二.It’s time to say hello.
宮城で暮らしはじめてからの、私のタイムテーブルはこうだ。
朝六時に起きて、朝食と蒼汰のお弁当を作る。
蒼汰は七時半に出勤するので、その後に掃除と洗濯をする。
蒼汰が帰宅するのは夜の七時以降なので、それに合わせて夕食の準備をする。
蒼汰が帰ってきたら、一緒に晩酌&夕食を食べる。
その後は、テレビかネットを見たり、風呂に入ったりして、十二時には寝る。
昼間は買い物や散歩に行くときもあったが、ほとんど家にいた。
私は宮城に知り合いがいないので、誰かとお茶をするということもなかった。
蒼汰は陸上部の副顧問で土曜日も学校に行っていて、家にいるのは土曜日の午後か日曜日くらいだった。
蒼汰は私の部屋を用意してくれたが、私は寝る時以外はほとんどリビングにいた。
そしてテレビを視るか、リビングの机にノートパソコンを置いて、ネットサーフィンをして過ごした。
携帯電話はリビングに放置したまま、ほとんど見なかった。
そんな日々を過ごしていたある日、リビングの窓の外から変な音が聞こえた。
クフッ、グフッ、プシュ・・・・。
***
その日の夜、私は蒼汰に『変な音』の話をした。
蒼汰は私のあほな話でも、いつもちゃんと聞いてくれた。
「窓の外でね、変な音がしたの。『某SF映画のベイ×ー卿の呼吸音』みたいな。
それで、窓から外を見たら、いたのよ」
私が勿体ぶりながら言うと、蒼汰はあっさりと正解を言った。
「猫でしょう」
「そう、猫!って、あんた知っていたの?」
蒼汰はビールを一口飲んでから言った。
「俺もその音を聞いたことがある。で、外を見たらまだら模様の猫がいた」
「そう、まだら模様の猫!ちょっとデブで、目つきが可愛くない猫!」
「目つきは・・・瞳孔が細くなっているせいじゃないか?
あの変な音は、肺かなにかがやられているのかなぁ、って気になって。
にゃあ、とか鳴かないし」
「どうだろう?結構オトナの猫だよね?病弱そうには見えなかったけど」
私が興奮気味に言うと、蒼汰は笑顔になって言った。
「良かったじゃん、話し相手ができて」
「『話し相手』にできるかどうか。懐きそうにないけれど。
窓を開けたら速効で逃げたし」
「まぁ、うちで猫を飼ったことがないから、扱い方とか分からないな」
父には動物の毛のアレルギーがあったので、私たち姉弟は実家で動物を飼ったことがなかった。
「そうねぇ・・・」
私はその猫を『シュウシュウ』と呼ぶことにした。
その日から、私たち姉弟の話題の中心はシュウシュウになった。




