第45話 名付けられなかった仕事
夜が更け、焚き火が小さくなった頃、ふと思い出した。
元の世界のことを。
俺がしていた仕事には、
いつも説明がつきまとった。
「どういう治療ですか」
「どんな効果がありますか」
「どれくらいで治りますか」
だが、本当のところ――
一番大事な部分には、名前がなかった。
痛みがある。
だが、原因が一つじゃない時。
数値は正常だが、
本人だけが「おかしい」と分かっている時。
何をするかより、
何をしないかを決める場面。
それは、
資格名でも、技術名でも呼べなかった。
だから、いつも最後はこう言っていた。
「今日は、ここまでにしましょう」
それだけで、
呼吸が戻る人がいた。
表情が変わる人がいた。
治したとは、言えない。
だが、壊さなかった。
それが仕事だった。
この世界では、
それが一番、嫌われる。
成果が見えない。
数字にならない。
再現できない。
だが――
確かに、必要とされる瞬間がある。
名前がないから、
制度に組み込まれない。
制度に組み込まれないから、
使い潰されない。
焚き火に、薪を一本足す。
火が、少しだけ大きくなる。
俺がやってきたことは、
異世界でも、元の世界でも、同じだった。
ただ、ここでは
回復魔法が万能だと信じられている
それだけが、違う。
だから、歪みが目立つ。
名付けられなかった仕事は、
最後まで、名付けられないままでいい。
それが、
一番、長く残るやり方だからだ。
俺は、息を吐く。
吐く方を、長く。
もう、説明する必要はない。
終わりは、近い。
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