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お稲荷様の縁結び  作者: うさ大福
番外編(小話とかいろいろ)
10/11

将来のことをちらっと考えたよ

やっと書けた二人のその後。

 家に帰ると、夜勤明けで爆睡していたのだろう牧穂が、寝起き顔のパジャマ姿で出迎えた。その格好で「ご飯にする? お風呂にする? それとも……」とか言われても、なんかもう、いろいろとくだけ過ぎというか、気が抜けすぎというか……もうそろそろ、次にこういうことがあったときにでも、ちらっと注意しておこうかな。と思ったところで、彼女の夜勤明けの「語り」が始まった。


「実はね、最近退院したばっかりだった患者さんがまた入院してきたんだけど……その女性ひとのこと、家ではずっと旦那さんが介護してたんだよね。それが旦那さんが突然吐下血しちゃって、検査入院したんだよ」


 ご飯の支度をし始めながら、手を動かしつつ口も動かす牧穂に、たまに相槌を打ちながら部屋着に着替えると、一緒に支度を手伝った。

 結婚してそろそろ一年経つという頃になって、最近ようやく二人暮らしを始めたのだが、そうすることで相手の見えなかったところがまたどんどんと見えてくる。

 看護師二年目の牧穂は、当然夜勤もするようになっているが、明けで帰ってくると必ずテンションが高い。そしてその日の夜勤内容を、個人情報すれすれ大丈夫かという範囲内で長々と語り出すのだ。本当にお疲れ様です。


「夫婦二人暮らしの老々介護だったからね、奥さんは社会的入院っていうことで、夫婦同室で入院したんだけど」

「そういうこともあるっていうか、できるんだね?」

「うーん、うちの病院特有じゃない? 余所はどうなのか知らないからわからないけど。でね、旦那さんは必要な処置を受けて一旦は落ち着いて、このまま無事に退院できたらなと思っていた矢先にね、検査の結果で胃癌が見つかっちゃって」

「うわぁ……」

「またしばらくは面倒が見れないねってことで、なんだかんだ話し合って、結局奥さんは施設にあずけられることになったんだよ。片麻痺もあってトランスが結構大変なんだなぁ」


 食卓に夕飯が並べられて、お互い席に着くと「いただきます」で食べ始める。その間も変わらず牧穂はしゃべるしゃべる……口より手を動かそうか!? と最初の頃は思ったが、話したいことを話せば気が済んで、逆に機嫌は良くなるから良いのだと最近学んだ。


「奥さんが退院してからしばらくして手術したんだけど、ずっと絶飲食だったせいか、術後結構低迷状態だったの。大丈夫かなって心配してたんだけど、今はレベルが上がってバイタルも落ち着いてきたし、安心していたんだけど」


 さて、ようやっと本題に入るかと感じながら、先に空になった食器を片付けるために、一旦席を立つ。洗い終わって戻ると、牧穂はまだ口をもぐもぐさせていて、こちらを見ると待ってましたとばかりにまた語り出した。


「夜になってから急にせん妄になったんだよね。術後は大部屋に移ったんだけど、突然大声出すし、カーテンをシャーッてやるし、挙げ句の果てには、朝方胃管チューブ抜いちゃうんだけど。せん妄の人ってみんなカーテンシャーッてやるんだね。シャッシャシャッシャ音がするから、部屋のぞいてみたらカーテンの向こうからこっちをのぞいてるの。それで『向こうにいるんだろ。早く行ってやらないと、あいつ俺が面倒見てやらないと駄目なんだ』って言うんだよ。あいつって奥さんのことだろうなって思ったんだけど、前の部屋と間違えて、ごちゃごちゃになってるんだねぇ……なだめるの大変だった」

「それは大変だったね」


 そう言って牧穂の隣に腰かけると、牧穂は思い出したようにクスクスと笑った。


「二人はお見合い結婚だったんだって。それでもあんなに思ってもらえる奥さん、うらやましい!」

「僕も思ってるつもりだけど?」

「知ってる!」


 満面の笑みで見つめられる、その無邪気な顔はまるで子どものようだ。でも、ちゃんと考えることは考えていたりもする。


「だから育さん、私が将来脳梗塞とかになったら、介護よろしくお願いします! 大丈夫、育さんは身体大きいから!」

「……その言葉、そっくり返したいところだけど、身体が大きいと介護って大変だよね、ごめん……」

「し、心配ないよ!? きっと育さんの子どもだって大きくなるはずだから、そのときは助けてもらおう! 何人産みましょうか? 育さん、子どもは何人お望みでしょうか?」


 いや、そういきなり飛躍的に意気込まれても……いざそういう雰囲気になったら、怖いって逃げるくせに。介護とか子どもが何人とか、そんな先の未来よりもまずは、一体いつになったら初夜が迎えられるのかと、わりと近い未来を心配していたりする。


なぜか結局こういう落ちなのですね(笑)

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