漆
わたくしは友達が少ない
「まずは! ここ、ですの!」
バアン、とどこかの部室のドアを大きくたたく。
部室棟でも文化部っぽい部屋だし、まあ普通の部活だろう。
「ええと…… ここ、何部なのかしら」
撫子が不思議そうな顔で、あけちゃんに聞き返す。
うん、それあたしも凄く思ってた! 撫子グッジョブ。
普通ならドアの前に部活名が書かれているのに、この部だけは書かれてないのだ。
「ふっふっふっ…… そうおっしゃるのも当たり前というもの……! この部は、学校のほとんどの方に知られていませんのですわ!」
「まあ、部活多い学校だし、生徒全員が知ってるのなんて、ほんとにメジャーなスポーツ系だけじゃ……」
「そういうわけではありませんわ!」
目をギラーン、と輝かせたあけちゃんは久しぶりのような、いやでもたったの一日ぶりの高笑いをした。
「この部は………… エア部、ですわ!」
「エア部?」
「はい。エア部は、新入生用の部活説明大全にも載っていない、唯一の部活。ほとんどの生徒は、この部の存在を知らずに卒業していくのです……」
もったいぶったように、しんみりとうつむきながら寂しそうに言う。「ああ、お可哀想に……」とか言ってた。
「活動内容は?」
撫子もイライラしたのか、急かすように口を開く。
「名前の通りですわ。エアギターというものがありますでしょう? あれの活用版ですわ、おっほっほっほっ!」
「活用版?」
手をあごに当て、じゃじゃーんとつぶやく。あけちゃん、本人はギターを弾いているつもりなんだろうけど、ヴィイオリンになってますよ、それ。
「全てがエアですの。エア友達、エア顧問、エア部員」
「それもう部じゃないんじゃないの!?」
「エア服」
「おまわりさん、こっちです!」
「エア身体」
「魂だけ!?」
「エア魂」
「もう本体何!」
「エア世界」
「あたし達は今どこにいるんだ!」
「エア宇宙」
「ほんとにあたし達何!?」
すぅ、とあけちゃんが口を閉じた。はぁーとため息をつき、そしてあたし達に告げる。
「では、見学に……」
「行かないよ!?」
*
「結局、文化部でまともな部活ってないんじゃないの……?」
「そうね…… 文芸部では写経をやらされたしね」
惣福脇以外の皆がいっせいに、はあーと深いため息をつく。
惣福脇よ、君は疲れていないのか……?
「とりあえず部活の件は保留、ということで……」
「そうですわね…………」
「あはは…… 惣福脇君は、凄いね……」
壺君が、まったく疲れてなさそうな惣福脇に向けて言う。
すると、惣福脇はそうか? みたいな表情になって、こう告げた。
「もっと面倒事に巻き込まれてるからな」
「面倒事? 何それ」
どこか遠い目をして惣福脇に、軽い気持ちでたずねる。
すると、惣福脇は固まってしまった。
「ダメよ、亜漓栖ちゃん。それは、惣福脇君の現在進行形の黒歴史よ……」
「えっ…… あ、ごめん……」
何故か、撫子も虚ろな目で言う。
さっき惣福脇の幼馴染と言っていた、撫子もあまり触れたくはないらしい。
そして。
男子寮と女子寮へ行く、別れ道に来た。
「じゃあねー」
「また明日ですの! おーほっほっほっ!」
個々に別れを行って、道を進もうとする。
すると。 調度、別れ道の間にある木に。一人の黒髪の女の子が立っていた。
そして。
「ああ、何度もこの日を待ち望んだことか……! 会いたかったですわ、お義兄様!」
そう言って、惣福脇に抱きついた。
短めです。