プロローグ:The gear which was broken
若干の残酷な描写有り。
プロローグ:The gear which was broken ☆壊れた歯車☆
「なんで…………こんな世界になっちゃったのかしらね?」
そう、なんでなのか。どうして、このような物語が生まれてしまったのだろうか?
――――――――この世界の歯車は、すでに壊れかけていた。
世界は大した変貌も無く、ただ技術的な進歩を進めていた。地球は人間の愚かしい科学によって汚染され、あらゆる資源の枯渇、なれの果てはこの星そのものが危険という有様だった。
この星の総人口は90億人。資源枯渇前に様々なシステムが生まれ、人々の寿命は延びたものの、意図的に伸ばされた人生は脆く、それが尽きたせいで人類に多大な被害を及ぼした。
つまり、Perfection Machine Clone System(人体完全機械クローンシステム)通称『PMCS』を使い寿命を延ばすことに成功するが、その機械に頼り過ぎたことで、誤作動を起こした全てのPMCS使用者が死亡するという事故が原因で多くの人の命が失われた。
その大規模な事故で人口は50億に激減。
そんな中 2072年 7月7日 ロシア北部 現地時刻13:23
偶然的にある研究所の一人が、この地球の歴史に深く刻まれる発見をした。
この日、ロシアで新たな〔バクテリア〕が発見されたのだ。
過去の記録に記されていない以上、『それ』は突然変異による発生と考えられた。
こうして、ロシアは国を挙げての研究に臨んだ。新たな発見こそが人類の運命を新たな方向へと切り開くことができる可能性を秘めているかもしれないからだ。
もちろん、他国でもサンプルを入手した国からそれぞれ研究を進めた。
だが、今まで見られた事の無い物。故に研究を開始した国のほとんどが、すぐにはこれと言って良い研究成果を出せないのだった。
それから二年後。
再びロシアにて、例の〔バクテリア〕に関する進展があった。様々な実験と試行錯誤の末、その〔バクテリア〕は物質を原子レベルで捕食し破壊させる生体思考であることが判明した。
それを踏まえ、ロシア国家を始め、多くの国が更なる進歩を求めた。
しかし、歯車の崩壊はもうすでに始まっている。
更に時は流れた2083年 11月2日 日本南部
原因不明の死亡者が多発した。それらの死体の全てが、体内のどこかを失っていた。
つまり、臓器や体内器官が失われていたのだ。
死因の究明によりわかったこと。それは、死体の痕跡からロシアで発見された〔バクテリア〕が多数検出されたことだった。
それも、サンプルで研究していた物ではなく、より狂暴化……つまり、活性化された物だった。
そして、この情報が世界に広まる頃には、世界中で被害者が出ていた。
そして、その翌年。
人類の総数は前年の七割ほどに落ち込んでいた。
それだけでなく、人類の人口を0.02%までに減らす出来事が起こる。
2084年 9月13日
地球上のいたる所でほぼ同時に謎の生命体が発生。
それは例のバクテリア〔EE27〕が多数集合し生物体に擬態した物であることがわかった。だが、抵抗することもできずに国は崩れ、人類は人が言う『絶滅危惧種』に成り下がった。
残った人々はこれを自虐的に『愚類消化』と呼んだ。
もはや国は機能せず、人々の一部では争いが起こり、一部では集結し、一部では自ら命を絶った。
こうしてさらに人は世界から消えていった。
そんな腐りきった世界にもなお、バクテリア集合体〔原喰生物〕は残り、人を、土を、何もかもを喰らい、街には巨大な歯形が残る建物が悲しげにそびえる。
一方、日本国の状況。
バクテリア発見の数年前には自衛隊は人々から『軍』と呼ばれるほどの規模になっていた。
愚類消化直後では、数少ない生き残りの救助を行い、原喰生物に立ち向かうが兵装を使い切る間もなくほぼ全滅。基地は今もなお残っているが、ほとんどが原喰生物のたまり場になってしまっている。
そして、その時すでに、日本国内の人口は約250人。愚類消化2年後は、もうほとんど全滅しているかのように思えた。
2086年 11月23日 桜坂高等学校 保健室
うだるような暑さ。
窓から差し込む朝日を、手をかざしてさえぎる。
もうろうとする意識の中でただ一つしっかりとしている事。
それは、今生きているという、確実な希望だった。
そんな思考を払い除けて、硬いベッドから起き上がる。
シーツが汗でビショビショだった。
今晩もここで寝る時の為には、このまま放置して置くわけにもいかない。
伸びをしながら窓の外に目をやる。校庭には誰もいない。
ため息をつきながらシーツを持って立ち上がる。
今日は洗濯をしてから飯にしよう。
適度に溜めた洗濯物の中に手に持つ白い布切れを入れて、入れ物ごと持ち上げる。
これほど暑いのだから、午前の内に干してしまえば昼過ぎには乾いてくれるだろう。
そんな事を思いながら体育館に向かう。
洗濯と言っても、便利な機械などあるわけは無く、消費期限の切れた水を少しずつ使い衣類を洗う。
その為に、まずは水が置いてある体育館に行かなければならない。
「ふぅ…………もう9時か。腹減ったな」
洗濯を終えて空を見上て言う。
こんなご時世にまともに動く時計なども無く、空に浮かぶ星の位置を見て、現時刻を把握する。
いつの間にかそんな事が可能な自分。今更、驚くこともないが。
暦ではもう11月だというのに、この暑さ。不思議な事ではなかった。
気象コントロールコンピュータ:アースコントローラーとか言う装置が破壊されてから、この星は異常気象に見舞われているらしい。ずっとだ。
服の袖で額の汗を拭う。
ただでさえこの日は暑いのに、屋上の地面がジリジリと熱を集め反射している。そのおかげで、尚の事暑く感じるのだ。
強すぎる日差しに背を丸めながら向かいにあるフェンスへ足を進める。
今日は、少ないな……。これくらいなら補給に行けるか?
屋上からは周りが一望できる。よって、一日のスケジュールはここから垣間見る状況で変えなければならない。
ただ、わざわざこんな暑い場所で考える必要も無いだろう。
そう考え、肩をすくめながら校内に戻る。
「さ~て、今朝は何食うかなっ……」
屋上のドアを閉めて、再び体育館に向かう。
体育館へと歩き始めてしばらく、何かがおかしいことに気が付いた。
目を細めて埃まみれの廊下を見渡す。
埃っぽいのはいつものことだが、今は泥の跡があるのだ。あまり大きくはない足の形をした跡が。
人工の靴の形をしているのだし、原喰生物とは違うはずだが、人がいるはずない。俺以外に。
不審に思い、懐の銃に意識を置く。
何かがあったらすぐに攻撃できるように。
周りに注意していると、実際何らかの気配がする。嫌ではないような気配。
「なんで…………こんな世界になっちゃったのかしらね?」
聞こえるはずのない他人の声。
それは、辺りに悲しい現実を突きつけるような、訴えかけるような……そんな静かな声だった。
ここには、この世界には俺一人しかいないんだ。なのに、確かに聞こえた。
動揺を押し殺して振り向く。
「初めまして、生存者さんっ」
自分とあまり年の差もないような少女。
どこかの学校の制服を着ている。
そんな女の子が小さく手を振って、また俺に話しかけていた。
今度は、明るく、新たな“希望”を感じさせるような光に満ち溢れているような声で。
溜めに溜めましたが、いよいよ掲載開始です。
楽しんでくだされば幸いです。
また、感想等、絶賛募集です。むしろ、お願いします(笑)