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スフィーと聖なる花の都の工房 ~王立アカデミーのはぐれ綴導術士~  作者:
<2>はるかなる呼び声と薔薇園の章
57/123

■ エピローグ(2-23)

「やれやれ。どんなものを持ってくるのかと思えば、なんと、あの<ガーデン・オブ・スリー>の調査レポートとはねぇ。彼女も師に似て、思いもかけないものを突然に持ってくるものだわね?」

「ええまあ。わたしも驚きましたが」


<アカデミー>学院長室。

 そのデスク上にあったスフィールリアの定期監察レポートと認可書類をぴらぴらと振って、学院長は盛大なため息をついた。


「それで、あの『縫律杖』が必要になったわけね」

「……と言いましても、報告によれば、彼女自身の意思によることではなかったようですがね」

「そうね?」


 とうなづき、しかしフォマウセンは、どこかうれしげな微笑を浮かべるのだった。


「でもそれを正直に話してくれたというのは、あの子がわたしたちに信頼を寄せてくれてのことだわ? うれしいじゃないですか」

「しかし。あの『縫律杖』。思った以上の困り者ですね」

「そうねぇ」


 これには、学院長も元の困り顔を戻さざるを得なかった。


「一応、こちらの〝提案〟は飲んでくれたようだけれどもね?」

「あの〝端末〟ですか……」


 スフィールリアがこの部屋を退出していったのは、つい数分前のことである。

 その時のことを、フォマウセンとタウセンは思い出す。

 レポートとともに彼女によって持ち込まれてきた<神なる庭の塔の『煌金花』>。その杖に、このたびのような暴走にたびたび起こられては困るフォマウセンが、ある提案をしたのである。

 ――もう<神なる庭の塔の『煌金花』>を強力な力で封印したり、主であるスフィールリアから、無理に引き離そうとはしない。

 ――その代わり、自重してほしい。

 と。

 その約束の証明と代償として、フォマウセンが<オーロラフェザー>を用いて、スフィールリアに作ってやったのが、<神なる庭の塔の『煌金花』>の〝端末〟だった。

 今、スフィールリアの手首にはひとつの花意匠が施された金のバングルがはめられている。

 そのバングルに、<神なる庭の塔の『煌金花』>の一部を移植してやったのだ。

 彼女が工房の〝力〟を欲した時、<神なる庭の塔の『煌金花』>は、制限つきでその力を彼女に貸すことができるようになった――


「しかし、彼女が再び『あの状態』に陥った時は、どうなるか分かりません。危険です」

「彼女の中に埋め込まれた『フィースミール・ファイル』……その存在も明らかになったわけですしね」

「なにかが動き出しています。<ヴィドゥルの魔爪>も。その大きなうねりの、ほんの爪先にすぎないのではと。そう感じずにはいられません」


 そう。と、うなづくフォマウセン。


「今も。どこかから見ている何者かがいるのかもしれないわね。彼女――スフィールリアを」

「……」


 さてと言い、フォマウセンは席を立つ。


「お出かけで?」

「えぇ……久々に、知人に会えるかと思ってね」



 学院のとある一角において。

 フォマウセンの言う通り、スフィールリアのことについて話し合う人影があった。

 だが、問題はない。彼女のことを噂する者は多いのだから。

 この学院に、ささやき声は絶えないのだから。


「〝彼女〟の言う通りだったね」


 建物の影に溶け込んだ男が、そう言った。

 それに、日向側にいるもうひとりの男が答える。


「〝彼女〟の言う通り、薔薇の〝鍵〟は開かれ、あの地――〝城〟が現出した」

「分かりきったことだっただろうに。そのためだけに、六年もの歳月をかけて我らが<魔神ヴィ・ドゥ・ルー>が創造した〝偉大なる鍵〟をくれてやるハメになった。やれやれまったく、上層部の慎重さには恐れ入るよ」


