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黒鋼の天使は、虚空を征く。  作者: ドライ@厨房CQ
第1章 コバルトブルー
11/19

10話 結成

お待たせしました!第10話になります。

今回も日常回となりますが、徐々にお話が進展していきますので、よろしくお願いします!

「お兄ちゃん~! 朝だよ、起きなさーい!」

「……まったく、どんどんばあちゃんに似てきたなぁ」


 ミヒロの声と食欲をそそる匂いに五感を刺激されて、掛け布団を蹴り飛ばすように跳ね除けるとイーサンはベッドから身を起こした。クローゼットからいつものワイシャツとスラックスを引っ張り出して寝間着のTシャツから着替えると、梯子から下に降りていく。イーサンの自室はガレージ上のロフトであり、機械に囲まれている方が落ち着くので母屋はアズライトとミヒロに譲った。

 顔を洗いに洗面所に入ると、そこには半裸姿のアズライトがいた。身に纏うのはボタンが全て外れたワイシャツ1枚だけで、ブラの付けていない胸元はギリギリで隠れ、シンプルながらシックなデザインをした純白のショーツが露わになっている。

 突然の出来事に頭の理解が追いつかずその場に固まってしまったイーサンに対して、見られているアズライトは気にする様子もなく挨拶を交わした。


「あ、おはようイーサン。ちょっとシャワー借りるわね。どうしたの固まっちゃって? そっか、寝間着代わりにワイシャツ借りちゃったわ、ごめんね?」

「い、いやいやいや、べ、別に構わんさ! それに着替えの邪魔して悪かった、すぐに出てくよ!」

「別にいいわよ、そこまで気を使わなくても。私は居候みたいなものだし」


 そう言うとアズライトはワイシャツを脱ごうとしたので、イーサンは素早く脇を抜けて洗面台の前に立つと水を流しながら頭を下げて顔を洗い始める。こうすればアズライトの裸体を直視せずに済んだ。

 ゴシゴシと一心不乱に顔を洗うその間も服を脱ぐ衣擦れの音が嫌でも耳に入ってくるが、カーテンが閉まる音とシャワーが流れる音が聞こえてきてようやく顔を上げる。鏡越しに後ろを見るが、そこにアズライトの姿はなく浴室のライトがついていた。

 洗面所とバスタブの間には厚手のカーテンで仕切られているとはいえ、中に入っているアズライトのシルエットがくっきりと見える。手早く身支度を終えてそそくさと出ようとするイーサンをカーテン越しにアズライトが呼び止める。


「イーサン、悪いけど鏡のところに置いてあるポーチ取ってくない?」

「お、わかった。これだな」

「うん、ありがと」


 カーテンを少しめくり片手だけを出したアズライトに目的のポーチを手渡した。近くにいるからかシルエットがより鮮明に映って彼女のボディラインを浮かびあがるのでイーサンは出来るだけ見ないようにぎこちなく動いて、渡すとそのまま部屋を出る。

 ドアを閉めてそのまま外まで飛び出し、ガレージの物置までやって来るとようやく肩の力が抜けて大きく息を吐いた。ガラクタの山から鉄製のジョウロを取り出しながら、水を待っている鉢植えにジョウロの口を向ける。


「はぁー、女の子と同居すんのは大変だなぁ……。ほーら、水だぞ~」


 鉢植えから眼を出しているのは花ではなく、緑がよく映える雑草のような草であった。元々はハンガーの整備士から鉢ごと貰った食べられる草という事で何気なく育ててそのまま慣習となり、朝の水やりをしながら草に向けてぼやきを言ってたまには愚痴ったりもしている。

 崩壊したハンガーにて奇跡的に無事だったのを届けるよう手配してくれたおやっさんに感謝しつつ、あとどれほどで食べられるか葉っぱを吟味していると朝食が出来てというミヒロの声が聞こえてきた。




