表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

三.猫とアレルギー

シュウシュウは、天気が良い日には庭にやって来た。

猫が来ると、くだんの変な音が聞こえるので、すぐに分かるのだ。

最初のうちは、私と目が合うとシュウシュウは逃げていったが、日が経つうちに逃げなくなった。

私もシュウシュウが逃げないように、窓からこっそりと覗いて見た。

私は庭を覗きながら、ひとりで悦に浸っていた。


蒼汰は晩酌の時に、シュウシュウの話を訊くのが日課になった。


「今日は猫、来たの?」

「うん、エアコンの室外機の上にいたよ」


私は携帯電話のカメラで撮影した『シュウシュウ』の写真を蒼汰に見せた。

蒼汰は写真を眺めながら言った。


「飼い猫なのかなぁ、毛並みはあんまり良くないけれど」

「どうだろう。ノラ猫にしてはでぶだし、エサに困っていたらもっと人にびてきそうだけれど」

「シュウシュウはメスだと思うよ」

「えっ、何で?」

「まだら模様や三毛猫は、ほとんどがメスだって。理科の先生から聞いた」

「へぇ・・・変な音といい、目つきの悪さといい、メスに思えないな」

蒼汰は携帯電話を私に返しながら言った。

「なんか、姉ちゃんが来てくれて楽しい」

「そお?」

「帰ってきて、明かりが点いているのはいい。

ご飯もできているし、弁当も作ってくれるし、猫の話もできるし」

「だったら結婚しなよ」

「恋人とか奥さんとかって、他人じゃない?他人と一緒に住めるか不安で。

姉ちゃんには気を遣わないから楽だけど、恋とか愛だけのつながりだと『気持ちが覚めたらどうなるか』って思う」


蒼汰は姉の私から見ても、それなりにモテる風貌だった。

身長は170 cmを超えているし、太ってもいない。

目は一重瞼の割には大きく見えて、視力もいいし目つきも悪くない。

髪の毛は少し癖毛がかっていて、薄くもない。

中学生や高校生の時には、バレンタインデーにチョコレートをもらって帰ってきたような記憶がある。

学歴も高いし、性格も穏やかだ。

私が作る適当な料理も、お弁当も『美味しい』と言ってくれる。

これで『気を遣っていない』のなら、どれだけデキた男なのだろう。

私は思わず言った。


「考えすぎだよ。彼女だっていたでしょう?

蒼汰は姉から見てもいい男だと思うよ?」


弟は残ったビールを飲み干して言った。


「ありがとう。でも恋人はしばらくいいや。

まずは、今の生徒を無事に卒業させないと」


蒼汰は高校二年生の担任で、来年はそのまま三年生を担当する。

今のうちから、生徒の卒業後の進路を考えなければいけないのだと言った。


「そうか、最初の担任の生徒だから、責任重大だね」

「うん。だから、弁当とか助かる」

「私が来る前は、どうしていたの?」

「通勤途中でコンビニに寄ったり、仕出しの日替わり弁当を注文したり。

でも、日替わりだと、エビとかカニが入っていたりして。

他の弁当を選べばいいのだろうけど、メニューを決めるのが面倒だし」


蒼汰には甲殻類アレルギーがあった。

私にアレルギーではなかったが、二人だけの食卓に、甲殻類が入っているおかずを出すことはなかった。


「そっか。私の弁当も、少しは役に立つのね」

「俺は姉ちゃんが来てくれて、良かったと思っているよ」


蒼汰の言葉は、私の胸にすとんと落ちた。

色々なものを無くした私に、何かをくれたような気がした。

ふいに涙が出そうになった私は、それを隠すように言った。


「晩酌はそのくらいにしようか。ご飯を盛るね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