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黒鋼の天使は、虚空を征く。  作者: ドライ@厨房CQ
第1章 コバルトブルー
12/19

11話 共同戦線

お待たせしました!第11話になります。

いよいよお話も佳境を向かえますが、引き続きよろしくお願いします!

『ミッションを伝達します。内容は新型ガレリア“プロキオン”の捜索機護衛です。別位相から突如して現れるこの新型種に対してオラクルは捕捉可能なセンサーを積んだ特殊哨戒機を用意しており、非武装のこの機を護衛して頂きたいのです。ガレリアやプロキオンとの遭遇戦もありえる危険度の高いミッションですが、人類を脅かす脅威を見過ごすわけにいきません。是非ともあなた達ランナーの力を貸してください』

「ついに始まったか……」


 PDAから投影される映像を眺めながらベルニッツは呟く。流れている音声メッセージは全てのプライベーティアに向けて発信されているオラクルからの任務依頼であり、同時に新型ガレリアも識別名と合わせてその存在が公となった。

 壊滅した討伐隊とノーマッドが交戦した際に得られたデータが奇跡的に残っていおり、別位相に潜む際はレーダーや通常のセンサー類などは反応しないや代わりに特殊な波動を発していることが判明する。その特殊波動を検知できる装置を積んだ哨戒機が急ピッチで用意されて、プロキオンの発見より1週間足らず数を揃えられた。

 オルゴン領域の外を非武装な哨戒機が飛ぶには護衛機が必須で通常のガレリア以外にプロキオンとの遭遇もあり得る危険な任務だが、報酬と貢献度が高く設定されているので既に多くのプライベーティアが参加を表明している。

 対策本部についているベルニッツは探索作戦後の本格的なプロキオン攻略の作戦立案を担当していた。一瞬で万単位のガレリアを放出するプロキオンを相手取るには大部隊による攻略が望ましいが、それでは討伐隊やノーマッド達の二の舞で奇襲されたり別位相に隠れ続ける可能性もある。

 すなわち少数精鋭による一点突破が唯一の手段だが実行できる部隊などいるはずもなかった。否、一つだけ方法がある。ベルニッツにとっては苦渋の選択だが。


「……彼らに頼むしかないのか」






 リビングルームに置かれた丸テーブルを囲むようにリク達5人が席について、申し訳なさそう表情を浮かべるクロッカーはリクとソラへ出された出撃依頼について説明する。内容としてはノーマッドを救援した際に遭遇した新型ガレリアのプロキオンの討伐についてで、倒し切るにはエクスシアが不可欠なのだ。

 異空間から現れて万単位の軍勢を瞬時に展開できる相手を少数で倒すしかない現状では一騎当千といるエクスシアが必要であり、稼働状態にある5機のエクスシアの内4機は保持してる組織が切札として隠匿しているか搭乗者がいなくて埃を被っているかのどちらかで、動かせるエクスシアはラーゼグリズしかないのでソラとリクに白羽の矢が立つ。


「我々の勝手な都合に巻き込んでしまっているのは重々承知してる。なので君達には拒否権ある。というかぶっちゃけ、断っていいんだよ……」

「確かにね。自分たちで出来ないからって無関係なソラ達に全部押し付けるなんて、虫の良すぎる話よ」

「でも、それじゃあ……。ちょっと考える時間をください。ほんとに自分達が戦えるのか考えたいので」


 桜花からの厳しい言葉にクロッカーは申し訳なさそうに頷く。一騎当千の戦力をただ置いておくわけにいかないという事情もあるが、

 二人の意見を聞いたリクは率直に自分の意見を言う。突如として大き過ぎる力を手にしてそれをしっかりと振るえるのか、ただそれだけ戦う事はできるのか不安が尽きない。だからこそエクスシアという自分の力をどうすべきか考えたかった。


「もちろん構わない! そうだ、訓練でエクスシアを動かせないか掛け合ってみるよ。少なくともエクスシアを動かしていれば、参謀本部も評議会もちょっかいを出してはこなさいだろうし。君達のこれからに関わる事だ、大いに時間を掛けて決めて欲しい」

