2話 エフェクターとメタトロン
おまたせしました。今回も引き続き説明の話が多いと思いますが、よろしくです。
―君たちの力を貸して欲しい― 目の前のローブの男性からテンプレ通りな台詞を投げかけられてリクは思わず叫んでしまった。しかしその声はより大きなものにかき消されていく。その力強い声で反論を上げたのはシュザンナだった。優しそうな彼女がそこまで声を荒げたことに皆が一様に驚きを隠せない。
「ケッセルリンク司教! この人達は我々が保護し守るべき方達なんですよ! それを戦いに引き込むなんて!」
「しかしだね、シュザンナ君。彼らは我らに進んで協力してくれたのだ。それにこれほど高い適正を持った者達の大量転移こそオルゴンの思し召しと思わんかね?」
「思いません! 我々の戦いに全く関係ない者を巻き込むことこそ冒涜であります!」
シュザンナとケッセルリンク司祭はともに1歩も譲らぬ気迫に聞いてるだけの四人はただただ圧されてしまった。その中でおずおずながらもいソラが割って入って尋ねた。
「あの、よくはわからいんですけど、あたし達の力が必要なの?」
「おお、そうだとも! 憎きガレリアを倒す力が君たちにはあるのだよ!」
「司祭お待ちを。説明は私から行います」
逸るケッセルリンクを抑えてシュザンナが前に出る。どこか硬めな表情ながらシュザンナが手にしたタブレットを操作すると、4人のタブレットも連動して画面上から立体映像が映し出された。
世界を覆い尽くしたガレリア。それと戦うためにこの空中大陸には『エフェクター』と呼ばれる存在がいる。本来なら専用の機械を通さなければエネルギーとして変換できないオルゴンを自在に変換できて、なおかつオルゴンそのものを体内で生成できる、空中大陸に適応した者だ。
ガレリアの弱点であるオルゴンを生み出せるエフェクターはその力を持って、地上奪還とガレリア殲滅する為に日夜戦っている。特に『エフェクトランナー』と呼称されるエフェクターはオルゴンによって稼働・操作される空戦機動兵器『メタトロン』を駆るエリート中のエリートであった。
立体映像として映し出されたメタトロン、その姿はまさに巨大人型ロボットであって真っ先にリクが食いついた。
「これってロボット!? 僕たちが操縦できるの!?」
「むぅ、長瀬はロボット好きだったか。実のところ俺も人型ロボットにも興味があってね、男のロマンという奴だ」
「無論君達には動かせる! 既に君達の同胞が駆って、高い戦果を叩き出しているのだよ。君達はノーマッドの中でも特別な存在、オルゴンに導かれた者達と私は思っている。ならば“切札”も操れるはず―」
「司祭、彼らを引き込むようなことを言わないでください! ……では、その“切札”について説明します」
良い反応を見せるリクと巽の男性陣に対してケッセルリンクが煽るようにさらなる何かをちらつかせた。またしても途中でシュザンナが割り込み、大きな溜息一つ吐き出してから説明を続ける。
メタトロンには原型機が存在する。かつてガレリアの侵攻になすすべもなかった人類に、異世界より現れた福音にして決戦兵器。空中大陸を作り上げて現在の根幹となっているオルゴンを生み出す発生源。
「その名は――エクスシア」
シュザンナがその名を口にしたのと同時に部屋の壁の一面が輝きだす。一面丸々がモニターとなっていたようで、画面にはドーム状の建物の内部が映し出された。その真ん中に鎮座する巨人にリクは心を奪われた。
黄金の巨大ロボット。全高20メートルはありそうな鋼鉄の巨人、それがエクスシアである。オルゴンを生み出して空中大陸を支えるべく、地上から宇宙まで伸びるタワーに姿を変えており、現存するエクスシアはもう5機しか存在していない。
それでもその力はデッドコピーに過ぎないメタトロンを凌駕しており、1機だけでも起動していれば戦局が大きく変貌する戦略級の存在だ。
