第46話 流れの外で(最終話)
朝、山道を下りる。
遠くに、次の街が見えた。
規模も、制度も、
これまでと大差はないだろう。
回復魔法があり、
神殿があり、
壊れるまで頑張る人間がいる。
俺が行けば、
また同じことが起きる。
起きないかもしれない。
それでも、いい。
俺は、世界を変えに行くわけじゃない。
正解を配りに行くわけでもない。
ただ――
止まれる場所が、
確かにあると知っているだけだ。
流れは、強い。
逆らえば、押し流される。
だが、流れの外に立つことはできる。
ほんの一瞬でも。
一人分の幅でも。
それで、十分だ。
道端で、誰かが立ち止まっているのが見えた。
倒れてはいない。
走ってもいない。
ただ、深く息をしている。
それを見て、
俺は少しだけ、足を止めた。
何も言わない。
触らない。
ただ、同じように息を吐く。
吐く方を、長く。
流れは、今日も動いている。
世界は、何も変わらない。
それでも。
止まったことがある流れは、
完全には、元に戻らない。
その外側で、
俺は、歩き続ける。
名もない仕事を、
名乗らないまま。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この物語は、
「治すとは何か」「正しいとは何か」を描いた話ではありません。
“止まることを選べるかどうか”だけを書いた物語です。
回復魔法が万能な世界に置いたのは、
そのほうが「止まる」という選択が、
より異端で、より見えにくくなるからでした。
主人公は、世界を変えません。
理論も完成させません。
誰かを導くこともしません。
ただ、
・触らなかった
・待った
・説明しなかった
それだけです。
けれど、止まれた人が一人でもいたなら、
それは「何も起きなかった物語」ではないと、
作者は思っています。
現実でも、
すべてを治せる仕事はありません。
すべてを救える判断もありません。
それでも、
壊さなかったこと、
止められたこと、
引き返せたことは、
決して無意味ではない。
そんな感覚を、
異世界という少し遠い場所を借りて書きました。
もしこの物語を読み終えたあと、
誰かが少しだけ深く息を吐けたなら、
それ以上の結末はありません。
最後まで、お付き合いいただき、
本当にありがとうございました。




