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スフィーと聖なる花の都の工房 ~王立アカデミーのはぐれ綴導術士~  作者:
<2>はるかなる呼び声と薔薇園の章
48/123

(2-14)


 日と場所を移して、スフィールリアの工房。

 スフィールリアは、桜庭の小屋の前に座り、アレンティアを見ていた。

 依頼のこともあり、スフィールリアは、彼女と行動をともにすることが増えていた。単純に気が合うということもあるが。


「……」


 さて、その、アレンティア。

 今はスフィールリアの前で、構えた『薔薇の剣』を、ゆっくりと動かしていた。

 舞を踊っているようでもある。


「キレイな動きですね」


 剣とともに踊りながら、アレンティア。


「ありがと。これね、『薔薇の舞』って言って、実家(グランフィリア)の人は全員教わるんだ」

「薔薇の舞?」

「うん。なんのためかは知らないけどね。みんな、剣術でいう〝型〟だと思ってる」


〝型〟とは、剣術の流派にある『構え』や『動き』のすべてをゆっくりと再現する訓練法のひとつだ。

 言うなれば、グランフィリア流派の〝型〟が、これであるということであるが……。

 通常の〝型〟は、ひとつの動きを終えると、かならず元の『構え』に戻る。そしてまた『構え』から次の動きへ……ということをくり返すものだ。

 しかしアレンティアが再現する動きは、通常の〝型〟と違って、『構え』に戻らない。なにひとつとして同じ動きのない、本当に舞いを踊っているかのようだった。

 それだけではなく……。


「すごい範囲で〝気〟を使ってますね」


 お、と面白そうな顔になって、アレンティア。舞いはやめないまま。


「気がついた? さすがだね。そう、普通の〝型〟とは違うのが、コレなの。技術的には、遠投、て呼ぶんだけどね」


 アレンティアは剣に膨大な〝気〟を乗せて舞いを踊っていたのだ。剣の動きに合わせて、森の広範囲に渡って彼女の〝気〟が行き渡ってゆく。

 遠投とは、遠投射の略で、〝気〟を遠く離れた場所に顕現させる技術のことだ。

 これによって、遠くの場所にまで声を届かせたりすることができるらしい。


「なんのためなのかは、やっぱり、みんな知らないんだけどね。でもウチでは代々、ずっとこうするよう教わってるの。専用の試験もあるぐらいなんだ」

「へぇ~!」

「周辺環境の蒼導脈に働きかける効用もあるんだ。今は〝青〟色の〝気〟を使ってるから、しばらくこの辺りの蒼導脈は、安定するはずだよ」


 要するに、土地の蒼導脈に対するリフレッシュ効果も望めるということだ。

 彼女は時折、王室に依頼されて、各採集地にこれを実行するそうなのだ。


「わぁ、ありがとうございます! あたしも<近くの森>にはお世話になってるから、助かります!」

「なんのなんの。こっちだって難しい依頼を聞いてもらってるからね。訓練兼、そのお礼よ」

「本当だ……周りの『流れ』が、どんどん穏やかになってく……アレンティアさんは本当にすごいなぁ……」


 笑顔で彼女の舞いを見守っていたスフィールリア。

 その表情が、だんだんと、真面目なものへと変わっていった。


「蒼導脈への干渉……強化……」

「スフィールリアちゃん?」

「……っ!!」


 その瞬間、スフィールリアは、ぱっとその場に立ち上がっていた。


「ちょっと。失礼します!」


 そして勢いよく取って返し、玄関へと入っていってしまった。

 工房へ駆け込み、バタバタと、なにかを漁り始める様子が窓の外から確認できた。


「……」


 さすがに舞いを止めて、しばらく、工房の様子を見つめていたアレンティア。


「……うん?」


 よく分からず、小首をかしげるのだった。



「〝霧〟を斬ることのできる武器、かね?」

「はい」


 再び場所を移して、昼下がりの<猫とドラゴン亭>

 グラスを拭きながら、マスターはしばし考えふけるように視線を宙へ上げた。

 夜は酒場として栄える<猫とドラゴン亭>だが、昼間にも食堂としての顔がある。

 昼時を終えた今も、そこそこの客入り具合である。

 マスターは、白髪を後ろへなでつけた細身の男前(ダンディ)である。

 小柄で人の良さそうな顔立ちをしているが、なかなかどうして、人間とは見た目だけで推し量れないものである。

 かつては冒険者として謂わせていたというこの彼が、酔って暴れた荒くれ者を片腕で持ち上げて、ピッツァよろしく大回転させながら笑顔で店の外まで連行してゆく姿を、スフィールリアは目撃したことがある。