「……これがエクスシア」
「未だエクスシアを動かせるエフェクターは見つかっておらん。だが君達ノーマッドにはその素養があると私は思ってる」
「でも、何を根拠に思ってるんだ? 俺達はただの学生に過ぎんぞ?」
「何を言うか、もう根拠は出てるじゃないか! ではなぜ私達の言葉を君達は理解して話しているんだ?」
「あ、確かに……」
巽からの疑問をケッセルリンクは笑い飛ばした。その指摘を受けて初めて日本語以外の言葉を喋っている事に気付いた。無意識に異世界の言葉を使い、言葉が通じているというのは可笑しいもので、タブレットに浮かぶ見たことない文字も意味がなんとなく理解できた。まるで自動翻訳機能がついているみたいだ。
それも全てオルゴンの思し召しだという。精神と感応することで意思疎通を助ける作用もあり、高いオルゴン適性者は言葉を使わずに思念だけで他者と意思疎通ができるらしい。リク達も高いオルゴン適性によってこちらの世界の言葉へ自動的に邦訳されて無意識に使っていたのだ。
自分の頭をトントンと叩きながらソラは感心していた。正直理解できていないが、こうして言葉が通じているのは便利なことなのであまり気にしないこととする。
「へぇー、オルゴンってすんごい……」
「どうだね、いつでも入信を待っておるぞ? それで理解できたかね、君達に適性があることを」
「……適性があるのはわかったけど、そもそもなんでそんなのに私達が乗らなきゃいけないんですか?」
冷水をぶっかけるような一言に全員が黙り込んで発言者に目を向けた。今まで黙っていた桜花がやさぐれ度マキシマムな態度で睨みつけ、今しがたまで鼻高々だったケッセルリンクの額に冷や汗が浮かぶ。
「この世界が非常にピンチな状態はわかりました。そのエクスシアってのがあれば、もっとよく出来るんですね?」
「あ、ああ……だからこそ君達に」
「なんでそんなのにこの世界の人間じゃない私達が乗らなきゃいけないんです? 素養があるから? そんな理由でこの世界の命運を別世界の人間に委ねるなんて馬鹿じゃないですか? 馬鹿なんですね。あなたが今やらなきゃいけないなのはそんなテレビ伝道師みたいな勧誘じゃなくて、私達を元の世界に戻す方法を見つける事でしょ? それに自力で世界を守れないなら、ちゃっちゃと滅んだ方が良いんじゃないんです? あとそこのロボオタクども、なにその気になってんの? あんた達があんなの動かせるわけないじゃないの、普通に考えれば分かるでしょ? それもわからないなんて馬鹿じゃないですか? 馬鹿なんですね」
「「ごめんなさいでした」」
まくし立てる桜花からの言葉に、リクと巽はただただ土下座しておりケッセルリンクに至っては部屋から姿を消していた。長文を一気に言い切った桜花は深く息を吐きながらソファに身を沈めた。呆気にとられていたソラとシュザンナだったが、どこかすっとした気分だった。
「フフッ、桜花さん、よく言ってくれました。私としても皆さんをメタトロンやエクスシアに乗せるのは反対です。あの感じなら司祭ももう勧誘はしてこないでしょう」
「うんうん、でもこの世界が滅んじゃえと言ったのは良くなかったぞ」
「…………その点は反省してます……」
ようやく頭を上げた男性陣がおずおずと桜花を見るが、既に彼女はやさぐれたまま虚空を見つけているだけだった。リク自身も軽率だったと反省しており、これからはもっと気を引き締めなければと居住まいを正す。
しかし、ケッセルリンクの言動からして他のクラスメイトはエフェクターとして活動しているようだ。今どこにいるのかシュザンナへ尋ねた。
「シュザンナさん、他のみんなはどこにいるのですか? ここでエフェクターとして活動してるみたいですけど」
