第一話:近未来化『WER』
未来化が進む世界に追いつくために、二ホンは2035年に川瀬名グループが開発した、VTG (バーチャル・タウン・ゲーム)「エデン」の中にある機能を一部抜き出した改造版のWER (ワールド・エデン・リアリティ)「ウィラ」を、世界で初めて現実世界へ導入した。
既にニホンの中心地トウキョウを始め、その他トウキョウ都23区で本格的に「エデン化」が進行しているが、この「エデン化」は世界で最も未来を行く技術とされており、全てがネットワークに保護された仮想世界のような現実が実現した。全てがネットワークに保護されているため、サーバー管理職が圧倒的就職率を誇るようになり、人々は、今までよりも便利で快適な暮らしを手に入れることが出来た。
トウキョウ都に住む全ての国民には、「VTGの「エデン」で実際に使用されている腕輪型の機械「セイヴァ」を模したWER用の「ライヴァ」が無料で配られている。これにより、携帯電話や、電子辞書などの電子機器を持ち歩く人々が格段に減った。
電化製品店には冷蔵庫や洗濯機などの大型電化製品しかなくなり、トウキョウにある大手携帯会社などは倒産の危機に追いやられる状態になっている。代わりに川瀬名グループが開発する製品を提供する新会社などが成功を収め、様々な新会社の登場により失業者も減った。
最近では人々の「エデン移住化現象」などもあり、トウキョウ都の人口はVTGの「エデン」が発売された2030年から30%程減ったが、「エデンの移住化現象」は国も黙認している事態である。
この「エデンの移住化現象」をもう少し詳しく説明するなら、VTGの「エデン」は、人間が創りだしたもう一つの世界と言われており、未だ多くが謎に包まれている仮想現実の世界で、当初は開発されたばかりの体感型ゲーム機:EKUMAのみでプレイ可能のRPGソフトだった。
しかし、川瀬名グループが発明した「エデン」専用の腕輪型の機械「セイヴァ」の登場により、行われたアップデートで、「セイヴァ」を持つプレイヤーは「エデン」の世界に入り込み、現実世界のようなプレイができるようになったと言う夢のような話しが実現した際に、本来の現実世界を離れ仮想世界で暮らし始める人が出てきたと言うことだ。
エデン利用者には主に若い人が多く、10代後半から30代後半の間で元々親しまれていたが、現実世界でも進む「エデン化」や、ゲームをリアルに体験できる爽快感から、VTG「エデン」の利用者は年々増加している。
これからも二ホンの人口は減っていくと思われているが、川瀬名グループは最近の会見で、WER (ウィラ)が今よりも開発されれば、現実世界で「エデン」を楽しめる時がくるとも発言している。
・・・
ジリリリリリリリリン!
ジリリリリリリリリリリリリン! カチっ!
「んー……!」
眠い体を起こして窓辺に立ち、カーテンを開ける。そこで深く息を吸って腕を上げ一気に伸びる。
「あれ、今日は雨の予報だったのに、晴れてるな」
この世界で昔からなにも変わらないのは、天候ぐらいだろう。
どこもかしかも近未来化が進み、横断歩道の信号さえ、3D映像になり、青や赤信号になると中の人が前に出てくるため昔よりも主張が激しくなった。映像の為、発光が凄まじく都内の方や信号が多い通りでは夜でもかなり明るくなった。
今までカーテンをつけずとも眠れた夜はどこにもなく、どの家にもカーテンは必須アイテムとなった。
少し寝癖のついた黒髪をピョコピョコと揺らして、大きな欠伸をしながらキッチンへと向かう。
トウキョウの田舎から都内の方に引っ越してきてまだ数時間しか経っていない為、部屋には段ボールの山がいくつか見える。その山を今日中に片づけなければならないと考えると少し憂鬱な気分になった。
「ポットって、持ってこなかったっけ…… ああ、あったあった」
段ボールを一通り開けて、その中からポットを見つけ、お湯を沸かす間に昨日買った菓子パンを食べる。食べながらふと、壁に掛かった高校の制服を見るとまた少し憂鬱になり、明日から始まる高校生活に少し不安を感じた。