「うん、あたしもリクの意見に賛成だ。」

「はぁ、訓練ぐらいならいいかもね。でも私達だけで動かしてもいいの?」

「そうだな、一緒に飛ぶプライベーティアを派遣しよう。訓練役と監視役を兼ねていると言えば上も納得するだろうし、ちょうど君達と合いそうな者達がいたよ」


 細かな手回しなどはクロッカーが引き受けることを確約し、ちょうど一緒に飛ぶプライベーティアも斡旋してくれて映し出された映像には彼らに関する情報が浮かび上がる。そこに書かれている会社名は『ストレイズ』とあった。






「イーサン、依頼が来たよ」

「マジか、じゃあ集まるか」


 プライベーティア“ストレイズ”を立ち上げて早3日、初仕事の依頼が早速舞い込んできたとシアンから連絡を受けたイーサンは授業が終わってから事務所に向かう。アズライト達にもシアンから声を掛けるとのことだが、直通でオモロの2階へ上がった時にはまだ誰も集まってはいない。

 皆が車での間は手持ち無沙汰なので店主のおばあさんに代わってしばらく店番をしていると、アズライトがやってきて次にリコッタやロイも顔を出す。しかし呼び出した当人であるシアンはまだ姿を見せておらず、そのまま待っていると見知った顔とともにやってきた。


「シアン遅いぞー。ってリク達もいっしょか!」

「うん、二人が今回の依頼人」


 リク一行を上の事務所に案内し総勢9人が一堂に会すれば些か手狭になる中、依頼内容についてシアンが説明するがまずはお互いの顔合わせから始まった。ここにいる全員と顔を合わせた事があるのはイーサンとシアンだけで、アズライトとリクとソラが無線越しでやり取りしたのを除けば皆初対面となっている。

 お互いに挨拶を行ってコミュ力の高いリコッタと積極性のあるソラはすぐに全員と馴染んで、負けじとお調子者な巽が騒ぎ出すがストッパー役の桜花を嘆息を漏らす。


「やぁやぁ皆の衆、俺は乾巽だ! これからよろしくよろしく!!」

「……こんなうるさい奴でごめんなさい。彼はとんだバカなんです」

「いえ、こっちも騒がしいのが多いからね……」


 早速毒を吐く桜花にアズライトが抑えたりと騒がしい中で顔合わせが済んだので本題の依頼内容についてとなる。とはいえ実戦ではなく、リク達のエクスシアを使った実地訓練に同行して練習相手ともしもの護衛を兼ねたものなので、そこまで肩肘張るものでもなかった。

 資料としてPDAに依頼内容の詳細が書かれたデータが送信してくるが、その中にあった依頼者であるクロッカーの名前にイーサンが反応する。クロッカーと祖父のレイジは古馴染みでシオンの祖父でオラクルの総監でもあるミハイルとともに3人は同じカレッジからの旧友であり、イーサンも幼少期から面識があった。もっともいつもレイジからの無茶振りや要求を断りきれずに吠えていた記憶ばかりだが。


「イーサン君ってクロッカーさんと知り合いなの?」

「知り合いも何もハンスのおっちゃんにはいつも世話になってるのさ、主にじいちゃんがな。あの人がくれた依頼ってわけなら、ガチでいかねえとな!」

「そんな闘志むき出しにしないでくださいよ、ただの訓練なんですから」


 イーサンがいつになくやる気を見せるが、鬱陶しげな表情を浮かべて桜花はツッコミを入れる。そんな彼だが実力は折り紙付きで頼りになるのは事実であり、二人の実戦参加に反対している桜花もそこは認めているので一緒に飛ぶ相手としては不足はなかった。

 実戦ではないので参加は自由となっている準メンバーであるリコッタも参加を表明し、PDAにて今回の依頼に付けられた評価点の高さからロイも参加を決める。ストレイズ全員が出るということでこれからの方針などを話し込んでいく中で、どこか考え込んでいた風のリクが声を上げた。