「……はい、実は最初に保護されたノーマッド、皆さんのクラスメイトの方だと思いますが、高い適性とこの世界の現状を聞くなり真っ先に協力したいと言ってきまして。それからエフェクターとして活躍して、他の方々も続いていきました」
皆を止められなかった事を後悔してかシュザンナの表情が暗くなった。巽が名簿を確認して、1番にやって来たノーマッドは星宮昴流のようだ。彼は正義感の強い少年で生粋のリーダーシップでクラスの中心にいる、リクや巽とは対照的な主役ともいえる存在だ。
しかし、自ら危険に飛び込んで他のクラスメイトも巻き込んだ昴流を桜花は吐き捨てるように呟いた。
「……やっぱり馬鹿なんですよ。死んじゃったら意味ないのに……」
「なんだかんだで、心配してくれているのだな。まあ彼は少々正義感に振り回されやすい感じだったからな、そこから一皮剥ければいいけどな」
「……別に乾くんの心配はしてませんよ。馬鹿は死にませんから」
「そうです、僕は死にましぇん! って、今のは褒められたのか貶されたのか?」
一方リクは考え込んでいた。シュザンナの悲痛な表情からメタトロンやエクスシアに乗って戦う事の危険性が痛いほど理解できた。しかし一方で夢にまで見たロボット兵器、是が非でも乗ってみたいという願望を捨てきらずにいた。
自然と考え込む顔が厳しいものになってしまっていたのか、ソラが心配そうに覗き込んでいた。小柄な彼女なので自然と上目遣いとなっていて、思わず意識してしまう。
「ひ、日高さん、どうしたの……?」
「リクは乗りたいと思ってるんだろう? 顔見れば分かるよ」
「えっ!? あ、いや、その、えっとね……。確かに乗りたいって気持ちはあるよ。でも戦うなんて僕には出来ない、天宮君みたくヒーローなんかじゃないからね」
「別に戦うだけがヒーローじゃない。みんなが正しくあるために頑張るのがヒーローなのさ! だからリクが正しいと思ったことをやればいいんだ」
ソラからの激励にリクは素直に頷いた。いつでもヒーローたらんとする彼女のあり方は異世界でも変わらず、その芯の強さを心強く思えた。
その言葉に感銘を覚えたのはリクだけではなかった。シュザンナがソラの手を硬く握りしめると何度も頷いた。
「自分が正しいと思った事をする、その通りですね! 私もこれからそう行動したいと思います、オルゴンの思し召しでなく自分の意思で!」
はっきりと宣言してから手を離したシュザンナは全員に目を向け、一拍置いてから力強く言い放つ。
「皆さん、これから“オラクル”へ向かいます!」
「ふぅー、今日もいい“空”だ」
背を伸ばしながら雲一つない青空を仰ぎ見る。遥か彼方には天と地を繋ぐタワーが薄っすらと見えていて視界は良好。絶好のフライト日和だ。
すぐ後ろの格納庫の扉が開いて、中からファイヤーパターンの塗装が翼に施された航空機が姿を見せる。周りにいる整備士達が忙しなく動いていて、飛ぶ立つ準備を進めていた。
「おーい、イーサン、準備完了したぜ。というか、訓練飛行なのにミサイル積んでて本当にいいのか?」
「いいのいいの、自衛用のマイクロミサイルなんだし。そらよっと!」
機体中央上部に突き出たカプセル上のコックピット目掛けて飛び上がって、ちょうどシートの中へ収まった。手順通りにスイッチを入れるとエンジンの出力が上がっていき。主翼と尾翼とノズルの可動具合を確かめる。これが終わればいよいよ滑走路上に出て、スタートラインに機体が並ぶ。
既にエンジンは温まっているのでいつでも飛び立てる状態だ。無線機を通して格納庫の整備士が確認をとってきた。
『そいつの推力ならホバリングで離陸できるぞ。そのまま飛ぶか?』
「当然、こうして加速して飛び立ってこそのフライヤーだ。それじゃあ、行ってくる!」
管制塔よりGOサインが出るのと同時に、スロットルレバーを全開まで倒す。ジェット音を轟かせながら機体は加速していき、一気に空へ飛び出していった。
