#夢の侵入者
お題:私にだけ見えるあの子
https://x.com/assistant_neko/status/2018293332036743305?s=20
毎晩、夢の中で血まみれの少女が私を見つめている。背景は暗い森。私は足掻く。夢から目覚めようと。
しかし、実際に起き上がると彼女はそこに居る。ベッドの脇に立っている。幻覚だ。薬を飲めば消える……はずなのに。
彼女は私を見て、口角を上げる。
#夢の侵入者 1/12
少女が囁く。
「明日、あなたの患者が死ぬよ」
有り得ない、馬鹿げている。私はそう結論し、いつも通りに過ごした。
翌日、私の患者が病室で首を吊った。少女が述べた通りになったのだ。
偶然だ。……そう自分に言い聞かせる。
あれは、疲れた私が見る幻覚に過ぎないのだ。
#夢の侵入者 2/12
寝る前に飲む薬を倍に増やした。少女は消えない。夢にも、現実にも現れる。
朝、顔を洗って鏡を見る。私は病気で、故にありもしない事に囚われているのだと、確認する為に。
しかし、そこに映る私の顔が、歪み、少女の顔に変わった。
心臓が跳ねる。上手く息が出来なくなった。
#夢の侵入者 3/12
「次はあなたの好きな人」
笑い飛ばした。誰だそれは。
翌朝、出勤時に緊急搬送があった。夜勤明けの看護師長。院内が騒然となる。
飲酒運転の車に跳ねられたのだと、霊安室で執刀医から聞いた。
タイミングが合えば、居酒屋で共に飲んでいた。いろんな愚痴を言い合える仲だった。
少女が隣で囁く。
「信じないと、もっと酷くなるよ」
#夢の侵入者 4/12
考えたくもないのに、考えてしまう。診察中も、帰宅途中も、風呂の中でも現れる。
追い詰められている中で、ふと、少女の顔に既視感を覚えた。私は自分の日記を辿った。そして、ある記録で気付く。
――昔の患者の、娘だ。あの時、母の自〇を防げなかった。
私の罪悪感が見せる幻なのか?
でも……予言は当たる。
#夢の侵入者 5/12
少女が私の腕を白い指でなぞる。ぞっとして私は身を引く。
現実の皮膚に赤い線が残った。夢じゃない。彼女は笑う。
「ここにいるよ」
逃げ場がない。
私は膝を着いて懇願した。
「許してくれ」
少女は無表情で言った。
「何を?」
#夢の侵入者 6/12
「家族が、消えるよ」
妹に電話をした。母にも、父にも。何度かけても繋がらない。実家に行くともぬけの殻だった。
私は努めて冷静になり、日曜日の昼間なので、それぞれの用事で出掛けているのだと結論した。
数日後、スマホが鳴った。
「――さんの携帯でしょうか」
海から上がった父名義の車から、身元不明の遺体が三体。
「あなたの所為だよ」
吐き気がした。
#夢の侵入者 7/12
古いカルテを探す。電子ではなく、紙の物だ。休日を用いて資料庫に篭る。あの少女の母親のもの。
――あった。
最後のページを開く。
走り書きだが、私の筆跡で加えられた最後の言葉。
『葬儀後、娘、後追い』
『即死』
少女が、私の傍に立っていた。
無表情で。
何も、言わずに。
#夢の侵入者 8/12
少女が、診察室の患者席に座っている。私はそれに対峙している。
私は尋ねる。
「症状はいつからですか」
少女は答える。
「あなたに殺された日から」
その目が、私を見ている。違う! そんな事実はない。
たしかに、母娘を救えなかった。
……いや、放置したのか?
その二人が長く共依存にあり、娘は虐待を受けていた事を……私は、知っている。
#夢の侵入者 9/12
私は少女が投身を図った現場へ赴いた。陰鬱な空気感のあるビル。屋上へ行くと、こちらに背を向けて縁に立つ少女。危ない!
思わず捕まえようと手を伸ばすが、届かずに落ちていく。
「そうやってわたしを殺した」
いや、違う。私は助けようとしたのだ。
はっきりと理解する。やはり、これは私の罪悪感が見せる幻覚だ。
「次に死ぬのはあなた」
#夢の侵入者 10/12
薬では対処できない。他の医師に助けを求めてカウンセリングを受ける。いくつかの深刻な病名がついた。職場に入院加療する。これでどうにかなるだろう。
結果、少女は現れなくなった。私は心底安堵し、自分が想定以上にダメージを受けていた事を理解した。
医者の不養生ですね、と多くの者に笑われた。
根治までに時間はかかるだろうが、私はもう大丈夫だ。
#夢の侵入者 11/12
お昼のニュースです。
市立――病院で、同病院に勤務する医師の男性が敷地内で倒れているのが発見され、その場で死亡が確認されました。
警察によりますと、現場に残された遺書には、他者の殺害を認めるような記述や、医療行為に関わる重大な内容が含まれているということです。
警察は自殺の他、殺人の可能性も含めて捜査を開始しました。
男性は40代とみられ、現在、遺書の詳細や関係者の聴取を急いでいます。
#夢の侵入者 12/12




