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回復魔法が万能な異世界で、俺だけ治さない理由がある 〜触ると悪化するので、何もしない治療師やってます〜  作者: 夜凪レン


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第9話 英雄の死

 英雄の死は、静かには広がらなかった。


 朝になり、鐘が鳴らされる。

 それは勝利を告げる音ではなく、喪を知らせる音だった。


「……嘘だろ」

「英雄様が……?」


 村のあちこちで、ざわめきが波のように広がっていく。

 人は最初、現実を疑う。

 疑い、否定し、そして――怒りを探す。


 治療所の前には、次第に人が集まり始めていた。


「どういうことだ!」

「昨日まで、元気だったじゃないか!」


 治癒師たちは答えない。

 答えられない。


 英雄の遺体は、白布に包まれ、奥の部屋に安置されている。

 その存在が、村の希望そのものだった。


「治療魔法を使ったんだろ!?」

「なら、なぜ死ぬ!」


 誰かが叫ぶ。

 そして――視線が、俺に集まった。


「……あいつだ」


 小さな声だった。

 だが、一度生まれた疑念は、すぐに増殖する。


「魔法を使わずに治したとかいう」

「英雄に、妙なことを言ってたらしいぞ」

「不吉だ……」


 俺は、治療所の壁にもたれ、黙ってそれを聞いていた。


 否定しない。

 弁解もしない。


 今ここで言葉を重ねれば、火に油を注ぐだけだ。


 中年の治癒師が、重い足取りで俺の前に立った。


「……英雄は、最後に何を言った」


「村を、無理に使うなと」


 その答えに、治癒師は一瞬だけ目を伏せた。


「……そうか」


 だが、それを聞いても、村の空気は変わらない。


「そんな話は聞きたくない!」

「英雄様は、戦って死んだんだ!」

「それを……こいつのせいにする気はないが……」


 言葉の最後が、濁る。


 ――“だが”。


 その“だが”が、一番危険だ。


「……もし」

「もし、あいつがいなければ」

「変な治療をしなければ……」


 誰かが言った。

 それを、誰も否定しなかった。


 少女の祖母が、人垣をかき分けて前に出る。


「違います!」


 震える声だったが、はっきりしていた。


「この人は、うちの孫を助けてくれた! 英雄様だって……」


「だが、死んだ!」


 誰かが、怒鳴る。


「英雄様は、死んだんだ!」


 言葉が、すべてを塗りつぶす。


 生きた事実より、死んだ事実の方が重い。

 それが、人の群れだ。


 俺は、祖母の肩に手を置いた。


「……もういい」


 首を横に振る。


「ありがとう。でも、ここから先は、俺の問題だ」


 祖母は何か言いたそうだったが、言葉を飲み込んだ。


 沈黙の中で、誰かがぽつりと言った。


「……気味が悪い」


 その一言で、流れが決まった。


「魔法も使わずに治す」

「英雄を止めようとした」

「結果、英雄は死んだ」


 点が、線になる。

 線が、物語になる。


 そして物語は――

 いつも、分かりやすい悪者を必要とする。


 中年の治癒師が、苦しそうに言った。


「……この村に、これ以上の混乱は要らない」


 それは、事実だった。

 同時に、宣告でもあった。


 俺は、ゆっくりと頷いた。


「分かった」


 それだけで十分だった。


 誰も、俺を止めなかった。

 止める理由が、もうなかったからだ。


 英雄の死は、村を守った。

 だが同時に――

 俺の居場所を、完全に奪った。


 外に出ると、空はやけに青かった。


 その青さが、やけに腹立たしい。


 正しいことをした。

 できることは、やった。


 それでも――

 人は、納得しない。


 英雄の死は、終わりじゃない。

 これは、別れの前触れだ。


 俺は、その流れを、もう止めようとは思わなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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