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スフィーと聖なる花の都の工房 ~王立アカデミーのはぐれ綴導術士~  作者:
<3>魔王鳴動と開催前夜の狂争曲の章
69/123

(3-12)

「いかがですかー!」


 そのままカゴに実を補充しながら売り続けること、三十分ほどの時間が経過していた。


「おっ、そこのお兄さん疲れた顔してるね~。おひとついかが?」


「<クファラリスの森>で採れた栄養たっぷりの実だっち~。品質はあたいっちが保障するよ~~?」


「うふん。そこの坊やたち……好みだわぁ。今ならサービス……なんで逃げちゃうのよぅ! んもう!」


 売り子の人数も増えていた。

 まず最初に、なぜか連れ立って訪れたのは聖騎士団長のアレンティアと武器屋を営むオルガス・ゲハルンディスこと『シェリー姐さん』。


 次に、先日に試験を通過して晴れて<近くの森>の環境調整士として雇用されたイェル。こちらはスフィールリアの小屋に遊びにきたところ、フォルシイラからこの場所を聞いてやってきたという。


〝黒帝〟は彼女たちの容姿体型を見るや、即座に口八丁を駆使して売り子として取り込んでしまった。

 もちろん、全員バニーガール姿である。

 人数が増えたことで〝テスタード商店〟の注目度はますます右肩上がりの様相を呈していた。


「おい、あの巨乳のお姉ちゃん。聖騎士団長の人じゃないのか? ほら<薔薇の団>の」

「なんでこんなところに……! なぜあんな格好で……!」

「てかあのオッサンはなんだ……なんでバニーなんだ……」

「どういうことなの……」

「ひっ!? こっち見た!」


 ざわざわ……!

