玖
ツンデレは良い人
「では、鷹月亜漓栖。具体的にどうすれば良いのですか? こうすれば良いのですか?」
「案あるなら、聞かないでよ……」
そう言って、亜覇ちゃんはバッグから、大量の文庫本を出す。
全部乙女向け小説で、しかも禁断系で、全て兄妹愛モノだった。
「亜覇は、いつかお義兄様がこのようなことをなさってくれるのを待っているのです!」
亜覇ちゃんは、本の山から一冊抜き取り、パラパラとめくる。
その間に周りを見渡すと、いつのまにか惣福脇がいなくなっていた。
身の危険を感じたんだろう。
壺君や撫子、あけちゃんもドアのすぐ近くに立っていて、部屋から抜け出すような格好だった。
「これです!」
ばばーん、と効果音が鳴りそうな感じであたしに挿絵を見せる。
そこには、いかにも王子様風といった金髪イケメンが頬を真っ赤に染めた黒髪美少女をベッドに押し倒している絵があった。
何で実の兄妹で髪色違うねん。
でもこういう一緒に住んでるモノって、こういうイベント起こしやすいから楽だよね。
あ、ツッコむところが違う?
「ふむふむ…… 無理だね、惣福脇には」
「バッサリです!」
ちなみに、撫子達は絵を見てドン引きして、部屋から出ていった。
亜覇ちゃんは、ムンクの叫び並に残念そうな顔をする。
「いやー、だって惣福脇って見た目草食系だもん。いやまあ、アレは状況に応じて肉食系タイプだけどね。どうみても、ムッツリな惣福脇は無理!」
「………… ふうん、よく見てますね」
「え? 何か言った?」
「何でもないです! では、どうすれば良いんですか、鷹月亜漓栖!」
亜覇ちゃんが何かつぶやくが、あたしには聞こえなかった。
まあ、いいや。
そしてあたしは、亜覇ちゃんに案を話始めた。
*
「おはようございます、お義兄様!」
「おはようじゃないか、惣福脇!」
翌日。
登校中の惣福脇の背後から、声をかける。すると、惣福脇は忍者のごとく! と言ってもいいくらい移動した。
「ふっふっふっ、では亜覇ちゃんプランA、実行!」
「分かりました、鷹月亜漓栖!」
草食系惣福脇を、オオカミにするには……!
色仕掛けしか? ないでしょ!
「お義兄様ぁ…… 亜覇を放っておくなんて。連れない人……」
制服の下に着こんだ、スリットが太ももまでチャイナドレスで惣福脇に近寄る。
周りは何か何かと、野次馬が集まり始めた。 「制服着ろ」
そう言うと、亜覇ちゃんを引っぺがして学校へと向かう。
亜覇ちゃんは、それを見送ってチャイナドレスのまま、あたしに向かって叫んだ。
「まったく効果ないです! 鷹月亜漓栖!」
これは……!
亜覇ちゃんは、衆人環視の元で惣福脇に近付いた。
だから、惣福脇にの中に残った理性がオオカミ化を止めたんだよ。
つ・ま・り。
人気のないとこでやるのがオーケーなのさ!
*
そういえば、忘れてたけど亜覇ちゃんが珍名学園一年S組に編入した。
グループは、惣福脇の義妹ということもあって、あたし達と一緒らしい。
ま、そんなことはさておき。
「__ っ!? い、いやああああ!」
「どうした、亜覇ちゃん!」
惣福脇オオカミ化計画第二弾。人気のないところでオオカミさんになりましょう!
わ~、ぱちぱちぱちぱち。
「足の小指を…… 机の角に…… ああっ! 身体が……」
「亜覇ちゃぁぁん!」
亜覇ちゃんが身体を痛め、惣福脇と保健室に。
あたし達がなんとか、保健の先生を外へ出し、中は密室状態に。
すかさず、そこで亜覇ちゃんの色じかけ! どう! この完璧な計画!
「よし、保健委員の惣福脇。亜覇ちゃんを保健室へ連れていくんだ!」
「いや、俺保健委員じゃないぞ。それに、足の小指を痛めて保健室なんてありえない」
「律儀に全部ツッコミましたわ!」
それを見ていたあけちゃんが、さらに律儀に全部ツッコんでくれる。
何気のツンデレは良い人だったりする。あ、あけちゃん、同じネタ引っ張りたくないから、これにはツッコまないように!
「ツッコむ前に封じられましたわ!」