拾
あたしたちの盗聴はまだまだこれからだ!
「体育だね! 惣福脇!」
「………… そうだな」
いつもなら、そこまで楽しくない体育が今日はとっても楽しみになる。
人気がないところなんていくらでもあるからね! 体育倉庫とか!
「こほっ、こほっ。げほっ、げほっ。ふらーり」
亜覇ちゃんがわざとらしく咳をし、自分で倒れる効果音を言う。
あたしは、その様子を見て三メートルほど移動した惣福脇の背中を押して、亜覇ちゃんを受け止めさせた。
「じ、持病の花粉症で…… 余命一日です」
「だったら、体育なんてしてていいのか」
惣福脇は、亜覇ちゃんを立たせてまた、素早く移動する。
なんなの、そのスキル!
「ということで、体育委員の惣福脇! 亜覇ちゃんを体育倉庫へ!」
「俺は、何委員でもないし、そもそも倒れて体育倉庫行きはおかしい」
「おかしい…… あたしの完璧な作戦で一つもなびかないなんて…… どう見てもおかしい……」
「それはどう見てもなびかないのが当たり前でしょう」
いつのまにか、放課後。
女子寮の部屋でぶつぶつと言っていると、隣の部屋の撫子が部屋に来ていた。
「ふっふっふっ………… まあ、待ちなさい、撫子。あたしには、奥の手がある!」
「絶対倒されるラスボスの死,亡フラグが立ちましたわ!」
すると、左隣の部屋のあけちゃんも部屋にやって来る。
いつのまにか、亜覇ちゃん以外の女子メンバーが集まっていた。
「それで、奥の手って何なのかしら?」
「保健室、体育倉庫はダメだったけどね! 夜、寮、男、女、これで浮かぶものが一つ、あるじゃないか!」
「ごめんなさい、まったく浮かばないわ」
あけちゃんも同意するように、うんうん、とうなずく。
………… ええ!?
「男子寮の惣福脇に部屋に忍び込むんだよ!」 「先ほどのとまったく繋がらないですわ!」
*
「ということで、IN男子寮だよ!」
ばばん、と自分で効果音を言って男子寮の入り口を指す。
基本、異性の寮には立ち入り禁止なんだけど、そこは壺君になんとかしてもらった。
何か疲れた顔してました。お疲れ!
「それにしても、壺君…… どうしたの?」
「撫子さん! 僕を心配してく……」
「いえ、単に気になっただけよ」
すると、顔に縦線が入った壺君はその場にくずれ落ちる。
あたしは、仕方なく壺君を立たせて男子寮へと入った。
*
「お邪魔しまーす」
男子寮の部屋は、基本は女子寮の部屋と同じだった。
やけにふかふかな天蓋付きベッド二台(一人部屋)、キッチン、テレビ等。
惣福脇と壺君は、同じクラス同じグループということもあって、部屋が隣である。
あたしとあけちゃん、撫子と亜覇ちゃんも同じだ。
珍名学園は、生徒数が多い上にあけちゃんみたいなお金持ちもたくさんいるらしいので、普通はよほどの大声じゃないと隣の部屋の声は聞こえないんだけど。
「大丈夫、これがあればすべて解決!」
あたしは、事前に亜覇ちゃんの許可をもらって付けてもらった盗聴器を取り出す。
あけちゃんと撫子、壺君があたしより数メートル離れた。
「ちゃんと許可もらってるからね!?」
撫子たちは、はぁとため息をつくとこちらに向かってくる。
いつのまに用意したのか、テーブルにはクッキーとジュースが置かれていた。
『お義兄様!』
『あ、亜覇!?』
カリカリとクッキーを食べていると、数分後。
盗聴器から声が聞こえてくる。
どうやら、ベッドに隠れていた亜覇ちゃんが作戦を決行したらしい。
「さあ、あたしたちの盗聴の始まりだよ!」
「何故そんなにいきいきしてますの!?」