残りの菓子パンを平らげ、熱いコーヒーを飲むと腕につけた「ライヴァ」からアニメの曲が流れた。表示された文字をみると、そこには「母」の一文字。受話器のマークを押して、「ライヴァ」を腕から外しキッチンのカウンターに置くと、数時間前に別れた母の顔が映し出された。
「はいはい?」
『あ、もしもし?? おはようー! どう? 元気にやってる?」
「あー、やってるよ 今日の昼間に残りの荷物が届いて、今日は忙しいそうだけどさ」
『そっかそっか! 明日から新しい高校だもんね! もう不登校とかやめてよ?』
「今憂鬱になりかけてたとこ」
『もうだめだめ! そういう癖がついてるのよ』
『あーー! 兄ちゃ! 兄ちゃー!』
「おー、苺花 おはよー」
『兄ちゃ! 兄ちゃ!!』
『あー!!! 苺花だめ!』
電話の映像が途切れて、苺花がライヴァを落としたんだろうと悟ると、すぐにまた電話が掛かってきた。
「電話でる」
ライヴァにそう話しかけるとまた母の顔が映し出される。
『輝聞こえる?』
「聞こえてるよ」
『今日は引っ越しの荷物片づけて、早く寝るんだよ?』
「わかってるよ」
『あと、ゲームは程ほどにね!』
「わかったわかった」
『ほんとに大丈夫かなぁ~? じゃあ、またね! 学校頑張ってね!』
プーーー……プーーーー…
やっと電話が切れると、ヒカルはまたライヴァを腕につけ、備え付けのテレビをつけた。
中学時の虐めが原因で不登校になってしまったヒカルは、だれも受けていないであろう都内の私立高校を受験し合格した為、田舎に家族を残して都内で一人暮らしを始めていた。
重い腰を上げて先ほど開けた段ボールの中身を少しずつ片付ける。すると愉快な音楽がテレビから聞こえ出した。
『我が社は、安心安全のソフト開発を心がけ、その中で、未来に、世界に通用する製品開発を目指しています。皆さまが身付けているこの「ライヴァ」は、今までのスマートフォンにも劣らない機能は勿論、アプリや音楽を制限なく満足いくまで入れることができる内臓容量を備えております。是非、既存のスマートフォンを辞めて、「ライヴァ」をご使用してください!』
毎日、川瀬名グループの商品を勧める新コマーシャルが流れて、日に日に近未来化が進んでいると言う現状を身に染みて感じる。
荷物を片づけてるとあっという間に昼間になって残りの荷物が届いた。引っ越し業者に大きい家具を運んでもらっていた為、思いのほか片づけはすぐに終わって、夕方には段ボールを畳む作業まで終わらせることが出来た。
「ふぅ~……これで終わりっと……さて、エデンやろうかな……」
ヒカルは、ライヴァとよく似たセイヴァを腕につけて、丸いセンサー部分を壁に当てた。「エデン」に入るには人が通れる幅の壁が必要で、そこに腕輪を伸ばすと鍵穴が現れ扉が出現する演出があり、その扉が「エデン」の入り口となる。
「エデン」ではプレイヤーの肉体や顔はそのままで、身体能力と特殊能力が身に付く。ゲーム内では様々な役職になることができ、勿論、敵やミッション、ランク、クエスト、イベントなどの要素もある。その点は他のRPGゲームと変わらない。ただ、それを倒すのは自身であり、死んだらセーブ地に戻るか、現実世界に帰るかを選ばされ、「エデン」で暮らす人々には更に、家に帰宅のコマンドが増える。
敵を倒すその感覚がしっかりとあり、ケガをしたら微妙な痛覚もある。その緊張感やリアルさがゲーマーの心を駆り立て、「エデン」を人気にさせたのだった。ただ、人前で服を全て脱ぐことや性行為などの卑猥な行為は禁止されており出来ないが、部屋にプレイヤー一人のみの場合だけ着かえる事ができる。これは、「エデン」で暮らす人々の為の制度と言われている。
因みに、「エデン」では、プレイヤー名を一度だけ変更することができ、ヒカルは「ライト」と言う名前でプレイしており、中学不登校時にかなりやりこんでいた為、ランクも78と高い。「エデン」のプレイヤー達からも、マルチに誘われたりと「エデン」界では中々有名なプレイヤーだった。
「さぁ、やりますか!」