上昇していくのと同時に上に張り出ているコックピットブロックが機体内部へ格納されていき、外の様子を目視からキャノピーに投影される映像に切り替わる。機体各所の光学センサーによって360度全方位の様子が映し出されて、立体映像として浮かぶ各種計器類やナビシステムによって快適な操作ができている。
音声によるナビゲーションも立ち上がっており、現在で1番重要な事柄を伝えてきた。
《オルゴンリンクシステムがOFFになっています。起動しますか?》
「いいや、このまま手動だ。リンクに頼ってばっかりじゃ腕が鈍っちまうだろ?」
オルゴンリンクシステムによってランナーと機体が間接的に繋がる事でダイレクトな操縦を可能にしている。操縦桿や計器類を見なくとも思考のみで操作できるのは大きな強みであるが、同時に思考操縦に頼り切って操縦桿を握るなどのマニュアル操作がおざなりになってしまう欠点もあった。
操縦システムがリンク使用を前提としているストライダーであっても、マニュアル操作と併用した時は思考操縦のみの時と比べて空中機動に僅かながらも差が生じる。そしてその差は空戦に於いては大きな差になり得る。
なので今日もこうしてマニュアル操作による飛行訓練を行っている。もっともそれはただの口実で、こうして自由に空を飛びのが真の目的だ。
「さーて、今日も遠くまで飛ぶぞ!」
空中大陸でも日が昇る時間はあまり変わらないもので、豪華なベッドで1晩を過ごしたリク達は疲れもあってか太陽が随分高く昇ってからようやく寝床から起き上がった。
朝食には色とりどりに果実と生クリームが乗っかったパンケーキであり、実に美味しいものだった。異世界の食事はどんなものか身構えていたが、夕食に出されたスープを1口飲んだところで容易く瓦解していった。
食材に差はあれど基本的にこちらとあちらの世界で違いはないようで、少なくとも食に関しては問題ないようだ。これで飢える心配はなさそうである。
遅めの朝食が終わると、食堂へ大荷物を抱えたシュザンナが姿を見せる。昨日話していた『オラクル』へ向かうと宣言していたので、そのための荷物だろうか。
「あ、荷物持つの手伝いますよ。それでこれからオラクルという場所へ?」
「あ、ソラさんありがとうございます。そうですね、昨日も言いましたが、オラクルはエフェクターを統括する組織ですね」
ソラが率先して荷物を持つのを手伝い、皆で手分けして運ぶことになった。身軽となったシュザンナが道すがら説明する。
全てのエフェクターを纏めて管理する組織がオラクルであり、最小さいながらも大陸1つまで所有する準国歌組織と言える。ガレリアと戦うその重要性から三大国家と同等、限定版には上回るほどの権勢を誇っている。
本拠であるオラクル大陸にはエフェクター以外にも多くの人々が住んでおり、基本的に中立であることから各国の交流も盛んに行われている。特に未成年のエフェクターを育成する教育機関『アカデミー』は大陸内のエフェクター候補の少年少女を集めるだけでなく、各国からも入学希望者を募っている。そのためアカデミーは6つもの学園都市を抱えるほどに巨大で、オラクル系の3つに各国それぞれ1つあるとのことだ。
「学園都市がそんなに、それは賑やかそう!」
「皆さんにとってはここよりも、年齢の近い人達が多い場所のほうが過ごしやすいと思いましたもので。それに私もただ見送るだけじゃなく、近くから支えようと決意いたしましたので、これからもよろしくです」
「いえ、こちらこそ!」
発着場にはクリスのトラックよりも大きい、中型ジェット機やクルーザーくらいの乗り物が置かれていた。これも翼がなくて、オルゴンリフトと呼ばれる浮遊システムで航行する『リグ』と呼ばれる乗り物である。
