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黒鋼の天使は、虚空を征く。  作者: ドライ@厨房CQ
第1章 コバルトブルー
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4話 模擬戦

おまたせしました。今回は空戦回です! ちょっと読みづらいかもしれませんが、よろしくお願いします!

 アカデミーの周囲には飛行場をはじめ多くの訓練施設が置かれている。その中で一番広い面積を誇る総合訓練エリアに20人以上の男女が集まっている。彼らこそがオラクルに協力しているノーマッド達で、その視線の先で、白き甲冑と黒き甲冑がぶつかり合う。

 エイジス。空戦パワーフレームと言われるように、背部のフレームを中心に手足を延長したア―マーやオルゴンドライブと呼ばれる飛行ユニットが搭載されている。ランナーの手足はアーマーに収まるよう出来ているが、胴体や頭部はフレームで覆われているが装甲は搭載されずに剥き出しになっている。それはランナーより発せられるオルゴンを使ったシールドシステムを装甲代わりとして、防御力が低くなる代わり機動性を高めている。フレームや装甲に武装などは換装システムを採用しているので、ランナー独自にパーツ変更も容易だから全身に装甲を施したり、逆に最低限の装甲を排する思い切ったアセンブリも可能だ。


「踏み込みが甘いぞ! もっと思いっきり来い!」

「はいっ! 行きます!」


 黒のエイジスランナーが叱咤すると白のエイジスランナーは応えて真っ直ぐ飛び込んで、その率直な動き方に感心しつつ迎え撃つ。お互い武器を待たない素手での手合わせはだが、エイジスの挙動に慣れるならこれが一番と言える。

 センサーと統合制御体の作用によりエイジスは360度をカバーし、振り返らずに後方や足元を確認できたりかなり遠方を視認できた。しかし元々の人間はそこまで視界が広く目も良くは出来ていないので、統合制御体の補助があるとはいえこちらも慣れる為の訓練が必要だ。

 右拳のストレートを打ちながら身体をムーンサルトのように回転させながら蹴りを放つという、エイジスの持つ浮遊機構を最大限に使った生身では不可能な動作を白いエイジスは見せる。まだ乗り始めて1ヶ月も経っていないというのに関わらずここまで成長しているのを、黒いエイジスにて相手役を務めるウォルフガング・ベルニッツは複雑な心境であった。

 白のエイジスを駆る星宮(ほしみや)昴流(すばる)は1ヶ月前にここへ流れ着いた時、ガレリアを撃退したという件のノーマッドだ。それからというもの進んでオラクルへ協力してくれているとはいえ、アカデミーの生徒達と同世代で異世界から来た部外者である彼らをこちらの事情に巻き込んで良いか悩んでいる。

 そして何より昴流本人は無自覚であるが、従うにしても競おうとするにしてもも他のクラスメイト達は彼の影響を受けて引っ張られてしまっている事だ。本当は戦うのは嫌だが爪弾きにされるのが嫌で無理についてきているのじゃないかと。


「そこぉ!!」

「ぬぅん! 甘い!」


 そんな葛藤に心が目の前の戦いから離れていてしまったのか、昴流からの拳を一発貰う。しかし伸びきった右手が引っ込む前に掴むと、カウンターで一本背負いで投げ飛ばした。強い一撃で地面に叩きつられ大の字に倒れる昴流へ手を差し伸べて健闘を称える。


「今の一撃は良かったぞ。さぁ、ウォーミングアップはここらにして模擬戦に備えるんだ」

「はい教官、ありがとうございました!」


 昴流が頭を下げて皆の下へ戻っていけば歳相応の少年と変わらぬ顔を見せて、それを眺めるベルニッツは専任教官として意識を今一度入れ直す。彼らがもし戦う事になったら生き残れるように鍛えるのが自分の役目だと言い聞かせる。

 願わくば戦う日が来ないことであるが、それは難しいことだった。オラクル上層部は救世主と祀り上げられている彼ら、特に昴流を前線に出して士気をあげようと画策してした。そして何より昴流だけが優遇されている現状に不満を感じている者もいて、そんな彼らは戦いに出たがっていた。戦うのがどういう事か知らずに。


