第42話 救えなかった数
翌日、街は静かだった。
騒ぎが大きくならなかったのは、
子どもが生きていたからだ。
生きていれば、
「助かった」という話になる。
後遺が残ろうと、
判断が遅れようと、
そこは語られない。
だが――
それは一例にすぎなかった。
街道沿いの村で、老人が一人、死んだ。
別の町では、産後の女が戻らなかった。
どちらも、「待つ治療」を試した末の結果だ。
誰も、俺の名前を出さない。
出せない。
記録は断片で、
書き手も、語り手も違う。
責任は、宙に浮いている。
それが、一番重い。
村外れの井戸端で、噂話が聞こえた。
「……待つのが、悪かったんだろ」
「いや、触ったのが悪い」
「結局、どっちなんだ」
答えは、ない。
俺は、木陰で腰を下ろし、
静かに話を聞いていた。
誰も、俺に気づかない。
その方がいい。
気づかれれば、
説明を求められる。
説明すれば、
また一つ、正解が生まれる。
それで、誰かが死ぬ。
夕方、ルドが合流した。
顔色は、良くない。
「……死者が、三人出た」
「そうか」
声が、思ったより低く出た。
「君の記録を読んだ者が」
「真似をして」
「真似をしたのは」
「記録じゃない」
俺は、即座に言った。
「“正解がある”と思ったことだ」
ルドは、唇を噛む。
「それでも……」
「君は、止められた」
「止められたら」
「俺が、正解になる」
同じ答えを、繰り返す。
それ以外が、ない。
沈黙が落ちる。
風が、乾いた土を撫でる。
「……後悔は」
ルドが、低く聞いた。
「ある」
即答だった。
「覚えてる」
「忘れない」
「それでも」
「それでも、語らない」
それが、俺の選択だ。
語れば、
死んだ数が、
次の犠牲を生む。
語らなければ、
同じ過ちが、
どこかで繰り返される。
どちらも、救えない。
だから――
俺は、選ばない。
夜、焚き火の前で、
手を見つめる。
救えた数より、
救えなかった数の方が、
はるかに多い。
それは、最初から変わらない。
この世界でも、
元の世界でも。
治す仕事は、
常にそうだった。
違うのは、
ここでは“万能”だと
信じられていることだけだ。
焚き火が、爆ぜる。
俺は、息を吐く。
吐く方を、長く。
救えなかった数は、
俺を責めない。
だが――
俺が、忘れたら終わりだ。
だから、覚えている。
語らずに。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