 と言って気楽に肩をすくめた男は――商隊(キャラバン)襲撃事件にて、スフィールリアを人質に取り、今は牢獄にいるべきはずの、綴導術士の男だった。


「そう言うな。アレは元々我々が正式な取引の下に買い取ったものだし、<ガーデンズ>領域ではなくこの現世で彼女の力を確かめるのは、危険すぎる行ないだった」

「そう。君たち――<焼園>の目的のためにね」

「〝鍵〟の問題もよく分かった。次はもっと巧く作れるだろう――学院の秘宝を手に入れるのは、我ら<焼園>だ」

「ふふっ。まぁ、頑張ってくれたまえよ。その暁には、我々との第二の取引のこともお忘れなく。……さて、ヴァルのヤツを迎えにいってやらなくちゃな。ぼくはこれにて失礼するよ」



 また、学院の別の一角のこと。

<アカデミー>の最奥部分には、ひとつの〝部屋〟がある。

 そこはシンプルに<玄室>と呼ばれている。

 その暗闇の中を、ひとつの足音が木霊し始める。


「……フォマウセンか」


 先んじて〝部屋〟の内部で座っていた老人に、フォマウセンは簡単に会釈を返した。


「お久しぶりだわね。煌桜洞の秘術廊の鍵守、ロ・パロ・トゥル」

「よせやい。今は、単なるしがない〝雑貨屋〟の店主さ」

「あなたに学院の敷地の一部を預けてから、もう長いわね。……スフィールリア。すでにあの子とも会っているそうね?」

「あぁ。ヴィルグマインの弟子の娘っ子な。あの子は、いい子だよ。師匠とまったく似てねぇところがな」


 肩を揺らしてくつくつと笑う。

 その袈裟懸けの衣装をまとってパイプから煙をくゆらせる姿は、スフィールリアもすでに何度か目にしている、あの〝雑貨店〟の老人のものだった。


「見にきたんか」

「ええ。薔薇の〝鍵〟が開いたと聞いてね」

「……」


 ふたりで見上げる天井。そこにある十二枚のステンドグラスのうち、〝薔薇〟の名を冠する窓だけが、生命を吹き込まれたかのように爛々と、赤い輝きをこぼしていた。


「ここにゃあ、第四の獣――エブラヒュプトゥンが封じられていた」

「そう。『世界樹の騎士』アイバ・L・タイキが倒した、滅びの魔獣が」

「そいつは違う。倒せなかったんだ。だから、ここに封印した。俺は、その管理を任されていた。だから学院(ここ)にきたんさ」

「だけど、今は、空っぽ」

「んだなぁ」


 部屋の中心に目をやるふたり。


「〝いつ〟からなのかしら?」

「お前さんもよく知っている日さ。三百年前に滅んだはずの国……そいつが〝霧〟の中から、ひょっこり顔を出した日さね」

「やはり……」


 苦い顔を作るフォマウセン。


「フィースミールが動いてる」

「ええ」


 唐突な断定にも、彼女は動じなかった。少なくとも、表向きには。


「俺ぁ、あの女だけは昔からよく分からんね。アイバの野郎や、ヴィグのヤツを呼んだ時もそうだった。世界を救いたいんだか、滅ぼしたいんだか」

