15話* 「そこで微笑むのは反則ですね」
朝よりも少しだけ乗馬に慣れたのは間違いないがやはり疲れが出てきたらしく馬から落ちそうになる私に気付いてくれたのかルキリスが森の中にある川辺で休憩すると言ってくれた、大きな木の下で腰をおろし気になっていたことを聞こうと声を掛ける。
「あのルキリス アルさんはなぜディアス様をあそこまで信頼しているんですか?」
私の言葉にルキリスがいつも通りに答える
「マリアの町は昔、隣国の領地だったんだ」
その言葉に私は隣の彼の方に顔を向ける。
「隣国の領地!?」
隣国の領地ということはこのリヴィールの他にも国があると言うことだ、私自身てっきりこの世界にはリヴィールだけだと思っていたがそれは間違いだったようだ。
それに隣国の領地と言うからには今でも国を奪い奪われる事もある世界ということだ。
「戦争があるってことですね」
私がポツリと呟く
「あぁこの30年間は隣国の連中は動いていないが、攻め込んでくる可能性はある」
「けど確かリヴィールには6つの国があるって前に言ってましたよね」
「あぁそうだ 6つの国はすべて和議を結んでいる だからお互いに攻める事もないし、攻められる事もない だからリヴィール連合国と隣国から呼ばれている もし隣国から攻撃があれば6つの国は全勢力をもって敵を打つそれだけの事だ」
「そうですか・・・・」
やはりまだこの世界の事について私はあまり知らない。
少しだけ落ち込むが彼は本題に話を戻した。
「他の領地から奪い返したマリアの町は荒れ果てていた、流行り病があり、土地も枯れ、町の住人達は生きる希望を失っていた それを知った ディアスがこの町を訪れたんだ そして医療の技術が一番発達している雪の国トリスから医者を派遣してもらい、ディアスは流行り病について研究し治療法を開発し救った。流行り病が無くなると同時に就任して間もない町長であるアルと共にこの荒れた土地でも育てることのできる植物について研究を始め、この土地に育てるに適したマリアの花を魔法で生成する事に成功した 花の生成だけではなく、どうしたらマリアの花を育て増やすことが出来るかについても何十年もかけ研究し、土地を変え、育て方をマリアの町人たちに教えた。その後に花茶や薬草、マリアの宝石などをマリアの町人たちが考えた。その時もディアスも定期的にこの町を訪れ共に試行錯誤していたがな」
彼が説明してくれた話に、私は呆然とする。
ディアス様はリストスの国民と真剣に向き合っているのだ。
これがアルさんの信頼の裏側の真実。
私はそこまで出来るだろうか、国の皆の事を真剣に考え、良くする為に動く。
それが国を背負う者の責任。
「ディアス様はすごいですね」
「そうだな だから俺はディアスの力になりたいと思う」
前を見据えたまま、はっきりと答える言葉の中に信頼と尊敬が確かにある。
「ルキリスもディアス様のこと信頼しているんですね 私にはディアス様みたいな事は出来ないですよ だから姫なんて言う器じゃないんです」
彼と同じように前を見据えるが視線を感じ横に顔を向けるとルキリスは私の方をしっかりと見つめていた。
「黒姫 お前は姫の器だと俺は思う 王の養子と聞けば誰もが地位や名誉や金に目を向ける だがお前は違った 何も知らないで居るだけなんて嫌だ 外を見て知りたいと」
「そんなの当たり前ですよ 何も知らないお姫様なんて ただの飾りになってしまう そんなの嫌なんです」
しっかりとこちらを見る彼に負けないように 私もしっかりと彼と目を合わせた。
「だからだ そんな黒姫だから俺は姫になってほしいと思う」
いつも表情を変える事のない彼が微笑んだ。
その瞳に私は息を飲む、本当に美しい頬笑みだった。
「そこで微笑むのは反則ですね」
慌てて目をそらす。
「そこまで言われてしまったら、養子にならないとは言えないですよ アルさんといい、ルキリスといい私を嵌める気だったんですよね」
目をそらしながらブーブーと文句を言うとルキリスが私の頭にそっと手を置く
「嵌める気がなかったと言えば嘘になるがな」
グシャグシャと頭を撫ぜる彼に、大きなため息を吐く。
本当に嵌める気だったようだ、だけどそこで絆されてしまう私も私だ。
「分かりました 私はこのリストスの姫になります ルキリスさんに認めてもらえるような立派な姫になってみせますよ」
頭を撫ぜてくる彼の手に恥ずかしくなり、慌てて立ち上がるとルキリスさんが私の左手をとり、先ほどのアルさんのように跪く。
「良き姫になれ お前の成長を楽しみにしている 生きている限り 黒姫と共に」
そしてそっと左手に口づけをしてくる姿に私は慌てて手を奪い返し飛びのく。
この世界の男怖いわ!!まじで怖いわ!!
