2話* 「ただ平凡に幸せに それが私の夢」
私はある一室に来ていた、その場所はとても美しい赤を貴重として作られているとても美しい部屋だ。
正面には二つの椅子が並んでいる。そこには先ほどタックルアンド絞め殺そうとしているとしか思えないような抱擁をかましてくれた、エリスという女王陛下とディアスという国王が座っていた。その前にはルキリスが立っている。その姿は先ほどまでとは打って変わってとても美しく、毅然としていた。これが真実の姿なのだろうと思わずに居られなかった。
「改めて名乗ろう 私がこの国の国王である ディアス=フィミリスだ そして妻であるエリス=フィミリスだ」
「よろしくお願いね」
「名前を」
そう国王に問われ、こちらも頭を下げながら言葉を発する。
「アイ=ミヤシロ」
本名は宮代愛だが外国名でいけば間違いなくこうなる。
「そうか アイよ そなたを待っていたよ」
再び言われた「待っていた」という言葉。それはどういうことなのだろうか・・・
「待っていた?」
再びその言葉を繰り返すとルキリスがこちらを見据える。
「俺たちが居るこの国は緑の国リストス、またの名を魔法の国だ。この国はとても魔法という技術が盛んでそう呼ばれている。そして、リストスには少し変わった伝統がある、それが夫婦共に40歳を超えたときに召喚の儀式を行い、召喚された者を養子にする。まぁ今でもその伝統を守っているのは王族だけだがな」
この話を要約するとどうやら私はその召喚の儀式というものに召喚されてしまったらしい。
「待ちわびていた 私たちの夫婦の子供になってもらえないか」
息を呑んだ。魔法という非現実的な事に私は選択権など皆無な状態で巻き込まれてしまったらしい、私の意識を完全に無視している。そんな自分勝手な発言に素直に「はい」と返事が出来るわけがない。国王の娘という事は姫になるということだ、その地位を欲しがるものは他にたくさん居るだろうけれど、私はそんな地位はいらない。私の夢はただ平凡に幸せになること、それが私が祖母と約束した夢だ。
「お断りします ですからすぐに帰してください元の世界に」
二人の目をしっかりと見つめそう応えると二人の瞳がわずかに揺れる。
「・・・・なぜ・・・・」
国王がとても寂しそうな目でそう問いかけてくる。
「ただ平凡に幸せに それが私の夢」
そう呟くとルキリスが切れ長い目を更に細め冷たい目でこちらを見る。
「お前に選択権はない この儀式でもとの世界に戻る事など出来はしない」
なんとなく分かっていたこの世界に来るときに感じた現実世界から切り離されたような感覚。切り離す事は簡単でたわいないが、その切り離した物を完全に元に戻すことなどできはしない、分かっていたけれどはっきり言われると心が痛い。
「そうだとしても・・・私は娘になんかなりたくないです」
はっきりとそう言って、三人に背中を向けて出口へと向かうとルキリスが手をパチンと鳴らすと同時に何処からか湧いてきた数名の兵士たちが目の前に立つ。
「なっなんですか」
「もうしわけないです 黒姫様 わたくしたちはアーヴィス卿の兵であるため命令に逆らう事は出来ませんのでご了承を」
「いったい私が何したって言うの・・・・なんでいつもいつも私ばかり不幸にならなきゃならないの」
世界はいつでも寂しいものだ、自分の思い通りになることなんで一握りしかない。涙が自然と溢れる。膝に力が入らない。
「おばあちゃん やっぱり世界は残酷だよ」
その場に座り込みポタポタと涙を流していると、足音がすぐ横まで近づき音が止まると私の肩にそっと手を乗せる。
「泣かないでくれないか 私もそなたに泣かれるととても弱い」
その声はとても優しい、けど・・・だったらなぜ自由にしてくれないのか・・・そう思うと再び涙が溢れる。
「しばし眠るといい」
詩のような声に瞼が重くなっていく、そして最後には意識は遥か遠くに・・・