12話* 「あのそれが本当ならなんで私は動いてるんですか」
高熱で寝込んでいたような体の倦怠感に目を開けた。
私がいる場所は見慣れた寝室だ、天蓋付きというものすごくメルヘンな作りのベッドに自然と苦笑いがこぼれる。しかし、すぐに走馬灯のように思い出される先ほどの出来事に慌てて体を起そうとしたがズーンと重い体に少しだけ浮きかけた体だがすぐにベッドに沈んだ風邪なんてひいた覚えのないのに、自分の体が信じられないもしかしたら、他人の体なのかと思うほど。
「黒姫 あまり無理をするな 今は安静にしろ」
そう声をかけてきたのは、目の前の扉から入ってきたルキリスの右手には美しい水晶のような首飾りが持たれている。
「なんだか調子が悪くて」
申し訳なさそうに顔だけをルキリスに向けて返事をすると、先ほどまで手に持っていた首飾りをそっと私の首にかけると不思議なことに体が軽くなる、信じられない現象なのだが魔法の国だから何でもこいか一人で解決に辿り着いた。
軽くなった体をゆっくりと起すがやはり全快とはいかない。
「本当に魔法の国なんですね ここは」
「今更何を言いだすんだ 黒姫 前々から説明はしていたはずだが」
不機嫌そうに眉をひそめる仕草は説教までのカウントダウンの始まりだ、せめてルキリスからの一斉が出るまでに解決しなければいけない
「わっ分かってますよ ちょっと首飾りをかけただけでこんなに体が楽になるなんて信じられない現象ですし」
彼がベッドの隣にある椅子に腰を下ろすと私の顔を見下ろすような形になる、まじかでみると本当にかっこいい目の前の男に羨ましげな目線を向けるが当本人が気付いたかどうかは怪しいところだ、ルキリスは何かを思い出したように口を開いた。
「そうだったな 黒姫にはまだ説明をしていなかった この世界では魔法を使えない人間は生きてはいけない」
「はっはい!?」
突然の問題発言に、目を瞬かせながら叫ぶ。
ルキリスは先ほどと同じスタイルのままでこちらを見た。
「説明が遅れてすまなかったな 魔力とはこの世界の生命エネルギーの源だ。それを使って人間は行動する。」
「はっはぁ」
意味が分からない為、生返事を返す。
魔力がエネルギー源というのが本当だとしたら、なんで私は今体を動かせているのだろう
「あのそれが本当ならなんで私は動いてるんですか」
不思議そうな顔で首をひねる。
「この城は国王や私のような、魔導士が敵の侵入を防ぐために結界を張っている。だからこそ、魔力も何もないものでも動いたりできるが一歩外に出れば話は別だ。数時間の間は体に蓄えられた魔力で活動はできるが、長時間となると外で出歩くことなど不可能。だから黒姫のように倒れる、それでも死なずに済んでいるのが不思議なぐらいだ」
「マジですか」
詳しく話を聞いてみると恐ろしい過ぎる、勝手に外を出歩いていた自分に少しだけうすら寒くなる。
「そういうことだ、勝手に抜け出した黒姫がどれだけアホな行動をしていたのか分かったか」
「はっはい」
下を俯きつつ答えると、ルキリスが先ほど私の首にかけた、ペンダントに指をさす。
「それは魔力が込められている石だ 国王がお前のために作った それをつけていれば数日なら外を出歩ける。黒姫の体内にできる限りの魔力が蓄えられるまでそれを付けていろ」
ぶっきらぼうに言われた言葉に自分の体内に魔力なんて溜まるのか?とか疑問に思ってみたがあえて気にしないことにした。それに、これを渡されたということは外に自由に出入りするのを許されたということになるのではないだろいうか
「あの これからは好きな時に外に出てもいいんですか」
その一言にルキリスがギロリとにらむ。
ビクリと肩を揺らす、目つき悪いよ。
「そういうことだ、しかし約束はしてもらう。外に出るときはこの城の誰かに伝えることだ、お前がいなくなるとこの城全体が大混乱する」
「はっはい」
はっきりと返事をするとルキリスは私の頭の上に軽く手を置くとが、すぐにクルリと私に背を向けて部屋から出て行った私は手元にあるペンダントをまた見つめていた。
今日は国王様に許可をもらい町に出ていた。
出た理由は突然彼の目の前で倒れてしまった謝罪だったりもする、驚かれたのは間違いないだろう。
「はぁ・・・」
自然とため息がこぼれてしまう。しかし、いつもの湖にはだ誰の姿もなかった。
数日前に来たときに見せてくれた笑顔を思い出す、謝罪だけそんなことを思っていたのだが実は自分はあの綺麗な笑顔を見たかったのかもしれない、だからラウリスの姿を探す。
もし彼がいるとしたら町だろうかそんなことを思いながら、湖に背を向けて街の通りに出る相変わらず賑やかな声と色とりどりの果物や、野菜、香辛料などが並んでいる。
「あれ?あんたこの前のお嬢さんかい??」
「あっ!!あのとき」