アルさんといい、ルキリスと言い綺麗な顔して跪いてキスとか恐ろし過ぎる。
「ルっルキリス あのですね 私、その そういう行為、すっごく苦手だから勘弁してください!」
ジリジリと後退しながら離れるがルキリスもジリジリと寄ってくる。
「いやいやいや なんで近づいてくるんですか!?」
「なんだ黒姫 こんな事で照れていては姫としてやっていけるか不安だ 今すぐ鍛えるべきだと思うが」
「何その鍛えるってなんですか!?」
「何度もやれば慣れるだろう」
「慣れませんから!!!」
私が叫ぶと同時にルキリスが小さく笑った。
「そこまで必死になるとはな」
何だろう凄く馬鹿にされてる気がするけど気のせいかしら、ジリジリと後退する私を余所に彼はピタリと足を止めた。
「さてと冗談はさておき、ラヴィいつまでそこに居るつもりだ のぞき見とは悪趣味だぞ」
ラヴィ?聞きなれない名前に私も足を止めると森の木陰から見覚えのある人物が現れる、フワリと吹く風に彼の水色の美しい髪が揺れた。
「ラウリスさん!?なんでここに居るんですか!?」
美しい彼の突然の登場に大声で叫ぶことになる
「アイと兄様がマリアの町から出ていくところが目に入ったので ついですね」
ラウリスさんは真顔で答える。
「ラヴィそれはストーカーだと思うが」
ルキリスがボソリと言ってしまった一言に苦笑する事になる私である。
いやまぁ・・・そりゃあね ここまでついてきてたらストーカーだよね
「そんな事はないはずです 私はただアイが気になってですね ついてきただけです」
悪びれもなくハッキリと言った彼に何かもう突っ込む気も失せた。
「ラヴィ そいう所は相変わらず変わらないようだな」
眉を寄せながらため息を零す、アレなんか苦労してる感が出てる。
「失礼ですね 私はただ愛に忠実なだけです」
うん!ストーカー決定!
私の心の中で決定していると、ラウリスさんがこちらを真剣な顔でこちらを見る。
「アイ 君と兄様はどいう言った関係なんだい!?まさか好きあっている訳ではないよね」
なんだこの爆弾発言。
私は思いっきり叫ぶ
「ない!!それはないですから!!何処をどう見たらそう見えるんですか!?ルキリスと私は先生と生徒みたいなものですよ!!」
ブンブンと顔を振りながら否定をするとラウリスさんが私の肩をガシリと掴む。
「それ本当だよね」
全力でコクリと頷くと、ラウリスさんの方も安堵の為か肩の力を抜いたかと思うと、私の肩にこつりと頭を置く。
「良かった 兄様 では相手が悪過ぎると思ったんだよ」
「えぇと良く分からないですが安心できたなら良かったです」
少し恥ずかしい気もするが安堵している彼に悪い気がして、そのままにしていると今度は後ろから腕を引かれ後ろに倒れこむが誰かがしっかりと受け止めてくれた。
「ラヴィ そろそろ黒姫から離れろ」
「兄様 邪魔しないでください 私はアイと逢瀬をしているんですよ」
不機嫌そうなラウリスである。
「逢瀬ではないだろう」
眉を寄せながらため息交じりに突っ込むルキリス。
なんだろうとても仲良いようだ、ふたりはどいう関係なんだろうか?
兄様と言ってるからにはこう昔から慕っている友達か何か?
「逢瀬です それに僕たちの邪魔をすると変な誤解をされますよ アイに」
「・・・・・・・」
アレけどルキリスが元王子ということはラウリスもそれなりに身分が高い身の上ってこと?あぁけど彼の身のこなしとか見るとそんな気もするけど・・・
「兄様 なぜ否定されないのですか まっまさか」
「・・・・・・・」
うぅんけどそんな身分の高い人がなんでこんな町外れのリストスの森の中に居るんだろう?不思議だ・・・色々と頭の中で考えているが“ゴロゴロ”となった空に我に返る。
今の音って雷!??
「ルキリス!なんか雨降りそうな天気ですよ そろそろ帰らないと またディアス様に圧死させられます!!」
私を支えるルキリスに声を掛けると彼もふと眉を寄せながら空を見上げると私から離れ川辺にいる馬に近づき、手綱を取り、私を馬の上に乗せる
「確かに降りそうだ 黒姫 城へ戻る」
「分かりました あのラウリスさんもそろそろ戻った方が良いですよ 雨降りそうなので」
前に居る彼に声を掛けると彼は我に返ったようでコクリと頷く
「あぁそうみたいだね 僕も戻るとするよ」
彼が口笛を吹くと森の奥から真っ白の馬が走ってくる。
それに驚く事もなく、走る馬にすっと乗った彼に私はあいた口が塞がらなくなった、とんでもなく難易度の高い乗馬テクニックでは!??
そのテクニックに一人感動している私だがラウリスは真剣な表情で隣にいるルキリスを見た
「魔法王ディアス様の話 先ほど聞きました もうあなたに戻って欲しいとはいいません けれど もし兄様が戻ってくる気になったのなら僕はいつでも歓迎します」
「そうか だが 俺はもう戻らない これだけは言わせてほしい すまないそしてありがとう」
その言葉と同時にルキリスはまた優しく微笑む、それに答えるようにラウリスも微笑んだ。
「えぇ」
「またすぐに会うことになると思うがな」
「そうですね」
その会話が終わると同時にルキリスとラウリスは別々の方向に向かって馬を走らせる。