「ちょうどみんなが集まってるから聞きたいんだ。どうして戦ってるのかって」

「オレ達が戦う理由? 確かに深く考えたことなかったなー」

「僕はまだエクスシアに乗って戦う覚悟が出来ていない。だからイーサン君達がどんな気持ちで戦っているのか知りたいんだ」


 戦う理由を問われて腕を組むイーサンに真剣な眼差しを向けたリクが胸中を明かす。強い眼差しに圧されてバツが悪そうに頭を掻いて自分は役に立てないなという気持ちをありありと浮かべながらも、イーサンはは自分の戦う理由を話し始めた。

 リクに問われて始めて戦う理由について深く考えるのは他の皆も同じようで、エクスシアでともに戦うソラも自分が憧れるヒーローのように戦う意義について思い返す。リクの強い思いと裏腹にイーサンは至極簡単な理由を告げる。


「オレは空を飛びのが好きなだけだからなー。戦う理由とするなら自由な空をガレリアから取り戻すってところか。まぁガレリアだろうが人間だろうが、自由に飛べる空を奪おうとする奴とは全力で戦うつもりだ」

「イーサンらしい。目的と手段が普通のエフェクターから見れば逆転してるけど」

「そうか? 戦う理由の善し悪しなんて人それぞれでだろう」


 イーサンの戦う理由について真っ先に口を開いたのはシアンだった。彼女が言う通りイーサンは特に理由もなく飛ぶために飛んでいるわけだが、だからこそ純粋に誰もが大空を自由に飛べる事を思っているので障害となるガレリアの排除や航路の安全確保には積極的に参加していた。

 飛ぶのが好きでその過程で出来る事があるならこなしていく。それがイーサンのスタンスで、参考になるかわからないと肩を落とすがそれは他のストレイズメンバーも同じだった。


「イーサンはそうなのね。私も自由な空のため、と思ってはいるけど現時点では借金返済よ。エイジスの費用とか色々シアンに貸しがあるからね」

「うーんっとわたしはね、強いて言えば家族の為かな?」

「最初に言っておくと俺のは参考にならんぞ。なりたくもない面倒臭そうなエフェクターになったんだから、せめて最短最少の労力で安泰な生活を手にする、そんな感じだ」


 アズライトとリコッタとロイもそれぞれ戦う理由を告げるが、誰もが即物的だったり抽象的だったりとどれも参考になりそうにもなかった。なので3人とも申し訳なさそうな表情を浮かべるが、リクは首を振って皆に感謝を示す。

 少しでも参考になれば良いとイーサンは思うが、同時に彼に問いたい疑問が湧いてきた。それは元の世界への帰還についてだ。


「みんなありがとう。ただ僕が気になったから聞いただけだから、難しく考えなくてもいいよ」

「参考になれば幸いさ。ところでオレも気になることがあるんだが、リク達は元の世界に戻りたいんだろ? ならこのまま戦う必要なんてないと思うんだけど」

「それはもちろん思ってるよ。だけど戻る方法がわからない中でただ見つかるまで待つんじゃなくて、少しだけでもこちらの世界で頑張りたいんだ」

「そうか、ならリクは大丈夫だ。オレなんかよりずっと立派な志を持ってるんだからな」


 いまだってすぐに日本に戻りたいと思っている。ただ同時にガレリアの脅威にさらされているこの世界を放っておけなかった。そして自分にエクスシアという強い力を操る事が出来るのだから、世話になっている間だけでも力になりたいと思っている。

 語るリクの姿を見てイーサンはニッと笑うと指鉄砲で撃ち仕草をとった。その考えこそ立派な戦う理由であり、もし力が必要なら貸しても構わないという協力の証でもある。


「そんな、僕がただ良いと考えらことをしたいと思っただけで……」

「それでいい。あなた達のような人がエクスシアのランナーで本当に良かったと思うの。だからこそこれを言うのは心苦しいけど、あなた達の転移に関して何か裏があるとおもうの」


 エクスシアのランナーが善良たるリクとソラで良かったとシアンは心の底から思うと同時に、ずっと懸念していた事を口にした。思いがけない称賛にこそばゆい気持ちになっていた二人も声のトーンを下げて語る彼女の言葉を重く受け止めて他の皆も陰謀めいたものを感じて耳をそばだてる。