「これだ。この味、懐かしいぜ……」

「ほんと美味しかったわ。ここまで作れるなんてすごいよミヒロ!」

「えへへ、師匠が厳しかったですからね」


 食卓には野菜とイモが入った暖かなスープとバターが香るスクランブルエッグ、彩り豊かなサラダが置かれて、祖母直伝というミヒロが用意した朝食に二人は舌鼓を打つ。イーサンに至っては久々な我が家の味に感涙しているというオーバーリアクションを見せてあっという間に食べ切り、アズライトからも料理の腕を褒められてミヒロは嬉しそうにはにかむ。

 食べ終わった食器を全自動食洗機の中に入れると、じっちゃん特製の家事手伝いロボットがオートメーション化された家電類を指揮して家事の大部分を代行しており、動作するたびに響く動作音というオンボロな外見と裏腹にテキパキと働いていた。

 ネクタイを締めながらイーサンはアカデミーへ向かう準備を進め、それよりも早く身支度を済ませた制服姿のミヒロが鞄を持つ。アズライトもこれからシアンのところへ行くので、二人は一緒に家を出た。


「それじゃあ、いってきますー」

「待ってミヒロ、途中まで送っていくわ」

「二人ともいってらっしゃい。ガレージにリグ置いてるから好きに使っていいよ」


 ガレージにはちょうどレイジが集めたリグがいくつか置かれてあり、それらも好きに使っていいとお達しが出ている。身支度を終えたイーサンが家を出ようとすると、赤色の単座型リグに跨ったアズライトとミヒロがガレージから出てきた手を振ってきた。振り返して離れていく彼女たちを見送ると同じように外へ出る。


「それじゃあポンコツ、留守番は任せたぜ」

「ラジャラジャ」






「ベルニッツ中佐、新型ガレリアに関する報告書を読ませてもらった。直接対峙した当人として君の所感を聞きたい」

「ハッ、主観的なものでよろしければ。……私を呼んだのはこの為に?」

「そうだ、この報告が事実なら新たなる脅威に違いない。その対策を練るにも生存者たる人間の情報がほしいのだよ、例え処罰を取り下げるほどにな」


 査問会を終えたベルニッツはそのまま総監のもとへ呼び出されていた。責任者として極刑も受ける覚悟で望んだが、告げられた処分は一階級降格のみで査問会も早々と終わってしまい、あまりにも呆気ない事に当惑していたが、黒檀の机に鎮座する老人を前にして真意をはっきりと理解する。

 促されてベルニッツは己の所感を混ぜながら新型ガレリアについて語った。一番の特徴は何もないところから現れる点にある。別位相から出現するというその奇襲にノーマッドは為す術無く、討伐隊もこれによって全滅してしまったのだろう。

 二つ目は実体の無い影かブラックホールのような姿で、内部に多数のガレリアを収納してる事だ。先の神出鬼没な特性と組み合わさって何もないところかから大軍勢を引き出すのは脅威以外の何者でもなく、早くの対策を作る必要がある。しかし新型ガレリアそのままが攻撃してきた事はなく、輸送を専門行っているのかと予想はあるが、実体のすら掴めない存在なので謎が多すぎた。


「……以上のように直接見たこの私でもわからないことだらけです。ただ、奴らが現れる直前は変に空が凪いていた、そんな印象があります」

「ふむ、なるほど。貴重な意見をありがとう。新型種を最優先排除目標としてさっそく対策本部を立ち上げるのだが、中佐にはオブザーバーとして参加してもらう。これは処分の一環だと思ってくれても構わん」

「いえ滅相もございません。ノーマッドを守れず部下も死なせてしまった私ですが、彼らの死を無駄にせぬよう微力を尽くします」


 総監からの指令にベルニッツは敬礼する。最悪そちらの部隊も失敗した時の責任を押し付けられるポジションであるが、生き残った自分が出来ることならどんな事にも応える覚悟を決め、何よりこれ以上の犠牲者を出さない為にも有無を言わさず受領するのだ。