「たとえばセロ国に現れた〝霧の魔獣〟を斬ったという『世界樹の聖剣』が有名どころだね?」

「そうそう、そんな感じです! 特に、〝気〟を利用してその威力を上げるようなヤツ!」

「あ、そっか。それでスフィールリアちゃん、勇者君の試合を見学してたんだ」

「あ、はい。そうですっ。お薬で自分の存在を強化する方法だと、どうにも手詰まり感があって……」

「〝霧の杜〟にでもゆくのかい?」

「そんなところです」

「ふぅむ」


 となると、伝説上で語られるような――つまり入手不可能な物品の話では役立たずである。

 というところまで考えを巡らせたのだろう。

 思案顔だった<猫とドラゴン亭>のマスターが、ふと思い当たったように目を合わせてきた。


「そういうことなら、心当たりがないでもないが」

「本当ですかっ!?」

「……ただ、これはわたしの知人の話でね。そう簡単に広げてよいものでもないのだよ」

「……いくらですか?」


 マスターが指で示した金額を、スフィールリアは即決で手渡した。

 ちなみに、このいわゆる『話代』というやつだが、スフィールリアは知っている。

 この手の金銭徴収は、なにもマスターひとりが、自分の欲望を叶えるためだけに抱え込むものではない。

 話を流す代わりに、その噂話の張本人にもいくらか手渡すのだ。

 だから、事前にそういう相互了承が取ってあるか、話を手渡す人物によほどの信頼がなければ、話してもらえないシステムなのだ。

 そういうわけだから、スフィールリアも安心して話を聞くことができた。

 果たしてその人物がいる場所とは、存外なほどに近い位置にあった。



「まぁ。〝霧〟を斬る武器ですって!?」


 なんて物騒な!

 ……と身体をくねらせたのは、<猫とドラゴン亭>向かいに武具店を構える美丈夫、オルガス・ゲハルンディス――通称『シェリー姐さん』であった。


「ビルのやつね、お話したのは。……う~ん、なんというか」

「ありませんか?」


 スフィールリアの率直な問いかけに、シェリーは難しい顔を作る。


「あるないで言えば――あるわよ。でもそれは伝説や史実の中のお話。今のあたしの店には、ないわね」

「今の、ですか」

「そ。今は、ね。たしかにかつてあたしは、それに類する武器を作ったことがあるわ。でもその()は、王室に召し上げられてしまったわ。封印級危険物指定を受けてね。今も絶賛封印中」