「教官、いつまで訓練が続くんですか。俺達はもう戦えますよ!」

「またそれか。まだ1ヶ月も訓練しておらんだろう、メタトロンの操縦もおぼつかないんじゃあ、実戦は無理だ」

「でも、昴流はガレリアと戦ったって……!」

「あれは事故みたいなものだ。少なくとも実戦に出てもお前達はまだ後方待機になるだろう。さぁ、まだわからない実戦より今日の模擬戦に集中しろ!」


 こうして今も実戦に参加したい者が訴え出てくるが、ベルニッツは説き伏せて若干不満を残しながらもそれ以上は反論せずに戻っていく。しかし鬱憤が溜まっている者いるのは事実で、ノーマッドによるアカデミー生徒や整備チームへの暴行や衝突が起きていると聞く。

 中心にいる昴流ならそれをきっと許さないだろうが、暴力沙汰を起こす者は大抵昴流に対抗心を持っているもので彼の言葉では逆効果だろう。ここで意識を改める為に後方待機でも実戦に参加させるべきじゃないかという考えも過るが、それは彼らの身を案じる女性の思いを踏みにじるものだ。

 ベルニッツは遠くに見えるガラス張りの建物に目を向けて、どうしたものかと頭を捻る。そこへPDAにメッセージが入り、私用のものでない指示伝達用なのですぐに内容を確認する。書かれている文章を読んで顔を綻ばせると皆に向けて叫んだ。


「おい、みんな聞いてくれ! 行方不明だった最後の4人が見つかってこっちに来ているようだ! えっと、アマブキオウカ、イヌイタツミ、ヒダカソラ、ナガセリクで間違いないな?」

「は、はい! 良かった無事で……! みんな喜べ、これでクラス全員揃うんだ!」

「……天吹さんって、あの根暗な……」

「……長瀬っていつも寝ていたような……」

「……日高さんはね、あの歳でヒーロー好きなのはちょっと……」

「ところで乾って誰だ?」


 クラスメイトの無事を聞いて昴流はとても喜んでいた。しかし他の面々はあまり嬉しそうな顔はしtれいなかった。その4人は嫌われているわけでないが、ただクラスメイトの中であまり交流しづらいか印象に残らない存在だからだ。

 場に流れる微妙な空気に気付かないのか昴流は独り舞い上がっているようで、ここでも温度差が出てしまっている。この差が綻びを生まなければとベルニッツは思うばかりだ。






「へーっくしっ!! ……おい、誰か俺の噂したか?」

「きたなっ! ちょっと乾くん、唾飛んできたじゃないの!?」


 大きなくしゃみをした巽と正対していた桜花へ唾が降り注ぎ、2人はてんやわんやな大騒ぎを巻き起こす。しかし、それを誰も止めようとせず、総合訓練エリアを一望できるガラス張りの展望室へ案内してくれた少女―シアンからこれから行われる模擬戦について聞いていた。


「えっと、つまり強い相手をぶつけて、みんなの戦う意欲を削ぐということですか?」

「うん、これから強いのがくる。負けることで学ぶのも、多い」


 桜子先生としては皆が戦おうとする姿勢を改めてくれればそれで良いのだが、模擬戦そのもので怪我でもしたらと心配だった。実機を動かして行われるが、照準レーザーを撃ち合ってモニターに合成映像を重ねて実戦さながらの臨場感を出しつつ、安全に考慮されている。

 全ての武装は積まれていないかロックされた状態の上火器管制装置(FCS)も訓練モードとなっているから発射されることはない。たとえ失速などしてもオルゴンリフトによる浮遊効果で墜落する危険性もかなり低かった。ノーマッドの皆も乗り始めて日は浅いが、各支援システムのおかげで訓練中の墜落や事故は起きていない。


「お、そろそろ始まるみたいー」

「みんな空に上ってるみたい……ってあれは!?」


 次々とエイジスやストライダーを駆るクラスメイト達が訓練エリア上空に集結している。双眼鏡片手でそれを眺めるソラであったが、シアンからリモコンを受け取ると投影される望遠映像を自在に動かして眺めていく。

 リクは今回の対戦相手にチャンネルを合わせて、どんな相手か確認すると驚愕した。炎のペイントが施された翼を持つストライダーがそこにいた。


「おい、リクどうした。まるで豆鉄砲食らった鳩みたいな顔をして……あッ! 俺達を助けてくれたストライダーじゃないか!」

「あれ、そうなんだ?」

「うん、すっごく強かったぞ。それなら1機だけなのも頷けるね」


 たった1機の挑戦者というのものだが、その強さに目の当たりにしてるリク達は納得しており、その裏でイーサンが反省文を書かれた理由をシアンが察した。肉眼の他に様々な角度からの望遠映像や各々が動いた軌跡を映し出す立体映像など、いくつもの映像が浮かび上がって開始の時を今か今かと待っている。