 その強い意志を汲み取ってか総監も頷いて対策本部に関する資料が入ったPDAを差し出した。手元にある通信装置を起動させると幾人もの立体映像が浮かび上がり、すぐさま新型ガレリアの対策会議が開かれる。






「あと少しで待ちに待った実技の時間だってのに、ここが一番しんどいぜ……」

「もうすぐお昼休みだからちょっとの辛抱だよ。でもマイヤ先生まだ戻ってこないね?」

「なんでも新しいエフェクターがここにくるみたいで、呼びに行ってるんだと」


 退屈な座学が早く終わらないかと、席を外したマイヤ先生が戻る間の自習時間をイーサンは机に突っ伏してぶうたれていた。前の席に座るリコッタが彼を諭して、その隣のロイが耳に入ってきた事情を伝える。適性があれば自動的に入学するものだからエフェクターの編入はよくあるものだ。

 アカデミー・レッドはオラクルが管轄するアカデミーの中では最大の規模を誇り、エフェクター以外にも一般人も入学しているのでクラスは年齢順でなく志願した学科や適性順として編成されている。イーサン達がいるエフェクター専門クラスからオラクルの構成員を育てる登用クラス、メタトロンの整備や修繕を学ぶ整備クラスなどエフェクターやオラクル全般に関する人材を育成するのがアカデミー・レッドの役目だ。

 所属するエフェクターも数は多いが適性検査の結果が並程度の者が多く、一芸に秀でたエフェクターが集められるアカデミー・イエローや適性検査でAランク以上の結果を出したエリートしか入れないアカデミー・ブルーから比べれば、エフェクターの質や能力は数段劣っている。

 しばらく教室で待っているとドアが開いてマイヤ先生が姿を見せ、ロイの予想通りに編入してきたエフェクターも一緒に入ってきた。長い銀髪を靡かせて琥珀色の大きな琥珀色の瞳をした美少女の登場にクラス内がどよめいた、イーサンを除いて。編入してきたエフェクター、彼女はアカデミーの制服を纏ったアズライトである。


「今日からこのクラスで一緒に学び合う仲間が一人増えることになりました。皆さん仲良くしてあげてくださいね」

「アズライト・ジュネットです。これからよろしくお願いします」


 ぺこりと頭を上げたアズライトに向けて歓迎の声が次々に出て、顔を上げた一瞬だけイーサンと視線を交わらせてちょうど空いている隣の席に腰を下ろした。私服の赤いジャケットと黒いノースリーブシャツから黒いブレザーにチェック柄のスカートと赤いネクタイを巻いた制服に変わって、印象が大きく変わるものだ。

 新たなクラスメイトの一挙一動にクラス中の視線が集まるが、まだ授業は終わっていないので話しかけるタイミングを見計らって押し黙る中、隣の席のアズライトに向かう。


「まさかうちのクラスに入ってくるとはな。アズライトの実力ならもっと上のクラスでも行けるんじゃないか?」

「これはシアンの采配ね。それにこっちの方が自由で居心地が良いのはイーサンも同じでしょ」

「あれ、二人って知り合いなの?」


 会話が聞こえてかリコッタが振り返ってきた。既に昼休みのは入って先生も退室しているので教室内はそれなりの喧騒に包まれていたが、その一言が放たれた途端に一瞬だけ静寂が訪れて視線がイーサンに向けて集中する。

 特に男性陣の恨めしそうな視線を受けて困ったように繭を顰めながらリコッタからの疑問に答えた。


「そうさ。オレとアズライトは小隊(エレメント)を組んでるのさ。ついこの間からだけどな」

「でも相性はいいみたいだね、私達は」

「へーそうなんだ。じゃあ、お昼休みだからアカデミーの案内するよー」


 事実をすんなりと受け入れたリコッタはアズライトの手を引いて教室を出るとそれについて女性陣の多くも出ていって、残された男性陣から先程よりも一層嫉妬を込められた視線がイーサンに注がれる。あんなn美少女と小隊を組んでいるパートナーで相性が良いとまで言われれば、そんな気持ちにもなるだろう。

