出会いから説明
神社の神様が寝てしまったので、私は仕方なく石段に座って待つことにした。
神社の神様とはいうけれど、もっと厳密にいうと、お稲荷様は穀物の神様で、きつねはその使いであるとか。だから今すーすー寝ている可愛い子ぎつねは、本当は神様の使いなのだ。なんでも「神様の代理」だという。
なぜこんな小さな神社で、結婚相手を連れてきてとお願いしたかというと、実は私の家系が代々この神社の神様――今はその代理だが――に結婚相手を決めてもらっているからだ。
つまりは伝統というやつだ。伝統は受け継がなくてはならない。だから私はこうして適齢期となったので、神様にお願いした。今は寝ちゃってるけど。
ふぅとひとつため息をつくと、ぼぉっと空を見上げてみる。もう夕方だった。夕日で世界全体がオレンジ色。すごくきれいで、こうして待っているのも悪くないなと思う。
それに、このシチュエーションで告白とかプロポーズとかすてき! ロマンチック!
そんなことを考えていたら、オレンジの光に照らされた石段を、一人の男性が登ってきた。びしっと決められたスーツ姿がよく似合っていて、いかにも優秀なサラリーマンという出で立ち。
かすかな期待を胸に、私は彼をじっと見つめていた。手には何か小さいお花みたいなのを持っている。これってひょっとして、ひょっとしたら、ひょっとするじゃない?
ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン…………
彼は私の方に迷わずやってきて、石段に座っている私の目線よりちょっと低い位置で立ち止まった。それでも夕日の逆光でかなりまぶしい。顔が見えない。せめて正面じゃなくて、ななめ横に立ってくれないのかしら?
なんて黙ってしばらく考えていたら、彼が口を開いた。
「あの、何か僕に聞くべきことがあるはずではないですか?」
ああ! これはもう、間違いないわ!
「あなたは神様が連れてきてくれた人なの?」
「……はい」
「そのお花は私にわたすために持ってきてくれたの?」
「は、はい」
「じゃあ、私と結婚してくれるのね?」
「は……い?」
しばしの沈黙を破ったのは、彼の絶叫だった。