9話* 「あの・・私はもう一度町に・・・」
私がお城に戻るとすぐに目に入ったのは黒ユリの門番をしていた二人がディアス様とエリス様の前で深々と頭を下げている姿だった。
「申し訳ありません 陛下」
「わたくしたちの不注意で黒姫様が・・・」
「この罪状は身をもって償う所存でございます」
その言葉にディアス様が門番さんから目を離す。
「もうよい そなたたちの罪は問わぬ 抜け出したのはアイの独断だと言う事は分かっている 罪は黒姫に償わせるのが道理というもだ」
「そうですよ あなたたちはしっかりと仕事をしていました アイのお仕置きは私たちにお任せしていいです」
その言葉と共にディアス様は目が笑っていない微笑を作り、エリス様は満面の笑みでお城の壁を自分の拳で殴ると壁の一部がボロリと少しだけ崩れた。相当ご立腹の二人を見て、私はズサリと一歩後ろに下がったのだった。
「あの・・私はもう一度町に・・・」
そう呟くとルキリスが国王様と同じような微笑と共に私腕を掴み、ズルズルと二人の前に引っ張られてしまう。後ろに居る騎士服の青年に助けを求めようと顔を向けるが、青年は無表情のまま手を振っていた。
もっもしや・・・私に死ねと!!
「ディアス 黒姫だ」
その呼びかけに、二人が思いっきりこちらに顔を向け、門番さん二人は慌ててこちらに駆け寄ってきた。
「黒姫様・・・なぜわたくしたちに何も言わずに消えるのですか!!」
「どれだけ心配したとお思いで」
本当に心配そうな顔をされ頭を深々と下げた。
「すみません・・・どうしても一度、町を見たかったんです。」
その言葉に、門番さんたちが少しだけ寂しそうな顔をした。
「黒姫様 少しだけ待って頂ければ、私たちが町にお連れするのですが・・・今は無理なんです」
少し前にルキリスが言っていた言葉と同じということは何か理由があるのかもしれない、それならば少しだけ待ってみようと思ったのだ。
「分かりました。少しだけなら待ちますね 今回はご迷惑をおかけしてすみませんでした」
頭をさげると、門番さんたちが慌てて駆け寄ってくる。
「黒姫様 そのような事をされないでください わたくし達に頭をさげるなど」
「黒姫様は前を見据えていて頂ければ良いのです」
「いいんです 今は謝らせてください 本当にすみませんでした」
もう一度頭を下げると門番さんたちが少しだけ表情を緩めた。
「ありがとうございます 黒姫様」
「わたくしたちはあなたにお仕え出来て幸せです」
「そんな大げさにしないでくださいよ!!」
首を振っていると何者かに思いっきり後ろからタックルをされた、この状況には記憶がある。召喚初日に起きた、恐怖の圧死地獄・・・・
あの出来事を思い出して、青ざめている私に関わらずその圧死させようとしている人物はギリギリと締め付けてくる。しかも前回より非常に苦しいのはなぜ!!
「しっ死ぬ」
今にも抜けそうな魂を必死でつなぎとめているにも関わらず今度は正面からタックルをかまされた。しかも先ほどと同様、前回より苦しい。
「アイ!!そなた、わたしがどれだけ心配したと思っているのだ!!」
「私もどれだけ心配したと思っているの!!」
「もうけして放さぬ」
「もう目の届くところ以外には置きません!!」
イヤイヤイヤ・・・ぜひとも放してください!!私の命のために!!そして目の届くところに置くとか言わないでください!!私も一応年頃の娘だ自由の時間がほしいです!と叫びたいが、迷惑をかけたのは私のほうなのだ。そんな事を言えるわけもなく圧死地獄を耐え抜いているのはいいけれど、なんか・・目が霞んできた。もう無理・・・意識が遠のく・・・。
しかしその次の瞬間、圧死地獄から前回と同様助けてくれた人物が居た。
「ディアス父様 エリス母様 そろそろ アイ姉様を放して差し上げてください 死にそうですよ」
その言葉に二人が顔を上げるが私の顔はそうとう青かったらしく、二人はあわてて私を解放してくれた。
「大丈夫か!!アイ!!すまないだから死ぬな!!」
「そうですわ!!親より死ぬなんて!!」
殺そうとした本人達に言われても・・・説得力が・・・。
深呼吸をしていると前回の圧死地獄の救世主は、もう少し苦しめば良かったと言わんばかり舌打ちをしていたのは見なかったことにしようと思う。
「大丈夫ですか?」
助けてくれた青年の問いかけにコクコクと頷いていると、青年は無表情のまま膝を付き私の手を取り口付けを落とす。服装が騎士服だけあるためその姿が誰よりもさまになる。
「名乗り遅れました。僕の名前はカイリ=フィミリアです。この城の軍を指揮させて頂いております。そしてこのディアス父様とエリス母様の息子でもあり、あなたの弟です。よろしくお願いしますね アイ姉様」
「どっどうも・・」
再びの美形登場の上に弟って、頭がフリーズして変な返答をしてしまった。
もっとさわやかに笑顔で「養子になる気はないんですけど、よろしくお願いしますね」と言いたかった。ショックでうな垂れているとルキリスがこちらに少しだけ目を向けた後、ディアス様たちに目を向けた。
「ディアス 黒姫には少しだけ自室で謹慎をするべきだと思うがかまわないか?」
国王が小さく溜息を零す。
「構わない お前の事だそこまでする事はないと言いたいが、どうせ聞く耳は持つ気はないのだろう」
ルキリスがこちらをちらりと見た後、すぐに国王に目を戻す。
「あぁそのつもりだ・・・黒姫の自身のためにも自室で少しの間はジッとしている方がいいだろう」
「そうだな・・・」
国王様が少しだけ心配そうな顔を私に向けた後、すぐに真剣な面持ちになった。
「では、アイ・・そなたには数日間の謹慎を命じる」
非は全部こちらにあるのだ。だからこそ、その謹慎をしっかりと受けようと思う。
「はい」