最も普及している移動手段ということで、1人乗りの小型機から数百人規模が乗り込める大型クラスまで様々だ。
船の前には白い礼服を纏った青年が立っていて5人を出迎えた。彼がこれからの道中を警護する空中騎士団の隊長である。このクルーザー自体騎士団の所有物らしく、今回特別に用意されてものになる。
「シュザンナさんにはお世話になっておりますので、これくらいどうってことありません」
「こちらこそお世話になります!」
ソラが元気よく返して挨拶を返して隊長は柔和な笑みを浮かべる。彼の先導で内部へ入れば6人が過ごすには些か広いキャビンへと案内された。ゆったりとした座席が並んでおり、外観や内装からして飛行機というよりは船といった趣である。
リク達が手荷物―全部シュザンナの物であるが―を座席下の荷物入れに収めている中、隊長は携帯電話ぐらいの大きさの通信端末をヘッドセットのように耳にかけて、テーブルの上にタブレットを置いた。そこから船を中心とした周辺空域の3Dマップが立体映像として浮かび上がり、簡易的な指揮所が出来上がる。
「すごい、もう飛んでるのに全然揺れない」
「オルゴンリフトによる浮遊効果のおかげです。その分速度はあまり速くないですが」
窓の外を見れば船は既に飛びっていて、白い雲海と青い空の只中にいた。船の周囲には5機の航空機と、エクスシアやメタトロンと比べるとずっと小さい3メートルほどの人型機が追従している。
興味津々に除いているリクへ飛んでいる機体について説明してくれた。
「あれは空戦パワードスーツ“エイジス”とフライヤー“ストライダー”ですよ。あれらが合体したのがメタトロンで、今は哨戒中だから分離して飛ばしています」
「へぇー、分離や合体もできるんだ……」
「まさにロマンの塊だな!」
フライヤーとは翼を持った航空機でリクの世界のものと似たシルエットを有している。リフトによる浮遊は補助程度に翼による航空力学に基づいて飛んでおり、リグと比べて操作難度が高くて離着陸には滑走路が必要などと汎用性も低い。しかし、それを差し引いてもリグを圧倒する機動力と運動性能を誇っている。
汎用性のリグは民生機として、機動性のフライヤーが軍用機やエアレース機として活用され、ランナーが操るストライダーはフライヤーとして最高峰の機動性を誇っている。
興奮気味に外を見ている男性陣の耳に突如としてけたたましい警告音が届いて、同時に無線から音声が響く。
『隊長、こちらズール2、10字方向にボギーと思わしき反応をキャッチしました。ガレリアの可能性が高いです』
「わかった、ズール3とズール5はズール2の援護について至急確認へ迎え。必要なら迎撃せよ」
『了解!』
前方を飛んでいる護衛機より接近する不明機を確認したと報告を受けて、隊長が迅速に指示を出す。航路にもガレリアが現れる事にその脅威が空中大陸の人々にとって身近なものだと肌で感じ取れた。
周囲を映し出す立体映像では護衛機を示す3つの光点が動き出して、同時に煙のような何かが前から迫ってくるのが見えた。あれがガレリアであり、戦闘開始を示す文字が浮ぶ。
ガレリアはオルゴンより身を守るべく霧状の膜であるクラウドを纏っている。これで長時間の行動やステルス状態を維持できている。攻撃態勢時には破棄されるくらい外部からの刺激には脆いものだが、非武装のリグを狙うには十分過ぎた。
膜が破れて蜘蛛の子を散らすように黒い矢じりが群れなして殺到するが、空を舞うメタトロンは苦もなく撃ち落とし切り裂いていく。その姿はさながら天使だ。
このまま押し切れると確信したところで3機の猛攻を掻い潜って船に近づくアローヘッドがレーダーに映る。直ぐ様直掩の2機が迎撃耐性に移るが、近づいていた敵機がレーダーから忽然と消えてしまった。一体何がと皆が窓から外を覗くと、爆散して雲海へ沈んでいくガレリアが見えた。そしてレーダーに別の存在が改めて映る。
