決意
大変おまたせしました、2章2話更新でございます
※あらすじ
リクたちの活躍を聞いて自分たちも力になりたいともう一度立ち上がるクラスメイト達。彼らから実力を測る為に模擬戦を申し込まれたイーサンは快諾する。しかし、そんなノーマッドを狙う者の姿があった……
「オレと戦いたいだって?」
開口一番にイーサンは気が抜けた返事をした。永山から昨日聞いたノーマッドの復帰組について、その動向が気になったので調べてみるとラーゼグリスのハンガーに集まっていると聞いてちょうど訪ねていくと、すぐに周囲を取り囲まれていく。
どうも囲んでる者達は復帰組のようでリーダー格と思わしき身長190センチに迫る偉丈夫で彼は龍之介という昴流の親友であった。例の模擬戦とプロキオンによる襲撃で他のクラスメイト達と同じく打ちのめされてしまったが、それでも再起を目指して鍛錬を続けてきていたという。
「俺達にとって最後の壁はアンタなんだ。この先戦える為にもアンタを乗り越えなきゃいけないんだ! だから頼む!」
「そうか、わかったぜ。そんな大層なものじゃないけど、オレでいいならいつでも相手になってやるよ」
壁というものは壊すにしろよじ登るにしろ超えていくものだとイーサンは考えている。自分自身がその壁になったとしてもそこは変わらず、自分を超えたいというなら全力で答えるまでだ。
しかし一つ気になる点がイーサンにはあり、それはあの時からストライダーがネクサスに変わっている。カスタマイズしているとは言え通常機と最初から専用機として作られたものだと性能にも差があり、プロキオン討伐の経験もあるのであの時より力が強くなっていると自負していた。
「最初に言っておくが、オレはあの時より強くなってるぜ? 倒されたら終わりって話だがそれでも構わないってことでいいんだな」
「ああ、それでいい。こっちは大人数だしな。ま、それでもそちらさんなら余裕かもだが」
「当然! 早速やろうじゃないの」
おどけながらも歯を見せて凶暴そうな笑みをイーサンは浮かべて、龍之介も望むところだと拳を固める。ストレイズの他のメンバーはメンバーはラーゼグリスのサポートとして教国へ赴く予定なのだが、イーサンだけは待機となっているので手持ち無沙汰であった。
時間的な余裕があるのでこのまま演習に向かう準備を各々が準備を行っていき、このまま模擬戦が始まっていく。
演習空域には10機以上のエイジスやストライダーが集まり、彼らはリクとソラや昴流が単身で戦っている事に奮起してもう一度ガレリアに挑むと立ち上がったノーマッド達だ。自らの実力が通用するのか図るべく行われる模擬戦がこれであり、その試験官は蒼空にて待ち受ける。
風を切り裂くジェット音とともに青い翼を広げた銀色の嚆矢―ネクサス―が現れて、前進翼という扱いづらい機体であろうと蒼穹に飛行機雲で輪を作ってみせた。木の葉のように不安定に舞いながらも空を裂くような鋭敏さを見せつけたネクサスより、少し浮かれ気味で高揚感を隠しきれずにいるイーサンが通信で集まった皆に向けて呼びかける。
《さーて全員雁首揃えて集まってるようだな。さっさくやろうじゃねえか、どっからでもかかってこいッ!》
「どっからでもとはいうけどよ、どう攻めるかだ……」
ただ円を描くように旋回している青い翼は一見して隙だらけだが、闇雲に突撃すれば痛いしっぺ返しを受けるのは前回の模擬戦で経験済みだ。生憎と龍之介は戦術を考えたり組み立てたりするのは苦手で、そういったことは親友の昴流に任せきっている。
他の皆も同様に頭を捻っていい案を絞り出そうとするも浮かんでこなかったが、一人だけ声を上げる者がいた。彼女は宝田結歌で復帰組に加わったのは最後の方だが訓練に意欲的に取り組んでおり、特に戦術パターンの構築に力を発揮している。
『チームを3手に別れて動かすの。正面からの囮役と左右からの挟み込みね。このときお互いカバーを忘れずに、この間はバラバラに動いて連携とれてなかったのが敗因だと思うから』
「そうだな、これでいくぜ! よし、俺が正面からいくからついてこれる奴は来いッ!」
作戦立案をしっかりできる参謀役がいるので勢いを取り戻した龍之介はお決まりの突撃隊長に戻った。動き出す復帰組を確認してかイーサンも臨戦態勢となって青い翼は大きくロールしていき、先頭を切る龍之介と正面からぶつかり合う。
