触れてはいけない過去がある
「母上。ブリギッタお義姉さま。リュシアンヌの誕生日プレゼントの相談に乗ってもらいたいのですが……」
僅かな公務の隙間時間に休憩しましょうと仲のいい二人が中庭で薔薇を鑑賞しながらお茶を楽しんでいる母上とお義姉さまに声を掛ける。
……………それを悔しそうに眺めている兄と切ない眼差しで見つめている父上の存在を背後に感じながら。
「あら、そういうのはリュシアンヌと相談するものではなくて」
「驚かせて喜ばせたいので…。リュシアンヌが悲しむでしょうか……?」
お義姉さまの言葉に、それだったらやめた方がいいのかと不安になると。
「ならば、二つ贈ったらどうかしら? 今回だけ。一つはリュシアンヌに確認して選んで、もう一つはこっそりと」
ふふふっ。
悪戯を楽しむような笑みを浮かべる母上に、そういう手があったかと目から鱗が落ちる。
それからどんなものが喜んでもらえるか相談をして、贈り物を決めていく。
「ありがとうございました。おかげでいい物が決められました」
礼を述べて貴重な時間を借りて申し訳ありませんと謝罪して去っていく。
部屋に戻ってさっそく手配しようと思ったら、公務の方は大丈夫なのか。いまだそこにいた兄が憎悪の籠もった眼差しでこちらを見てくる。
「……………なんでお前が、ブリギッタとまともに話せるんだっ」
不愉快だというかのような声。
「兄う……」
「俺は、そんな風に笑い掛けてもらえないのに」
許せないとばかりに吐き捨てて、兄は去っていく。
そんな兄に同情するような眼差しで同じく公務の時間は大丈夫か心配になる未だにいた父上がそっと自分の肩に手を置き。
「ティファソン。あいつの言葉は気にするな。――リュシアンヌ嬢を大事にしろよ」
父上の言葉に、
「当然ですが……」
何をいまさら言うのかと戸惑いつつ応えると、
「当然。か……」
と辛そうに父上は顔を歪ませた。
誕生日のプレゼントは喜んでもらえた。
「こんな素敵な物を……」
「よかった。喜んでもらえて」
実は二つほど迷って、母上たちに相談したんだとネタ晴らしのように話をしていく。
「そこはわたくしに相談してもらいたかったですわね」
どこか面白がるような微笑み。
「それ、お義姉さまにも言われたよ」
「まあ。考えることは同じなのね。――婚約者に贈る品を他の女性に相談するのは浮気……というほどではなくても、不安にさせるものなのでお気を付けてくださいまし」
「そういうものなんだね……。でも、私は、女性に贈るというのはいまいちセンスが無くて……」
「そこで迷ってくださった。それだけでも評価は高いですよ。自分本位で考えて勝手に決められるよりは」
「そういうものなんだ……」
奥が深い。
「殿下なら。わたくしの好きなものを予想できるでしょう?」
好きなものは何かと言われると正直自信がない。だけど、たぶん。おそらく……という程度の好きなものなら予想できる。
「難しいな……そうやって選んでリュシアンヌのお眼鏡にかなうか不安だし」
「ふふっ。女心は国政よりも簡単ですよ」
それはどっちもどっちなような気が……。
困ったように笑うとリュシアンヌも笑う。揶揄われたのかとすぐに悟って困ったなと苦笑いをする。
「――いい気なものだな」
相変わらず公務はどうしたのかと尋ねたいタイミングで兄が柱の陰から出てくる。
「兄上……」
「婚約者との仲が良好なのを見せつけるつもりか。本命はブリギッタなのに」
「はぁ……」
何を言い出すんだこの兄は。
「惚けるつもりかっ。俺には全く笑い掛けてくれないブリギッタがお前相手には微笑んでいる。義姉弟を演じているくせに互いに浮気しているんだろうっ」
「………」
何この変な思考は。
溜息を吐く。
「………兄上。と父上が互いの伴侶に笑い掛けてもらえないのは仕方ないでしょう。御二方とも若気の至りと称して公務を押し付けて浮気をして、兄上に関しては浮気相手を妃にしようとして、冤罪で婚約破棄騒動を起こそうとしましたよね。側近が報告してくれたから未遂で済んで、全ての罪を唆した浮気相手の男爵令嬢と男爵家ということで方を付けたからその地位ははく奪されていませんが、義姉上が見限るのも当然でしょう。――義姉上がそれでも婚約を解消しなかったのは国家機密を知ってしまっているに近い状況と国の安定を揺るがさず、事態を未遂に収めたいという温情ですよ。父上は反省しているのに兄上はまだ自分の罪に無自覚とは……」
嘆かわしい。
「あっ……うっ……そっ……それは……」
「そんな調子だと、長兄だから玉座につけるという頭お花畑でいるのではないですか? 若輩の身なのでまだ様子を窺っている方々に完全に見切りを付けられるのでその考えを捨ててくださいね」
何か言い訳をしようとしている兄にしっかり釘を刺す。
ここで兄が心機一転して真面目になればいいが、逆ギレをして暴力を振るったら玉座は私に転がり落ちるだろうな。
「疲れる……」
ブリギッタ義姉さまに浮気しているなんて恐ろしい噂をばらまかれて、愛するリュシアンヌに疑われたら生きていけない。感情が完全に消え失せたような感じで兄を見る義姉のような視線をリュシアンヌが私に向けたら心が死ぬ。
「まともな相談相手は母上とお義姉さましかいなかったけど、しばらく接触しない方がいいのかも……」
本当にあの兄のやらかしには迷惑をしている。
そう深々と溜息を吐いた。
王位に継げと言われたら継ぐが特に王位に就きたいわけではない




