーチャージ開始を確認、照準システム問題なし!」
『ライフリング回転率正常値を維持、充填率80パーセント』
浮かぶマニュアルに従って機体そのものが砲身となるオルゴニウム・カノーネンの発射シークエンスが始まる。コアユニットとオルゴン増幅装置より周辺大気内のオルゴンが吸入され、先程のガレリアが残したクラウドも変換装置によりエネルギーへ変えらえて砲身へチャージされていく。
空中にて機体を固定して目標への微調整も完了し、全てのエネルギーが充填されたことを告げる。
『充填完了。オルゴニウム・カノーネン、発射可能』
「いけええぇぇぇぇ!!!」
叫びながらリクがトリガーを引けば圧縮されていたオルゴンが解き放たれて、エネルギーの渦が蒼空を切り裂くように突き進んでいった。真っ直ぐに伸びる虹の帯を撤退中の昴流が、空中大陸上空にて防衛の指揮を執るストーン・コールドが、そしてガレリアに背を向けて飛んでいるアズライトとイーサンの眼に映った。
極限までに高められたオルゴンは遥か彼方から放たれたにもかかわらず、ほとんど減衰することなくガレリアの編隊に呑み込んだ。30秒ほどぶつかり合って周囲の雲を吹き飛ばす暴風が収まれば、そこにはぽっかりと開いたような青空がそこにあるだけだった。
まるで手品か魔法のようにガレリアを消し去ったエクスシアの力を目の当たりにしたイーサンとアズライトはしばらくのポカーンと口を開けていて、ようやく唸るような声が出せた。
「すごいもんだな、エクスシア……」
「ええ、本当に……」
静寂と平穏を取り戻した空にオレンジ色のヴェールがかかり始めていく。
いつも以上に長くなっていましたが、読んでいただきありがとうございます!
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