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回復魔法が万能な異世界で、俺だけ治さない理由がある 〜触ると悪化するので、何もしない治療師やってます〜  作者: 夜凪レン


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第27話 英雄の選択

 夜明け前、訓練場は静まり返っていた。


 普段なら、号令や足音が響く時間だ。

 だが今朝は、誰もいない。


 俺は、街を出る準備を終え、最後に一度だけ訓練場の方へ足を向けた。

 理由はない。

 ――あるとすれば、確かめるためだ。


 中央のベンチに、影が一つあった。


 リクだ。


 鎧は着ていない。

 剣も持っていない。

 ただ、座って空を見ている。


「……来ると思ってました」


 振り返らずに、そう言った。


「偶然だ」


「嘘ですね」


 少しだけ、笑う。


 俺は、距離を保ったまま立ち止まった。

 近づかない。

 触れない。


 もう、それ以上はしないと決めている。


「治療官に、呼ばれました」


 リクが、淡々と言った。


「祝福は正常だって」

「でも……また倒れたら、次は保証できないって」


「そうだろうな」


「それで」


 彼は、膝の上で拳を握る。


「選べって言われました」


 空気が、少しだけ張る。


「英雄を続けるなら、強い祝福を重ねる」

「続けないなら……ここで終わりだって」


 彼は、ようやくこちらを見た。


「終わり、って言葉が」

「すごく、軽くて」


 俺は、何も言わなかった。


 選択肢を、増やす気はない。

 彼の言葉を、奪う気もない。


「……あなたなら」


 リクが、ためらいながら言う。


「どうしますか」


 俺は、少しだけ考えた。


 答えは、ある。

 だが――それを渡すことが、正しいとは限らない。


「俺なら、決める前に一つ確かめる」


「何を」


「戻る場所が、まだあるかどうか」


 リクは、しばらく黙っていた。


 やがて、ぽつりと言う。


「……あります」


「なら」


 それ以上、言わなかった。


 言葉は、そこで止める。


 朝の風が、訓練場を抜ける。

 旗が、小さく揺れた。


「……英雄を、やめます」


 リクの声は、震えていなかった。


「怖いです」

「でも……戻れなくなる方が、もっと怖い」


 それは、誰かに言わされた言葉じゃない。

 彼自身の言葉だ。


 俺は、頷いた。


「それでいい」


 評価でも、承認でもない。

 ただの確認だ。


「……怒られるかな」


「だろうな」


「追い出されますよね」


「可能性は高い」


 リクは、小さく息を吐いた。


「それでも」


 そして、立ち上がる。


「……立てるうちに、やめます」


 その言葉に、迷いはなかった。


 遠くで、足音がする。

 治療官か、監督官か。


 リクは、俺に向かって深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


「礼は要らない」


「でも」


 彼は、顔を上げて言った。


「止まるって、教えてもらいました」


 俺は、何も答えなかった。


 答えなくていい。


 それは、彼が選んだことだ。


 足音が近づく。


 俺は、背を向けた。


 振り返らない。

 もう、役目は終わっている。


 訓練場を離れながら、思う。


 世界は、何も変わらない。

 英雄は、今日も作られる。


 だが――

 英雄にならなかった英雄が、一人だけ生まれた。


 それで、十分だ。


 それ以上を望めば、

 俺はまた、

 この世界と同じことをしてしまう。


 止まるべきところで、止まった。


 それが、この選択のすべてだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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