「こんなにたくさんのノーマッドが漂着するのは初めて。みんな不思議に思ってる」

「ええ、それは私も思っていました。スマホから変な光が出て同じクラスの人間が丸ごと転移って、普通偶然に起こるものですか?」


 シアンと同じ疑問を桜花もずっと感じていた。資料として映し出されたこれまで保護されたノーマッドに関する統計図表は数年に一人の割合で見つかっていることを指し示す。得られた証言から元の世界に関する情報はバラバラでノーマッド同士も異なる世界から来ているのか、もしくは同一世界でも時間的にも距離的にも離れた存在というのが定説だった。

 しかしリク達はこれまでとは大きく異なり、同一の場所から30人以上もの人間が漂着まで1ヶ月とい時差はあっても転移そのものはほぼ同時に行われたという異常事態であり、集中転移事件として研究が行われている。全員がエフェクターの適性があってエクスシアのランナーまで見い出されたことから、何者かによる作為的事象と考えてる者もいた。


「異世界から人を呼び出すなんて荒唐無稽の極み。でもその可能性は十分にあるから調べる価値はある。もしかしたらみんなが元の世界へ帰れる方法が見つかるかもしれない」

「確かに、俺達を呼び寄せた何かがいるはずだな。俺の知識が正しければこういった転移能力を持っているのは神かそれに近い存在と相場決まっている。だから一番怪しいのは宗教関係者だ!」

「なるほど黒幕は教国の連中か。大多数の信徒は信心深くて善良なんだが、上の連中は権力闘争に明け暮れている俗物共って話だ。自分らの影響力を強める為ノーマッドを呼んでもおかしくないな。巽、いい読みしてるぞ!」

「え? あ、いや。これはただ…… 日本にいたとき読んだ異世界モノの展開がそんな感じで……」


 異世界転移の黒幕は宗教という半ばウケ狙いに近い日本での二次知識に拠った強引な推理であったが、イーサンの意外な食いつきに面食らって巽は萎縮してしまう。こういった時にこそいつも見せているハイテンションを出せないのが元々陰キャラな所為だからか。

 しかし教国関係者が黒幕というのは当てずな話でもなかった。エクスシアを解析して手に入れたオーバーテクノロジーの多くが教国の協会本部に保管されていて、その中に次元に干渉する技術があってもおかしくはない。


「じゃあ、これから教国に殴り込みにでもいくか? 連中のご自慢な空中騎士団とかいうハリボテなんぞオレ一人でも相手してやれるぜ」

「ハァ……、なんでそうなるんですか、バカは乾君一人で十分ですよ。あなたはアホという感じですが。まずは調べるんでしょ、会長さん?」

「うん、桜花の言う通りイーサンはアホ。いまは裏からこっそり調べる。そこは任せて」


 二人からの集中砲火を受けてイーサンは黙らされた。指針としては依頼通りにリクとソラの補助をイーサン達が行い、その裏の情報収集をシアンが中心に桜花と巽が手伝う形となった。

 これからガレリアと戦いながら元の世界へ帰還する方法を探すための共同戦線が締結された。発起人たるシアンが咳払い一つしてから拳を高く掲げて宣言する。


「それでは私達の共同戦線“オペレーション・ヴァーディクト”を始動させるよ」

「……もしかしてシアン、こう名前つけるのが趣味なのか?」






 訓練といえどエクスシアの出撃とあって地下ハンガーニヴルの中には張り詰めた空気が流れているが、ストレイズの様子はいつもと変わらない。僚機ということでオラクルの監察官が何度か出入りしているが、確認作業をするだけでエクスシアにかかりっきりだ。エクスシアの専用ハンガーは別にあってニヴルと専用の通路で繋がっていてリク達もこちらへ向かってきている。

 待機室にてソファに深く腰掛けたイーサンが皆の準備とブリーフィングの開始を待っていると、最初に顔を出したのはアズライトで新たなランナーウェアに身を包んでいた。ハーネスやベルトを組み合わせたノースリーブのレオタードに肘上まで覆うグローブと膝丈上のソックスを付けて、カラーリングもエイジスに合わせた黒と赤になっている。

