The girl who takes the weapon
The girl who takes the weapon ☆武器を取る少女☆
「来いよ、ここを軽く見て回ろう。トイレとか、わからないと不便だろうよ。女の子なんだから、お漏らしするわけにもいか――――ぐわはっ」
最後の『ぐわはっ』とは、冒頭からわざわざ言おうとしていて言ったことではない。
台詞の途中で暁が、自ら話しかけている少女に殴られたのだ。
「……わかった、冗談だけど……本当に困るだろ、殴るなよ」
「あら、暁くん。何か言った?」
「何も言ってないです(即答)。ほら、行こうぜ。時間が無くなる」
殴られた後頭部をさすりながら速足で歩き出す。
立華が追いつき、並んで歩く。
「ねぇ、時間が無いって、何か用があるの?」
その質問に、暁は頭を掻きながら答える。
「この後、おまえに合う銃を選んで、使い方の説明。それが終わったら収集に出るんだ」
わかる人も多いだろうが、『収集』とは物資の回収のため民家などの残骸を見て回ることである。
「銃、なんて持たなきゃならないの?」
少し不安げな表情で立華が訊き返す。無理もない。自分だって最初に渡された時にはかなり抵抗があった。それでも渡さないわけにはいかない。
「さっきも言った。ここがいつバケモノ共に襲われるかわからない。用心に越したことはないよ」
苦笑しながら言うしかなかった。これで更に不安を押し付けてしまっただろうか。
だが、返ってきた言葉は思っていた物とは違かった。
「わかったわ。暁くんはもう慣れているの?」
「まあまあかな。何人かでなら銃で原喰生物を殺った時もある。一人では無理だけど、相手によっては俺達二人でもできるよ」
--☆--☆--☆--
必要な事の説明を全て終えて、最後に向かった場所。
「ここが、言っていた地下スペースね?」
うなずいて手を伸ばし、電気を点ける。少し待つと、部屋全体が弱い電気で照らされる。
「不思議なくらい広いけど、食料と武器が入るだけ収納してある」
そう言いながら踵を返し、ハンドガンが置いてある辺りまで歩く。
種類こそ少ないが、他の武器よりはだいぶ本体と弾薬の数がある。その理由の一つは、愚類消化寸前では国がほとんど機能しなくなったことで重犯罪がかなり増えた。そのため、民間人も銃を手に入れ、護身するか犯罪を犯すかに分かれた。その流出したこれらの拳銃は残り、今はここに眠っている。
「すごいわね……触ってもいいかしら?」
「もう俺たち二人の物なんだから、いいに決まってるだろ」
了承すると、震える手を伸ばし、それらの内一つを手に取る。
おぼろげな手つきで拳銃を物色する立華の姿はかなり滑稽に映った。
「何よ、ニヤニヤしちゃって。気持ち悪いわよっ」
「なんですと⁉ ……まあいい。ほら、見てろ」
ため息をついてから懐から自分の銃を取り出して、よく見える位置に構えて見せる。
「ほら、こうやって両手を添えて構える。片手で打つのは慣れるまでは止めとけ、肩を脱臼するぞ? そしたら、ここのスライドを手前に引き、手を放す。すると、弾が装填されるから、狙いをつけて……撃つ!」
実際に遠くに置いてある缶詰を一つ撃ち落とすために狙いを絞り、トリガーを引く。
銃声と共に缶が床に中身をぶちまけて落ちる。
「こんな感じだ。覚えたかいな?」
暁が見事に打ち抜いた缶詰を目の当りにして感嘆の声を漏らす少女。
そんな彼女を見て笑いを堪えながら、銃を仕舞う。
「よし、これで説明は全部終わりっ。外に出て射撃練習な。持ってても使えなきゃ意味ないし」
--☆--☆--☆--
桜坂高校屋上。
「ほら、これが的な。狙って撃ってみ」
先程、昼食で食べた缶詰の空き缶を何個か並べてやると、やる気満々に立華が銃を構える。
構え方はそれなりに様になっていた。だが、これはコンテストでは無く、簡単な訓練なのだ。必要なのは精密な射撃で、見た目は自分のモチベーションでどうにもなる。
暁が遠くからうなずいて見せると、立華がトリガーを握る手に力を入れる。
何回かの銃声の後、並べられた缶が全て校庭へ吹き飛ぶ。
「……て、はあ!? フツー初めてで全部当てるか、オイ? すごいな」
そう言いながら歩み寄ると、彼女自身は暁よりも驚いていた。
「えっ? ホントだ、当たった?」
目を丸くし、すっとんきょうな声を上げて自分の手にある拳銃を見下ろす。