 という具合だった。

 ちなみにシェリーは、「自分も乙女だ!」と言い張ったのでテスタードが渋々バニー衣装を用意した次第である。


「すみません、アレンティアさん。なんか巻き込んじゃったみたいで……」


「あは、いーのいーの。用があってきたのはコッチだし。なんかにぎやかで楽しそうだったからさぁ」


「そういえば、その用事ってなんだったんです?」


「ああ、それがね――」


 とそこに、露天の裏側から顔を出したテスタードが問答無用で声をかけてきた。


「おい助手。ちょっとこっちこい」


「わたしの用事は終わったあとでいーよ。いっといで!」


 実の補充を終えたアレンティアがノリノリで売り場に戻ってゆくので、しかたなくスフィールリアは露店の裏へと駆け寄っていった。




「なんです、センパイ?」


「いい感じに市場が(あった)まってきた。作戦を第二段階に移行する」


「……と、言うと?」


「まず、お前に伝えておくことがある」


 と、こちらに背を向けて仁王立ちしていた〝黒帝〟が振り向いて、歩み寄ってきた。

 少ない距離が、一気にゼロになる。近い。


「え、あの」


 戸惑っているスフィールリアの両肩を、テスタードが、がし、と持った。


「えっ、あの、センパイ? ええっ?」


「……」


 いきなりのことに顔を赤くして身じろぎするが、〝黒帝〟は至近距離にある真面目な表情を崩さない。


「いえあの、センパイ、いきなりなにをっ? あたしとしてはできればお友達から始めてもらえるとその、そういう経験ないですしあのだからその! いきなりはちょっと!?」


 テスタードはなにも言わない。ただ熱を感じさせる眼差しでスフィールリアを、そして彼女の胸元を見つめてくる。

 両肩を包んだその両手が、やさしくさするように、二の腕まで降りてきて……。


「っ……!」


 突然やってきた状況に思考がフリーズし、スフィールリアがよく分からない覚悟を決めかけた時…………テスタードは彼女の両腕を、彼女の胸の前で交差させた。


 むにゅ。

 と彼女の両胸が圧迫されて、谷間が完成した。


「へ?」


 それを見た〝黒帝〟が力強くうなづく。


「……よし!」


「……へ?」




 テスタード商店の売れ行きはそこそこに順調なようだった。

 買ってゆくのは主に男子生徒で、お前はどの子のを買った、今度はあの子の実を買ってみようと連続で並ぶ相談をしている者たちまでいる。


「……」


 さて、ここにもそんな願望を持つ生徒がいた。彼のことを仮に生徒Aとしよう。

 生徒Aは悩んでいた。『キルトの実』をモッキュモッキュと頬張りながら悩んでいた。

 まず真っ先に並んだのはフィリアルディの列だ。

 大変、よいおっぱいだった。恥らう仕草が可憐さを引き立てており、また購入ののちに見せてくれる小さな笑みは、名も知らぬ野花が咲いたようだった。とてもよい経験ができたと思う。


 次は聖騎士団長のお姉さんの列に並びたい。滅多にあるチャンスではない。

 しかしそのためには、どういうわけかバニーガールの格好をしている恐ろしきオッサンを回避しなければならないのである。あぁ、またひとり捕まったようだ。

 さらにどういうわけか、彼(?)から購入した場合のみ『ほっぺにチュウ』という特典がついているらしいのだ。購入しなくてもチュウされるらしい。捕まったひとりが「いやだぁぁぁぁ……!」と悲鳴を上げながら必死に逃げようとしているが、逞しすぎる腕に首を捕まえられて、動けないでいる。ルージュを引いた筋肉質な唇が、ゆっくりと迫り……


