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第二話:エデンの上級クエスト

「はぁ……はぁ……よし! 2体目撃破! ラストボス戦行くぞ!」

「待ってください! ライトさん! ケガの回復をしないと」

 上級者を募ったメンバーで向かったのは、適正プレイヤーランクレベル100以上向けのモンスターが出るNPCの依頼上級クエスト、ルナテリオス撃破達成を目的としたパーティだった。

「早くしないと他のパーティに取られるぞ?」

「アップデート後からランク105を超えてるプレイヤーは廃人以外いませんし、大丈夫ですよ! それより、この人無理して来たんだと思うんですけど、これ以上は厳しいですよ」

「エデン」のアップデートは2031年に行われ、「セイヴァ」が使えるようになったことで、レベルは初期に戻された。それに加え、「エデン」のランク上げは厳しく中々上がらない。それが難点であるともプレイヤー間では言われていた。

 そんな厳しいランク上げをライトは4年の中で105も上げ、そのランクは全国で上位に入る程だが、ライトは年齢を非公開にしているため、プレイヤーの間では少し背が低いゲーマーの大学生ぐらいだと思われていた。現に今いるパーティメンバーも90前後ばかりで、ライトがいなければ、クエストには挑戦していないだろう。

「回復薬もないみたいだし、息も荒い。メンバーが欠けるとそれだけでペナルティでるし、なんで来たんだよ~」

「まぁまぁ、入れたのは俺だから、ごめん」

「いや! ライトさんに怒ってるわけじゃ」

 ライトはメンバ-を募る際、1人だけランクレベル70の女性プレイヤーがいたことを思い出した。普通、装備を固めて向かうクエストだったが、女性プレイヤーはノーマルの装備を固めただけで、ライトもすぐにリタイアしてしまうだろうと思ってはいた。しかし、どうにも放っておけなくてパーティにいれてしまったのだ。

「大丈夫か? 回復薬か、救命キッド足りてる?」ライトがまだ少し息の荒い女性プレイヤーに近づき話しかけると、女性プレイヤーは首を横に振って、弱々しく「もうないです……」と呟いた。

「このクエストはまだ終わらないし、この先もこうなっていく用だときついぞ?」

「知ってます…… でもっ…… マネが必要なんです…… マネがないと……生活ができないんです……」

 女性プレイヤーの事情をなんとなく察したライトは、ため息をついて、救命キッドを2セットと、回復薬を99個手渡した。

「こんなに!? ライトさんがピンチになったら……!」

「大丈夫。俺このクエスト常連だから。確かにこのクエストのお礼は12万マネプラス5千ジュエルで大金だし、豪華だけど、他のメンバーに迷惑かけるようなことは今後しない方がいい」

「ありがとうございます……っ」

「もし、ダウンしそうだったら、敵がいないほうで回復して。出来るだけ回復薬で補って、救命キッドはほんとにピンチの時しか使わないで」

「わかりました」

 女性プレイヤーが回復すると、ライトのパーティはラスボスモンスターが出るエリアへと向かった。このクエストは、今出ている中で2番目に難易度が高いクエストで1番難易度が高いハミティアリスのクエストは4年間の間でまだどのプレイヤーもクリアしていなかった。

「ライトさんは、ハミティアリスのクエスト受けないんですか?」

「俺は、自分のレベルと釣り合わない勝負はしたくないんだ。俺のランクじゃまだハミティアリスのクエストは受けられないよ」

「確か適正プレイヤーランク200以上でしたっけ」

「特殊クエストらしいし、川瀬名社員の攻略配信とか見てるんだけど、あれも当てにならないじゃん?」

「そうですね……。いつも負けてますもんね」

 毎月3度放送される川瀬名グループの社員が配信している動画で、ライトは常に難易度最高ランクのハミティアリス攻略を調べているのだが、そもそも、ライトよりランクの高いプレイヤーがいないのが現実だった。

「でも、最近ハミティアリスを倒したプレイヤーがいるって聞いたことありますけど」

「え!?」

 ライトが女性プレイヤーの方を振り向くと、パーティメンバーの一人が叫びだした。

「ルナテリオスがでた!」

「あ、ルナテリオスがでた。話、後で聞かせて!」

「は……はい!」

 ルナテリオスは2本のツノを持つ鹿のような見た目をしたモンスターで、鋭いツノと俊敏な動きでプレイヤーに襲い掛かる。これをかわすには、プレイヤースキルレベルで素早さを上げる必要があり、15段階あるレベルの内勿論ライトは13まで上がっている。逆に言えば素早さスキルが13レベルあればルナテリオスの得意技、突進を交わすことができる。