 それまで黙っていたロイがはーっと溜息を吐き出すと助け舟を出した。イーサンがこれまで他のエイジスと小隊を組めなかったのは彼の素養についていける者がおらず、居るとするなら彼に匹敵するほどの傍若無人だろうと予想される。


「つまる所、お前さんとエレメント組める彼女はとんだじゃじゃ馬ということだろ。これ以上面倒増やさないでくれないか?」

「ロイ、お前はホント面倒が嫌いだな。それでも毎回フォローしてくれるから助かるけどよ」


 肘を付きながら言い放ったロイの何気ないが核心を突いた一言にイーサンは頷いて、他のクラスメイトもアズライトが女版イーサンという評に腰を抜かして諦めていった。助け舟にイーサンは感謝するも、面倒事が増えそうな予感に頭抱えてロイは教室を出ていくのだった。




「みんな中々パワフルね」

「ごめんごめん、新しい子が来るといつもこうなの」


 地下のディストーション訓練場にイーサン達4人が集まっていた。昼休み中はリコッタを始めとするするクラスの女性陣に案内と称されて色々連れ回されたの事をリコッタは謝るが、アズライトは苦笑いを浮かべながらも気にしていない風に手を振る。

 ここに集まった理由もアズライトのエフェクターとしての素養がどれくらいか測るためで、ランナーとしての実力なら知っているイーサンも彼女のディストーションがどれほどのものか気になったので、あまりこない訓練施設に顔を出していた。

 標的である巨大な結晶体を前にしてアズライトは腰のベルトに手をかける。制服の上を交差するように通る白と黒のベルトがバックルがグリップパーツになっており、そこを握って引き抜けば帯状だった部分が刀身に変化して長剣となった。白と黒の刀身に表面がエメラルドの色を放つ長剣をアズライトは両手に携えて構える。


「自在剣とは、またえらく使いづらそうな武器が出てきたな」

「あれって鞭剣って奴だろ? 漫画とかで見たことあるぞ」

「ちょっと違うな。オルゴンによって質量や硬度を自在に変える特性がある特殊合金で出来た剣だ。部材としては成功したが、武器素材としては微妙だったらしいがな」


 アズライトの武器を見てロイは驚くように声を上げた。メタトロンの部材に使われる特殊合金を剣に取り入れて、鞭剣の如く近中距離を間合いとして変幻自在というアドバンテージが得られるという。しかし扱いづらく実戦向きではない事で武器としては普及しなかった。

 布のようにしなやかかつ鋼鉄よりも鋭い刀身が振り回されて結晶体の表面に傷をつける。たった一度腕を振るうだけで剣先はまるで意思があるかのように自在に動いて次々に削り取っていくが、分厚い結晶を断ち切るには決定打になりえなかった。

 帯状が縮んで片刃の剣に姿を変えるとオルゴンが溢れて刀身が緑色に染まり、右手が順手で左手が逆手という独特な構えを取ったアズライトは駆け出す。スピードに乗って勢いづいた斬撃はオルゴンによって強化された刀身と相まって、すれ違いざまに結晶体を十字に斬り裂いて4つに分解された。


「アズライトちゃんお見事! すごい斬撃だね~」

「ありがとうリコッタ、でも本領発揮はここからよ」


 生身でも変わらぬ剣戟の腕前にイーサンは感心しリコッタも興奮気味に言葉を口する。硬い物質を綺麗に斬り裂いた斬撃をロイが観察とデータ取りなど間近で見ていた三人はそれぞれの反応を見せた。そしてまだ何かあるというアズライトにイーサンとリコッタの二人が更に機体を寄せる。

 左右それぞれで握っていたグリップが噛み合うようにぴったり嵌まると、2本の刀身が混ざり合って分厚く巨大な刀身へ変わった。一振りの大剣へ変形した自在剣をアズライトは軽々と掲げて、表面に纏わせたオルゴンが淡い燐光を放ちながら振り下ろす。