「……」

「だけど、正直怖くてな。一度も、直接聞けたことはねぇ」

「今日は饒舌なのね。――あの人は、いつだって、だれにだって分からないわ? ヴィルグマインにも。わたしにだって」

「どこ、いっちまったんだろうなぁ」


 再び部屋の中央をみやる翁。それが、ここに封ぜられていた〝霧の魔獣〟のことであるというのは、聞き直さずとも分かることだった。


「この部屋から出ることはできない。それが何者であっても。……外から開かれでもしない限りはね」

「んだ。そして、この部屋の鍵を開けられるもんは、残りひとりしかいねぇ。俺とお前と、エムルラトパのと――」

「フィースミール師……」

「んだ。だから、あの女が動いてる」

「……」

「この〝部屋〟が必要になったんだ。だから、邪魔なエブラヒュプトゥンをどかしたのさ。たぶんな」

「……」


 沈黙は、長かった。


「もう、いくわ。久しぶりに話ができて、うれしかったわよ?」

「そか。たまには店にきな。一杯ぐれぃならおごってやるさ」


 ふっと息を抜き、歩き出すフォマウセン。


「……では、」


 部屋を出る直前に、ふと気になり、彼女は老人を振り返った。


「では空っぽになっていた『この部屋』に……次に現れるものがあるとしたら、それはなんだというのかしら?」


 その、問いかけに、老人は、


「……分からんね」


 とだけ答えてきた。


「……そう」

「俺ぁ、あの女だけは昔からよく分からん……」

「……」

「分かんねぇんだわ……」


 繰り返されるつぶやきを背に、彼女はその部屋をあとにした。



 そして、あくる朝のこと。


「……むぅ」


 スフィールリアは小屋のポストの前で、一枚のチラシと睨めっこをしていた。


「やぁ、スフィールリアちゃん」


 そこに、うしろから声をかけてきたのはアレンティアだった。


「アレンティアさん」

「やぁ。早い時間にごめんね。学校の時間はまだだよね」


 あれから、三日ほどの時間が流れていた。

 あのあと。

 『フラスコの剣』を失ってしまったスフィールリアたちだったが、アイバの『世界樹の聖剣』のおかげで、元の世界に帰還することができた。

 その替わり、アイバからは「危険なことする時は俺を呼べつっただろが!!」とのことで硬いゲンコツを食らうハメになったのだが……。まぁ、破格の代金だっただろう。


 定期監察であるが、これも、全会一致で審査を通ることができた。

 世界の根源領域である<ガーデンズ>へのアクセスは熟練の綴導術士たちが集う学会においてもその手法が確立されておらず、そこへ確実にたどり着ける〝門〟の存在と、スフィールリアが提出したレポートには、監察の通過(パス)認定どころか金一封が送られたほどだった。