「よし、半分まで削れた……やっぱり強いな……」

 女性プレイヤーが疲れたように座り込むと、ルナテリオスも倒れこみ攻撃をしてこなくなった。すると、ライトが大声で叫んだ。

「ひるむな。ルナテリオスがダウンして弱ってる今がチャンスだ!」

「ライトさんに続け―!!!」

 ルナテリオスのクエストでは、敵のHPが半分を超えると1回ダウンする仕組みで、何度も挑戦しているライトには攻撃の出方やダウンのタイミング、また復活のタイミングなどがすぐにわかる為、指揮者にはぴったりだった。


 うぉぉぉおおおおおおお…………んんん……


 大きな雄たけびを残して、ルナテリオスが倒れると、パーティは強制的に依頼されたクエストの場所に戻された。『アリがとウござイマした。コレデ、アンゼンに暮らすコトがデキます。私、ホントウに困ってた。だから、ボーナス沢山ドウぞ』

「やったぁ!」「初クリアだ!」

「ライトさんのおかげだよ!」

 パーティのメンバーには一人も欠けなかったボーナス、クリアのボーナス、更にお礼として12万マネと5千ジュエルがそれぞれ手渡された。更にライトの体を突然光が包み込み、クリアした時の経験値でランクが106に上がったことで新しい称号「選ばれし者」を得た。

「はい」

「え?」

「俺の分もやるよ。俺課金厨だから、こっちの生活に困ってないし。リアルで生活してるから、イベントで籠らない限りマネ要らないんだ」

「ありがとうございます……」

「あんた、こっちで生活してるんだろ?」

「そうです……」

「こっちでも仕事ってできるの?」

「一応、ジョブとかあるじゃないですか。最近もまた追加されて、結構豊富に職業はありますよ! ただ、リアルと一緒で面接とか、履歴書とかあって、NPCに適正と判断されないと仕事できないんです」

 リアルを忘れない為に組み込まれた「エデン」のジョブシステム。NPCが的確に人を判断し、適正であるかを審査する。その審査を乗り越えると「エデン」でもリアルと同じように働くことができる。

「エデン」で生活をしている人には、クエストにでるのが1番早いお金の稼ぎ方で、この女性プレイヤーのように無理をしてでも上級者向けクエストに出る人も少なくない。更に言えば、「エデン」では、現実世界よりもお金の管理が難しく、生活するなら現実世界の倍稼がなければやっていけない。

 お金の単位や数え方は一緒なのだが、マネの価値が凄まじく、感覚としては現実世界の3万円で5日分の食費しかまかなうことができないような物で、現実世界から「エデン」に課金する際は勿論、購入金額分入るが、エデン内では課金制度がないため、生活者が楽にお金を稼げる方法はないと言われている。

 それがエデンで生活する際に強いられる過酷な一面である。もしかしたら、現実世界よりも厳しい「エデン」での生活でも、ライトには、ここにいる人たちが皆幸せそうに暮らしているように見えていた。いつか自分も「エデン」に暮らしてしまおうかと考えるぐらいに、「エデン」は常に心地がいい環境を保っている。

 ライトは、一際賑わっている中央広場まで戻ると女性プレイヤーに念を押した。

「もう無理するなよ。24万マネもあったら暫くは暮らしていけるだろ?」

「はい! これで暫くはやっていけます! ランクが上がるまでは働こうと思います!」

「そうしたほうがいいよ」

「はい!」

「それで、さっきの話なんだけど」

「ああ、ハミティアリスを倒したプレイヤーですね!」


 ・・・


「まじかよ……」


 女性プレイヤーの話しを頼りにクエスト広場の受付に話しを聞くと、確かにハミティアリスのクエストの達成人数が0から1人に変わっていた。


『どうやら、クリアしたのは女性のプレイヤーさんで、ランクは90前後だったと思います! でも、ハミティアリスを倒した経験値で今はぐーんと上がってる可能性もありますけど。でもでもっ、ライトさんよりは全然下だったと思います。戦いを間近で見てたパーティメンバーによると、フードを被って、視界状況が最悪な状態にもかかわらず、倒してしまったので五感が凄く優れた方だったと噂されています』

 ふと、ライトは女性プレイヤーの言った達成者の情報を思い出した。

「あれは、バランスよくスキルを上げてるってことだ……バランスよくスキルをあげるには……多額の課金!」

 目の前にある達成人数を見て、ライトには、武器や装備のレベル。適正プレイヤーランクに明らかに達してないのにクリアしていることについての疑問が次々と生まれてきた。

「まさか……」

 そして最終的に考えられたことは、噂の女性プレイヤーがエデン生活者であるかもしれないという可能性だけだった。

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