《それがお前さんのエイジスか! 殴り合いには向いてそうだが、オレのネクサスのスピードについてこれるかな!》
「上等! 俺の拳“フラガナックズ”を受けてみろッ!」
鈍色のエイジス―フラガナックズは全身を装甲で覆ったフルスキンタイプで、装甲が解放されている他のエイジスと比べて防御力が高い分運動性能は劣り、空気中のオルゴンを取り込むスペースが狭いので燃費も悪かった。なので本来なら耐え凌ぎながら近づいてきた相手にカウンターとして致命的な一撃を叩き込むのがセオリーである。
だが龍之介の長年鍛えられた肉体と空手の腕前に高いランナー適性が組み合わさって、突撃前衛として遜色ない性能を引き出していた。運動性能なら群を抜いているネクサスという相性の悪い相手でも一進一退の攻防を繰り広げるが、放たれたミサイルを迎撃して瞬間に炸裂した閃光が目眩ましとなってネクサスが背後に回り込んでいく。
《貰ったぞ!》
「なんの、これしきッ!」
『みんな蒲郡君の援護を!』
背後からのレーザー機銃による掃射をフルスキンによる装甲の厚さとシールド出力でなんとか致命傷を防いで、その間に結歌の指示でシールドを全開にした2機のエイジスが割って入り、ストライダーの編隊が後方から狙うようにイーサンへ向けてミサイルを放った。
すぐに機首を真下に向けたネクサスは急降下してミサイルを避けていき、そのまま落ちるように高度を下げていく。その後ろはストライダー編隊が追いかけるが、雲に没してそれ以上の深追いは危険であった。
「雲の中に消えた!? アイツ次はどっからくるんだ!」
『たぶん私達がしたように後方から、いえ意識が薄い方から現れると思う。イーサン、あの人はそれを察知するのが得意なようだから』
雲の中は視界が悪く水滴や雹によって機動力は阻害され、場合によっては雷が当たってシステムダウンもあり得る飛ぶにはあまりにも劣悪な空間である。しかしその中を臆することなく飛んでゆく姿を容易く幻視できた龍之介は周囲に浮かぶ雲に警戒心を向けた。
どこからの奇襲に対応できるよう全集防御陣形を組んで、上下左右360度を同時に警戒していく。龍之介はその陣の中央で上空を見上げて、頂点に昇った太陽からのぎらつきに目をしかめた。雲一つないので紛れて接近してくることは無いだろうと蜃気楼のように揺れるゴマ粒みたいな太陽の黒点から目を離して、すぐに目線を戻す。何故なら黒点が先程よりも膨れ上がっていて、その形も円から翼を広げているように見えるからだ。
「上だ! アイツ太陽に紛れていたんだッ!」
『ロックオンアラート!? ダメ、間に合わ―蒲郡君!?』
「うおおおおおおお!!!!」
気付いた時は既にロックオンされたことを知らせる警報が鳴り響いてレーザーとミサイルが雨の如く降り注ぐ。回避するには到底間に合わず皆がとっさに防御しようとしていく中で、龍之介だけが拳を振り上げて弾幕の中へ切り込んでいった。
拳からの衝撃波がミサイルを砕いてレーザーの射線を捻じ曲げるが、それでも矢面に立つ龍之介は攻撃をもろに受けて爆炎に消えていく。四方八方に散った陣形の真ん中をネクサスが通り抜けていき、その機首には損傷率90パーセントを超えてレッドゾーンになったフラガナックズがしがみついていた。
《まったくクレイジーだぜ! オレも自覚あるけどよ、お前さんはそれ以上にクレイジーだ!》
「絶対ェ離さねえぞ……!」
「面白え、どこまで耐えきれるかな!」
降下していた機体が急激に上昇していき、連続した鋭角ターンを決めてへばりつく龍之介を振りほどこうと激しく飛び回る。急激な加減速や横振りに三半規管を保護する為に内蔵されたイコライザも打ち消しきれず、それ以上にダメージが大きい機体そのものが耐えられるかわからなかった。
延々とバレルロールを続けてほぼ直角な角度での急激なターンを決めたところで、ついに龍之介の手は離れてしまう。そのまま振りほどかれて空中に投げ出された彼に向けてイーサンが射線を合わせる。機銃bやミサイルではなく機首を展開させて放つチャージレーザーである“アブソリュートレイ”を放とうとしていた。
《これで最後だ!》
