『5章』 記憶
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あの日から9年。悠夜は約束通り元気になってくれた。それどころか、悠夜は今ではサッカー部のエース。学校期待の星で、全校女子の憧れの的だった。
片や私は、同じ高校に通ってはいるが、悠夜が快活な人気者になればなる程、以前とは真逆の、人見知りの臆病者になっていった。
当然悠夜との距離は広がる一方。いつの間にか会話らしい会話ももう何年も出来なくなってしまった。
と言うか、私が悠夜を避けまくっていた。こんな私が悠夜と幼馴染だなんてみんなに知られたら、どう思われるか、何て言われるか、それを考えると恐くて仕方なかったから。
そもそもあの約束自体、悠夜は熱に浮かされて言ったような言葉だ。言った事すら覚えていないかもしれない。あの指輪だって、チェーンをつけて、今でも私が肌身離さず首に掛けているなんて知ったら、嫌がるどころか怯えるかもしれない。
悠夜がそんな人じゃないって解ってはいても、恐くて恐くて、私は自分の気持ちからも、悠夜からも逃げ続けていた。
そんな泣きそうな気持ちを毎日抱えながらも、遠くから悠夜を見つめていた私に、トドメのように教えられた佐伯さんの気持ち。
そして、私はとうとうあの日、決定的な場面を見てしまったのだった。
二人が肩寄せあって一緒に下校していく姿を。信じたくなくて、単なる偶然だって思いたくって、悪いと思いながら、いつの間にか二人の後をついて歩いていた。
すると二人は楽しそうにカフェでお茶して、佐伯さんの洋服を一緒に選んで帰って行ったのだった。
その後どこをどう歩いていたのか、泣きながらフラフラ彷徨い歩いていた私は、そう車に撥ねられて・・・。
全部思い出した。私の名前は立木舞。そして彼の名前は永井悠夜。