「ギィアアアアア!」


 どういうことなのだ……

 恐ろしい……

 恐ろしい……


「ゴクリ」


 と、そこに……


「あの……お兄さん……」


「え?」


 戦慄していたところに白いローブの袖を引かれて振り返ると、そこにいたのは特監生の女の子――たしか名を、スフィールリアと言ったか。


「『キルトの実』、いかがですか……?」


「え、あ、ああ。いや……」


 アレンティアの列を狙っていた生徒Aは反射的に断りを入れようとして……次の句を出せなかった。

 伏し目がちにこちらを見上げてくるスフィールリアの表情に、彼の鼓動は思わずドキリと跳ね上げられていた。

 なんだ。聞いていた印象とずいぶん違うではないか。

 こうしてそばに並んでみると、とても小さい。というか、近くで見てみるとよく分かる。とんでもなくかわいい。

 白い肌に、かすかに上気した頬。細い肩。そして上空から俯瞰できる、形のよい胸の谷間。その白い双丘が衣装の中に消えゆく闇に、吸い込まれそうになる……。


「『キルトの実』、いかがですか……?」


「ハッ!?」


 生徒Aは我に返った。

 唾を飲み、考える。アレンティアの列にも並んでみたかったが、いかんせんあのオッサンは素早く、手強い。挑戦するのはとてもリスキーだ。

 だが予算の関係上、並ぶならあとひとりだけになる。

 天秤の振れ具合を見た結果、生徒Aは、


「あ、あぁ。買うよ、もちろん……」


 と、なにか魔的なものに魅入られたかのようにうなづいていた。

 ぱぁ、とスフィールリアが表情を輝かせた。かわいすぎる。


「な、なぁ。ひ、ひょっとして〝黒帝〟のヤツに無理やりやらされてるのか……?」


「はい……売れないとあとでみんなでひどい目に合わされるって……。あぁ、あんなことやこんなことをされてしまうなんて……! とても口では言えません……!」


「ゴ、ゴクリ……! い、いったいなにを……い、いや、許せないな、そんなこと」


「はい……だからお兄さんが買ってくれて、とても助かりました」


「お、お安い御用さ!」


「キャンセルなんてしませんよね?」


「ああ、絶対にしない!」


 よかった……と安堵の息をつき、スフィールリアがカゴに盛られた『キルトの実』に手をつける。


「では、これを」


 彼女がつまみ上げたるは、ひと粒の実だった。


「え。ば、バラで売ってるのか?」


「はい。どうぞ――」


 差し出した手のひらに、彼女の『キルトの実』が手渡されようとして、


「あっ……落としちゃいました」


「っ……!?」


 生徒Aは驚愕した。

 どこをどう間違ってそうなったのか――スフィールリアが『キルトの実』をぽとりと落とした先は――胸の谷間であった。

 スフィールリアは両肩を抱くようにして胸のお肉を寄せて上げて、こぼれ落ちそうになった『キルトの実』をキャッチしていた。


「拾ってください……」


「なっ……!?」


 さらなる驚愕。


「早く」


「い、いや、しかしっ」


「こぼれちゃう……」


「……!!」


 胸の谷間の中央に、『キルトの実』がひと粒。

 こぼれてしまいそうなのは赤き果実か、それとも寄せ上げられた乙女の白い双丘か。


「拾って、くれないんですか……?」


 この期に及び、生徒Aにまともな思考能力は残されてはいなかった。


「あ……あぁ。ひ、拾う、よ……」


 ふるふると震える指先を、慎重に伸ばしてゆく。まるで砂の像を崩さずに拾い上げるかのごとく。彼女の胸に触れてしまわないように、実をつまみ。


「…………と、取れたよ」


 成し遂げた。という風に生徒Aは盛大に息をついた。

 手のひらにコロンと転がった『キルトの実』は冷やしてあるという触れ込みの割には妙に温いような気がして、非常にドキドキする。

 そして、その時だった。

 生徒Aの肩を、男の手がぽんと叩く。

 驚いて振り向くと、そこには、限りなく邪悪な笑みを浮かべた〝黒帝〟の顔があった。


「触ったな」




 テスタード商店の周辺は、起こった変化に気づき、にわかにどよめき始めていた。


「困るんですよねぇ、お客さん。売り子の娘に手ぇ出されちゃあ」


「さ、触ってない触ってない! 俺は細心の注意を払ったんだ! ま、間違いないって!」


「そうは言われてもねぇ。本人にも聞いてみなくちゃな……」


〝黒帝〟が視線をスフィールリアに落とす。生徒Aもすがる眼差しを向けるが、彼女は……


「触られちゃいました……」


 頬をポッと染めて、耐えられないように横を向いてしまった。


「なっ……!?」


「……お客さん。こりゃ、どういうことなんですかねぇ?」


「い、いや! 違っ。そもそも俺は、その子が困ってたから!」


「脅迫する気なんですかねぇ、ウチの売り子を!? オォン!?」


〝黒帝〟がドスのきいた大声ですごみ、空気がビリビリと震えた。


「ひっ!?」


 ざわざわ……

 ――なに、なんの騒ぎ?

 ――売り子の胸に触ったヤツがいるらしい。

 ――なぬ。あの子か! うらやまけしからん。

 ――いや、揉みしだいたのかもしれない。

 ――わざと胸の上に落として、拾うフリをして揉みしだいた……!?

 ざわざわ……!


「ち、違う――違うんだ!?」


「……お客さん。ウチとしても騒ぎにゃしたくないんですよ。示談にしませんか」


「じ、示談?」


 テスタードは指で〝カネ〟のマークを作って生徒Aに迫った。


「五銀貨(ファロネ)


「なっ……! た、高すぎる! 相場の百倍近いじゃないか!?」


「五銀貨(ファロネ)


「い、いや、だから――」


「五銀貨(ファロネ)


「……も、もう少しまからない?」


 ふうぅぅぅぅぅぅ…………

 と、長い長い息を吐いたテスタード。

 生徒Aの肩を持ち、露天の裏側に引きずってゆこうとする。


「事務所でミッチリお話しようや、なぁ?」


「わわわわ分かりました! 払います! 払いますからぁ!?」


 生徒Aは泣く泣く銀貨を差し出し、意気消沈しながらその場を去っていった。


「せ、センパイ。まさかこれが、センパイの言っていた〝策〟なんですか……?」


 テスタードは答えず、この状況を見守っていたフィリアルディに鋭い目配せを送った。

 フィリアルディは涙目になって必死に首を横に振った。

 さらに催促するように、もう一度。

 そしてフィリアルディも、先よりも強い反応をもう一度。


「……」


 それを見ていたアレンティアが、おもむろに『キルトの実』をひとつまみ。

 ぽとり、と自分の胸の谷間に落とし込んだ。

 おぉ……!

