拾弍
フラグ成立
「むごぉっ!? ふぁごふぁごふぁごぉ!?」
顔に影と縦線を背負った惣福脇は、無言であたしの口をふさいでいる。
その側ではしゃがみこんで笑いをこらえているあけちゃんと、もう隠すつもりはないのか吹き出している撫子、困ったように苦笑している壺君がいた。
亜覇ちゃんは、もう泣きを通りこして怒りである。
何ですかアレ、まじで怖いですよ!
「ふぉふぅふぉふぅふぁふぃ、ひゃふぃふぇふぅふぃふぉふぅひゃぁひゅ(惣福脇、何で口をふさぐ!?)」
「…… 大体、言っていることは分かった。一回だけ聞く。さっきのは何だ」
「何でって、あれはあたしの本心だからね!」 暗い顔の惣福脇は、淡々とあたしにそう告げる。
手から口を離し、あたしがちゃんと喋れるようになると、あたしは大声でそう告げた。
いやー、あけちゃん分かってるよ! あたしの気持ちを代弁したと言ってもいいくらい、ポ○モンのピカチュウを分かってるよ!
「それって…… 本当なのか」
「当たり前だよ! あたしの気持ちは、変わらない!」
何故か惣福脇の頬がほんのわずかに、赤く染まる。
当たり前じゃないか! ポケ○ンでピカチュウ以外のキャラを好きになるなんて、ありえないからね!
「__ とりあえず、時間をくれ。返事はそれからだ」
「ダメだよ! 惣福脇だって、あたしの気持ち分かってるでしょ!?」
惣福脇も、ピカチュウを好きになろうよ!
それを、考えさせてくれなんて…… そんなに、嫌いなのかぁぁ!
「たぁーかぁーつぅーきぃーあぁーりぃーすぅー?」
「ひっ!? ど、どうしたの亜覇ちゃん!」
それまで、うつむいて静かに震えていた亜覇ちゃんが、なまはげのような怖い口調で襲いかかってくる。
「鷹月亜漓栖! 亜覇に協力するふりをしていたと思ったら……! 裏で寝とろうとしていたなんてぇぇぇ!」
「何が!?」
「曙ちゃん。そろそろ、誤解を解いた方が良いんじゃない?」
「くっ…… ふふふ…… え、ええ。そうですわね!」
口元を抑えて上品に笑うあけちゃんは、さすがお嬢様といったところか。
だけど、その頬を膨らませて涙目の顔芸にはまったくお嬢様が感じられないね!
「まあ、待ちなさいですわ。惣福脇さん、亜漓栖さんが仰っているのはそちらの"ピカチュウ"さんではなくてですのよ」
ほれ、という風にあたしに渡した紙を見せる。
しばらくして、紙を読み終えた惣福脇の顔がさらに真っ赤に染まる。
も、もしかして惣福脇……! あたしの説得によってそこまで、(ポ○モン)ピカチュウが好きになってしまったというのかぁぁ!?
「亜漓栖」
「いやぁー、惣福脇がそこまでポケ○ンのピカチュウを好きになってくれたなんて嬉しいよ!」
「これからそう呼ぶことにする」
「ピカチュウといえば、やっぱりでんこうせっかだよね。あの火花がマニアにはたまらない………… って、え? 何か言った?」
もしかして、惣福脇も同意してくれたのか!? ピカチュウについて語ってて、聞こえなかったけど。
「いやー、それは嬉しいね!」
「っ!?」
ピカチュウ好きがまた増えたこということだね……! フッ、あたしの力はこんなもんではないのさ、フハハハハハハ!
………… え、というか何で皆無言なの。何で惣福脇は息呑んでるの。何で亜覇ちゃんは固まってるの。
「亜漓栖さんのことは、これから"フラグクラッシャーと見せかけてちゃんと回収してる方"と呼ばせていただきますわ」
「どういう意味、それ!?」
第弍話終了