 展望室より眺める者がいれば地上より見上げる者も居る。ベルニッツは対戦相手として飛んできたファイヤーパターンの翼を確認すると、ガラス張りの建物へ視線を移してポツリと呟く。


「ここでアイツを出すのか、嬢ちゃん……!」






「さて相手は、……たった1機だけか? どういうことだ……」


 空中にてノーマッド側はエイジスとストライダー合わせて20機以上の編成を組んでいる中、対するのはストライダー1機のみだった。これまで1対1か複数同士での組み合わせだったので、ここまで人数差で圧倒的有利な状態で戦うのは初めてだ。

 フルメンバーでの出撃なので大規模戦闘を期待していたが、相手が単機というのは肩透かしを食らう。一部の者は既に楽勝ムードであった、しかし昴流はなにか言いようのない不安に駆られる。


「なんだ、1機だけかよ。よーし、俺に続け!」

「待て、永山! 相手の力量が分からない内に突っ込むのは危険だ!」

「へッ、俺達はここまで負け無しなんだ! それに星宮、いつもお前だけにいい思いはさせないぜ!」


 昴流の指示を無視して永山(ながやま)礼司(れいじ)が率いるエイジスとストライダーが2機ずつの小隊が編隊を離れて動き出した。1機を相手取るには4機編成が最大数であり、それ以上だと互いの動きを阻害してしまう可能性があるので、小隊以外の面々は距離をとって傍観するしかない。

 一方着実に距離を詰めていく永山小隊は取り囲むように動いていく。空戦の基本は相手の後ろを取りあうドッグファイトか速力を活かした一撃離脱のどちらかであり、この包囲戦法は相手がどちらを向いても後ろを取れる多数対一での基本戦術だ。

 包囲網が狭まる中で炎の翼が動いた。機首を上げて垂直方向に上昇していき、その後ろを永山操るストライダーを先頭に追いかけていく。上に逃げるのは自ら後ろを晒す下策だと昴流は判断し、自分の不安は思い違いだったかと感じた。

 しかし、次の瞬間には永山機を除いた3機が同時に撃墜(ロスト)したことを知らせるアラートが鳴り響き愕然とする。


「一体なんなんだ!?」


 コックピットの中で永山が叫ぶ。上昇してる敵機を追いかけた瞬間、向こうが180度翻して突っ込んできたのだ。空中での超信地旋回ともいえる急激な機動に、旋回(ブレイク)することも出来ずにヘッドオンで相対してミサイルや機銃、エイジスも武装を正面に向けて撃ちまくった。しかし機体をロールするだけの最低限の機動で全てを回避しせしめて、なんとかすれ違った時のと同時に僚機3機全てが落とされた事が知らされる。

 ロックオンアラートが響いて愕然としている思考をなんとか現実に戻す。敵機は既に反転してこちらの背中に狙いを付けており、エンジン出力を上げて一気に引き離そうとした。依然として後方をぴったりと付かれて、シザーズ機動で左右へ不規則に揺さぶり、それでも食いついてきた。

 スピードで引き離せないなら、オーバシュートを誘って後ろを取ってやろうと螺旋を描くバレルロール機動に入る。しかしそれでも振り切れない。あの時見せて超信地旋回の如くクルビット機動にて方向を無軌道に変えながら背中を見せず優位の位置を保っている。そしてロックオンアラートが更に大きくなる


「クソッ、なんで撃たない!?」


 背中にぴったりと付いていつでも攻撃できる筈なのに、ロックオンするだけで照準レーザーをまるで放ってこない。まるで必死で逃げるウサギを嘲笑うように追いかけるオオカミの如く、もっと必死に飛べ、もっと楽しませろという圧を背中からひしひしと感じている。今まで出したことがないほどの冷や汗を吹き出しながら永山は叫ぶ。


