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回復魔法が万能な異世界で、俺だけ治さない理由がある 〜触ると悪化するので、何もしない治療師やってます〜  作者: 夜凪レン


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第29話 追われる理由

 夜明け前、森は静かだった。


 火を使わず、足音も殺して歩く。

 慣れている。

 追われる側になるのは、初めてじゃない。


 街を離れて半日。

 まだ追手は見えない。


 だが――

 見えていないだけだ。


 朝霧の中、道を外れた小屋が現れた。

 朽ちかけの木造。

 人の気配はない。


 俺は、少しだけ立ち止まり、呼吸を整えた。


 吐く方を、長く。


 その時だった。


 気配が、二つ。


 音はない。

 だが、いる。


「……出てこい」


 低い声が、霧の向こうから聞こえた。


 白い法衣ではない。

 だが、神殿の紋章は隠していない。


 治療官ではない。

 調停官だ。


 神殿の、もう一つの顔。


「捕縛ではない」


 男が、霧から姿を現す。


「今日は、理由を伝えに来ただけだ」


「親切だな」


「必要だからな」


 男は、距離を保ったまま言う。


「君は、治療をしたから追われているわけじゃない」


「知ってる」


「だろうな」


 男は、小さく息を吐いた。


「君は、“壊れない選択肢”を見せた」


 それだけで、十分だった。


「英雄は、短命であるべきだ」

「それが、この世界の均衡だからだ」


 淡々と語る。


「長生きする英雄は、数を減らす」

「数が減れば、守れない場所が生まれる」


「だから、使い捨てる」


「だから、管理する」


 男の声に、感情はない。


「君のやり方は、効率が悪い」

「救える数が、少なすぎる」


「一人で十分だ」


 即答だった。


 男は、少しだけ驚いたようだった。


「……やはり、分かっている」


 剣は抜かれない。

 魔法も使われない。


 これは、警告だ。


「君を捕まえると、面倒が増える」

「英雄をやめた少年のように、考える者が増える」


「だから」


 男は、はっきりと言った。


「広めるな」


 それが、神殿の結論だ。


「治療はするな」

「思想も、語るな」


「従えば?」


「見逃す」


 単純な取引だ。


 俺は、少しだけ考えた。


 そして、首を横に振る。


「無理だ」


「なぜ」


「広めてない」

「止まっただけだ」


 男は、しばらく黙っていた。


 やがて、低く言う。


「……だから、危険なんだ」


 説得でも、脅迫でもない。

 評価だ。


「君は、革命家じゃない」

「だが、世界の前提を壊す」


 それが、一番厄介だった。


「忠告は終わりだ」


 男は、霧の中へ戻る。


「次に会う時は、立場が違う」


 その言葉だけを残して。


 森に、静けさが戻る。


 俺は、小屋の壁に背を預け、深く息を吐いた。


 吐く方を、長く。


(……理由は、十分だ)


 俺が追われるのは、

 人を救ったからじゃない。


 救わない選択が、可能だと示したからだ。


 世界は、止まることを許さない。

 止まれる存在を、許さない。


 だが――

 もう知ってしまった。


 止まれた者が、確かにいた。


 それを無かったことには、できない。


 夜が明ける。


 次に進む道は、

 もう決まっている。


 俺は、歩き出した。


 追われる理由を、

 はっきりと背負って。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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