Second.
時間がかかってすみません!
Second
確か、ポーチを入れたリュックは会議室に置いてあるはず……。
ぼんやりとした記憶の中にある品を思い浮かべる。
実のところ、暁がわざわざ立華に図書館に行くように勧めたのは、少しでも時間を稼ぐ為だ。彼女の目の前で、昨日の一件に関する物を物色する事などできない。
できるだけ、昨日の事は思い出させたくない。彼女にこれ以上辛い事に触れてもらいたくない、させてはいけない。そんな葛藤が彼の中で起こっていた。
ーー☆ーー☆ーー☆ーー
目の前のデスクには、文字通りに血生臭いポーチ。
「おいおい……。こりゃ思ってたより状況は悪かったらしいな。立華来させないで大正解だったか」
持ち帰る時には気が付かなかったが、ポーチの裏の面はすっかり黒く変色している。こびり付いた鉄の臭いが鼻に付く。よく見ると、裏どころでは無く、あちこちに血痕がついていた。
「ぐあっ……。中身までばっちり血染めですか」
震える手で中身をまるごと出してみると、日記と血塗れの紙束。それと、傷だらけの通信端末が顔を出す。
まずは日記に手を延ばした。
理由? 一番手っ取り早そうだからでしょ。
(ん、実験……原喰生物について?)
その一冊のノートには、暁が知らないような事が大量に綴られていた。それが真実か否かは別として、だが。
原喰生物は決して死なない。たとえ致命的なダメージを武器で与えて行動不能まで追い込んでも、そのバクテリアは、それを構成する更に細かい細胞として霧散し、再び集合するということ。そして、どこかの研究所が〔EE27〕に対抗できる可能性が考え得る『何らか』を発見したこと。
どれも信じ難い……いや、信じたくないようなこと。他にも色々書き込んであるようだが、血のりに塗り潰されているおかげでほとんど読むことができなかった。
頭が痛む。何かが頭に引っかかっているような。
無い記憶が何かに反応しているように、それが頭の中で叫んでいる……その何かが自分の中を引っ掻き回しているようなーーーー。
まだ続きはあるが、頭痛にため息をつきながら日記を閉じて、残り二つの遺品に目をやる。
紙束はレポート用紙のように見えるが、日記と違い、一切読むこともできないほど血で濡れていて、通信端末は動きやしない。
「うーむ……」
椅子に深く腰掛けて唸る。
これは彼女に伝えた方が良いのだろうか。
明日からは、彼女の意見次第で動き方を変えねばならないかもしれない。その上でどうするかを迷う。
生き残りがいるかもしれないという虚ろな希望と、死なないバケモノ共……。どうすれば良いのやら、ちっとも見当がつかない。
しばらく考えて、とうとう決め切れずにウジウジと立ち上がり窓の外を眺める。
すると、立華が図書館の前に立ち、こちらに向かって手を降っていた。
窓を開けて声を張り上げる。
「どうしたァ!」
「もうお昼! ご飯持って来てよっ」
「げぇっ、マジっスか⁉」
「よろしくねっ!」
問答無用、と言わんばかりに彼女は図書館に戻って行ってしまった。
そんなに気に入ったのだろうか。
一応だが、遺品一式を手に持ち食料を取りに体育館に向かう。
ーー☆ーー☆ーー☆ーー
腕に缶詰を適当に抱えながら、暁は更に考え込む。
どうしても考えがまとまらない。隠し事するのに抵抗があるわけで、それでも彼女に昨日の事を思い出させるのも良い事とは思えない。どうしたものかとウンウン唸り続けている暁なのだが。
ーーーーーーやはり、直面しなければならない現実もある。
そう結論付けて、彼は図書館に向かうのだった。
中継ぎ的な容量で少なめです、ごめんなさい……