「……その概要っていうのを、少しでも教えてもらうことはできませんか? お金だったら、少しは払えるんですけど……」


 うーん、と芳しくない顔でうなる武器屋の店主。

 思い出したくない、というような雰囲気にも取れた。


「その()のお話は、たぶん、役に立たないわね。〝霧〟への作用も偶然の産物だし、本来の効果の方が危険すぎて、制御も不可能だったから」

「そう、ですか……」

「なぁに、〝霧の杜〟にでもいくの? それも、とびっきりの場所と見たわね」


 と、アレンティアの方を見て検討をつけるシェリー。

 スフィールリアは、隣でヒマそうに身体をブラつかせていたアレンティアに目配せをした。

 それだけの代物を作ろうというのだから、その理論構築のファーストオーサーとでも言うべきシェリーに話をするのは妥当なのではないかと思ったのだ。

 アレンティアは、うなづいた。


「そう。なんと、あの『薔薇の剣』関連とはねぇ……いいわ。同じ剣の作り方は教えられないけれど、その効能の概要だけなら教えてあげる」

「本当ですかっ」

「面白そうじゃない。うまくいったら、聞かせて? 『薔薇の剣(そのこ)』のこ・と」


 シェリーがメモ書きも添えて話してくれた内容は、たしかに、スフィールリアの求める形のものではなかった。

 同じものを作るのも、不可能だと思われた。


「……どうかしら? 〝霧〟は『存在しないもの』、だからねぇ?」

「ですよね……そもそもオルムス値反応が得られないものに干渉しようってところからして矛盾してますよね……」

「〝霧〟を斬るって発想は、いいと思うんだけどね? あたしはとても斬新だと思ったわよ」


 会話についていけない門外漢のアレンティアは、プラプラと店の中の展示武具たちを見て回っていた。


「でも、その剣の反応効果はおもしろかったです。ありがとうございました」

「いいのよ。聞きたいことができたら、またきてちょうだい――あ! そうだ!」

「?」


 引き止められて疑問符を浮かべると、シェリーは「待ってて」とだけ言って、店の奥へ姿を消す。

 戻ってくると、その手には一振りの短剣が握られていた。


「前に預かった短剣()。メンテしとくって言ったけど、無理だったの」

「えっ」

「刀身が全部なくなっちゃってたからねぇ。だもんだから、アレだったら一から打ち直した方が早いのよ。そういうわけだから、はいこれ」


 それは、スフィールリアが<ルナリオルヴァレイ>で使ったものとほぼ同品のものだった。


「『ミルパラート(あのこ)』の姉妹剣、『ミルブレイド』よ」

「い、いいんですか? 壊しちゃったのはあたしの責任だし、新品をもらうのは……予算もちょっと……」


 シェリーは「タダでいいのよ」と気前のよいウインクを返した。


「あなたが剣に込めたっていう、モンスターをアイテムに変換する術式……とっても興味深かったわ。この種類の剣の可能性を見せてもらった気がするのよね。……それに、自分が打った武具が持ち主を最後まで護れなかったっていうのも、ねえ?

 こちらとしては正直なハナシ、あなたには、もっと上級の武器の方が絶対にいいと思うのよ。自分の身の丈に合った武具を持つことが、武器と主、双方にとって一番幸せなことなのよ?」

「……」

「とびっきりのダンジョンに飛び込むんでしょ? この()でも足りるとは思えないけれど……使ってやってちょうだい」


 ついでにこの剣でまた新しいことをしたら教えて欲しいと言い添えて、シェリーはスフィールリアの手に短剣を握らせた。


「……ありがとうございます!」


 スフィールリアは、追加の武装を手に入れた。


「それじゃあわたしも一本、買っていっちゃおっかな。コレなんかすごくよさそう」


 と言って、アレンティアも一本の剣をラックから抜き出した。

 スフィールリアたちが話し合っている間に目をつけていたらしい。


「あら薔薇の大将さん、さすがいい目利きしてるのね。でも浮気? よくないわよ?」

「場所が場所ですからね。ちょっと、思うことがあって。必要になるかなって」

「ふうん? それにしても興味深いわねぇ。SSSランクの伝説の宝剣。『薔薇の剣』の〝故郷〟だなんて。ねぇスフィーちゃん、やっぱりあたしも連れてってもらえないかしら?」

「えっ、だだだ、ダメですよあんな危険な場所! 三人分の通り道を用意する自信なんてないですし!」

「そぉ~お? 残念だわー」


 非常に残念そうに、店主は身体をくねらせた。



「思ったんだけど、スフィールリアちゃん。さっきの話にあった、『世界樹の聖剣』じゃ、ダメなのかな。あれなら、かなりの威力で〝霧〟にも干渉できるって話なんでしょう? 勇者君に力を貸してもらうっていうのは」


 道すがら、スフィールリアは、首を横に振った。


「説明は難しいんですけど、ああいう伝説の武器がするソレっていうのは、『通り道』を作るっていうのとは、ちょっと違うんです。さっきシェリーさんに聞いた武器の話にしたって、時空間ごと<アーキ・スフィア>上で切り離して意味消滅させてしまうってものだったし」

「ふ、ふうん?」

「それにこれはあたしの仕事ですし。アイバにもあんまり無茶してほしくないですしね」


 それに、今のアイバでは、まだそこまで『世界樹の聖剣』を使いこなせないだろう。負担も大きいはずだ。


「そっか……友達だもんね。ごめんね」


 いえ!

 とスフィールリアは元気よく振り返った。


「無理なことと可能なことを照らし合わせていけば、なにが足りないのか、なにが必要なのかも分かってきますから。教室のみんなとかにも聞いてみます。がんばりますよ!」

「……そうだね。また新しい採集が必要なら、呼んでよ。わたしもがんばるから!」


 えいえい、おー!

