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17話* 「ありがとうございます」

継承式典まで後1週間。

リリア様とアレス様の熱心な指導のおかげか、美しくはないが大体の動きは把握出来たような気がしないでもない。ルキリスのマナー講習もとんでもなく厳しいため、とりあえずの動きは出来るようになった様な気がする。


リストス城の食堂にて6人で夕飯を食べながら私はぐったりとしていた。

毎日、稽古ばかりで体が痛いです。

ディアス様たちに気付かれないようにそっと溜息を零していると、エリス様が笑顔で私の方を見つめてくる。なんだろう何か嫌な予感がするのは気のせいかな・・・


「今日 アイが舞踏会着るドレスと舞で着るローブをどんなものにするか話し合いましよう!!」


キラキラした目というか、お人形を目の前にした少女の様な瞳で見つめてくる。


「あっ ありがとうございます」


とんでもない服にならない事を祈りながらお礼をすると、エリス様が無邪気に手を叩きながら良い事思いついたと言わんばかりに笑っている。


「そうなのよ それでね 明日の朝 私のお部屋に来てね」


舞やらダンスやら、マナー講座で体中も頭も痛い私はぜひとも遠慮したいがエリス様の美しい笑顔に何か言えるわけもなく頷いた。すると今度はリリア様がキラキラ光線を私に向けてくる。


「アイちゃんのドレスとローブですって、私もぜひ参加したいわ!」

「あら リリア なら一緒にアイの晴れ姿を考えましよう」


リリア様のエリス様が凄い嬉しそうに会話をしている。

けどあの二人に着せ替え人形にされるなんて私は死ぬんじゃないかと少し心配になってくる。


「何 アイのドレスとローブだと!??それなら私もぜひ参加したい!」


大声でそう叫んだのはディアス様だ。

いや あなたも!?と私は心の中で突っ込みを入れていたが、エリス様が不機嫌そうに目をそらした。


「あなた アイの晴れ姿を話し合えるのは女性の家族の特権ですのよ 当日まで我慢なさってください」

「なっ!それはあまりではないか!?アイは私も参加して良いだろう!」


今にも泣きそうになりながらブーブーと言いながら助けを求めてくるディアス様に私が再びため息を吐いた、アルさんが言っていたディアス様からは想像できないほどの残念ぷりである、それでも美しいから絵になるんだけどね


「ディアス父様 あまりアイ姉様を困らせてはだめですよ もうすぐアイのロッドの形態が決まる日です 最後の詰めしたいとオールが言っていました ディアス父様は僕とルキリスと一緒にそちらに参加してください」


フォローを入れてくれたのはカイリ君だ。


「何!?それは私も参加しない訳にはいかないな アイの式典で使うものだ 豪華なものにしよう まずはマリアの花の宝石は必ず入れたいだろう、他にも火山の国ビルアスの虹の石も入れたい、雪の国トリスの氷上の結晶も入れたい、それから・・・」


ものすごく嬉しそうに頭の中でいろいろな宝石らしきものを想像している彼に私はそっと声を掛ける


「あの ディアス様 そのあんまり豪華なロッドは止めてくださいね その勿体ないので」


他の国の基本知識しか持ってない私でも分かってしまうほどに、その虹の石やら氷上の結晶という宝石はとても高価だ。それはもう国宝級にそんな宝石たちが埋め込まれた豪華なロッドを作ってもらって、変な舞でもしてしまったらディアス様に顔向けできない

本当に止めて欲しいと言わんばかりに説明をしているとディアス様の表情が暗くなる。


「まだ私の事を父様と呼んでくれないんだね しかも敬語のままではないか 私はアイが養子になる決断をしてくれたとルキリスから聞いてとても嬉しかったのだよ やはりまだ勝手に君を召喚してしまった私を怨んでいるのかい」


さっき以上に今にも泣きそうになっている。


「ちっ 違います そんな事はないですよ 私は怨んでなど居ません リストスの国を国民を愛していくと誓いました ディアス様たちのことも愛して行くと ただまだ恥ずかしいのです 私は小さな頃に父と母を亡くし 兄弟もいませんでした 家族は祖母だけでした だから・・その父さんや母さん、兄弟という たくさんの家族に慣れないのです」


私があたふたと説明を始めるとエリス様が立ち上がり私の傍まで来る。

そしてギュッと抱きしめる。とても良い匂いがする。


「アイ 私たちを愛してくれると言ってくれてありがとう 私もあなたを愛してるわよ 私の大切な娘なんですから」


優しい声でそう言ってくれた彼女にジワリと目がしらが熱くなる。

嬉しい・・・そう心から思える・・・


「ありがとうございます」

「アイ これからは共に過ごしていこう 大切な娘に 敬語で話されるのは寂しいものだよ」


ディアス様が優しい目をする。

瞳に私はコクリと頷いた


「父様 ありがとう」


その一言に父様が嬉しそうに頷いた。


「そうですよ アイ 私からもお願いします 敬語なんていりません アレス兄様とでも呼んでください」


アレス兄様が優雅に頬笑む。


「そうよ アイちゃん 私のこともリリア姉様でお願いね」


リリア姉様がテーブルから立ち上がり、母様に抱きしめられている私の頭をワシャワシャと撫ぜる。


「そういえば 僕はアイ姉様にもうカイリ君と呼ばれていました」


カイリ君が思いだしたように言う姿にディアス父様がまた頬を膨らましだした。


「なっ 何だとカイリ なぜだ!? なぜカイリだけ」

「年が近いからでは」


父様が拗ねているにも関わらず カイリ君が表情を変えず返事を返す姿に自然と笑いが込み上げてくる。


私はこの家族が好きだ。

心からそう思える。






リストス城での食事が終わり、黒百合塔の自室に戻る前にアレス兄様の薔薇園に寄っていた。アレス兄様の話ではこの薔薇園には使用人さんたちが入れないように魔法で結界が貼ってあるらしく、薔薇の手入れはすべてアレス兄様が行っているとの事。