 すこし遅れてやってきたリコッタも機体色に合わせたライトグリーンのヘビータイプレオタードを身にまとい、最後に来たロイはストライダーの標準ランナーウェアである紺色のジャンプスーツを着込んでいた。


「お待たせ。あ、アズライトちゃんのウェアカッコイイね! イーサンくんは相変わらずその格好なんだね」

「いつもの服の方がやりやすいんでね。それにいい男ってのはいつだってシャツとベストで決めるもんなのさ」


 皆がしっかりとランナーウェアを装備する中でイーサンだけがいつもの服装のままで、ランナーウェアには機体とのリンクを補助する機能を持っており、イーサンはその有用な補助機能をかなぐり捨てていることになる。

 そんなものに頼らなくても問題ないという自身の腕前に対する自負と着替えるのが面倒という物臭な理由からで、そんなイーサンに対して呆れたような視線が送られるもちょうどブリーフィングを始める知らせがきた。

 待機室を出てハンガー内のミッションボードの前に集まると今回一緒に飛ぶリクとソラも来ている。彼らも専用のランナーウェアに袖を通しているが、そのデザインは純白の豪奢な礼服なようでどうにも飛ぶには向いてなさそうで、当惑する二人と相まってあまり似合っていなかった。


「なんだい、そのギンギラギンな服は! まったくデザインした野郎はいい趣味してるぜ……」

「ははは、仕方ないよ。これが正装ですって期待いっぱいに渡されちゃ断れないよ」

「あたしはもっと動きやすいのがいいかな……」

「……担当には私からも言っておく。それじゃあブリーフィング始めるよ」


 慣れない格好をさせられた二人を不憫に思いながらもシアンはブリーフィングを開始する。エクスシアを出すので形式ばったものだが内容としてはただの訓練なので、空に上がり次第各々の判断にまかせられていた。一応はエクスシアの能力を測るという名目で高機動試験や射撃兵装試射、イーサン達との模擬戦などが組まれている。

 試験内容を組んだデータを配布しているとブリーフィングに混ざろうとする人物が現れた。それは白い甲冑にも似た装甲型ランナーウェアを着込んだ昴流で、彼はリクとソラに向けて軽く手を振る。


「やぁ、長瀬に日高。久しぶりだな」

「天宮君、どうしてここに?」

「君達がここにいるって聞いてな。それで……」


 完全武装といった感じで今にも出撃しそうな出で立ちに皆が疑問に思っていた。直接面識のあるイーサンとシアンを除けばストレイズの面々は初対面で、昴流は噂に聞くノーマッドのエースというぐらいの関係性である。そんな昴流はイーサンに向けて頭を下げてここに来た理由を告げた。


「イーサン、君が空を飛ぶ理由を聞いてからずっと考えていたんだ。でも答えなんかでなくて、それで長瀬達がまた飛ぶと聞いて居ても立ってもいられなくて……。戦う理由も覚悟も半端な自分がいるのは迷惑かもしれないが、どうか一緒に飛んでも良いだろうか!」

「おいおい、飛ぶのになんでいちいちオレからの許可が必要なんだ? お前さんが飛びたいのなら好きに飛べばいい。理由なんざ後からついてくるってもんだ」

「イーサン君の言う通りだよ。それに今回は訓練なんだから固く考えなくていいと思う」

「……ありがとう」


 予想だにしていなっかた訪問者であるが、今回の訓練に参加したいということなので快く受け入れる。抱えている悩みなんか空を飛べばなんとかなるというイーサンの軽い調子には、当の昴流も苦笑いを浮かべるしかなかったが。

 ブリーフィングも終わり、リク達3人がエクスシアのハンガーへ向かうとストレイズもそれぞれが位置につく。イーサンとロイが駐機されているストライダーに乗り込み、エイジス組の二人は円筒形状の射出口に立ってアズライトは腰に巻いた自在剣を振り抜き、リコッタは現れたハンマーで虚空を叩いて空間がひび割れるように開いてそこからエイジスが現れた。