 ふたりでこぶしを合わせて突き上げる。

 出会ってから何度目かのそのやり取りをして、ふたりはそれぞれの家路についていった。



 さて。とある屋敷の二階部分より……そんなふたりを見つめる影がふたつ。あった。


「あぁ……スフィールリアさん。今日も活力に満ち溢れて。ステキですわねぇ……」


 ほぅ、と甘美なる息を漏らすのは、エスレクレインであった。

 もうひとりは、当然、執事のワイマリウスだ。


「スフィールリア様は、最近では、あの薔薇の騎士団長殿とご一緒のことが多いようですな」

「そう……そうなのね。報告を」


 は。と短く一礼し、ワイマリウス。


「スフィールリア様は、<薔薇の庭>ガーデン・オブ・スリーに興味をお持ちのようでいらっしゃいます」


 報告も、簡潔だった。

 それで分かるとでも言うように。


「まぁ……」


 事実、エスレクレインは、それですべてを察したようであった。

 うっとりと自らの頬をなで、期待を裏切らないスフィールリアを想い、また吐息を紡ぐ。


「やはりあのお方はすばらしい人。自らが統べるものを分かってらっしゃるのだわ」

「いかがなさいましょうか?」

「ちょうどよいじゃありませんこと」


 問いかけに、彼女は、


「この機会に〝鍵〟をひとつ開いて差し上げるというのは……どうかしら?」


 嫣然と笑みかけて、ワイマリウスは、それを承諾したのだった。



 再び工房に戻ったスフィールリア。

 シェリーとの話で得た構想をまとめに、紙束と向かい合っていた。

 それを見たフォルシイラが、目を丸くした。


「……これは、〝武器〟か?」

「うん。自分を強化するのがダメなら、〝霧〟の方にどいてもらおうと思って」

「ははぁん。なるほどねぇ。それで、『コレ』なのか。……『E・F・モルフィーヌグラス』に……『グランジェム』に『オーロラジェイル』……『ルシルタイト』……ほうほう、ずいぶんと豪華じゃないか。教師でもそうそう扱わない難物ばかりだ」

「今日から、さっそく取りかかるよ。あたしだけじゃ用意できないものもあるから、<クエスト掲示板>に張り出してくる」

「『オーロラジェイル』は、さすがに学院でもそう簡単には出回らないぞ」

「うん……とりあえず、それは保留。じゃ、いってくるね」


 スフィールリアが去ったあとに……

 フォルシイラはもう一度、図面に目を通す。

 そして面白そうに笑い、だれにともなく、こう問いかけたのだった。


「……これは、〝武器〟……か?」


 しかし、思わぬタイミングで、計画は頓挫を余儀なくされるのだった。



「<クファラリスの森>が、全面立ち入り禁止ぃ?」


 採集地立ち入り申請に出向いたスフィールリアは、聞かされた事実に、声を裏返していた。


「『オーロラジェイル』はあそこに咲いてる花からしか取れないのに……」

「『オーロラジェイル』? またずいぶんとレアな品をお求めなんだな。ありゃあ、森に入れたとしてもそうそう見つかるもんじゃないぞ。超レアアイテムだ」

「まぁ、そうなんですけど。それでも探せないことには……」

「まーなぁ」


 とそこで、窓口受付のアルバイトをしている上級生が、面白そうな顔をして、声を潜めてくる。


「それがな、妙~なハナシなんだよ。今回の立ち入り禁止令」

「妙、ですか?」

「ああ。知ってるか? 最近、森のモンスターのパワーバランスが変わったらしくて、森のモンスターが、<クファラリス精霊邸湖>の方にまで出てくるって話」


 スフィールリアはうなづいた。

 なにせ実際、この目で見てきたことだ。


「ああ。そんでな? 原因の調査と解消――原因となるモンスターを討伐すれば元に戻るんじゃないかって、騎士団が派兵されることになったんだよ」

「あ、それじゃあ、その派遣期間が終わるまで、てことですか?」


 ところが、上級生は首を横に振った。


「いや、その期間はもうすぎてる。騎士団も切り上げて、帰ってきてるんだ」

「ていうことは、失敗しちゃったんですか?」

「結論を言うと、そうらしい。だけどな……様子がヘンなんだよ。帰ってきた騎士団たちの」

「変?」

「ああ。ここからは直接見たわけじゃなくって、噂なんだけどな。全員が体調を崩して、帰ってくるしかなかったらしいんだ。しかもどうもそれだけじゃないらしくて、うわごとで、妙なことを口走ってるらしい」