 周囲がどよめく。

 次に目の前の生徒Bへ、


「拾う?」


「……!」


「拾わない?」


「……!」


 生徒Bは実を拾った。

 分かっているのに、拾ってしまった。

 そこに〝黒帝〟がヅカヅカと歩み寄ってゆき、


「触ったな?」

「ひぃっ!?」




「これは……」


「なにかご存知なのですか、エイメールお嬢様」


「昔、お父様から聞いたことがあります。ああしてお店の呼び込みに出た女の子をダシに使う商売があると。油断して女の子に触ったり、触られたりすると、お店の裏側から怖いお兄さんが出てきて、事務所に連れていかれてしまう商売なんだとかなんとか」


「おぉ」


「それは『とってもイケない商売』らしいのです」


「ほへ~」




 しかし結局、そんなやり方では近寄っても大半の客に逃げられてしまうに決まっており……

 テスタードの指示により、途中からは選択制のオプション『美少女売り子のおっぱい盛りサービス』としてひと粒二銀貨(ファロネ)で売り出されることとなった。


「はいっ! それじゃー好評なようなんで『おっぱい盛りサービス』、二銀貨(ファロネ)で開始したいと思いまーすぅ!」


 彼のかけ声がかかった時、露店の周辺の空気が震えるほどの熱狂が沸き起こった。

 売り子の女の子陣からは「ひえ~っ」と悲鳴が漏れた。特に奥手なフィリアルディなどは死にそうなほどの拒否反応を示していたが……。

 しかし、そこまでだった。


「こらこらこらあ! ぬわ~にをやっとるんだ君らはーー!!」


 人垣を裂いてズンズンと迫ってきたのは、男女二名の教師チームだった。


「チッ」

「ほっ」


 どちらもメガネをかけた神経質そうな教師だった。スフィールリアもよく説教を受けるふたり組で普段なら苦手とする部類だが、この時ばかりは神の夫婦に見えた。いや、別に夫婦ではないが。


「なんちゅう……なんちゅういかがわしい商売をしとるんだね君は! というかまた君かね〝黒帝〟テスタード! 栄えある〝金〟の階級者にあるまじき――」


「神聖なる学び舎をなんだと思ってるザマス! 女の子にそんないかがわしい格好をさせて商売に使おうだなんて! そもそもそのような現代の若者の性のただれが――」


 ガミガミガミ……

 ふたりがかりの説教が始まった。

 テスタードは耳をほじりながら「チッうっせーな」なんてこぼしながら聞き流している。

 と、ふと。テスタードは男性教師の方に人のよい笑みを浮かべて一歩を歩み寄った。


「な、なにかね。も、文句があるというのかね!」


「まぁまぁ、センセー。ここはひとつ穏便に収めちゃくれませんかね」


 と言って、隣にいたスフィールリア(離れていたのだがなぜか呼びつけられてセットで説教を受けていた)の肩をポンと叩く。


「……」


 スフィールリアはなんとなく彼の意を察し……しかたなく自分の胸の谷間に『キルトの実』をひとつ、落とし込んだ。演技指導の通り恥ずかしそうに顔を斜め下に向けて、谷間をさらに上方に差し出す。