 といっても、〝門〟への接触には王室との交渉が必須になるわけだが……しかし、その関門が彼女にとって関係のないことであるのも事実だった。


 そうして退学の危機を免れたスフィールリアは、一息をつきつつも、次なる自分の進路について、考え始めているところだった。

 そんなところへの、このチラシとの睨めっこであったわけだが……。


「はい。どうしたんですか?」


 アレンティアは提げていた鞄から、一本の短剣を取り出して、差し出してきた。

 土壇場でスフィールリアが作成した『白き薔薇の小剣』である。


「これ、返そうと思って。ありがと」


 スフィールリアはしばらくその剣を眺めて、しかしかぶりを振った。


「この剣は、もう、アレンティアさんのものです」

「いや、でも」

「ほら」


 スフィールリアは短剣を指差した。

 今は当時より形状が変化していて、『薔薇の剣』と同じように、薔薇の彫刻(レリーフ)の柄意匠が施されている。


「アレンティアさんの白い薔薇が、完全に定着したんです。だからこれはもう『薔薇の剣』の一部です。あたしが持ってても、使えません」

「そう、なんだ」

「はい。だからシェリー姐さんには申し訳ないですけど……これは、アレンティアさんのものです。大事に使ってあげてください」


 まぁ、あの店主のことだから、短剣に白薔薇を移植した話を聞かせてやるだけでも大満足してくれるだろうしなとスフィールリアは考える。


「……ありがとう」


 そう言って、アレンティアは『白き薔薇の小剣』を腰の剣帯に装着した。


「似合ってますよ」

「えへへ。ありがと」

「……」

「……」


 それから、本格的に夏の訪れを感じさせる風が、吹き抜けて。


「ありがとう、ね」


 アレンティアが、改めてスフィールリアに向き直った。


「君がいなかったら、わたしたちは死んでたと思う。あの時、わたしにすべてを預けてくれた君に――わたしは最大限の敬意を捧げるよ。人として、戦士としても、ね」

「い、いえいえそんな」

「ほんとだよ」


 そう言うと、アレンティアは彼女の前にひざまずき、彼女の手を取り……その手の甲にそっと口づけをした。


「あ、アレンティアさんっ?」

「わたしの剣は、君に捧げようと思う。王でもなく、ほかのだれのためでもなく、君に。わたしの剣を受け取ってほしい」

「……」

「いついかなる時も、君のために。どんな時でも呼んでほしい。君の力になってみせる」


 突然のことに、しばらく顔を赤らめて黙り込んでいたスフィールリアだったが……。


「……ダメ?」

「はい、ダメです!」


 やがて、きっぱりと、そう宣告した。


「えっ。……ダメかっ」

「はい、ダメです!」


 二度言われて、アレンティア。さすがにへこんだようにくしゃくしゃと髪を混ぜながら、立ち上がった。


「振られてしまったか~」

「そ、その替わりですけど」

「?」

「あの、だから……」


 今度はスフィールリアの方が決まりきらないといった風にモジモジし始める。

 次に、意を決したように、アレンティアの目を見つめ返した。


「と、と……友達に!」

「……」

「…………とか、だったら、なんて。あ、あは……なってくれたら、その。うれしいかな、なんて思ってみたり。こ、こんなあたしですけど」


 アレンティアは、ぽかんとしていた。


「あっ、いや、その! やっぱりダメですよね! あたしなんて今回、なんかどえらいことして足引っ張っちゃったみたいだし、得体が知れないし身分も違うし友達少ないし! すみませんたわごとでした忘れてくださ――」


 次の瞬間、彼女の言葉は止まっていた。

 アレンティアから、強い抱擁を受けて。


「――」


 ぐい、と両肩を持ち、


「よっしゃ、その要望、受けた!」

「え。えとその……い、いいんですか?」

「参ったな。君は自分のことを、過小評価しすぎだよ」


 にっかりと笑い、アレンティアはスフィールリアの身体を離した。


「じゃあ、友達として改めてお願い。困ったことがあったら、わたしを呼んで? 素材集めでも、ちょっとアブない探検でも。いくときは声だけでもかけて」

「……」

「……追いかけるんでしょ。あの〝城〟を」

「え……。ど、どうして」

「〝眼〟かな。これでもたくさんの人を見てきたから。あのお城を見てる時のスフィールリアちゃんの眼は……命を懸けてでもなにかに立ち向かおうって人たちと、同じだったから」


