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春風  作者: 兼田 深瑜
2/12

1.蜜

なんと前回、主人公の自己紹介部分が脱落していました。その為、一部大変読みにくい部分があったことをお詫びして、ここに訂正致します。m(_ _)m

昨日まで降り続いた雨がやっと止み、いつもより青い空が広がった朝。

私は梅雨時には必需品の折畳み傘をかばんに突っ込んで、家を出た。

あまりにも雨の日が続いたものだから、この時期の日差しの強さを忘れて日焼け止めを塗りそこねた。

しまったなぁ〜。

なんて考えながら、最寄り中の最寄りにある駅(徒歩2分)に向かう。

目指すは二年二か月通う我が県立南高校だ。

自己紹介が大変遅れて失礼。

私は、橘 蜜香タチバナミツカ

17歳の高校3年生です。

趣味は音楽と散歩で、特技は絶対音感と早寝早起き。

苦手な物は両生類と爬虫類。

家族は両親と3個違いの兄貴、ひとつ違いの妹の5人。

平凡だけど、その平凡が幸せと思える日々。うふふふ……

「…っちゃん?オイ!みっちゃんてば!みーつーか!」

ほぇ?とマヌケな顔(生まれつきだけど)をして振り向くと、たった50cmばかりのところに眉間にシワをよせたウェービーヘアの女の子が立っている。

私立清蘭学園高等部の制服をスラリと着こなす長身に、幼い表情……女の私も見とれるこの子は、

「桃代…。この時間の電車珍しいね」

浅倉桃代は、小学校時代の同級で、今は通学の電車や駅に向かう道で出会ったりする。

「なぁにが『珍しいね』よ?さっきから何回呼んだと思ってんの?全く、朝からポーッとしちゃって!」

桃代はサッと定期をだすと、改札をまるで何も障害物がないかのように颯爽と通る。

私はと言えば、カバンから定期を出すのに一苦労、改札でカバンをぶつけて右往左往だ。

「清蘭は今週から試験期間なの。朝練はできないのよ」

さっきの私の質問にさりげなく答えてから、桃代はチラリとこちらを見る。

「みっちゃんは変わんないねぇ。うらやましいよ。…なんかいいことあったんでしょ」

私は何にも言ってないというのに、さすが幼馴染みの桃代。

いいことなら、ありますとも。

うふふふ。だけど、簡単に教えちゃうのはつまらないので、せいぜい知らん振りしてやるのだ。

「桃代、まだホッケー続けてるんだ?すごいねぇ。私も興味はあるけど、県立高校じゃ、そんなオシャレな部活ないからね」

にっこり、私が出来る最高の笑顔で微笑みかけると、桃代は再度眉間にシワを寄せた。

「みっちゃん、何を企んでるのよ。気持ち悪い笑い方しちゃって」

…あははは。……ちょっとショックかも。


「ヒドイよ〜。今の、私の会心の笑顔だよ」



がっくりと肩を落としてうらめしそうに桃代を見ると、さすがに毒舌絶好調の彼女も、反省してくれたらしい。


「あ、ていうか、そう!いつもの蜜香の笑顔と違うね、て言いたかったのよ。…そんな末代まで呪われそうな目で見ないでよ、お願いだから」



と桃代が言ったところで、ホームに電車が滑り込んで来た。

早く話さなきゃ、桃代は三つ目の駅で下車してしまう。

「ごめんごめん。実は、出し惜しみしてたんだ。『イイコトあった?』の質問の答え。実はね、、、」

私が、込み上げる笑いを必死に押し殺して続きを言おうとすると、一瞬前に桃代が言った。

「ああ、そう。好きな人ができたのね」

!!

「驚愕」

ってこういう時使う言葉よね。私は息を飲んでしまったまま、立ち止まった。

「あ、コラ、止まんないの。後ろに迷惑!」

桃代は後ろから私を押して、電車に押し込んだ。

扉が閉まって、ゆっくりと電車が動き始めても、私は口をあんぐりあけて、桃代を見つめていた。

「息してる?みっちゃん?」

コクリ、と頷いて、私はやっとひと言、

「なんで?」

とだけ言った。

桃代は、照れたように髪を耳にかけたり、クルクルと指に巻き付けたりしながら(この動作も掛け値なしにかわいい)、言った。

「だーって、みっちゃんは昔から好きな人出来ると、毎日の生活が全てハッピーになるじゃない。なんにもしてないのに笑ったり、いつもに増してボーッとしたりもする。まさに、今日のみっちゃんはそれに当てはまってるじゃない。……幼馴染みを、あんまりナメないでよね」