 大質量とオルゴンの波動による衝撃波が叩きつけられて結晶体は砂粒ほどの細かな破片となって辺り一面に飛び散った。合体状態を解いて待機状態であるベルトとして腰に巻いてアズライトは涼しい顔をしていえうが、見ていた三人は開いた口が塞がらないほどに強い衝撃を受けている。


「なんて数値だ、オルゴンの放出量だけで並の3倍以上あるぞ……!」

「アズライトちゃんカッコイイ! でも、あの大きな剣は重くなかった?」

「大丈夫よ、オルゴンの重量軽減効果でかなり軽くなってるの」

「はーすっごい剣だな。でもオレだってブラスターの腕なら負けないぜ!」


 リコッタからタオルを受け取ったアズライトは汗を拭きながらレーンを離れて、データ収集を行っていたロイがその数値に驚き、イーサンは負けじと闘志を燃やしていた。そんな三者三様の反応にアズライトは思わず笑みを零す。

 交代したレーンにはイーサンが立って両手に握ったブラスターを滅茶苦茶に乱射しながら、ディストーションと近接武器が跋扈するエフェクターの戦闘スタイルにブラスター使いとして真っ向から反逆してみせた。

 それにリコッタも続いて、アズライトから始まったディストーションを見せ合うような訓練はまだまだつづていく。






「よし、引っ越し完了!」

「みんなお疲れさまー。ってほとんどラーゼ無双だったけどね……」


 広々としたリビングルームの真ん中で巽が大きく伸びをしながら大声を出し、事あるごとにそんな反応を示す彼に対して桜花は辟易していた。病院に併設された隔離施設からアカデミー・レッドにほど近いノーヴスの居住エリアにあるシェアハウスへの引っ越しが完了して開放感を覚えるから仕方ないが、それはリクとソラの場合で巽は関係ない。

 4人ともほぼ手ぶらな状態で家財道具なども元から備え付けられていたので運び込む荷物はほとんど無く、生活に必要な備品なども護衛役のラーゼが全て一人で運んでいた。なのでお昼頃に早々と終わってあとはプライベート空間である私室の整理である。


「あそこも過ごしやすかったけど、ここも開放的でいいな。ゆっくり過ごせそう」

「窓がない所よりはずっといいでしょう。生活の面倒もオラクルが見てくれるけど、監視付きなのよね……」


 巽と同じく伸びをするソラと対照的に窓の外をちらりと除いた桜花は溜息を吐いて陰鬱な表情を浮かべた。ラーゼがいるとはいえそれだけでは不足との事で隣の家にはオラクルから派遣された護衛達が常駐している。だがそれは同時にエクスシアを動かせる二人の行動を逐一監視するためでもあった。

 家の中まで監視されていないとはいえ常に見張られているのは良い気分ではない。それを皆に告げた世話役のクロッカーも、同じ思いで実直な彼の人柄からも包み隠さず伝えたのだろう。


「そこまで気にすることはないと思うよ。困った時に助けてくれる人が常にいるってわけだし」

「はー長瀬君みたいに楽観的に考えられれば、もっと楽しく人生を過ごせたでしょうね」

「でも桜花みたいく危機感を持っていた方がいいな。ヒーローはいかなる事態にも備えるもの! さて備える為にもご飯にしよう」

「……あなたも相変わらずね」


 桜花の意見に賛同しつつも腹の虫を鳴らしたソラは事前に用意していた人数分の弁当に手を付けていた。そんなちゃっかりしたところの毒気を浮かれて桜花も思わず苦笑いを浮かべながら弁当を受け取る。

 冷蔵庫で飲み物を冷やしていた事を思い出した巽がコップと一緒に回しており、乾杯の音頭をとった。コップを持ち上げたそのタイミングでバタバタとした足音ともにドアが開かれて、息が上がり気味なクロッカーが姿を見せる。


