13話* 「あのですね ルキリス 私、馬なんて乗れないですよ・・・・」
今の生活に嫌気がさした。
ただそんな理由で、自分の国の城を抜け出した。
そして、来たのがリストスだった。
早くに、父を亡くして15という若さで王座についた王。
こんな幼い者で魔法の国を支えられるのか、そんな噂が国中に広がった。
太陽が昇るとすぐに出かける準備をしていた。
今日はルキリスがこの国についての話をしながら案内をしてくれる事になっていた、今日訪れるのはこのリストスの王都からだいぶ離れた場所で花の原産地でリストスの有名な観光地の一つらしい、一応女子なのだそれなりに綺麗な花は好きだ、それを見れるとの話にかなり楽しみだ。
町を訪れる時と同じようにワンピースに袖を通す、今日は水色だ。いつも通り使用人さんたちが朝の手伝いをすると言って聞かなかったのだが全力で御断りさせてもらった、準備が終わった頃に部屋の扉がノックされた。
「黒姫準備は終わったか?」
いつも通りのそっけないルキリスの声に返事をする。
「もう終わりました」
これ以上、不機嫌になる前に慌てて返事をすると、扉が開けられる。
そこに居たルキリスはいつもの青のローブとは違い藍色の軍服、懐には剣の代わりに魔導書が括りつけられている、少し重そうだ。しかし、それを見事に着こなす彼はいつも以上に鋭い美しさを持っている様に感じる。
「やっぱりこの世界にはイケメンしか存在しないんだ」
私の口からそんな言葉が自然と出てしまう。
「黒姫 イケメンとは何だ?悪口ではないだろうな」
彼が眉をひそめ出した、これはお説教に傾きだしている証拠だ。
「ちっ違います!じゃあ出かけましょう!」
慌てて話を終わらせてルキリスの前を通り過ぎ門まで足を進める。
そこにはいつもの門番さんが二人立っていた。
「おはようございます 黒姫様!」
「今日も良い天気ですね」
いつもの笑顔と言葉に私も笑顔で頷く
「はい」
三人で頬笑み会っていると後ろから咳払いが聞こえる
「黒姫 それにお前たち その表情を引き締めろ」
ルキリスの声に門番二人がビシリと敬礼をした。
「すみません 宰相閣下! おはようございます」
どうやらルキリスは門番たちも恐れられているようだ。そうだよね あんな長い説教とか勘弁してほしいよね!!と心の中だけで言っておく、私たちの姿を確認し大きなため息を零すと門をズンズンとくぐる。
「準備もできているようだな では行くぞ 黒姫」
私は慌ててルキリスを追いかけると目の前に飛び込んできたのは漆黒の美しい毛を持つ馬だ。
・・・・そう馬・・・・
「えぇとルキリス 馬ですよね」
「そうだが 見れば分かると思うが」
そりゃあ分かるよ だって馬だし。
けど問題はなぜ馬がいるかだ
「なぜここに馬が居るのでしょうか」
私が恐る恐る声を掛けると彼は眉を寄せる
「何を言っている これに乗って行くからに決まっているが」
「・・・・・えぇと誰と誰が?」
体から血の気が引いて行く気がするのは気のせいだろうか・・・・・・
「黒姫と俺だが何か問題があるのか?」
いやいやいやあるだろう!!
生まれは現代日本の庶民育ちだ、乗馬のたしなみなんてある訳ないのだが!?
「あのですね ルキリス 私、馬なんて乗れないですよ・・・・」
恐る恐る声を掛けるがルキリスはそんな言葉など無視し、颯爽と馬に向かいヒラリと飛び乗った。華麗すぎる乗り方に言葉を失う。
元は王子様だし、今は宰相閣下だし馬の嗜みはあって当然だとは思うけどね
私は無理だからね!!!
「あぁえぇと・・あのお・・・・」
私が呆然と固まり、言葉を濁していると彼が私の手を掴んだかと思うとすっと腰を抱いて馬の上に乗せてしまう。それはもう華麗に美しい・・・アレなんかまた苛立ちを感じる、彼は何だ顔も良くて、以外と女性の扱いになれていて魔法まで使えるとは
「・・・・完璧すぎて恐ろしい・・・・」
私が呆然としているのだが、門番さんたちは憧れの目で彼を見つめている。
「「流石です 宰相閣下」」
男の人としても彼は完璧らしい。
恐ろしや恐ろしや・・・・にしてもだ・・・・近い・・・すごく近い・・・・
背も高く、少しばかり筋肉質であろう胸板が背中に触れるのですが??
しかもしっかりと私の腰を抱いている腕に、私は固まるしかない。
「えぇとルキリス このまま行くとか恐ろしい事言わないですよね」
「このまま行くに決まっているが?」
当然と言わんばかりに私のすぐ後ろから聞こえる美声に私が更に固まって事は言うまでもない
「いやいやいやいや これは無理があると思います!!無理が!!!」
硬直した体が生き返ったらしく慌ててジタバタと暴れる。
恥ずかしくて死ぬ!!本当に死ぬからね!!
「黒姫 暴れるな 危ないから動くな」
私がジタバタをしだしたため、ルキリスが慌てて腕の力を強める、もうこれは抱きしめていると言っても良いくらいに、私はというと再び体が固まり、心臓がバクバク言いだす始末だ、それを確認すると安堵したように彼が腕の力を弱める。
「はぁ・・・最初は馬車で行くつもりだったが、今日はお前がお忍びで行きたいと言った だからこれで行くんだが 何か問題があるのか」
その言葉に私は先日の事を思い出す、確かに言ったのは私だ。
だって、なんかお姫様の外交みたいに派手に町の見学をさせられそうになったんだよ、なんで何人もの護衛を連れてドレス着て町を見学しなきゃならない、それじゃあ回りたい所も回れないよね!!
「うっ 確かに言いましたね」
「そうだ だから今日はこれで我慢しろ お前はまだ馬の乗れない」
ハッキリと言われてしまいもう何も言えなくなる
「わっ分かりました 今日はこれで我慢します」
諦めたように呟く。
「では しっかり捕まっていろ 黒姫」
彼が手綱を掴み、馬が走りだす。