「ど……どうぞ……」

「んなっ――!?」

「さぁ……収めてくださいよ。センセーも嫌いじゃないでしょ、こーいうの。さぁ」


 むにゅ。と寄せて上げられた乳に圧力があるとでもいうように顎を上ずらせる男性教師。

 上げかけた手は「やめたまえそんなことは」と言うためのもの。しかし、今にも泣き出しそうなスフィールリアの表情(演技)に戸惑ってしまった。


「さぁ」

「う、うぐっ……」

「せ・ん・せ・い!?」

「はっ!?」


 そして、うしろで怒りのオーラを沸き立たせる女性教師の声で我に返った。

 そこからはもうすごかった。


「君には恥というものがないのかねというか状況が分かっているのかね嫌がる女生徒に無理やりこのような商売を強要するなど言語道断学院の気品がガミガミガミ――!!」


「綴導術士という誇りある職種をなんだと思ってるザマスその卵たるあなたそしてその中でも〝金〟という最高の高みにある者の行動としてそもそもこの学院の始まりはゴチャゴチャゴチャ――!!」


 教師としての誇りを傷つけられた怒れるふたりによる説教の猛攻。いや人としての罵倒という方が近かった。

 どこからそれだけの言葉が出てくるものか、ふたりの文字通り息もつかせぬ説教は、その後十数分ほど続いた。


「ぜぇ、ぜぇ……分かったかね! ……。……ん?」


 放っておけばそのまま数時間でも続きそうな説教を止めたのは、人垣の一角で起こりつつある騒ぎだった。




 教師の見る先にいるのは『シェリー姐さん』。そこでまたひとりの生徒が捕獲されていた。


「うふん。捕まえたわん」


「あ……ひ、あが……」


「いいのよ。力を抜いて……たっぷりサービスしてア・ゲ・ル……」


 プチュア……

 シェリーがそのたくましい胸筋の間に挟み込んだ『キルトの実』を指で押し込む。実が裂け、汁が滴ってゆく……。


「……ひ! あひ! あが!」


 生徒Cは動けない。首に回したその手で顎もがっちりと開かれて……その無垢な口腔に……滴った汁が……


「あひ――!!」


 ……ポチャン。

 その瞬間、だれもが彼から目を背けていた。


「毎度ありー! またいらしてねん!」


「…………うっう。マリー、ごめんよマリー。ぼかぁ穢れてしまったよ……君という人がいながらこんな店に足を運んだばっかりに…………もう君には会えない………………」


 生徒Cが立ち去ってゆく背中には、荒涼とした風が吹いていた。


「うふん。ごちそうさま」


「こらこらこらあああああ!! なにをやっとるんだアンタはーーー! ていうか状況見てた!? こんな商売は中止! 中止なの!!」


「あらん。せんせーさんも受けたいの……? アタシのサ、ア、ビ、ス。うふ。いいわよ?」


「ひ、ひぃ!? い、いやだぁ――!」


「せ、先生!? どこにいかれるんです!? この場を諦めることは教育の放棄ですよ!?」


「アン、残念。でも女性がサービスを受けられないなんてことはないわ。この世は男女平等。今日はレディースデイ。せんせーさんは二割引にしておくわよ。さぁ!」


「ヒィ!? ――――お、おおおのれ覚えてらっしゃい〝黒帝〟テスタードそしてスフィールリア・アーテルロウン! この借りはいずれ!」


 ドドドドドド……

 きた時以上の勢いで逃げ去ってゆく教師二名。


「なんであたしの名前まで……」


 スフィールリアはげんなりとうなだれた。

 こうして〝黒帝〟たちは教師の説教を回避することができた。




 そして、商売の終焉でもあった。

 ざわ……ざわ……

 周囲の空気も微妙なものになりつつあった。

 なに、もう終わり? これ以上なんかないの? といった声が聞こえてくる。

 そりゃそうだ。こんな商売をしていて無事で済むはずがない。

 結局、珍しくもなんともない『キルトの実』を相場の十倍で売るだなんて無理な話だったのだろうか?


「まだけっこうあるなぁ」


 このままでは大赤字である。いやそれよりも、売れ残った『キルトの実』をどうしたらいいだろう。

 スフィールリアがそんなことを考えている間にも、状況は裏側で静かに、そして〝黒帝〟の思惑通りに動いていた。


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