 ブーツのように太腿まで装甲で覆われた脚部、搭乗者の動きをトレースして細やかな動作は備え付けられたジョイスティックで行う腕部、背面から翼の如く飛行ユニットを伸ばして搭乗者を守る装甲とエネルギーシールド装置を持った胴体部、リンクシステムの要となるヘッドギアとバイザーが一瞬の内に装着されていく。


「それじゃ先に上がっているわ。遅れないでね」

「二人とも空で待ってるよー」


 出撃可能になった二人は一足早く飛び立った。両手のジョイスティックを使わずとも身体を動かす感覚で基本の動作が可能で飛行ユニットも思考操作が可能である。射出口を垂直に飛び上がっていき、蒼空に赤と黒のツートンで彩られたアズライトが躍り出て、続いてライトグリーンのエイジスを纏うリコッタも空に飛び出した。


《こちら地上管制局、二人とも問題ないですか?》

「こちらレーヴァテイン、問題なし。システムオールグリーンよ」

「ベガルタも良好、絶好調です!」

《それは良かったです。これよりストライダーの離陸を行いますので、進路を開けてください》


 地上管制官の指示に従って2機のエイジスが散開していくのが確認されて、エレベータに乗せられたストライダーが滑走路の配置につく。離陸に備えて機体各所の最終チェックを行いながら、管制官より識別番号の照合が入ってイーサンは機体名ともなるコールサインとともに伝えた。


「こちらV7Rネクサス、いつでも離陸できるぜ」

《V7Rネクサス了解しました。まずはV7Fガルーダから離陸を行います。それに続いてください》

「V7Fガルーダ了解、離陸する」

「アイハブ、V7Rネクサス発進!」


 離陸許可が下りてライトグレーの可変翼機であるロイのガルーダが上がり、それにイーサンのネクサスが続く。アズライトとリコッタも合流して4人は並んで飛んでいき、次に加わるリク達を待った。

 滑走路から離れた小高い丘が動き始めてその擬態を解除すると、巨大な鋼鉄の円蓋が姿を見せる。重々しい動作でぽっかりと深い縦穴が開いて中から光の粒子を撒き散らしながらラーゼグリスが浮かび上がった。直掩となる昴流のカレットブルフも加わり、エイジスとストライダーにエクスシアという変則的な編隊が飛んでいく。


《ここから管制を行う空中管制機ストーン・コールドだ。今回も一緒だな》

「この間振りだな。今回もよろしく頼むぜ」

《この前みたいな馬鹿な真似はしないでくれよ。ようやく上がってきた評価がまだガタ落ちになっちまうからな》

「おいおい、この大空には上座も下座もないんだぜ? 速い奴が一番なのさ!」


 スロットルを全開にしてジェットの轟音とともに飛んでいくイーサンを大きなため息とともに皆が追いかけていき、ちょうどラーゼグリスの機動力に測るには良い機会だとストーン・コールドが提案した。

 飛行機雲を引きながら遥か前方を飛んでいくネクサスへ追いつくにはかなりの加速力が必要だが、補助AIたるラーゼが二人へ適した機能を指し示した。リンクシステムを介して頭の中に詳細が伝わり、機体操作を担うソラが操縦桿を強く握る。


「オーバーブーストいくよ!」

「わーお、なんて加速力だ! だけどなオレだって負けねえぞ!」

「ちょっと置いてかないでよね!」


 ラーゼグリスの後方に光輪が現れて、そこから膨大なオルゴンを吐き出して凄まじい推力で突進していった。機体を覆うオルゴンシールドにより空気抵抗が相殺されて慣性制御により強烈な加速でもコックピット内は影響を受けない。

 容易く自機を追い越していくラーゼグリスとその加速に驚きながらもイーサンは追い抜いてやろうと更に加速していく。音速を超える追いかけっこを続けていくので既にオルゴン空域の端近くまで来ており、離陸してから数分足らずできこまで来ていた。他の皆がかなり距離があるので新たな指示をストーン・コールドが出す。