「……へっ、最後なのはそっちの方だ!」
《なっ!? どうしたってんだ、パワーダウンだと!?》
アブソリュートレイ発射寸前のところでチャージされていたオルゴンが霧散してしまうという異常事態を起こしており、オルゴンの取り込みも出来なくなってしまいジェネレータ出力も低下していき、そのまま空中で金縛りのようにネクサスは動けなくなっていく。
投げ出されていた龍之介は姿勢を正しながら周囲に目を配った。ネクサスの周囲には8機ものエイジスやストライダーが囲うように飛んでおり、フラガナックズから送れてくる位置情報を基にした結歌の指示でとある仕掛けが用意されてあって、その仔細は彼女の口からレーバーをガチャガチャ鳴らしているイーサンへ伝えられた。
『これは中隊規模のメタトロンで作り出されるオルゴン干渉フィールド。対となるオルゴンの波動で効果範囲内のオルゴンを抑制させる対メタトロン装備なの。準備はかかるし効果範囲も狭くて発動中は移動できないと、色々欠点はあるけどね』
《オルゴン干渉フィールドだって? そんなもんあったのか……あ、そういや、確かに授業で出てたような、出ていないような……》
「予想通りイーサンは知らなかったわけか。それじゃあ反撃だ!」
攻撃役を担っているクラスメイト達が照準を合わせてネクサスに向けて攻撃を放ち、龍之介も拳から吹き出るオルゴンの奔流を解き放つ。回避も防御もとれないネクサスは爆炎に包まれて、HUDに目標破壊の文字が出てフィルターが外されると、そこには無傷のネクサスが金縛りから脱してのびのびと飛ぶ姿が映し出された。
訓練モードは実際に飛んではいるがレーザーやミサイルといった攻撃の全ては拡張現実としてディスプレイに投影された仮初のもので、システム上で攻撃を受けたと機体が反応するだけだから実際にはネクサスもフラガナックズも無傷である。
イーサンの敗因となったオルゴン干渉フィールドを使った設置罠を考えたのは結歌であり、彼女はイーサンがいつも単独か分隊だけの小規模で動いていたから、中隊規模で行うこの作戦が勘付かれ難いと考えた。それは案の定上手く作用して、罠にはまったイーサン自身も行動を逐次計算して予測した先に効果的な罠を張り巡らしてその手腕に脱帽する。
《干渉フィールドとは考えつかなかったぜ。とんだ策士がいたもんだ、完敗だよ。あーあ、少なくとも半分は落としてやるつもりだったのに、全員無事とはな―》
『ひとりひとりは力及ばなくても、一丸となって動けば何も難しくない。私の作戦はそれが前提だから、思いついただけじゃ出来なかった、みんなでの勝利になるわ』
「そうそう。まっ、次は一対一のタイマンでお手合わせ願いたいぜ?」
《言ったな? その言葉を出した事を骨の髄まで後悔させて、……ン? なんだありゃ?》
憎まれ口を叩いていたイーサンが何かを感じ取って素っ頓狂な声を出した。慌ててレーダーを確認すれば確かに20機近い何かの機影が近づいてきているのがわかり、発せられる反応―この世界のレーダーは電波の反射でなく放射されるオルゴンやクラウドを感知して識別する―から無人機の編隊だと判明する。
結歌も確認したようで何故無人機が近くに迫ってくるのかその理由を推し量っていた。ガレリアを迎撃する為ならこちらもガレリアの存在に気づくだろうし、通り道というなら訓練空域を避けて通るはずである。訓練用の標的機も頼んでいないし、それに実戦用無人機がそのまま来るはずもなかった。
『アレは一体なんなの……? あ、そろそろ目視できる位置に来るみたいよ』
《ロックオンされている!? みんな散開しろッ!》
「いきなり、なんなんだッ!?」
無人機の編隊が目視できるところまで近づいてきたその時、イーサンから警告が発せられる。直後、ロックオンアラートが響き渡って慌ててIFFを確認すれば、無人機の分類は味方機を示す青でなく未確認機を示す黄色であった。
しかし射撃レーザー照射及ぶロックオンしてきているというのは明らかな敵対行為でIFFは赤を示して敵機と知らせ、編隊を崩さぬまま周囲を飛び回る無人機はかなり不気味である。しばしの膠着状態の後、再びロックオンアラートが鳴り響いて無人機からレーザーが放たれた。
