捌
ブラコンは正義
「…… え。お、お兄様っ!? この子、惣福脇の妹さん!?」
惣福脇に抱きついて、頬をすりすりやっている女の子を思わず指して告げる。
すると、撫子がはぁ、とため息をついた。
「………… 亜覇ちゃんは、惣福脇君の妹でも、義理の妹なの」
どうやら、この黒髪の少女は亜覇ちゃんと言うらしい。
ふむふむ、とうなずくと撫子が続けた。
「義理の妹だから、もちろん血は繋がっていないでしょう? だから、亜覇ちゃんは…… 惣福脇君を慕っているのよ」
いわゆる、ブラコンというやつか……!
一人で納得していると、脇目もふらずに惣福脇に抱きついていた亜覇ちゃんが大声をあげた。
「撫子お姉様、それは違います! 日本人みたいな、遠回しな比喩などでは亜覇は許せません! 亜覇は、お義兄様を愛しているのです!」
ビシィっ、と撫子に向かってどこかの少年名探偵ばりにかっこよく指をさす。
いや、それもっとひどいんじゃないかな!?
「さぁ、お義兄様…… 空白の時間を、この情念の接吻で埋めましょう!」
んー、という風に目を閉じて惣福脇にの唇に近づける。
亜覇ちゃん、日本人の言葉使ってるじゃん……
あ、ツッコミどころ違う?
「いやいやいやいや、ちょっと待とうか!」
石化している惣福脇は、役に立たないので仕方なく二人の間に入る。
すると、何か惣福脇が感動していた。
「鷹月……!」
「何です、通行人A!」
いや、あたしは確かに亜漓栖だからAだけど!
「そういうのは、人目がないところでやってくれると嬉しいんだけど!」
「そこ(ですの)(なのかしら)(なのかな)!?」
何か、あけちゃんと撫子と壺君に総ツッコミ入れられました。
「むぅ…………」
「あっ、亜覇ちゃーん?」
「何ですか! 通行人A!」
「確かにあたしは亜漓栖だから、Aだけどね!?」
数時間後。
何とか惣福脇にキスしようとする、亜覇ちゃんを女子寮まで無理矢理引っ張ってきた。
一応事情説明ということで惣福脇と壺君、男子勢も連れて来た。
何故、男子寮は駄目なのかと言うと、惣福脇が石化したので聞かない方が良いよね!
「亜覇はお義兄様を愛しているのです。だから、こうして愛情表現をしているだけです! 何か問題でも?」
「大ありですわー!」
全員を代表し、あけちゃんが叫ぶ。
惣福脇は亜覇ちゃんから距離をとって、微かに震えてるし、撫子も微妙に距離をとって、満面の笑みを浮かべている。
きっと、もう苦笑とかそういうレベルじゃないんだろう。
どんだけ怖いの!?
「何がです! 金髪ロリツインテツンデレ高飛車お嬢様の通行人A!」
「そんな的確な通行人嫌ですわぁぁ! そして、わたくしは曙だから良いものの、亜漓栖さんと同じ! Bも言うのも面倒ですのぉぉ!」
「いちいちうるさい小娘なのです」
「わたくしは高校一年生ですわぁぁ!」
亜覇ちゃんがあけちゃんいじりに徹していた。
うん、良いよね!
「それで! ブラコンは個性だから良いとして、何でここにいるの?」
「鷹月さんさりげなく認めたね……」
壺君が若干引いていた。
その隣に座っている撫子が、「亜漓栖ちゃん、恐ろしい子……!」とか言っていた。
あたしは、天才的演技力とかないから!
「お義兄様と一緒にいられないからに決まっているではありませんか!」
「決まってるんだ……」
あけちゃんも、いつのまにか亜覇ちゃんから距離をとっていた。
あれ、もしかして一番普通なのあたしだけ?
亜覇ちゃん…… あたしは、亜覇ちゃんの味方だよ!
「うんうん、事情は分かった! 分かったよ、亜覇ちゃん! つまりは、惣福脇とくっつきたいんだね……! 禁断の恋……! 嗚呼、何て甘美な響き……!」
「何故そうなる」
やっと惣福脇が石化から戻った。
そして、あたしに比較的近い場所に座っていたので、若干距離をとっていた。
「ようし! あたしが、惣福脇とくっつけてあげるよ!」
「鷹月亜漓栖! なかなか分かるでは、ありませんか!」
亜覇ちゃん、そこまで……!
ふっ、今こそ我の真の能力を見せようではないか!
「はっーはっはっはっはっ!」
「どこかのラスボスですの!?」
ということで、協力しますよ、亜覇ちゃん!