「くそ、誰か、誰か助けてくれよぉッ!?」

《照準レーザー命中。右ノズル直撃により撃墜》


 冷めた機会音声が撃墜されたことを知らせて永山はぐったりとシートに身を預けて震え上がる。そのすぐ上を炎の翼が悠然と通り過ぎていった。次なる獲物を探して。



「な、なんだあれは!?」

「うそ、勝てるわけないじゃん……」

「みんな落ち着け! 必ず2機以上でチームを組んで動くんだ。付かれたら別の隊が複数機で攻撃を仕掛けて気を反らせるんだ!」


 数の不利をものともせずに容易く弾き返し、逃げに徹していた永山が落とされた事で皆の間に動揺が走るも昴流は間髪入れずに支持を出した。動揺を持ったままでは同じように屠られてしまう事を危惧し、自ら周囲を引っ張るべく前に出た。


「俺が牽制するから、みんなはその隙をついてくれ!」

「おい昴流、無茶だ!」


 真っ先に飛び出した昴流の純白のエイジスを彼の小隊が追う。エイジスと比べて速力で勝り運動性や火力で劣るストライダーなら一撃離脱戦法を仕掛けてくるだろうから、エイジス側はマニューバを用いて資格を取るのがセオリーだ。しかしあのクルビット機動による旋回もあるので向こうの運動性は予想以上であるのは間違いなく、全力の機動で挑む為に背面のウイングユニットが大推力を吐き出す。

 空中を自在に動き回るエイジスに炎の翼のストライダーもその誘いに乗った。上昇からのダイブで火力を叩き込もうとする敵機と、運動性を活かした立体機動で優位な位置を取ろうとする昴流、複雑に絡みあった機動戦となった。

 速力と運動性で照準を付けさせない敵機を昴流が追いかけて互いに背中を取り合おうとする形になっているが、全ての砲門が前を向いてる航空機型と手にしたライフルや肩部ミサイルを自在に向けられる人型では射角に大きな差があり、昴流が圧倒的有利だ。しかしロックオンしても標準レーザーを向けた途端に外されてしまう。

 どこまでも続く機動戦に痺れを切らしたか、ついにストライダー側が膠着状態を破るべく動く。ハイGターンによる急速旋回で機首を昴流の方へ向けてきており、この瞬間を待っていた。空戦を誘ってこちらに意識を向けさせたのは、その隙をついて意識外である遥か上空にて待機している小隊メンバーが一気に突撃させるためだった。いわば自分そのものを囮としたもので、互いに攻撃を行うスピードは互角だから最悪落とされる危険性はあるが、確実に一撃離脱を行える。

 意識を集中してか周囲の速度がゆっくりと感じられる。あと一拍、ストライダーの機首がこちらを向け、右手のライフルと肩部ミサイルが撃ち出されようとしたその瞬間。ストライダーは明後日の方向に向けて大量のミサイルを撃ち出した。


「一体なぜ―」

「うわあ!? ミサイルが!」

「こんなに撃ちやがって! バラけないと当たっちまうぞ!」


 疑問が浮かぶのと同時に無線からクラスメイトの混乱した声が届く。そして機首をそちらに向けていた敵機はアフターバーナー全開で突撃する。昴流の攻撃は空振りで終わり、上空で待機していた攻撃組もおいつけないで、昴流もすぐさま反転して追いかけながら歯噛みする。

 機動戦にあえて乗ったのは味方の編隊との距離を安全に詰める為だった。空戦をしながらミサイルの射程まで誰にも気付かせずに近づいて、入った瞬間に昴流を攻撃すると見せかけて編隊に向けて撃ち込んでみせた。それはこの空中に安全な場所など存在せず、自分は落ちないと驕った者を噛み砕くという意思表示なのだ。

 低威力だが装弾数の多いマイクロミサイルの全てが一気に押し寄せて、密集陣形を取っていた編隊は混乱のるつぼに落とされた。そんな乱れた隊列の只中へ臆する事無く突っ込んで、周りが味方だらけで思うように攻撃出来ずにいる乱戦状態が狙い目だった。

 混乱してフラフラと飛び者、隊列からはみ出して独りになった者、まず弱いと判断されたものから次々と食われていく。まさに捕食者と形容できる戦い方で、全方位から飛んでくる攻撃と入り乱れた狭い空間を全力で飛ばしていく。