《エクスシアの機動力を測るのはいいが、お前たちだけで突出しすぎだ。そこなら存分に射撃できるだろうし、皆が合流するまでその空域で射撃訓練だ》

「了解っと。それじゃあマーカードローンを射出する。リク、遠慮はいらねえぜ」

「わかった、いつでもいいよ!」


 翼下パイロンに積んだ2本の大型ミサイルがネクサスから発射され、折り畳まれていた翼を広げて細長いフライヤーへと姿を変えた。マーカーと呼ばれる遠隔操作型標的機で小型で快速な機動力とイーサンの操作と相まってかなりの回避率を誇る相手である。

 ラーゼグリスの肩部装甲が展開しホーミングレーザーが放たれて、100本もの光の束がマーカーに迫る。いくら回避率が高くイーサンによる操作であろうと変幻自在に飛び交うレーザーから逃げ切る事はできず、瞬く間に撃墜されていった。


「なんてデタラメなレーザーだ、ありゃ反則だぜ! そんじゃおかわりいくぞ!」

「うん、次はコメットミサイルを使ってみるよ」


 使い切ったパイロンへ新たなマーカーが転送されて再び発射され、火器管制を担うリクが狙いをつけて操縦するソラが最適なポジショニングを行う。機体の周囲に大量のミサイルが転送されてきて光の糸を引きながらマーカーに降り注いだ。

 リクの世界のミサイル火薬の詰まった弾頭をロケットで飛ばすのだが、こちらのミサイルはオルゴンによる推進力で翔んで弾頭部が炸裂した際のエネルギーによる破壊を行うものである。なのでほぼ直進しか出来ない向こうのミサイルと違い、オルゴンの供給が続く限り凄まじい追尾性を発揮して、追加されたマーカーも為す術なく墜ちていった。

 遠隔地にあるものを転送させて装備する関係上若干のタイムラグがある“バインダー”方式と比べて、内部に量子変換させて搭載する“パッケージ”方式は瞬時に展開可能で格納中はオルゴンを消費し続ける欠点もエクスシアのジェネレータ出力を考えれば問題にはならない。


「その上ミサイルや表面装甲ならオルゴンの物質変換で生成可能とか、やっぱエクスシアはとんでもねえな」

「この機体がすごいのはよく分かるよ、まだ把握しきれてないのが多いけど……あ、みんな、来たみたいだよ」


 後方から接近する機影を確認してラーゼグリスもネクサスも火器管制装置をオフにする。ようやく全員が揃ったので新たな指示をAWACSが出すのだが、その通信にノイズが混じっていた。


《よし全員揃ったな。ではこれより……な、なんだ!? この反応は、は……に……ろ……!》

「おいストーン・コールド? いきなりどうした……なんじゃこりゃ!?」

「そ、空が紫色に染まってく!?」


 突如としてストーン・コールドとの通信が途絶えるのと同時に、それまで広がっていた蒼穹が不気味な紫に染まっていく。そして一つの黒点がぽっかりと浮かんでくるとそこから黒い霧が溢れ出て、それら一粒一粒が全てガレリアであった。

 同じものを前に一度目の当たりにした昴流が慄きながらも叫ぶように警告を発する。


「プロキオンだ! 奴が現れたんだ!」


 黒点から広がった黒き闇は既に周囲を取り囲んで退路を塞いでいる。しかし万に匹敵するガレリアの大群を前にしてイーサンは不敵に口角を上げた。7


「上下左右前も後ろも敵だらけってわけか。面白え、やってやろうじゃねえか!」

TOPIX―ガレリアについて


異世界より現れた人類の天敵。ガレリアクラウドと呼ばれる微粒子が環境に合わせて実体化した存在。クラウドは触れた物質は分解されてしまい、オルゴンを持ったもののみが対抗可能。通常時は霧状だが攻撃時にはエージェントと呼ばれる実体を作り出す。小型種は矢じりのような『アローヘッド』、鳥型の『ヴァルチャー』。大型タイプは打撃空母型『デトネイター』、装甲戦艦型『エグゼクター』、殲滅重砲艦型『アナイアレイター』、強襲巡洋艦型『ラヴェジャー』、空中管制型『ドミネーター』に分けられる。また特殊な個体には個別に識別名が与えられる。


ここまで呼んで頂きありがとうございます! 感想などお待ちしております! 次回はプロキオンとの決戦です!

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