それは1機のストライダーであり、翼には燃える炎を模した塗装が施されていた。友軍であることに間違いないが。突如現れた存在にメタトロンのランナー達が戸惑いを隠せない。
『IFF照合……、訓練機だって!? ホットゾーンに素人が入るんじゃない、早く退け!』
『なんだ、あのド派手なカラーリングは……。あんなの風にするのは本物エースか気取りのオタクぐらいだ……』
「皆落ち着け、向こうさんからちょうど電文がきた。……『ガレリアは当方にて迎撃するので、貴官らは護衛を続行されたし』 ……なんだって?」
タブレットの立体映像に浮かんだ文字を読み返して隊長は見間違いじゃないかと自らの眼を擦って再度確かめて、それを聞いていた護衛のランナー達も驚きと怒りを顕にする。そんな事はお構いなしに炎の翼を上下に揺らして合図を出すと、件のストライダーはガレリアの群れに突っ込んでいった。
あまりにも無謀な行いに、護衛機が動き出そうとしたが、次の瞬間にはその眼を疑って指を止めてしまった。
すれ違いざまにアローヘッドを一気に3機叩き落とすと、その勢いのままガレリアの群れに大穴を開けてみせたのだ。突然の闖入者を撃ち落とすとするも、上下左右に散々に振り回されて捕捉できずいる。
アローヘッドが後ろから追いかけていたと思ったら、垂直に降下してまるで消え去るように視界から外れて次に現れた時には何故か直上から攻撃を浴びせてみせる。周りを取り囲んで数で押し切れろうとするも、ストライダーは雲の中へ突っ込んで出てきた時には周囲のアローヘッドは全て姿を消していた。
たった1機のストライダーにガレリア群は瞬く間に食い破られて散り散りになっていく。あの調子なら10分もあればオルゴンによってガレリアは綺麗さっぱり分解されるだろうが、5分後にはストライダーの手によって全て落とされているだろう。
『なんなんだよ、アレ……』
『なんてこった、本物のエースだ』
「各機定位置に戻れ。これより全速でこのエリアより離脱する」
護衛機のランナー達の呻き声に似た呟きを吐き出す中、隊長がこの期を逃すこと無く冷静に指示を出す。まだ飛び回る鋼鉄の猛禽を後方にしながら、ただ観戦してるだけだったリクも疲れたようにシートへ沈み込む。
初めてガレリアとエフェクターの戦いを目撃して、その恐怖と強さをまじまじと見せつけらた。あんな有り得ない動きに眼が回りそうでいて、どこか心地よさも感じていた。自分には無理だと思う弱気と、あんな風に飛んでみたいという熱さを同時に宿しながら、リクはいつの間にか目を閉じていた。
夕陽によってオレンジ色に染まる滑走路にファイヤーパターンのストライダーが着陸する。今日は1日中ライトブルーとダークブルーの狭間を思う存分飛んでいた。
着陸するなり無線機から怒鳴り声が聞こえくる。しかしいつもの事だからとさらりと受け流す。
『イーサン! また戦闘してきやがったな! 訓練飛行という名目すら守れんのか』
「そんなに怒鳴りなさんな、おやっさん。いつもの偶発的戦闘だよ」
『良く言う、きっちりミサイル撃ち尽くして機銃口も焼き付いてるのが、お前の言うところの最低限の戦闘というやつか。それに無茶なマニューバもしてきたんだろ、そのガタを直す身にもなれ』
「わかってるよ、おやっさん達にはいつも感謝しっぱなし。オレの機動に合わせて整備に調整までやってくれんだからさ」
ならもっと丁寧に扱えと一方的に通信を切られてしまった。耳にかけている通信機を懐にしまいながら、格納庫へ向かう。今日も整備の手伝いをしたほうが良さそうだ。
「ふぅー、オレンジもいいもんだな」
星が瞬き始めたダークブルーとオレンジが混ざり合う空に、夜の帳が下りてくる。
ここまで読んで頂きありがとうございます。感想や誤字報告などお待ちしております。次回もよろしくお願いします。