第40話 理論にならなかったもの
街道に出る頃には、朝日が完全に昇っていた。
振り返らない。
もう、この街でやることはない。
背中に残るのは、
感謝でも、恨みでもない。
判断を委ねられなかったという違和感だけだ。
それでいい。
門を抜ける前、白い法衣の一団が見えた。
神殿の調査役だろう。
帳面を抱えた役人が、治療院に入っていく。
ルドの記録が、検分される。
燃やされるか。
封印されるか。
あるいは――
「価値なし」として放置されるか。
どれでも、構わない。
理論にならなかったものは、
権力にとって扱いづらい。
扱いづらいものは、
長く残る。
街道を歩きながら、
俺は、これまでのことを思い返す。
触れて、戻った者。
触れて、悪化した者。
待って、間に合った者。
待って、間に合わなかった者。
成功と失敗は、
並べた瞬間に意味を失う。
どちらも、
その場の判断だった。
だから、理論にできない。
理論にできないから、
広がらない。
広がらないから、
使い潰されない。
それでいい。
丘を一つ越えると、
次の街が見えた。
規模も、制度も、
きっと同じだ。
治療魔法があり、
祝福があり、
壊れるまで使われる人間がいる。
俺がやることも、変わらない。
説明しない。
教えない。
正解を作らない。
ただ――
止まれる場所があることを、
否定しないだけだ。
風が吹く。
呼吸を、整える。
吐く方を、長く。
流れは、また動き出す。
それでも、
一度止まったことがある流れは、
どこかで、必ず淀む。
その淀みを、
誰かが見つけるかもしれない。
見つけた時、
そこに正解がなくてもいい。
迷う余地があれば、
十分だ。
理論にならなかったものは、
伝わらない。
だが――
残る。
俺は、次の街へ向かって歩き出した。
また、判断するために。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