 オオカミに食い破られて散り散りになる中で、自分たちは羊ではないと奮起した一部の者達が状況を打破するべく、切札を切った。


「メタトロンでいくぞ! 合わせろ!」

「いきなりそんな、まだ少ししかしてないのに……」

「うるせえ、黙ってやられるなんざお断りだ!」


 ノーマッドの編隊はエイジスとストライダーによる分隊(エレメント)を基本としており、これがそのままメタトロンとしての組み合わせにもなっている。しかしノーマッドは単機での訓練は全員が修了レベルであるが、メタトロンに関してはまだ初歩訓練の最中に過ぎなかった。メタトロンを操るには素養以外にランナーが密に連携する必要があり、これに関しては時間を掛けてお互いの信頼を深めるしかない。


「おい、どうなってる、パワーが全然上がってないぞ!?」

「知らないよ! こっちだって合わせてるのに!?」

「うわああああ!! アイツが来る!!」


 メタトロンが真の性能を発揮するには搭乗する2人のランナーから発せられるオルゴンの波長を合わせるのが肝要だ。まだ信頼関係が構築されておらずなおかつ心理状態が不安定ではお互いの波長が噛み合わず、下手すればまともに動くことも難しくなってしまう。

 アカデミーでは入学当初からメタトロンを組む分隊を決めて共同生活を取らせる事で、長い時間をかけてお互いを同調させている。まだ1ヶ月程度しか訓練していないノーマッドが完璧な動作を発揮できるのは不可能な話で、そこがベルニッツ教官が彼らを実戦に出させない理由の一つでもあった。

 そして多少動ける程度のメタトロンなど“彼”にとっては空を漂うでくの坊でしかなく、ジェネレーター出力が上がらずシールドが不安定な状態では至近距離からのレーザー機銃を防ぎきれず、多数のメタトロンが撃墜判定を受けていく。メタトロンにならなかった分隊も果敢に迫る者から、戦う事を拒否して逃げ出す者までいたが、後ろを晒した者は例外なく落とされていった。


「待てよ……! 待てェェェッ!!」


 既に3分の2が撃墜判定となる中で、昴流は必死に敵機の後ろを追いかけていた。後方の自分など構わずに弱い者から狩っていく戦い方に苛立ち隠せずライフルを乱射していき、その1発がクラスメイトの1人に牙を突き立てようとしていた所をかすめて、攻撃を妨害した。

 いい加減後ろを取られ続ける事が厄介になってきたか、攻撃の手を緩めると昴流を引き離そうと上昇していく。それを誘いと受け取って彼も同じく上昇していく。


「いいだろう、今度は正真正銘の一対一だ!」


 上昇しきったところでその場で一回転するような機動で反転してきて機銃を浴びせ、永山小隊を倒した時と同じ攻撃パターンを紙一重で躱して、互いに死角を取り合う激しい機動戦に移行する。

 ミサイルを撃ち尽くして機銃しか残っていないストライダーは距離を詰めなければ攻撃できず、一方の昴流はライフル・ミサイル・レーザーブレードと火力は十分だ。しかし左右に揺さぶるシザーズ機動で狙いを合わせさせず、ハイGターンやクルビット機動にて旋回してきて360度から猛攻を繰り出してきた。

 両者一歩も譲らない空中機動はより一層苛烈さを増していき、ついに互いの翼から雲が引かれていき、青い空に複雑な白い線がいくつも交差していく。そして2つの白線が真正面からぶつかり合う。

 ストライダーの機銃が突き刺さりそれをシールドで防いで致命傷を避けつつ、正面衝突するかの瀬戸際でライフルとミサイルポッドを切り離して昴流はブレードを構えた。機体が身軽になったのと同時に背面のウイングユニットが最大まで稼働する。

 瞬間的に大推力を叩き出すハイブーストによる限界以上の加速のまま、すれ違いざまにエネルギーの奔流とともに蒼空を切り裂く。

 精魂尽き果ててブレードすらも手放した昴流は、実を放り出すようにゆっくりと落ちていく。“目標撃墜”の文字を確認できたのは、上空を悠然と飛んでいる炎の翼を見上げ、下から聞こえら歓声が静寂を突き破った時だった。紙一重の戦いを制した昴流に向けて、ストライダーも翼を大きく振って健闘を称える。



「ちくしょう、またあいつの独り勝ちかよ……!」


 クラスメイト達が黄色い声を上げて昴流を褒め称える中、そこから外れた所より悔しさを滲ませていたのは真っ先に脱落してしまった永山である。昴流だけが活躍している現状納得できず自分の力も見せつけてやろうと息巻いていたのに、結果は彼を引き立てるだけな滑稽な道化だった。