《目標を敵性存在と確認、戦闘モードオールグリーン。とんだ邪魔者だがそっちがその気なら落とすしかないな。お前らも気引き締めな!》
「だけど、これっていきなり実戦ってことだろ! 大丈夫なのか!」
《お前らなら大丈夫だ、無人機とアローヘッドはそこまで変わらねえ。それよりもこいつらを操ってる親玉の有人機がどっかにいるはずだ》
無人機から放たれるレーザーは合成映像などではない本物であり、突如として始まった実戦に皆浮足立っているがイーサンの叱咤で龍之介と結歌はいち早く落ち着きを取り戻す。親玉の有人機を見つけるべくネクサスは大きく機首を上げ、すれ違いざまに3機の無人機を落としていきながら高く昇っていった
無人機は追いかけていくことはなく残っている復帰組を狙ってきており、鳴り続けるアラート音に不安を掻き立てられるもそれを龍之介は気合で吹き飛ばし、結歌が冷静に迎撃の算段を導き出す。
「よっしゃあ! 機械仕掛けの無人機にビビってたんじゃあ昴流の隣に並べられねえ! 野郎スクラップにしてやるぜッ!」
『あの無人機は主に露払いとして使われているタイプで、武装はレーザー機銃のみの高速戦闘型で一撃離脱戦法を得意としているみたい。だから防御陣形で受け止めつつ反撃していこうと思うの。清楓、シールドお願いできる?』
「任せて! わたしのバリアは強力なんだから! “聖域”!!」
1機のストライダーが前に出ると機体周囲から光の帯が広がっていき、それは円形の半透明な壁となって無人機のレーザーを受け止めていった。防御シールドの形成を得意とする結歌の親友である真壁清楓が守備の要として攻撃を正面から受け止めつつ、攻撃が止んだ瞬間に構えていた攻撃担当が撃ち放って3機の無人機を破壊する。
盾役の清楓はシールドが常に正面を向くように動いて一撃離脱戦法にて向かってくる無人機を攻撃役が迎撃していき、側面や後方から回ろうとしている機影を結歌がいち早く見つけ出し、速度が緩んだところを直掩機が攻撃を仕掛けていった。
『これなら行けるわ! このバリアを抜けれるものなら抜いてみよっ!』
『すまない、1機撃ち損じた! そっちに向かっているから迎撃を!』
「任せろ! こんな奴なんざ投げ飛ばしてやるぜえ!!」
後方の直掩から報告が入って清楓の背後より無人機が迫ってきている。その間に割って入る龍之介は両腕でガードしながら放たれるレーザーを受け流していき、そして突き出された右拳と機首が正面からぶつかり合うのだった。
突入してきた機体は鼻っ柱からぐにゃりとひしゃげていって、くの字に曲がったそのボディを龍之介は豪腕で掴みあまつさえも振り回すと、別の無人機へ投げつけて見事に破壊してみせる。
『はー蒲郡くんの馬鹿力はすんごいね~。あんな大きいの投げ飛ばしちゃうんだから』
「あったりめえよ! 次もぶっ飛ばして……あ、アレが黒幕か!」
無人機への対処は出来ており、数も少なくなってきてもう少しで鎮圧が可能だろう。だからこそ黒幕である有人機を探す余裕が出来ていて、空を見上げればちょうど2機のストライダーが飛び交っており、片方は空に融けるようなコバルトブルーの翼と銀色の照り返しを放つボディからネクサスだとわかる。
自分の遥か上空で繰り広げられているのはドッグファイトとは呼べない一方的な殺戮劇だった。振り切ろうと逃げ回る機影をネクサスが後方からピッタリと離れずについてきており、左右に激しく振ろうとも減速して後ろに回り込もうともその位置が変わることはない。
後ろについて相手を徹底的に追い詰めるイーサンのマニューバは、ロックオンアラートが鳴り響いたままどこまでも追いかけてくるものでその恐怖は凄まじいもので、龍之介も先の模擬戦で嫌というもほどその身に刻まれていた。そしてついにネクサスが牙を剥く。
大きく開かれた顎の如く機首を展開させ、全開になったエンジンの大推力で追い越しざまにその翼を鋏と化した機首で断ち切っていった。片翼をもがれて失速しいく機体は高度を下げていくが、容赦なく牙を剥いて残った翼も屠っていく。
メタトロンの変形機構に過ぎない機首の展開ギミックを緊急避難的に武器として扱った例はあるが、それを武装として最初から搭載したのは開発者が格闘武装として有用性を見出したか、イーサンが得意とする突撃戦法を顧みた結果か、あるいはその両方か。更にノズル部分を機体後方ごと断ち切り、錐揉していく機体前半部分をがっちりと挟み込んだその姿は、まさに息絶えた獲物を咥える肉食獣そのものだった。
