話の整理 ‐花ちゃん視点‐
鹿間花枝。今年で二十六になる。
ちなみに、既婚者である。
かしこまって自己紹介なんて今さらだけど、させてもらいました。なぜなら、牧穂に任せていたら、またあらぬほうへと話がそれて行きそうだと思ったから。
牧穂とは、三年前、看護専門学校で出会った。
見た目はすごくおっとりしていて大人しそうだけれど、実際話してみると、結構いろいろとペラペラしゃべってくれた。
だが、思い切り自由で奔放な行動ぶりで、病院実習が始まるやいなや、グループメンバーや教員、指導者、挙げ句の果てには患者様にまで迷惑や心配をかけてばかりいた。必ず問題を起こしては、まわりに助けを求めて泣きつき――主に私に――なんだかんだ叱られては立ち直り、強靱的な粘り強さで実習を乗り越え、国家試験にも合格し、卒業していった強者。
しかし、就職してから四ヶ月経った今でも、行き当たりばったりな能天気者のようだ。しかも、相変わらず話があっちこっち飛ぶし、聞いているほうの身にもなれ!
まったく、心配の種がつきない子だ。
私はといえば、高卒で介護士として働きだし、二十一で結婚。二十二で仕事を辞め、思うところもあって看護学校に入った。
動機が「キューティー○ニーがナースに変身した姿が可愛かったから」なんて、間違ってもそんなふざけたものではない! 無論、このふざけた理由の張本人は目の前の牧穂だ。あのときは本当に呆れかえった。
思い出話はこのくらいにして、状況の整理。
私は専門学校卒業後、さらに上の大学に進み、助産師の資格も取るために勉強している。
はっきり言って、忙しい。
夏休み? たしかに普通この時期はね。でも、医療系の学校にちゃんとした長期の休みなんてあると思って? 答えはノーだ。
そんな中、牧穂から久しぶりに連絡がきた。まあちょうど牧穂のほうも、業務に少し慣れてきただろうし、たまには顔見てやらないと、ちゃんとやってるか心配だ。
そう思って、都合を合わせて今日こうして会っているわけだが、まさかね……
普通さ、真っ先に言わない? そういうこと。
いやいや、牧穂に常識は通用しないか。
それにしてもだよ? 今の話きいて、まわりは「ああ、結婚駄目だったんだ」って思うよ。いきなり泣き出すし。
つまりあれだったのね。出会ったときのプロポーズ――で良いのかしら?――の仕方が気に食わなくて泣いちゃったと。
なんていうか、マジで予想外なんだけど……
相手も相手だ。なぜ見ず知らずの人と結婚しようと思う? 有り得ないでしょうが。てか、何で占い師の言うこと鵜呑みにしてるの? 馬鹿じゃないの? それともそのくらい純粋だってわけ? 私には裏があるようにしか見えないんだけどね?
別に、占いとか否定しているわけじゃなくて、ただ、牧穂のことが心配すぎてそう考えちゃうだけなんだろうけど……
さらに牧穂から話をきき出して、まとめてみるとこんな感じ。
相手の男性は荻原さんといって、隣のY市に住んでいる、二十三歳の就職浪人……かと思いきや、その後ようやく仕事が決まったようで、今はちゃんと働いているらしい。
それってまさか「この間の話」とは言えないんじゃないの? というつっこみはもはやスルーで!
収入はあっても、いきなり二人で生活はできないからと、籍だけ入れて実家暮らしの別居中なんだとか。
うん、そりゃそうよね〜。
いやいやだから! 違うでしょ!? そもそも何で結婚しようと思った? てかした!?
これはもう、学校の課題とか気にしている場合じゃないかも……
ああ、牧穂の将来がぁ!!
とても傍観なんかしてられないわ……牧穂は何だかんだいっても、私の可愛い妹みたいなものなんだから!
牧穂本人は「大丈夫だよ! 良い人そうだし〜」って。
そういう問題じゃなくてさ? 結婚って苦労が多いのよ!?
学生時代話したよね? いっぱい苦労話したよね? あれはすべて無駄だったの? ねえ、ちょっと泣いていい? 私も目の前で泣いてもいいですか?
駄目だ……
落ち着こうよ、私。取り乱してもどうにもならない。
とりあえず、相手の真意を知りたいわ。
そういうわけで、来週の日曜日、私はその「荻原さん」とも会うことになった。
私ったら、つくづくお節介な人だわ……
実際にはこんな親身な親友とか、こんなふざけた看護学生はいないだろうな……なんて考えながら書いています。
次回はついに牧穂の旦那さんが登場です!
※ネタバレってほどでもないですが、意外な人だったりします。