 さらに声を潜めて、上級生。


「――『魔物の呪いにやられた』ってな」

「魔物の、呪い……?」


 スフィールリアはいまいちよく分からず、小首をかしげた。


「そういうモンスターが出たんですか?」


 上級生は首を横に振った。


「いや。実際には、その〝呪い〟とやらの原因であるモンスターの姿は、だれひとりとして捕捉できなかったそうなんだ……それで、見つけられないまま、次々と倒れていった。だから、〝呪い〟なのさ」

「呪い……」

「だけど倒れた全員が、<クファラリスの森>には生息してないはずのモンスターを目撃してるんだ。そいつらは全部倒したらしいんだけど……わけ分かんないだろ? いくら森の勢力バランスが崩れたって言ったって、そんなむちゃくちゃな種類のモンスターが、いっぺんに流れてくるなんてあり得ない。騎士団の連中は、ひとりひとり、全員が違う種類のモンスターを見たって言うんだから」

「そんなの。あり得ないですよ」


 うんうん。と上級生もうなづく。


「まぁそういうわけだから、急遽、森には戒厳令が敷かれたってわけさ。今度は国も本腰入れて解決にあたるらしくって、聖騎士団を派遣することに決めたらしい。だから、それが終わるまでは森にはだれも入れない」

「そ、そんなぁ~」

「ま、気の毒だけどな。でも聖騎士団が動くんなら、解決もすぐだろ。それまで辛抱してくれよな」


 と、いうことらしかった。

 王室からの立ち入り禁止令が出てしまっている以上は、スフィールリアではどうしようもない。

 だが、そこでスフィールリアの脳裏に浮かんだ人物がいた。

 アレンティアである。

 彼女ならもっと詳しい事情を知っているかもしれない。さらに、もしも派遣されるのが彼女の部隊なら、頼み込んで同道させてはもらえないだろうか。

 そんな一縷の望みを託して、スフィールリアは、彼女たちの詰め所を訪ねることにした。




「ああ、うん。そうだよ。今度派遣されるのは、ウチの団なんだ。最近は秘密裏の行動ばっかりでさ~」


 アレンティアはやたらあっさりと情報を開示してくれた。


「あの……もし大丈夫だったら、その森、あたしも連れていってくれませんか……?」

「うん?」

「ちょ、隊長、ダメですよ無理です! ただでさえ不確定要素が大きい作戦なのに、この上<アカデミー>の方にまで負傷を負わせてしまったなんてことになったら!」

 横で話を聞いていた副官のウィル君(たしかウィルベルトと言ったか)が、慌てて止めにかかってくる。


「それに、あなたも。今回は下位の騎士団が全滅して帰ってきたっていう前提もあって、危険なんです。あなたのことを護りながらの作戦は、無理なんです。どうか、分かってください」

「……スフィールリアちゃん。ちょっと」


 とそこで、アレンティアがスフィールリアの肩に手を回し、彼には聞こえない声で尋ねてくる。


「……それって、例の〝依頼〟絡み?」


 スフィールリアは、気迫を込めてうなづいた。


「……です!」

「……」


 しばし考える風に黙り、アレンティア。

 スフィールリアを離し、ぱむと手を打って宣言した。


「分かった。連れていってあげる」

「ほんとですかっ?」

「隊長~~!」


 本気で怒っている風なウィル君に、どうどう、と手でなだめてアレンティアが言う。


「分かってる。条件はこう。まずわたしたちは森の外縁<クファラリス精霊邸湖>に本陣を取るでしょ? 原因の判別および排除が完了するまで、この子はそこで待機。もし森で彼女がほしがる品が転がってたら、それはわたしが拾う。どう?」

「ま、まぁ。それなら足手まといはいないことになるし、食料がひとり分増すだけですから、隊長の権限ということにしてもらえば、いいですけれども……。あとは、絶対に秘密にしてもらうという条件をつけてもらえるなら」


 足手まとい、のくだりでスフィールリアはややムッとしたが、アレンティアに小声で「ごめんね?」と謝られてしまえば、黙るしかない。

 真面目な面持ちで片手を挙げ、スフィールリアは宣言した。


「絶対に口外はしません。皆さんのジャマもしないし、指示にも従います」

「……分かりました」


 ウィル君が渋々といった風にうなづいて、アレンティアが、軽く片目を瞑ってウインクをしてくれた。


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