ほとんどスクラップ同然の姿に変わったストライダーを挟み込んだまま飛ぶネクサスは、手近の浮島上空まで来ると機体を離す。飛ぶ力を失った金属の塊はそのまま落下して地面に叩きつけられて粉々に砕け散ったが、そこから飛び出した脱出ユニットはゆっくりとした速度で降下していった。無人機を倒し終えた龍之介達は落着した脱出ユニットを囲むように立って、その上空をストライダー組が旋回している。
「この中に俺達へ無人機を差し向けた奴がいるんだな……」
《理由をどうあれ、明確にお前らを殺そうとした奴だ。その落とし前はしっかりつけてやらねえとな》
気になる事はその点であった。なぜ自分達は命を狙われたのか復帰組は誰もが気になっていて、ユニットの扉が開かれるのを固唾を呑んで見守っている。やがて開かれた口からふらふらと這い出てきたのは龍之介達と変わらぬ年頃の少年で、ネクサスに振り回された影響か頭を押さえていた。
しかし取り囲むノーマッドに気付くと怒気の籠もった視線を向けて彼らを睨みつける。殺気が滾る目つきに皆たじろぐが、彼も向かっていく体力はないようだ。先程から頭上をぐるぐると回っているネクサスより無線機越しでイーサンの声が響く。
《お前さん、ブルーの学生みたいだな。エリート様が一体全体なんの真似だ?》
「うるさい! 無関係のお前は引っ込んでろ、クソ……。奴のせいで復讐が台無しだ」
「復讐? アンタは俺達に復讐しにきたのか?」
「そうだ! お前達の盾にされて死んだ兄さんの仇だ!」
少年の言葉に誰もが衝撃を受けた。確かにプロキオンとの遭遇戦の時はベルニッツ教官が率いる5機のメタトロンが護衛についており、彼らが命を賭して守ってくれたから今の自分達がいる。だが、それは彼らを犠牲にして事に変わらず、残された者にとってはノーマッドは仇でしかないだろう。
負い目を感じて皆が顔を俯いて沈んでいく中、唯一の部外者であるイーサンだけが復讐者を小馬鹿にするように鼻を鳴らして笑った。怒りに満ちた目で彼は空を飛び銀と青の翼を見上げて睨みつける。
《フン、全くもって愚かさが極まってるな。お前の家族の仇はそいつらじゃなくてプロキオンで、そのプロキオンをぶっ倒したのはお前が今殺そうとしたノーマッドの仲間であるラーゼグリスのランナーとこのオレだ。感謝されど憎まれるのはちゃんちゃらおかしいぜ》
「うるさい! 部外者は引っ込んでろと言っただろ! 兄さんはな、兄さんはあんなところで死ぬような人じゃなかった……。なのにお前達なんぞ守って死ななきゃいけなかったんだ! なんでお前らが死なないで、なんで兄さんが死んだんだよ!?」
呪詛を撒き散らす目の前の少年に誰もが言葉を失った。ここまで明確な憎しみを受けたのは初めてであたので皆飲まれかけていたが、空中から降ってきたイーサンが復讐者に拳骨を叩き込むという現実離れした光景に目撃したところで正気に戻される。
頭頂を押さえながら睨みつけ、イーサンも右拳をぶんぶんと振って痛がりながらも睨み返した。今回のノーマッドの復讐に関しては部外者で無関係であるのだが、どうしても言いたいことがあるので当事者である龍之介達を差し置いて言葉をまくし立てる。
「ざけんな、テメエがノーマッドした行為こそ兄さんが命かけた事を台無しにしてやがるんだ! それもわからねえのか、この馬鹿愚かめ!!」
「例えそうだとしても俺はこいつらが許せない! のうのうと生きてる癖にまた空を飛ぼうとして兄さんのような死人を増やしていく、そんな死神共を叩き落とすんだ!! なのに貴様が邪魔を!」
「当たり前だ馬鹿愚か! 言っただろ、こいつらを狙うのは筋違いだと。いいか、オレは復讐に関して何があっても行うべきだと考えている、自分の気持に決着をつけるためにな。だがテメエのやってることは復讐なんかじゃねえ、ただの八つ当たりだ! そういう輩は例外なくぶちのめすのがこのオレの方針だ!」
復讐に関して独自の美学があるからこそイーサンはこれを復讐と認めず、ただの八つ当たりと断じてぶち壊しにしていく。先に動いたイーサンが右手を掲げれば、その半身たるネクサスが降りてきてその砲門を復讐者を騙る紛い物に向けていた。