それなのに綺麗とはさすがとしか言いようがない。

今日は夜の薔薇園を見たいとアレス兄様に伝えた所、結界を解いてくれたので自由に入る事が出来る、さらに光魔法で光源を作ってくれたのだ。


「やっぱり綺麗 さすがアレス兄様だよね」


昼間とは違う幻想的な雰囲気に感嘆の声が出る。

薔薇園を歩いていると後ろから聞き覚えのある声が耳に届く。


「黒姫 こんな夜更けに何をしている もう食事は終わったとディアスから聞いたのだが」


その声にくるりと後ろを振り返るとそこには相変わらずの無表情のルキリスが腕を組みながら立っている姿があった。


「アレス兄様に薔薇園が見たいと伝えたら、結界を解いてくれたので少し寄ってたんです」

「いつもの時間に黒百合塔に戻ってこないで、一人で薔薇園に来たのか」


眉を寄せながらそう言ってくる。


「一人も何もここはお城の敷地内なんですよ だから大丈夫ですよ」


城下町に出た時に、変な男たちに追われたりもしたがここはお城の中なのだ特に問題ないはず。お城の前には門番さんたちもいるしね


「そうかもしれないがな」


眉を寄せながら目をそらした彼に少しだけ悪戯心が芽生える私だ。

いつも冷静そうな彼が焦っている姿なんて珍し過ぎる。


「ルキリスさん意外と心配症ですか?」


彼の顔を覗き込むと彼はくるりと向きを変え、こちらに背を向けスタスタと薔薇園の入り口の方に歩いていく。


「お前を心配した俺がバカだったようだな」


呆れたような声を出しながら、入口の方へ向かう彼に慌てて声を掛ける


「ごめんなさい 少しだけ焦っている ルキリスが面白くてついですね」


彼は大きなため息とともに足を止めた。


「そんな事だろうと思ったがな、黒姫 あまり夜は出歩くなよ それが城の敷地内でもだ」


クルリと顔だけでこちらを見る彼に私は自然と声を掛けていた。


「ルキリス あの少しだけ お話しませんか?」


その言葉に彼は顔だけでなく、体もこちらに向けた。


「構わないが 分からない事でもあったのか?」


こちらに足を進めんながらそんな質問をしてくる。

どうやら話を聞いてくれるらしい。

私はすぐそばにあった薔薇園のベンチに座り、ここにどうぞという気持ちを決めて隣をポンポンと叩く。


「ここどうぞ」


その行動にまた眉を寄せるが隣に腰をおろしてくれた。それを確認し私は前を見ながら話をする。


「そのルキリスにお礼が言いたかったんです そのこの前はマリアの町に連れてってくれてありがとうございます。マリアの町でアルさんに会ったおかげで色々心に決める事ができました。それにこのリストスの国も父様たちの事も好きになれました。」


私の言葉に彼は「そうか」とだけ返事をする。


「今だから言えるんですが私はここに来たばかりの時、この国の全てが嫌いでした けど ルキリスの言葉に少しだけ心を動かされたんです それから少しずつですかこの国が好きになってきたんです 最終的に決断できたのはマリアの町の一件からですけどね」


ニコリと笑いながら隣のルキリスを見ると彼と目が合う。


「それは黒姫がこの国の事を知りたいと少しでも思っていたからだ、まったく興味ない奴にそんな話をしても心を動かされることはない すべてを自分で見て、自分で考え行動したいと思うお前の気持ちがあったからだ」


いつもより優しい声に私もまた笑顔になる。


「だといいんですけどね」


私の返事にルキリスが何かを思い出したように腕を組みだした。


「黒姫 そろそろ 俺に対しても敬語をなくして良いと思うがなぜ敬語のままなんだ」


確かにルキリスに対しても敬語のままだった。

この国で一番関わっているのは間違いなく彼なんだろうが、彼の威圧的な雰囲気に敬語以外を使うと言う考えに到らなかった訳だが・・・


「年上ですし、色々お世話になっているので」


私が目をそらしながらそう答えると彼は無表情のままこちらを見ている


「ディアスたちに対しても敬語を辞めたんだろう それなら俺にも敬語はいらないはずだ」

「それもそうなんですが・・・・」

「敬語はいらない」


敬語で切り返したら、また敬語はいらないと言われてしまった。

少しだけ気まずい気持ちになるが、本人が言うのなら敬語はいらないだろう


「じゃあ敬語なしで」

「それで問題ない」


そう返事をする彼に私も笑顔で頷く。

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