「クロッカーさん、どうしました。そんなに慌てて?」

「大変だ、リク君ソラ君二人に出撃依頼が来ている!」






 午後の訓練が終わり1日の日程は全て完了してアカデミーは放課となるが、引き続き自主訓練を行う者やクラブ活動に精を出す者など夕刻を迎えても校舎は活気にあふれている。特にクラブ活動を行っていないイーサンは放課後はすぐにハンガーへ向かうのだが今日は違った。

 帰ろうと玄関を出た時にシアンからメッセージが届いて、指定されている“いつもの場所”へ向かっている。呼び出されたのはイーサンとアズライトだけだが、まるで暗号のようなやり取りが気になってか関係ないはずのリコッタとロイの二人もついてきていた。


「ねえねえ、いつもの場所って一体どこなの!」

「ああ、たまに話し合いに使ってる軽食処だよ。購買の一種みたいなもんさ」

「そうなんだ、そんなところもアカデミーにあるなんて知らなかったよ。そういえば会長さんとアズライトちゃんって知り合いだったんだね」

「ええ、知り合いというかお世話になってる感じかしら」


 アズライトとシアンがどうやって知り合ったのかはイーサンも気になる。なんでもエイジスで飛んでいたらトラブルで墜落してしまい、ちょうどシアンの家に落着してしまった。屋根とエイジスの修理費を肩代わりしてくれる代わりに色々と彼女の手伝いをしていたという。

 元々アズライトはオラクル大陸でも内地にあるド田舎に元ランナーのお祖母さんと二人暮らししており、そのお祖母さんが亡くなったのとエフェクターの適性もあったことから、形見のエイジスでアカデミーに向かっていた。しかし経年劣化と整備不良が重なっての墜落事故で大破してしまい、修繕と強化には時間がかかったが何とか現在の愛機であるレーヴァテインとして蘇っている。


「……とまぁこんな感じかな。家にも住まわせてくれたし、シアンには頭が上がらないわ」

「すごい! 空から降ってくる女の子ってホントにいたんだ! ロイ君もそう思うよねー」

「あーうんうんそう思う。……ところで生徒会長からのご指名だから、何か理由わかるか?」

「んー、こういう時は大抵依頼の話が多いから、今回もそんなとこじゃないか」


 4人は色々と話し込みながら滑走路がある方角へ進んでいき、運動場やアリーナがあるエリアを通り抜ければ約束の場所である軽食処“オモロ”が見えてきた。巨大な構造物を支えるべく分厚く無機質に作られたアリーナや洗練された外見なクラブハウスが続いているこのエリアで、古ぼけた木造建築というのは逆に目立つものである。

 ガラス戸をスライドさせれば大きな音を立てて開き、それが来客を知らせる呼び鈴代わりだ。内部はお菓子類や作り置きの軽食が並べられた棚がある販売エリアと奥には座れる食事スペースが設置されており、入口正面には店主であるおばあさんが皆を出迎える。


「いらっしゃい。あらイーサン、シアンちゃんなら2階に居るわよー」

「やぁばあちゃん、最近ちょっと忙しくて顔出せなくてよ。ちょっと大人数で失礼するよ」

「お邪魔しますー!」


 顔なじみなイーサンも気軽に挨拶をして中へ入るとアズライト達もそれに続く。店の脇に階段があるので店主のおばあさんが言うとおりに上がっていくが、イーサンの記憶で上の部屋に入った事は一度もなかった。

 二階の間取りは下と基本的に変わりないが、応接用のソファ二つと背の低いテーブル、いくつかの黒壇の書斎机が窓際に置かれていた。その中でシアンがソファに腰掛けており、イーサンも相対するように座ると端的に訪ねる。


「待ってた。今日は人が多いね」

「ああ、クラスメイトのロイと7リコだよ。んで、オレはここに呼んだ理由は?」

「うん、“プライベーティア”を作ろうと思って、イーサンにも参加してもらいたいの」


 シアンが口にした『プライベーティア』とはエフェクターによる対ガレリア戦闘請負組織の事で、オラクルや三大国家から一企業に個人に至るまで顧客としたガレリアに関するあらゆる対処を業務内容としている。