幼馴染み、のところで、桃代はポッと赤くなったように見えた。

こんな事に照れてしまうところも、桃代はめちゃくちゃカワイイのだ。

「うん。恐るべし、幼馴染みだね」

私は嬉しくなって、今度こそ笑顔を出し惜しみせずにニッコリした。

「私の好きになった人はね、、、」

その人の名前は、那智潤平ナチ ジュンペイ

ハタチの大学生だ。

清蘭学園の大学部に通っている。

あだ名は『なっち』で、若輩者の私にも、そう呼ばせてくれる、優しくて頼りがいのあるお兄さんだ。

なっちは、もともと愚兄の高校時代からの友達だったらしい。

らしい、と言うのは、当時は家に遊びに来たこともないし、話に出て来る名前が『なっち』などと言う女の子のような名前だったので、家族は、兄貴の彼女か、ガールフレンドだと思い込んで、深く追及したことがなかったからである。

実際になっちという人を見た去年、私だけでなく、家族全員が仰天したものだ。

なっちがウチに来ることになったのも、元はと言えば、母親が

「なっちを見たい」

と言い始め、私たち姉妹も、将来義姉になるかもしれない人と思い、会いたがったからに他ならない。

ただ一人、兄貴だけが、不思議そうにしながら、それでもしぶしぶではあったが、なっちを家に連れて来た。それが去年の春のこと。

「春風のような人なんだぁ」

私は夢見るように電車の吊り広告を見ながら言った。

「…誰が春風なの?蜜?」

へ?またまたマヌケ顔で振り向くと、そこにはなんと、当人なっちがニコニコしながら立っていた。

「え?あれ?桃代は?」

周りに桃代の姿が消えている。

「背の高い清蘭の子なら、さっきの駅で降りたみたいだけど?」

…ひぇ〜!私、一人でしゃべってたんだ?しかも、なっちに聞かれるなんて!!

「なっち、いつからここにいた?」

顔が見れずに下を向いて言うと、

「向こうの席に最初からいたよ。ただし、蜜が友達が降りたことに気付かず喋ってるのを見て、慌ててこっちに来たから、立ち聞きしたのは、『春風のような人』てトコだけだよ」

なっち、座れてたのにわざわざ混んでるこちら側に来てくれたの?私は目がうるうるして、余計なっちの顔を見れなくなってしまう。

「なっちと同じ電車、珍しいね。いつもはバイク通学でしょ?」

私立清蘭学園は、大学部だけが隣り町の小高い丘を使った敷地に建てられていて、駅から遠いため、あまり電車通学の人は見掛けない。

「うん。昨日の大雨で、バイト先にバイク置きっ放しにして帰ったから、取りに行ってから学校に行こうと思って。だから、蜜と同じ駅で降りるよ」

笑うと目がいつもより何倍も優しくて、私にはなっちの周りにキラキラのお星様が見えるようだ。

なっちにとっては、私はただの親友の妹だけど。

それはわかっているんだけど、やっぱり期待してしまう。

もしかしたら、私と同じ電車にわざと合わしてくれたのかも、とか。

バイクを取りに…なんて話も、実は口実なのでは、、、なんて思ってしまう。

バカだけど、思ってしまうのだ。あぁ、今の私、幸せだぁ〜。

「なっち、バイト長いんでしょ?楽しい?」

橘家では、高校まではバイト不可なもので、なっちに限ったことでなく、バイトには興味津津。

「楽しくなきゃ五年も続いてないさ。店のおやじさんもいい人だし、頑張る気にさせるのもウマいしな。ああいう大人に憧れるよ」

なっちのバイト先は、橋口酒店。

南高校の近くに店を構える、南高生なら誰もが知る酒屋だ。

なっちはこの酒屋で、高1の時から働いている。

「そっかぁ。私も早く花の女子大生になって、好きなバイト見つけたいよ」

つくづく、というふうに私が言うと、なっちは春風のような笑顔でさわやかに言った。

「蜜。俺からしたら、高校生のオマエの方がうらやましいよ。これから、無限の可能性が広がってるし、今なら恐いものなしでがむしゃらに頑張れるだろ?俺にだってそんな時代はあったけど、その時は気付かないもんだよ。過ぎてみて、蜜みたいな高校生を見ると、やっぱキラキラ輝いて見えるよ」

私は、本当にキラキラの瞳でなっちを見上げた。

長身のなっちは、私の目の高さが胸の真ん中辺り。

この上目遣いに、クラッときてくれないものかしら?

「?どした、蜜?急に黙って?ヘンな奴。ほら、もう南駅に着くぞ」

我に帰ると、電車は下車駅のホームに入った所だった。

南駅から高校まではわずか徒歩3分の道のり。

なっちとの登校デートも、もうおしまいだ。。。

「じゃ、蜜、気をつけて学校行けよ。ボーッとするな」

クスリと笑って、なっちはスッと電車から降りた。

ふわりとさわやかなシャツの香りだけが私の鼻の奥に残った。

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