 そう言うアレンティアの瞳は、どこまでも真摯だった。


「だから、さっきは『剣を君に』なんて言ったの。放ってなんかおけないもん。……でも、それは、〝友達〟だったとしても、同じだよね」

「……」

「同じで、いいよね」


 スフィールリアは、うつむくようにうなづいて返事をするので精一杯だった。


「よっし。決まりだ! 任せてよ。なにせ『薔薇の剣聖』だからね! どんな採集地だろーがちょちょいのちょいよ!」

「は……はいっ。よろしくお願いします! ふつつかものですがっ!」

「あはは、それじゃ友達じゃなくて、恋人のやり取りだよ」

「え、えへへ」


 いまだにアレンティアとのキスの衝撃が覚めやらないスフィールリアはドキドキだ。


「――よろしくね、スフィールリアっ」




「ということになったの。というか、ううん。ていうか、したの!」


 時と場所を移り、昼時の<アカデミー>大食堂前。

 昼食を取る生徒たちの喧騒の中で、アリーゼルとフィリアルディが、ぽかんとした顔を浮かべていた。


「したの、て。自分がなにを言っているのか、分かっていますの? あの〝お城〟を追いかけるって……どう考えても尋常なる代物じゃありませんわよ、あんなもの」

「危険だよ……」


 分かってる。

 とスフィールリアは、静かにうなづいた。


「……でも、あたしはあの城にいきたいの。なにか、あたしのとても大事なものが、あそこにあるような気がして。……ううん、それだけじゃない」


 一度言葉を切り、彼女はきっぱりとした眼差しでふたりを見る。


「あのお城を追いかければ……会えるような気がするの。フィースミールさんに。だからあたしは、いくよ」

「……」


 しばらく、お互いの目を合わせていたアリーゼルとフィリアルディ。

 やがて、しようもない悪戯に出くわしたように気の抜けた息を吐いた。


「まったく、言い出したら聞きませんのねあなたは」

「うん、スフィールリアだね」

「?」


 スフィールリアが小首をかしげていると、アリーゼルから先んじて、こんな宣言をしてきた。


「ではそのお話、わたくしも一枚かませていただきましょうか」


 次に、フィリアルディも、


「手伝うよ! ……できる範囲で、になるけど」

「えっ」


 一転して慌てたのはスフィールリアだ。


「ど、どど、どうして! だって危ないよ!」

「勘違いなさらないでくださいませんこと」


 アリーゼルが気丈にうしろ髪を払った。


「あれだけ大きなものを空に浮かべるほどの科学力を持つ国家の歴史の記録は、世界中を探しても、『魔術士の文明』以外にはありませんの。ですが魔術士の文明にも、あんな巨大な城の記録はないんですのよ」

「う、うん……そ、それが?」

「フィルディーマイリーズ家は歴史探査にも多大な貢献をしてきた由緒ある家門のひとつ。ですからわたくしが、偶然にも目にすることとなったあのお城の正体を追いかけようと思ったところで、なんら不思議や矛盾もございませんのことですわ! そう、これはフィルディーマイリーズ家の一員としての当然の行ないでもあり、誇りを懸けた挑戦でもあるのです!」

「な、なるほどぅ……!」


 勢いでうなづかされるスフィールリア。

 と、そこで、フィリアルディが。


「わたしは……スフィールリアの友達だから。友達のことは、助けてあげたいもの」

「フィリアルディ……」

「なっ……! ふぃ、フィリアルディさん!? そういう言い方はずずズルいですわ!?」

「アリーゼルが意地っ張りなんだよ」


 困ったようにフィリアルディが笑い……やがて、三人で笑い合っていた。


「……で。当面、どうなさるおつもりなんですの?」


 うん。とうなづき、スフィールリア。


「あの城は、失われた歴史のどこかを今も彷徨っていると思う。だから……あたしもこの世界の歴史を、追いかける」

「ま、そうなりますわよね」

「でも、そのためには色んなものが必要になるわ。ゲートを作るための〝アーティファクト・フラグメ〟もそうだし、〝霧〟の大深度に潜るための資格もそうだし……」

「ですわね。そのためには、最低でも〝白磁〟のランクが必要になりますわ。ということは、当面は学業と研究に専念なさるということでよろしいですの?」

「ううん」


 しかし、スフィールリアはきっぱりとかぶりを振った。


「ううんって、どうなさるおつもりですの。わがままや無茶を言ったところで階級は手に入りませんわよ」

「ひとつだけ……ある。一気に飛び越しでランクを上げる、方法が」

「……?」


 顔を見合わせるアリーゼルとフィリアルディ。

 そんな彼女たちに強気な笑みを返すと、スフィールリアはポーチから一枚の紙片を取り出して見せた。

 それはチラシだった。

 とある、近々、学院で催される一大イベントに関する――


「まさか!」

「そう――!」


 ひくっ、と。そのあまりに無謀な彼女の挑戦を悟ったアリーゼルが引きつった笑みを返す。

 その、チラシに書かれている、イベント。それは――


「二年に一度の祭典! <アカデミー>大コンペティション祭――出場、します!!」


 スフィールリアの宣言が、高らかに響き渡った。



 夏が迫っていた。

 世界が注目する大コンペティション祭を目前に控えた、学院に――。


「……」


 そして、ひとりの男が学院に帰還する。

 それが、騒乱の祭りの幕開けとなることを、まだ、だれも知らなかった。





<2>はるかなる呼び声と薔薇園の章  了

活動報告に「次回予告」を更新しました。(2016/8/15)

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