第23話 壊れる前提の祝福
昼前、街の中央広場に人が集まり始めていた。
理由は一つ。
祝福の儀式だ。
英雄候補生たちが、円を描くように並ばされる。
中央には、神殿の祭壇。
白い布と金の装飾が、日差しを反射している。
俺は、人垣の外からそれを見ていた。
近づかない。
だが、目は逸らさない。
儀式は、静かに始まった。
詠唱。
聖紋。
光。
治療官たちが、順に候補生の背後に立ち、祝福を流し込む。
光は強く、安定している。
周囲の人々が、安堵の息を吐いた。
「これで安心だ」
「神殿がついてる」
――安心、か。
候補生たちの背筋が、一斉に伸びる。
呼吸が揃い、姿勢が整う。
だが。
(……広げすぎだ)
流れが、自然じゃない。
身体が受け取れる量を超えて、無理に押し込んでいる。
祝福は、治していない。
壊れた部分を無視して、通路だけを拡張している。
例えるなら――
ひび割れた水路に、さらに水圧をかけているだけだ。
儀式が進むにつれ、候補生の一人が、わずかに顔色を変えた。
リクだ。
光を受けた瞬間、彼の指先が震える。
それを見逃した者はいない……はずがない。
だが、誰も声を上げない。
治療官が、さらに祝福を重ねた。
震えは止まる。
代わりに、呼吸が浅くなる。
(……前借りだ)
命の余力を、今に引き寄せている。
後で支払うことが分かっている借金だ。
儀式が終わると、歓声が上がった。
「万全だ!」
「これで戦える!」
治療官たちは、満足そうに頷き合う。
仕事は、完了した。
少なくとも――彼らの基準では。
俺は、人垣を離れた。
胸の奥が、静かに重い。
(祝福は、前提が違う)
治すためのものじゃない。
“使う”ためのものだ。
使える時間を延ばす。
その代わり、戻る時間を削る。
それが、この祝福の正体。
広場の端で、神殿の治療官が誰かと話している。
昨日見た男――エルディアだ。
「問題は?」
「ありません。祝福は正常です」
その会話が、はっきり聞こえた。
俺は、背を向けて歩き出した。
関われば、引き返せなくなる。
だが、もう――
気づいてしまった。
この街では、
英雄は守るために育てられているんじゃない。
壊れる前提で、使われるために作られている。
夕方、宿へ戻る途中、路地裏で咳き込む音が聞こえた。
立ち止まる。
そこにいたのは、昼の儀式に参加していた候補生の一人だった。
膝をつき、必死に呼吸を整えている。
治療官はいない。
祝福もない。
(……早い)
俺は、一歩だけ、近づいた。
まだ触れていない。
だが、もう分かっている。
見なかったことには、できない。
この世界の祝福は、
壊れる前提で作られた、完璧な仕組みだ。
そして――
その前提を、俺は否定してしまった。
それが何を招くのか、
まだ誰も、知らない。
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