表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回復魔法が万能な異世界で、俺だけ治さない理由がある 〜触ると悪化するので、何もしない治療師やってます〜  作者: 夜凪レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/26

第6話 治る男、治らない英雄

 朝になると、村の空気は一変していた。


「昨日の人……生きてるらしいぞ」

「魔法を使わなかったのに?」

「少女も、目を覚ましたって……」


 囁き声が、露骨に俺の背中を追いかけてくる。


 治療所の前に立つだけで、視線が集まる。昨日までの警戒や不信とは違う、期待と戸惑いが入り混じった視線だ。正直、どちらも同じくらい厄介だった。


(……こうなるよな)


 俺は内心でため息をつく。


 助けた人間が増えれば、評価が変わる。

 評価が変われば、要求が生まれる。


 それは、どこの世界でも同じだ。


「先生……」


 呼び止められて振り向くと、昨日の少女の祖母が立っていた。深く刻まれた皺の奥で、目が潤んでいる。


「この子、本当に……本当に助かりました」


 少女はまだ歩けないが、意識ははっきりしていた。布にくるまれ、祖母の腕の中で静かに眠っている。呼吸は穏やかで、昨日の“半死”の気配はない。


「……無理はさせるな。それだけだ」


「はい……はい……!」


 何度も頭を下げられる。周囲の村人たちも、それを見てざわめいた。


「やっぱり本物なんじゃ……」

「治癒師様より、効いてるような……」


 その言葉に、治癒師たちの表情が硬くなる。


 俺は、距離を取るように一歩下がった。


(やめてくれ)


 比べるな。

 持ち上げるな。

 期待するな。


 期待は、裏切られた時に刃になる。


 治療所の奥では、英雄が準備を整えていた。


 昨日の戦いで受けた傷は、治療魔法によってすでに“完治”している。少なくとも、見た目は。


「英雄様、本当に出られるのですか?」

「無理をなさらず……」


 そんな声を、英雄は笑って一蹴した。


「大丈夫だ。身体は軽い」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は眉をひそめた。


 軽い――それが一番、危険だ。


 感覚が鈍っている証拠。

 限界を越えた身体が、無理を誤魔化している状態。


「……昨日、言ったはずだ」


 気づけば、俺は英雄の前に立っていた。


「今日は、動かない方がいい」


 場の空気が、ぴしりと張り詰める。


「またお前か」


 英雄は、呆れたように笑った。


「俺は治った。見ての通りだ」


「見た目の話じゃない」


「じゃあ何だ。気分の問題か?」


 軽口のようでいて、視線は鋭い。試されている。


「……流れが壊れてる」


 俺は、選ぶ言葉を間違えないように、慎重に続けた。


「今は持ってるだけだ。次に大きく動いたら、戻らなくなる」


 英雄は一瞬、黙った。


 だが、すぐに肩をすくめる。


「それでも行く」


 迷いはなかった。


「俺が止まれば、村が燃える。それだけの話だ」


 正論だった。英雄は役割を背負っている。その自覚があるからこそ、無理を選ぶ。


 俺は、それ以上何も言えなかった。


 言葉では止められない。

 無理を選ぶ人間は、いつもそうだ。


 英雄は剣を手に取り、村人たちの声援を背に受けて歩き出す。


「英雄様、万歳!」

「必ず戻ってきてください!」


 歓声の中で、彼は振り返り、俺にだけ聞こえる声で言った。


「……忠告は、覚えておく」


 それだけ言って、背を向けた。


 去っていく背中を見送りながら、俺は強く確信していた。


(覚えてるだけじゃ、足りない)


 村は今、希望に満ちている。

 治る人間が現れ、英雄が立ち、未来が続くと信じている。


 だが――


 流れは、嘘をつかない。


 静かに、確実に、壊れる準備をしている。


 俺は小さく息を吐いた。


 吐く方を、長く。


 それが、この村に対してできる、最後の抵抗だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