「これなら、今日からでも収集行けるぞ……どうする? 俺はそろそろ行くが」
「私が決めていいの?」
「ダメな理由があるか? 危険なのも確かだし、来たきゃ来い。それだけだにょ~」
伸びをしながら語尾に変なのをくっつけて答える。実は人手が多い方が効率が良いのも目に見えているのだが、今はまだ強制する必要も無いだろうとの判断だった。
「いいえ、いくわ。そんな気の遣われ方ずっとされてても困るし。雰囲気をどうしたいか知らないけど、わざわざバカげたしゃべり方したりとか、見るに耐えないわ」
「ありゃ……人の思いやりを勢いよく蹴り過ぎでしょ、その言い方。だけど、元々こういう性格なのもありますにょ~」
記憶が無い部分については知らないが、この学校に来て様々な人を見てから俺はずっとこうだった。原喰生物がいつ襲って来るかわからない恐怖に震えて眠れない人、気が狂い自ら命を絶とうとする人。そんな人達が大事な仲間になってから決めたのだ。『笑っていよう。明るく生きよう。そうすれば、周りの人達に希望をあげられるかもしれない』と。
「暁くん?」
「ん? ああ、なんだにょ?」
「なんにせよ、行くわ。人手が多い方が良いに決まってるもの」
もうすっかり行く気みたいだった。まあどちらにせよ強制はしないつもりだったのだから、別に構わないのだが。
ため息をついて屋上の隅を指さす。
「ほら、周りを見てごらんなさいな」
「本当……今日は原喰生物が割と少ないわね」
隅の段差に登り、校外を見渡して立華が言う。
「ああ、いつも程時間は取れないけど、近くなら探せるくらいは大丈夫だろうにょ~。ノウハウを教えるのにちょうどいい機会だし」
そう言って踵を返して屋上を後にする。つい何時間か前はかなり暑かったが、今は少々肌寒いくらいだった。これがこの異常気象の怖いところだ。いつどんな天候になるか全く読めないので、長時間の収集は最初からできない。
それでも、今朝干した洗濯物はやはりすでに乾いており、早速取り込んでおいた。
「まずはだね、立華。地下行ってペットボトルの水を二本持ってきてくれ。俺は会議室で準備しているから、できるだけ急いで頼むにょ」
「さっきからその語尾止めてくれないかしら?鳥肌が立ってきたんだけど」
(ひでぇ…………)
心中で打ちひしがれながらも、仕方ないので会議室へと歩き出す。
――――――――十分後。
「暁くん、はいっ。持ってきたわよ」
会議室に立華が入ってきた。体のあちこちに武装を施して。
「何してんだよっ。一瞬ター○ネーターでも入って来たかと思ったぞ」
「世界観ぶっ壊す発言しないでよ、それ何十年前の物だと思ってんの?……念のためよ、念のため」
その少女はわざわざ出せる限りの拳銃を見せてくれた。
というか、銃どころか数少ない手榴弾まで身に着けている。
「おい、そんなの使うなよ、貴重なんだ。つーか素人が簡単にそんな物持ってくんなっ」
「わかったわよ。弾薬と銃だけにしとくわ。それで?」
手榴弾を側にある棚に置いてから慎重な顔つきになって暁の目の前にある机に近づく。
そこには色々なことが書き込んである地図が広げてあるのだ。
地図に書いてあるのは、過去に調べた地域、比較的に原喰生物が少ない場所、その逆など様々だが、それらの書き込みが一切されていない地点を指さして暁が説明を始める。
「今日行くのはここ……B地区の桜坂町駅前。民家が少ないのと、高層ビルが多いことから今まで避けがちだったんだが、食料店が多いから、買い置きの水などがあるかもしれん。質問は?」
地図をひとしきり眺め、立華が小声で何かを言っていた。
「そうか……ビルは脱出経路の確保が難しいから、一人じゃ行きにくいのね……やっぱり、私が行くのは正解みたいじゃない」
そんな事をつぶやく立華に暁は心底驚いた。
「いや、否定はしないが……よくもまあ、そんな軍人じみた発想ができるもんだな。正直、びっくりだよ」
「それほどの事でも無いでしょう。うん、了解したわ。行きましょう」
(それほどの事があるから言ってるんだけどな……)
言いかけた言葉を呑み込んでほとんど用意を終えている小さめのリュックに先程の水を入れて背負う。
軽くは無いがこればかりはどうしようもない。懐中電灯、弾薬、非常食、毛布……最悪のケースに備えて、最低限の物を入れてある。準備をおこたって死ぬのなんか真っ平御免だ。
「よし……行こうっ!」