 元々エフェクターはオラクルが一元的に管理してきたが、三大国家より対ガレリア戦力の独占していると咎められて議論の末、人口比率に従って各国にエフェクターを振り分ける条約が成立した。所属人数に上限が設けられてパワーバランスを保てさせ、三大国家の意向を強く反映したアカデミーの新設なども同時に行われている。

 それでもエフェクターの全体数から見て覚各勢力の上限数は足してもあぶれる者がかなりいたが、そうしたエフェクターはプライベーティアに属して組織個人を問わず依頼を受けられるようになった。依然としてオラクルの監察下であるが、名目上は民間企業ということでイデオロギーに左右されない自由な存在である。


「つまり、シアンが作るプライベーティアの社員になって欲しいとうことか?」

「うん。プライベーティアなら今まで以上に融通が効く。規則違反で反省文とかもない」

「まぁ自由に空を飛べるなら文句はねえけどさ。オレたち学生でプライベーティアをやっていけるのか? 経営とかちんぷんかんぷんだぞ」

「問題ない。難しい話は全部任せて、イーサンは今まで通り思うように飛べばいい」


 一人前のエフェクターを育成するのがアカデミーの理念で、事実ブルーとイエローでは在学中にプライベーティアへ所属することを禁止している。しかしレッドでは所属禁止の条項は無く、三大国家が傘下のアカデミーでは学生でのプライベーティア設立や所属をむしろ推奨していた。

 シアンはイーサンの懸念を一蹴し、所属メンバーもレイジやクーリェ達整備チームや貸しのあるアズライトも参加するとの事で、そこまでお膳立てされたのなら断る理由はないのでイーサンは頷く。正式に立ち上がったということで話が一段落すると、お菓子の袋やソーダ瓶を抱えたリコッタが階段を上がってきた。オモロで人数分購入したようで皆に分けて回る。


「今おばあちゃんと仲良くなってね。もう30年以上ここでお店開いてるんだって」

「さすがコミュ力お化け、すぐに仲良くなれるな。ちゅーかここを事務所として借りるの、オモロばあちゃんから許可貰ってるんだよな?」

「もちろん、ちょうどお店を手伝ってくれる人を探してたんだって」


 最近荷物を運んだりするのが辛くなってきたオモロのおばあさんを手伝うことが家賃代わりというわけで、それは重要な仕事だとイーサンは頷いた。それにリコッタも賛同して身を乗り出しながら手を挙げる。


「わたしもおばあちゃんのお手伝いしたいからプライベーティアに入るよ! 毎日はこれないけど出来る限りがんばるから!」

「意外な動機。でもメンバーは多いほうがいいから、こっちにサインを。あなたも一緒にどう?」

「俺はパス。面倒は嫌いなんで。それにこいつらの世話はアカデミーに居る時で勘弁してくれ……」

「そう、なら仕方ない。プライベーティア所属なら単位取得も便宜を図れるけど」

「…………登録だけならやぶさかでもない」


 動機は直接プライベーティアに関係ないリコッタと単位取得が簡単になると聞いて反意したロイの二人も、直接プライベーティアに参加するわけでないが、登録メンバーとして仲間入りを果たす。

 結局いつものメンツが全員揃ってプライベーティア入りする事となり、リコッタが持ってきたソーダの瓶を手にしてシアンの音頭で杯を交わした。


「それでは、プライベーティア“ストレイズ”の発展を祝って」

『乾杯!!』

TOPIX―空中大陸について

空中大陸は4つ存在し、それぞれオラクル・皇国・連合・教国が統治している。皇国は皇帝を中心としながら実力主義を絶対とする最大の軍事力を持つ。連合は小さな組織や企業体が合わさった連合であり、内部で3つの派閥に分かれている。教国はオルゴンとエクスシアを崇拝する宗教を中心とした宗教国家でありながら、オルゴンによるプログラミングでは高い技術を誇る。


ここまで呼んで頂きありがとうございます! 感想などお待ちしております! 次回からお話が大きく進展していきます。

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