そんな一触即発な緊張状態の間に龍之介が割って入る。怪訝そうな表情をを浮かべるイーサンであったが、彼が次に行った動きには目を剥いた。渾身のストレートが少年の横っ面を捉えてその身体を大きく吹き飛ばす。突然の鉄拳にイーサンから結歌を始めとした周りのノーマッド達、そして殴られた当人も驚きを隠せない。
「お前さんの家族を奪われた悲しみや怒りはわかった。俺だってここにいる仲間たちを失いたくない! そのために戦う、お前さんに俺達の仲間をやらせない、その証が今の証だ! だからお前さんも抱えたもん全部込めてかかってこい!」
「……言ったな! 兄さんの仇だ、この野郎!」
跳ねるように立ち上がった少年はその勢いのまま龍之介へ殴りかかり、衝撃で上半身を大きく仰け反りながらも足で踏ん張り耐える。そしてもう一度思いの詰まった一撃を繰り出し、殴られたら殴り返すというロッジクの下で2人の“語らい”が始まった。
傍から見ればただ殴り合っているが、拳にはしっかり思いが籠もっていて龍之介は殴られる毎に彼の悲しみと怒りを受け止める。そして殴る毎に仲間を守りたい、そのために強くなるという意思を込めていった。言葉はないが確かに互いを理解していき、ボコボコに殴られて倍にも腫れ上がった顔をして互いに肩で息をして立っているのもやっとである。
「……これで最後だ」
「……ああ、全力全開でいきぞ!」
「「うおおおおおおおッ!!!!」」
ついに語らうことも尽きて、それでも拳を構えて駆け出す最後の一撃となった。同時に突き出された右拳は交差しながらクロスカウンターのような形となって互いの顔面に叩き込まれていき、二人とも後方へ大きく倒れていって大の字に横になっている。
龍之介の傍らにクラスメイト達が集まって肩を貸したりして動けない彼を介抱していき、イーサンも復讐者だった少年を見下ろしながら一瞥すると手を差し出した。彼はどこか憑き物が落ちたように見えて、これなら少なともいきなり襲いかかることはないと判断したからだ。
「蒲郡君、大丈夫? かなり殴られたみたいだけど……」
「ああ、ここまで殴り合ったのは初めてだ……。ま、スッキリしたからいいけどな!」
「おい、これは明確な犯罪行為なんだろ? 俺を突き出すってわけか」
「うんにゃ、そっちの報復心は萎えたようだし、オレ好みな展開で終わったわけだし不問にしとくさ。一応無人機の出どころは聞かなきゃいけないけどな」
どこが満足げなイーサンに肩を借りながら複雑そうな表情を浮かべた少年は素直に無人機の調達方法を答える。どうもネットワークシステム《ナーヴス》の裏でそういった武器や兵器から禁制品を取引している闇サイトがあるそうで、これではナーヴズを管理している《グノーズ》も形無しといったところか。
グノーズはエクスシアの頭脳体を組み合わせて作られた超高性能演算処理システムであり、対ガレリア戦略の立案からナーヴスネットワークの管理まで行うオラクルの頭脳といえる。軍政上の最高機関である参謀本部もグノーズのプランをより人間が行いやすいように調整するのが役目といった具合で、今や生活に根ざした存在となっている。
「とりあえずその闇サイトはオレが調べておくさ。どうせ暇だしな。とりあえず2人とも病院に送るほうが先だな。おい歩けるか?」
「それくらい問題ない。おい、お前たちを倒すのはこのブルーノ・マクガイヤだけだ。機械だよりが行けなかった、次は生身でやってやる」
「おう、俺はいつでもアンタを歓迎するぜ!」
「なに一端のライバルめいたセリフ吐いてんだ。さっさと病院行くぞフルボッコ野郎」
馬鹿愚か改めフルボッコ野郎ことブルーノを無理やり引っ張ってそのままネクサスの簡易式後部座席に押し込むと、ノーマッドへ向けて軽く敬礼するとイーサンもコックピットへ飛び込んでそのまま空の彼方へ消えていった。
それを見送っていた龍之介であったが、ここでようやく激しい痛みが出てくる。これは病院に直行した方が良さそうだと、ガタイの良い彼を皆で持ち上げられてそのまま運ばれていくのだった。
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