18話* 「私これ着れる気がしない」
エルス母様たちとの熱い話合いという名の討論も終わり、ドレスとローブが完成したのは三日後の事だった。
リリア姉様も準備万端の様で私よりも先に母様の部屋に飾られていたドレスを興味深そうに見ていた。
ちなみにそのドレスは水色だ。私があまり派手なのは嫌だと言っておいたのでシンプルでいて、右肩にある大きなリボンが愛らしいデザインになっている。これならまだ着れると思いたい。
ヒラヒラふわふわはどうも自分が着れる気がしないのだ。
「うぅ~ん やっぱりもうすこし派手な方が良かったんじゃないかしら」
「母様 私も同意見ですわ アイちゃんにはもっと可愛らしいのが良いに決まっているわ」
唸りながらドレスを見ている二人に慌てて声を掛ける。
「リリア姉様 エリス母様! 私はそれで大満足だよ とても素敵だと思うし」
今にもドレスの改造を始めそうな二人を慌てて制止する。
「「そうかしら」」
二人で少しだけ不服そうな顔をする姿に私は慌ててその横のローブに話を逸らす。
「その横のローブはどんな感じ」
私の一声に二人の目線がその横に行く。
確かこのローブは私が舞の時に着る衣装なのだが、ルキリスの言葉通りローブの丈がとても長く間違いなく地面をずるだろうし、フードも深く前が見にくそうだ。
色はドレスと同じ水色。
ちなみに私はマリアの花をイメージした服が良いと注文をしたので、マリアの花をあしらった所々にレースが付いている、フードにも白と水色のマリアの花が付いているようだ。
ヒラヒラでとっても愛らしい感じだ・・・・・
「私これ着れる気がしない」
恐る恐る二人を見ると二人は満足そうに微笑んでいる。
「うふふふ これは素敵ね」
「これならアイちゃんに似合うわ」
二人の嬉しそうに頬笑み合っているが、私はというと固まるしかない。
まったく着れる気がしない・・・・
「それにしてもアイの舞ではどんな魔光が飛ぶのかしらね 楽しみね」
「私はアイちゃんなら蝶の様な魔光が飛ぶ気がするわ」
「あらそれは素敵ね けど私はアイならシャボン玉のように色とりどりの魔光だと思うのよね」
二人が楽しそうに会話をしているが、私はと言うと良く分からない言語に戸惑っていた。
「あのエリス母様、リリア姉様 その魔光って一体なに?」
魔光という言葉なんて初めて聞いた、やっぱり魔とつくからには魔法関係な様な気がするが
「あら アイはまだ知らないのね 魔光と言うのは自分自身の魔力の色や形により発生する光の事なのよ 舞を広場で踊る時や上級魔法を発動する時に発生するものよ」
舞や魔法発動で発生する光っていったい何!?
少しだけ不気味な気がするが、嬉しそうな二人の様子からこの世界では発生する事自体は喜ばしい事みたいだが問題がある。私は魔法が使えないと言う事は魔力を持ってない訳で、その魔光というものが発生する可能性も低いはずだ。
「けどこの国の皆みたいに魔法使えないから、その魔光とかが発生する可能性は低いんじゃないかな」
私がそう答えると二人が顔を見合わせるが、すぐにこちらに目を向けた。
「アイにも魔力はあるはずなのよ この世界に召喚されると同時に微少でも魔力が体に宿るのよ だからアイはその首飾りだけでこの城の外に出て行けるんだもの」
「けど これは父様が作った首飾りで魔力が宿ってて、それを持っていれば城外に出れるっていう話をルキリスから聞いたんだけど」
「そうよ そこなのよ アイちゃん! その首飾りは持ち主の魔力を引きだす、力を秘めているけど、その首飾り自体には魔力はないのよね だからアイちゃんにも微少だとしても魔力があると言うことになるわ」
リリア姉様が指を立てながら説明をしてくれたが、私自身に魔法なんていうチートな能力があるとは思えない。
「そうなのかな」
「「そうなのよ」」
半信半疑にそう呟くと母様とリリア姉様がハモりながら返答をしてくれた。
あまり納得していない私だがドレスやらローブやらを見終わった頃に母様の部屋の扉がノックされた。
「エリス ロッドが届いたようだ」
父様の声を聞くと母様が思いっきり部屋の扉を開けた。
「あなた ナイスタイミングよ 今、ドレスとローブの確認が終わったところよ」
「それは良かった ではアイ すぐに応接間まで来て欲しい」
父様の言葉にコクリと頷き、応接間まで向かおうとすると後ろからリリア姉様も母様もついてくる。今では父様も居るからとても大所帯だ。
ここで私が自分だけでも良いと言った所でこの三人が引く訳ないと分かるため、大人しく大所帯で応接間まで向かっている。
そして応接間に到着し、扉を開くとそこには美しいロッドを持ったルキリスが見覚えのないお爺さんと会話をしている。
「黒姫 来たか これがお前のロッドだ」
ルキリスがお爺さんに頭を下げたのちに、こちらにロッドを持ったまま近づき、私に手渡す。私の身長より長いロッドだがとても軽く、私でもすんなり振る事が出来る。
杖全体の色は銀色でロッドの先端には水晶の様な鉱石で作られた花の形をした造形が付いており、水色と紫の宝石が埋め込まれている。
美しく、とても高価そうだ
「凄く綺麗 けどなんというか私が持つのがもったいないような」
私がボソリと呟くと、お爺さんが可笑しそうに笑う。
「アーヴィス卿が言って通り、変わった姫様のようじゃな」
「それが黒姫の長所だからな」
お爺さんとルキリスに馬鹿にされているような気がするのは気のせいじゃないよね
「オール 羨ましいだろう」
「アイは良い姫なのですよ」
微妙な顔をしている私を余所に、いつの間にか応接間の椅子に座っていた父様と母様が自慢げにそんな事を言っている。
ハッキリ言おう彼らは完全な親バカ夫婦だと思う。
「ふふふふ そうですか 名乗り遅れてしまい申し訳ないのう 私はこのリストス城に仕えている宮廷魔法道具職人のオールじゃよ」
お爺さんが笑いながら私に挨拶をしてくれる。
「私はアイ=フィミリスと申します オールさん よろしくお願いします」
頭を下げるとオールさんはうんうんと納得したように頷く
「世にも珍しい黒い瞳を持っている姫君とは聞いていたが、本当のようじゃな」
「私としては珍しいとは全然思わないんですけどね 変ですかね」
この世界に来たばかりの時も珍しいと言われて、誘拐されかかったくらいだ やはり本当に珍しいのだろうとは思う
「変ではないぞ 美しい瞳じゃ」
あまり言われ慣れていない、その言葉になんだか少し照れてくる私だ。
「ありがとうございます」
お礼を返すと同時にオールさんが私の手元にある杖を指さす。
「ワシが作った杖は気に入ってもらえたかのう」
「はい とても けど高そうです」
庶民思考の私は正直に答えると、オールさんが可笑しそうに笑いだす。
「そうか 高そうか だが ワシが心を込めて作った杖だ 黒姫様に持ってほしい 国王陛下やエリス様、ご兄弟、それに門番や使用人たちから聞いた黒姫イメージから作った世界で一本だけの杖じゃ」
「私のイメージですか」
凄く綺麗な杖過ぎて私のイメージと言われてもピンとこないものがある。
「そうじゃあ ぜひ受け取って欲しいのう」
オールさんのにこやかな笑顔に私は無意識にコクリと頷いた。
「ありがとうございます 大切にしますね」
「あぁそうしてくれ」
私の言葉にオールさんが満足そうに微笑んだ。