お店の中から、顔を出したのはこの世界にトリップしてきたばかりのときに声をかけてくれたおばさんだった。
「久しぶりだねぇ 今日は普通の服を着てるね」
にこにこと笑いながら私の服を見る、今日の服装はただの薄桃色のワンピースだ。
黒がいいって言ってもまったく聞く耳をもってくれなかったメイドさんたちを恨んでみる、ピンクなんて私に似合うわけがないのに。まぁ、街をふらふら歩いていた時の服装なんて、バイト先の紺色のエプロンと、ジーパンとTシャツと比べれば、まだこの世界に順応性がある気もするが・・・
「はい まぁ・・・・色々あれですしね あの、水色の髪をしていて、真っ黒なマントをはおっている男の人見ませんでしたか?」
苦笑いをこぼしながら返事をしたときに、そう質問を返すとおばさんは少しだけ悩ましげにじぶんの顎に手を添えたが、すぐに手をたたく。
「もしかして・・・あの綺麗な男の子のことかもしれないね」
「きっとその人です!でしたらその男の人が何処に行ったか分かりますか?」
私の言葉におばさんが右にある通りを指さす。
「ありがとうございます ちょっと行ってきますね」
そう声をかけて、足早にそちらに向かう。
残ったおばさんが、「若いってのはいいもんだねぇ」とおばさんぽいことを言っていたらしい。
教えてもらって道に向かい歩いて行くと、狭く人通りが少ない場所に出た。家と家で音が遮られているためかシンと静まりかえっている、その狭い通りを歩いて行くと二人の人影が目に飛び込み慌てて影に隠れる、前の大捜索事件のせいで外を出歩くのがトラウマになっていそうだ。
「ラヴィ・・・久しぶりだな」
そして、聞こえてきた声は聞き覚えのある声だった。
影から少しだけ顔を出せば、そこにはいつもの水色のローブとは違い普通の服装をしているルキリスに息をのんだ、なぜ彼はここにいるのだろう。しかも、その前には私が探していた人物の姿。
「ルキアス兄様 何処にいたんですか、僕はあなたをずっと探していたんですよ」
その声と表情は必至で切羽詰まっていた、ラウリスの口から出た名前も最初に出会った時から探していると言っていた人物の名前だ。ということは、彼が探していたい人物はルキリスということになるのだろう。けど、ルキリスがラウリスの事をラヴィと呼ぶ理由が分からない。
「もう戻る気はない だからこそ、お前に託したといった」
「なぜですか!!我が国をお嫌いになられたんですか!!」
表情を変えることなく、はっきりと言ったルキリスの一言に目の前の彼は食ってかかるように叫ぶが、怒っているわけではないようだった、ただ必死なのだ。
「そんなことはない!!だからこそ、誰でもなくお前に託したいんだ あの国を」
「嫌です 僕はあなたが、あなたがいなければ・・・・」
ラウリスの言葉がしりすぼみになっていく。
「お前のほうが向いている 俺ではダメだ」
ルキリスはもうこれ以上は何も言う気はないらしくラウリスに背を向け、こちらに向かって歩き出す姿に私は慌てて顔を引っ込め、なるべく音をたてないように走った間違いなく聞いてはいけない話だったのだろう。あの話を要約するとラウリスが探していた大切な人物はルキリスで、ラウリスはルキリスに向かって何かを必死に訴えていた、けれどそれをルキリスは断ったのだ。
人通りの多い場所に出てきた時に、私はぴたりと足を止めた。
どういう事なのだろうか、この世界に来てから私はなんでこんなに頭を悩ませなければならないのだ。
「黒姫 さっきの話聞いていたんだろう」
一人で頭を抱えている時に、聞こえた声に私は機械のように後ろを振り向いた。
そこにはいつもと同じ青いローブを着るルキリスの姿があった。
「えぇっとですね・・・・・・はい」
嘘を言うべきか悩んだが彼に嘘をついたところでスグにばれてしまうだろうから無意味。
だからこそ正直に話した。
「はぁ・・・・お前には言いたくなかったが、これ以上黒姫の悩み事も増やしたくない 正直に話す 俺の本名はルキアス・スティーナ・ベルナフィス もとは水の国ラビリスの第1王子だった」
やはり私の思ってたことは正しかったようだ、にしてもファミリーネームが一文字違いとはなんとも変わり映えしない名前の変えようだ。
「じゃあ なぜルキリスさんはここにいるんですか、おかしいじゃないですか」
「俺が国を裏切ったからだ 俺には無理だ 王子という器はない」
「だったら、私だって国の姫なんて言う器じゃないですよ」
完璧なルキリスでも王子に向いていないというならば私はどうなるのだ。
それにリリアたちも言っていた、消息をたった王子は素晴らしい人間だったのだと
「お前とヴィアスは似ている 頼りないが国を支えることのできる人間だ」
「・・・・・」
頼りないという言葉にちょっと寂しい気もるがルキリスの表情がいつもと少しだけ違いどことなく誇らしげに見えたからか、私は口を自然と噤んだ。




