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8話* 「私の大切だった人に似てますね」

 紅茶に口をつけながら顔を上げ、目を合わせる。


「あのラウリスさんの大切な人ってどんな人なんですか?」


 これから人捜しをするのだ、少しでもその人の情報を知っている方が良いに違いない。

 ラウリスさんが何かを思い出すように、私から目を離し湖に目を向けた。


「その人はとても優しくて、心が強い人だったよ その人に多くのことを教えてもらった」


 そう呟くと、小さく微笑んだ。

 優しくて、強い人、多くを教えてくれた人。

 本当に私と似ている。


「私の大切だった人に似てますね」


 もう会えないと分かっていても思い出すと優しい気持ちになれるのだ。同じように湖に目を向けるとラウリスさんがこちらに目を向けた。


「君にも居たんだね そんな人が」


 その言葉に、頷き、笑顔を作る。


「居ました。もう会えないんですけどね」


本当に申し訳なさそうな表情で目線を下に下げる。


「ごめんね 変なこと聞いて・・・」

「ぜんぜん大丈夫ですよ だいぶ前の事ですからもう寂しくて泣き腫らした時期は終わりました。今は良い思い出ですよ。 それにさっきも言ったじゃないですか、ラウリスさんなら聞かれても構わないと思えるんです」


 先ほどの出来事を思い出す。

 ラウリスさんが申し訳なさそうな顔をして、私が構わないという。

 さっきとはまるで逆だ。


「この状況はさっきとは逆ですね」


 小さく笑うとラウリスさんも同じように笑ってくれた。


「それもそうだね 逆だ」


 お互いに笑いながら手に持っていた、紅茶を机の上に置く。


「君の大切だった人はどんな人だったんだい?」


 自分の大切だった人を思い出す。良いところはたくさんがあるが、あの人の一番良いところはこの三つだろう。


「誰よりも優しくて、強くて、多くのことを知ってた人ですよ」


  本当に素敵な人だった。


「僕の大切だった人と一緒だ」

「やっぱり私たちは似たもの同士ですね」


 二人で再び笑い合う。

 そんな中、隣の机で食事をとっていた、お姉さんたちのたわいない会話が、私の耳に入った。


「ねぇ知ってる?国王陛下が一人の女の子を探してるんだって」

「それなら知ってる!! 確か、お姫様が行方不明になっている やつでしょう?」

「うん それで今この辺を兵隊さんたちが総出で探しているとか」

「えぇ!?そうなの!」

「そうそう それでさっき、こちらに向かってる軍を見たんだよね しかもそこにはさ、黒薔薇様と賢者様が居て、すごい素敵だったよ!!」

「えぇいいな~もしかしたら私もここに居たら見れるかな?」

「たぶんね!!」


 その会話が耳に入った時、私はカフェの椅子から反射的に腰を上げていた。

 軍が総出で一人のお姫様を探す、その言葉に心当たりがありすぎである。


 「ラウリスさん 私、帰りますね」


 まだ湯気を立つ、紅茶を机に残し立ち上がるとラウリスさんが驚いた顔をする。


 「いきなりどうしたの?もしかして口に合わなかった?」

 「いいえ とってもおいしかったですよ!! お代は今度絶対に払いますから!! 今日は失礼します!!」


 頭を深々下げて、走り出そうとする私の左腕を誰かに掴まれ、驚いて振り返るとラウリスさんが少しだけ寂しそうな表情で私の顔を見つめていた。


「どうしたんだい?いきなり・・・」

「すみません 本当はもっと話をして、ラウリスさんが探している人のことをもっと知りたいです。けど今は無理なんです・・。あの暇があったら、この場所にまた来て下さいね!!私も会えるときは待っているつもりなので」


 ラウリスさんの手から自分の腕をそっと放して、笑顔を向けるとラウリスさんは寂しそうに微笑だ。

 

「あぁそうだね また会える。腕を掴んでしまってごめんね」

「いいえ また」


 小さく手を振りながらラウリスさんに背を向け、足を踏み出す。

 

 向かう場所。そんなものはないけれど今は捕まりたくない。もし捕まってしまったら、外に出れる事が出来なくなるかもしれない。それならばもう少し逃げてこの町を見てみたいのだ。






 人通りの少ない通りでじっと息を潜める。

先ほどから人通りない道を歩きながら隠れているのは良いのだが、ここまで来るのに私が見た兵士さんたちの姿は軽く十を超えているだろう。幸いまだ見つかっては居ないのだが・・。


「まだお姫様でもないのに、この扱いって・・・」


 現代ではありえないことがこの世界に来てから起こりすぎだ。

 なぜ一般人がお城を抜け出しただけで、こんなに大捜索されなければならないのだろうか・・。


「もう嫌だ・・」


 壁にもたれ掛かりながら、そう呟くと目の前に腕を組みながらこちらを睨んでいるルキリスと赤い瞳と焦げ茶色の短い髪を持つ黒い騎士のような服を着る同年代ぐらいの男の人が腰にある剣に手を添えながらこちらを見つめていた。


「ルキリスさん・・・」


 目の前に突如現れた二人に驚くよりも、罪悪感という感情が心の大半を占めていた。

 良い姫になると言ってくれた人、姫になる気はないとしても嬉しかった。なのに、こんな仕打ちをしてしまったのだ。やっぱり失望されただろうかと・・・


「すみませんでした」


 そう呟くとルキリスは何も言わずに、こちらに背を向ける。

 やっぱり失望されてしまったのだろう。

 小さく下をうつむいていると、黒い騎士服を着た男の人が私の肩に小さく手を触れる。


「ルキリスは誰よりもあなたを心配していましたよ 帰りましょう」


 男の人の言葉に再びルキリスの背中に目を向けると、ラウリスさんが背を向けたまま言葉を紡いでくれた。


「いくぞ 黒姫」

「はい」


 その言葉に涙がこらえながら小さく首を縦に振る。


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