 自分にだって活躍する機会があっても良いじゃないかと、鬱憤を溜めて行く中に負の感情がこもった暗い感情がふつふつと湧き上がってくる。あのストライダーを落とせば見返してやれると心の中の自分が囁いて、震える手のままコンソールを操作する。

 それはメインシステムを訓練モードから火器使用も可能な通常モードに切り替える命令コードであり、それは明確な攻撃の意思表示を意味していた。なので警告メッセージも浮かび、IFFを通じて全員にも周知されて後戻りは出来なくなる。だが永山は構わず操作を続けた。


「これでやってやる!」


 あの恐怖の対象とやり合うためにはこちらも覚悟を決める必要があった。純粋な戦闘モードから比べれば兵装へ回されるエネルギーは少ないが、それでも機銃を撃つには十分である。

 エンジンを全開にして、困惑するクラスメイト達の間を抜け、意図に気付いて止めようとする昴流を振り切り、相変わらず高空を飛び続ける炎の翼をロックオンする。


「永山、駄目だ! やめるんだ!」

「もう遅え! お前はそこで見てろ! 落ちやがれェェェッ!!」


 射程距離に入って躊躇なくトリガーを引いた。レーザーが吐き出されて同時にストライダーがレティクルから外れて真っ逆さまに急降下していく。推力ノズルから煙を上げているようで勝利を確信した。しかしIFFの反応に戦闘モード起動という文字が浮かぶのと同時に強い衝撃が走った。


「な、なにが―」


 目の前に炎の翼が現れて心臓が握り潰されんばかりの圧を感じた。主翼の右側に大きな穴が開いており、落ちたと油断させて急上昇して真上から攻撃してきたのだ。直撃させなかったのはせめてもの情けで、あえて身を晒して威圧していたのだ。


「まだ、まだだッ! うぐぅ!?」


 あがくように機銃を乱射するも、その場でクルビット機動で反転しながら回避してお返しとばかりに左側の主翼を撃ち抜いた。これで翼はもがれて後はオルゴンリフトの浮遊効果でゆっくりと降下していくだけである。上のポジションを取ってこれ以上は抵抗できないように頭を抑えつけられた。

 しかしまだ終われない。執念と意地で推力ノズルの動きだけで動いていく。そんな無理な動きで補足出来るはずもなく無茶苦茶に機銃を撃ち出すだけで、相手していなかったストライダーもついに堪忍袋の緒が切れたか、激しく動き出す。


「来やがれ! 落としてや―えッ!?」


 機銃を全て回避して懐に潜り込んだ炎の翼が目の前で変形していく。メタトロンの脚部にあたる機首を真横に開いて永山の機体を挟み込んだのだ。そんな無茶苦茶な戦い方に度肝を抜かれるが、機体は万力のように挟まれてどんなに推力を上げてもぴくりとも動けなくないでいる。

 挟まれたまま空中を引き回されて徐々に地面が近づいて来たところで通信が入った。


《5秒後にその機体を破壊する。死にたくないならその前に脱出することだ》

「ちょ、ま……」


 短く、されど有無を言わせない力強さと確実にやるという気概を感じて、永山はすぐに脱出装置を作動させる。上面が開放されてコックピットブロックごと射出された。直後に挟み込んでいた機首部が開かれて、落ちていく主人無き機体を機銃の一斉射で穴あきにしていった。

 地上に落ちた機体は既に元の体積の半分以下になっており、フライヤーとしての原型を留めていない。リフトでゆっくりと降下するコックピットの中で永山は、無人になった機を落とした理由を肌で感じていた。ただ鬱憤をはらう為に攻撃したのでなく、空で己に砲門を向けたモノは何であれ必ず落とすという、炎の翼のストライダーを駆るランナーの意思表示であったのだ。


 これで全て終わった事を確認して、そのままハンガーに向けて帰投するコースに入る。依然と呆然と見上げるノーマッド達に向けてコックピット内から全方位通信で呼びかけた。


「これにて模擬戦は終了。そちらさんの勝ちだぜ」

ここまで読んで頂きありがとうございます!感想や誤字報告などお待ちしております。次回も早くに出せるようがんばります!

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