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第三章 完全者の不完全性   【一九九九年・東京】  Ⅱ-ⅱ

「大学の近くに、こんなお店があったなんて知らなかったよ」



僕が、咲耶さんとの記念すべき第一回目の食事の場所に選んだのは、南門から徒歩三分ぐらいのところにある『ダンネベルク』という洋食店だった。


この店は、裏通りにあるので、大学のすぐ近くだというというのに、昼休みであってもめったに混雑することはない。


しかも、値段もリーズナブルで味の方はバツグンだった。


僕は、この隠れた名店を、友人の西澤から教えてもらった。彼は、こういう方面には異常に詳しい男なのだ(理由は不明)。


 

それはともかく、僕と咲耶さんは、窓際の席に座り、『本日のおすすめランチ』を注文した。



よし! 



まずは、料理が来るまでの間に、会話を盛り上げるだけ盛り上げておこう。



そうすれば、後は、食べながらでもスムーズに会話をはずませることができるはずだ。


僕は、さっそく当り障りのない近況やお互いの共通の友人について会話を始めた。



いつもは、僕と咲耶さんの周囲には、必ずお互いの友人が一人もしくは二人ぐらいはいるので、実は、二人っきりで話すのは初めてだったりす。



やはり、いつもとは感じが違う。



どこがどう違うと聞かれれば、それを具体的にそれ指摘するのは難しいけど、とにかく僕は、咲耶さんと会話に新鮮さを感じていた。



もっと言えば、喜びを感じていた。



こんなにも素直に女の子との会話を楽しめたのは、生まれて初めてのことかもしれない。





……まぁ、それは大げさだとしても、咲耶さんは、僕のそう思わせる程の魅力を持っていた。





料理が運ばれてくることには、「やはり支倉君は、とても愉快なひとだよ。キミとお話することは、とても楽しいよ」という言葉を咲耶さんに、言わせるほどに僕達の会話は弾んでいた。


 



神様! 





今、僕は、イイシゴトしていますか!?

 





『本日の日替わりランチ』は、エビフライを中心とする魚介類のフライをメインに、ポタージュスープ、ライス、サラダ、そして食後のコーヒーという構成になっていた。



次々とお皿がテーブルに並んでいく。



うん? 



なんかお皿の数が多くないか?



「あのう……支倉君。先程から気になっていたんだけど、キミの横にいる女の子は、いったい誰?」と咲耶さんは、遠慮がちに聞いてきた。


『嫌な予感は、よくアタル』と誰かが言っていた。誰だったのだろう? 思い出せないからまあいいか……でも、世の中にはまあいいかではすまないこともある。



「僕の隣に誰かいるの?」


「うん」


「どんな人?」


「とても可愛らしい女の子だよ。ニコニコしている。あ、今わたしに手を振ってくれた」


「どんな服を着ているの?」


「黒いワンピースだよ」

 


やっぱり……そういえば、神様は、『天使』と『悪魔』を対にして遣わすんだった……忘れていた……。

 


僕は、ゆっくりと右隣を見た。

 





そこには歩美ちゃんがいた。

 




  


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